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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
二章 ある男女の話
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茶番ってご存じ?



 前世、幼馴染が購入したゲームをプレイするのを隣で見ていた事をふと思い出す。

 そのゲームは前作があるゲームで、今作は前作主人公の息子が主人公なのだとか。

 その仲間の中に一人、前作にも仲間になっていたキャラがいたのだが。


 骨を、かぶっていた。


 冗談でもなんでもなくマジで動物らしきものの骨をかぶっていた。


 前作を知らない俺に幼馴染は言った。


「前作でこのキャラ、主人公の敵に回って倒されたから……」


 なるほど、そんな中で堂々と顔を晒して登場するのは確かに難しいものがある。

 いやでもその骨かぶってるけど正直顔まったく隠れてないよな!? と思わず俺は言ったし幼馴染もホントそれ、とだけ返してきた。


 顔を晒したくないというのはわかるけど、動物の骨の隙間からもろ素顔ばっちりすぎてインパクトで素顔の印象薄くしようとしたにしても無理がすぎないかと思ったものだ。

 何か世界的に裏切者みたいな認識でもあったのか、どこへ行くにも骨かぶってたようだけど、逆に目立ち過ぎでは……幼馴染がプレイしてる横で俺はそんな風に思っていた。



 そのゲームに出てくるキャラと比べてこちらの男がかぶっている骨は一応顔を隠そうという試みのもと、顔の上半分が見えないよう加工されているので素顔がポロリしているわけではないのは見てわかる。

 けれど、顔が見えようと見えなかろうとこれだけは言える。


 どう足掻いても不審者です……と。


 すっと立ち上がった男の身長は俺よりも高く、未だ降参するように両手を肩のあたりまで上げて大人しくしているが、もしここで戦う事になれば果たして俺は無事でいられるかわからない。

 体格差が明らかに存在している。

 俺よりも背が高く、そして体格も俺よりがっしりとしていて一目で鍛え上げられた筋肉があるのがわかる。

 顔の上半分は鹿らしき動物の骨で仮面のように隠されているが、そこから伸びた肩あたりまである黒髪は僅かにうねり、肌も日に焼けたというよりは生まれついての褐色なのだろう。

 目の色が見えないが、それでも。


 その声は。


 紛れもなくかつて俺の前から姿を消した友人であるヴァルトそのものだった。



 いや、何してんの……?


 少なくとも俺の記憶だとお前そんな事するキャラじゃないじゃん……?


 思わずそんな風に指摘したかったが、俺の前から姿を消す時に思いつめた様子とかを思い出すと、下手な事を言って心に傷を負わせるのはよろしくないと判断する。


「で、何してんだヴァルト……」


 そんなとんちきな恰好で……とまでは言わなかった俺の自重精神よ。でも声がどうしても引いてるのは仕方のない事だと思う。

 いやだって、引かない理由、ある?

 どうしたってドン引きだわ。出会い頭に存在そのものを全否定するまでは言わないだけマシでは? ってくらいドン引き案件だろこれ。


 どういう手段でここに来たのか、それ以前に何でこんなところにいるのか。

 そこはさっぱりだが、ヴァルトがここにいたのであればそりゃどこ探しても手掛かりなんてないよなと納得はできる。廃墟群島の精霊の数は極端に少ないし、声を聞こうと耳を傾けてもその声もとても小さく何を言っているのかわからないくらいだ。


 たまたまここを精霊が通り過ぎた、とかであればともかく、恐らくこの地に精霊はあまり寄り付かないのではないだろうか。だとすれば各地を漂っている精霊から情報を得ようとしてもまぁ、無理だろうなと。

 そもそも漂っている精霊の興味を惹き続けて記憶に残るかというのも微妙な話だ。


 ましてや廃墟群島。住民もいないような場所で、旅人がふらりと立ち寄るようなところでもない。

 目撃情報を求めたところで情報そのものを得る事自体難しいだろう。


 なんだろう、この……えぇと、何とも言えない気持ちは。

 姿をくらました時、まるで俺に対してしてはいけない事をしてしまった、みたいな反応だったからもしかしたら俺の故郷が滅んだ原因の一端でも担ってたのかと思った事もあったくらいなんだが、仮にその罪滅ぼしをしようと考えたとして、じゃあここにいるのはおかしな話だ。

 という事は俺に関する事でいるわけじゃない。


 俺に対して申し訳ないというような態度でいなくなったくせに、じゃあどうしてここに? 結局疑問はそこに戻る。いや、俺の案件関係なくて個人的な事情でここに来る事になって、それでいなくなったにしてもいなくなる前の発言がじゃあ意味深すぎるだろってなるんだよな……


 どういう返答がきてもそこまで驚いたりはしないだろうなと思いながらも動物の骨兜で顔を隠しているヴァルトはだがしかし、降参ポーズのまま否定した。


「私の名はヴァルトではない。考古学を学ぶアルトという」

「…………うん、え?」


 お前は一体何を言ってるんだ。


 表情に出たのは仕方がないと思う。多分この時の俺はとても頭の悪い生物を見る目を向けていた。

 いやホント、何言ってるんだ……?


「もう一度言おう。私はヴァルトではない。アルトだ」


 降参ポーズのままではあるが、ヴァルト……いや、一応本人の希望を汲むならアルトか、アルトは若干胸を張りつつ答えた。いや、うん、え……?


 俺の戸惑いとか一切考慮しないまま、アルトは言う。


「それで、ルー……んぐふんっ、きみは一体何者かな?」


 いや今絶対ルーカスって名前呼ぼうとしてただろ……露骨なまでの咳払いで誤魔化したと思ってるかもしれないけど、誤魔化せてないんだよな。

 確かに俺組織とかで各地を移動してそこそこ名が知られてるらしいけど、顔と名前が一致した知名度ってわけじゃないんだわ。帝国みたいに人相書が出回ってるわけじゃない所だと、エルフと組織の制服というが軍服でもしかして……みたいな感じの確認された事が何回かある程度なんだわ。


 こう、道を歩いてて「あっ、ルーカスだ!」みたいなレベルの知名度ではないんだわ。

 何が言いたいかっていうと、だからこんな人もいない辺鄙な場所で俺の名前ピンポイントで呼ぶ相手とかまずいないはずなんだっていうね?


「……ルーカス・シュトラール。異種族の迫害などから立場を守るための組織の活動に参加している」


 組織名とかはまぁ、別に言う必要もないだろう。というか正直組織で通じるから正式名称なんだっけ? っていうのもある。リーダーあたりが聞けば怒りそうだなとは思うが。

 どう考えても目の前のこいつは俺の友人であるヴァルトのはずなんだが、アルトだと名乗るのならば仕方がない。何らかの事情があると思う事にして、とりあえず茶番には付き合うべきだろう。

 既に俺の名前を聞く前からうっかり口に出しかけてる時点で茶番以外のなにものでもない。


「そうか、ではルーカスと呼ばせてもらおう。それで――」

「それから。あっちにいるのが俺の娘のディエリヴァだ」


 多分本題に入るだろうなと思ったあたりで俺はあえてアルトの言葉を遮って、少し離れた場所で木の陰に隠れるようにしていたディエリヴァを指し示す。

 木の幹に手を添えてそっと顔だけを覗かせてこちらを見ていたディエリヴァが、僅かに肩を跳ねさせた。


 正直、俺もこんな不審者に紹介するとかどうかと思うんだよ……外見だけで言えば誰が見ても不審者だもんな……でもこいつそれでも俺の友人のはずなんだよな……一応今は別人扱いしてるけど。


 俺はともかくディエリヴァから見ればどう足掻いても不審人物だ。びくっとなるのも仕方がない。


 対するアルトはというと、俺の紹介に視線をそちらへと向けたのだろう。

 木陰から顔を見せているディエリヴァに何を思ったのか、かぱっと口を開けて呆然と……? 顔の上半分が見えないから表情は果たしてそれで合ってるかわからんが、まぁ多分呆然としていた。


 まぁだろうなとは思う。

 ヴァルトが姿をくらませた後で、俺もまさかこどもが産まれるような事になるとは夢にも思ってなかったもんな。というか、更にその後で俺が異世界転生をしているという事に気付く事になるなんてのも。

 世の中って何が起こるかわかったもんじゃねーな……


「む、むすめっ!? 息子じゃなくて!?」

「息子もいるが……何だ? 初対面の割に詳しいな? さては僕の知り合いか?」

「い、いやっ、勿論きみと私とは今日が初対面さ。だからこそ自己紹介だってしてみせただろう!?」

「声裏返ってんぞ」

「なんのことかな」


 だろう、の部分は正直だろぉう!? みたいな勢いで裏返っていたしなんのことかなと言うその声は震えてビブラートがかかっている。

 いやお前、初対面演じるにしろ別人演じるにしろ、もっと頑張って取り繕えよと思っても仕方のない事では。大根役者ってレベルじゃない。


 しかしなんだってこいつ、頑なに初対面だという事にしたいんだろうか。

 素直に正体明かせば普通に俺も娘と息子について話をするくらいはするんだが……


「ディエリヴァ、とりあえず怪しい人物に変わりはないが危険はなさそうだから出て来ていいぞ」


 とりあえず木陰から出ていくべきか悩んでいるディエリヴァに声をかける。

 本当に? 大丈夫? と不安そうではあったが少ししてからおずおずとではあったが出てくる。


 いやホント、アルトが素直に正体明かせば俺もこんな怪しい不審者の前に娘を呼び寄せるなんて真似しなくて済むんだが……

 もしかしてこれ、こんな怪しい奴と話なんかしてられるか! みたいなノリで立ち去ろうとしてたら正体あらわしてたとかいうオチだったんだろうか……?

 試してみようにも今からやるには今更だよなぁ……既にこの茶番に乗っちゃったし。

 ディエリヴァは賢いから多分今の流れで大体茶番である事を察したようではあるけれど、後でこっそりと話を合わせる方向性で頼んでおいた方がいいだろう。

 多分俺の親友なんだけど、とか言ってしまえばそのうちどこかでうっかりとてもよく刺さる言葉のナイフを放ちかねない気がする。


 何だかんだハンスはヴァルトと会う事がなかったし、仮にこの場にいたとしてもそこら辺の指摘はしないだろう。色々とあるツッコミどころはきっちり突っ込んでいくだろうけれど。


 そう考えるとハンスがこの場にいなくて良かったのかどうなのか……


 とりあえず面倒な事になっている気がするのは決して気のせいではないはずだ。

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