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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
二章 ある男女の話
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原因不明の



 一つ目の島はワイバーン便以外で目を惹くようなものはなかった。

 いや、廃墟になる以前であれば土産物屋だとか食べ物屋だとか気になるだろうものはあったかもしれないが、いかんせん滅んで既に久しい廃墟。残った建物だけで目を惹くとなればワイバーン便一択だったのは致し方ない。


 そこから次の島へ移動する事にする。


 群島諸国から周辺の国を往復するワイバーンとは別の、短距離を移動するワイバーンがいたようで、そこにも一応立札が残っていた。文字は半分程がかすれてしまって読めなかったがそれでも残った文字から何となく推測すればあぁここが、と言えるもので。


 本来ならワイバーンに乗って空をぴょいっと移動して隣の島へ、というところだったのだが生憎ワイバーンはいない。島と島の間を埋め尽くすように船の残骸があるので、ディエリヴァの手をとって魔法で空を駆ける要領でもって船の残骸の上を移動した。ちょっとしたアクションゲームのノリだなこれ。

 まぁ落ちたら色々大変な事になりそうなのでそこは気を付けるけれど。


 次の島はワイバーン便と土産物屋が並んでいた最初の島と比べると、建物の数が多いなというのがパッと見た感想だった。

 群島諸国はいくつかの小国が集まってできたもの、と言われていたが、それが事実だというように島の一際高い位置にある建物は確かに城であった。

 帝国の城と比べるとしょぼいなと思えるサイズだが、それでもこんな小さな島国の城であると考えればまぁそんなものだろう。


 城、というよりは大きめの屋敷と言われた方が納得するかもしれない。


 それ以外の建物もそれなりに大きなものが多く目についた。

 俺たちがいる付近にある建物はどうやら宿屋のようだった。

 さっきの島にあった宿と比べるとこっちの宿は高級な感じがする。


 ……とはいえ、当時は、という言葉がつくわけだが。

 建物の外観やちょっとだけ中に入って覗いてみた感じから当時はちょっと値段が高いがそれなりにいいお宿だったんだろうなというのがわかる、といった建物がいくつか並び、その先にあるのは博物館や美術館といったものだった。


 念の為博物館や美術館にも足を運んでみたが、こちらは建物の一部が老朽化して立ち入れない場所もいくつかあった。

 当時の群島諸国の成り立ちだとかを記したであろう石碑も今は誰も手入れする人がいないために、潮風や日光を浴びに浴びたからか一部が崩れ落ちていたり、絵画に至っては言うまでもない。飾った当初はそれなりに注意をしていたはずだが、それでも長年放置されれば色はすっかり褪せてしまっているし、展示ケースの中に入っていた装飾品もケースのどこかが破損でもしているのか、物によっては錆びてしまった物もあった。


 とはいえ宝石部分は無事だったりもするので、もしこの島にそういった目的で訪れた者がいたならばそれこそこの島は宝の山になっていたかもしれない。

 ……帰りも確実に安全であるという保障があるのなら、という前提ではあるが。


「ここ、どうして滅んだんでしょうね?」

「さぁ? 前にも言ったが色んな噂がありすぎて真相はわからないな」

「時間に猶予のある滅び方じゃないですよね、ここ。だってある程度逃げる時間があったならそれこそ貴重品だけでも持ってワイバーンに乗って逃げればいいだけの話だったでしょう? でも、そういった話はなかったんですよね?」

「そういやそうだな。逃げる間もなく滅んだ……その割には案外原型留めてるな」


 例えば魔物が襲ってきた場合、逃げるのであれば最低限貴重品を持ってあとは護身用の武器を手に逃げるだろう。荷物を集める時間的猶予がなくともそのまま逃げだすはずだ。

 けれど魔物が襲ってきたのであれば、建物やその中がほとんど荒れていないのはおかしい。

 さっきちらっと覗いた宿の中も、埃はそれこそ積もっていたようだけど荒らされた形跡はなかった。


 次に考えられるのは島国という事もあって自然災害。

 大雨が降って海が荒れて、とか津波が発生して、といったものが考えられるだろうか。

 けれどそういった事実があったとは当時の話でもなかったはずだ。

 意図的に伏せられた情報だったとして、伏せる意味がわからない。


 例えばこれが島の住人全員皆殺しにしたのが群島諸国の王含む王侯貴族などであった、とかなら隠蔽しようってなるのはわかるんだが、単なる自然現象に隠蔽しようという考えにはならないだろう。


 むしろ群島諸国が滅んだのは、本来来るはずだったワイバーン便が来ない事で不審さを抱かれ、そこから調査に入った者たちによって発覚したのだから、大津波が発生して島が一時的に海の中に沈みました、とかならワイバーン便が来なくてもある意味当たり前のはずだ。


 博物館、美術館、と続いて城へ行く道が続いているがその手前にまだ大きな建物が二つほど並んで建っている。

まぁここも何らかの展示物があるんだろうな、と思って覗いてみれば二つの建物はどうやら図書館であったらしい。

 とはいえ、誰も手入れをする事ができない時間が長く続いてしまったためか、本棚から適当に取り出した一冊は、本棚から出た直後にぼろっと崩れてしまった。

 他の本も手に取ってみたが虫に食われでもしたのか中身はボロボロだった。

 虫に食われていない本もあるにはあったが、日に当たっていたからかすっかり文字が薄くなって黄ばんだ紙だけがある状態だ。これでは何の本だったのかさえわからない。表紙もすっかり薄い色になっていてタイトルすらわからないとか……本というよりはもうただのノートと言った方がまだ……いや、ノートにしたって紙が何かボロいし再利用しようとも思えないな……


 図書館の奥の方ならまだ無事な本はありそうだが、そこを探すのは一通り島を見て何もなかった場合だろうか。

正直ここに何か重要な情報があるという感じはしない。群島諸国が滅ぶような原因がそもそも図書館の奥の本に記されてるはずがないし、ましてやクロムートに関連する情報があるかもちょっとどころじゃなく疑わしい。


 図書館を出て城を見るべきかも考えたが、それも後回しにする。

 何故なら既に西の空が赤く染まっていたからだ。

 群島諸国に魔物が棲んでいたかはわからないが、全くいないというわけでもないはずだ。ここが滅んで廃墟群島と呼ばれるようになってからなら、それこそ海と陸両方で生きていけるタイプの魔物が潜んでいたり空を飛ぶタイプの魔物がここを巣にしていてもおかしな話じゃない。昼間の明るいうちはおとなしいとしても夜になって出てこないとも限らない。


 何を調べるにしても暗くなってからだと魔法で明るくしていても見落としがあるだろうし、今日のところは早々に休んでしまった方がいいだろう。

 幸いにもこの島にはちょっといい感じの宿だっただろう建物がある。

 中身は掃除する必要があるが、俺とディエリヴァが寝泊まりする部屋の確保だけならそう時間もかからないだろう。こういう時魔法は便利だ。


 帝国と違ってここは滅んでからの時間がとんでもなく経過している。

 住人が残してあったはずの食料は既にすっかり腐ってどろどろに溶けたか他の動物が食べたかで、綺麗さっぱり残っていない。調味料くらいは探せば残っているかもしれないが、別にわざわざ深淵を覗くつもりはない。塩とか胡椒とかはさておき、味噌みたいな調味料はカビが発生してる可能性もあるしな……

 足を踏み入れた宿でそういった発酵調味料系の匂いとか何かが腐ったようなにおいもしなかったので適当に選んだ部屋をさっさと魔法で綺麗にして、その日は収納具の中に入っていた出来合いの食料で済ませた。


 念の為精霊に見張りを頼んでから寝たけど、魔物が襲ってきたとかそういった事もなく俺もディエリヴァも朝までぐっすりだった。


 どうして滅んだのかもわからない廃墟群島。

 てっきり夜には幽霊とか出てくるかと思ってたんだが……拍子抜けするほど今のところ何も起きていないのが逆に不気味だった。

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