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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
二章 ある男女の話
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廃墟群島



 ところで廃墟群島には近年新しい呼び名が増えた。

 その名も――船の墓場。


 かつて群島諸国が存在していた時は基本的に群島諸国側でワイバーンを運用し移動はもっぱらワイバーンだったわけだが、群島諸国が滅んだ後、その原因を調べるために船で乗り込もうとした者がいたのは言うまでもない。とはいえ帰ってきた者といえば、一番最初に群島諸国が滅んだ事を知った一部の者たちだけだ。

 それ以外、それ以降群島諸国へ訪れた者たちの中で帰ってきた者は一人としていない。


 群島諸国へ辿り着く前に魔物によって船を沈められてしまったもの。

 群島諸国へ辿り着く前に海流の流れに乗りきれず座礁し沈んだ船。

 はたまた、群島諸国へは辿り着いたかもしれないけれど、帰りに何らかの事情があって帰れなかった者。


 そういった者たちが乗っていた船の残骸は流れ流れて群島諸国の周辺に漂うようになっていった。

 粉々に粉砕されていれば海の藻屑となったかもしれないが、結構大きなパーツそのまま残ってるなんてのもあるようで。何もかも沈んでしまえばともかくプカプカと浮いて島のどこかに引っかかりそうして他の船だった物がそこへ更に引っかかり……なんてのが続いた結果、かつて美しかったであろう群島諸国の面影は消え、今では廃墟群島と呼ばれる始末だ。


 全部の船が木端微塵になっていたならともかく、ほとんど原型を留めたままの物も中には存在する。そういったあれこれが島周辺にくっついて、遠くから望遠鏡などで確認した船乗り曰く、巨大な一つの島になっているように見えた、だそうだ。

 ちなみにこの船乗りの話は俺とディエリヴァが魔法で海の上を移動しているときに遭遇した船の船員だ。

 水でできた竜で海の上を移動しているという事実に大層驚かれたが、事情を話せば案外あっさりと納得された。

途中で出会った船は廃墟群島へ向かうわけではなく、別の大陸へ向かうものだったため接近して会話をした時間は極僅かなものだったが、それでも最近の廃墟群島の様子が聞けただけ良しとするべきだろう。


 その船以外でエンカウントしたものは特にない。

 魔物に関しては嬉々として襲い掛かって来るかと思っていたが逆に警戒されたらしく拍子抜けするくらいに出てこなかったし、結果として廃墟群島へは大したトラブルもないままに辿り着いた。


「いかにも、って感じですね」


 近づきつつある廃墟群島を前にディエリヴァはとてもわかりやすい感想を口にした。


 かつては美しい島々だったのかもしれない。けれど今はそこに暮らす人はなく、大小様々な船の残骸が島の周りを漂っていて、なんともどんよりとした空気すら感じられる。

 天候は曇り。とはいえどんよりしているはずもないのに、けれど廃墟群島周辺の空だけは何故か毒々しい色をしているようにさえ見えてしまった。目の錯覚だろうか。

 廃墟群島という言葉からいいイメージが浮かばないので、恐らくはそういった深層心理も関係している気がする。


「なんというか……幽霊とか出そうな感じではあるな」


 ぼろぼろになった船とか見ると幽霊船かな? とすら思える程だ。

 まだかろうじて動かせそうな船なんかは本当に幽霊船として今にも動き出しそうな雰囲気すらある。


 うっかりそんな事を口にして、ディエリヴァを怯えさせてしまっただろうかと思い視線を移動させてみれば、特に何の変化もない。

「ディエリヴァ、幽霊は平気か」

「そうですね。大きな虫に比べればわかりやすいじゃないですか」

「……わかりやすいか?」

「昆虫はこっちを攻撃するタイミングとか全くわからなかったりするけど、幽霊って基本的にこう、恨みつらみの集大成みたいな。最初からこっちに好印象持ってるわけじゃないのわかりきってるし、場合によっては言葉とか発するのもいるわけでしょう? 意思の疎通ができなくても、何となく相手の考えがわかる部分はあるわけじゃないですか」

「……そういう理屈か」


 言い分としてわからないでもない。

 幽霊が襲ってくるのなんて生きてるこっちが羨ましいとか妬ましいかのどっちかだろうし、そういう感情がなくてもう何で襲ってるかもわからない、みたいなのがいてもそれもまぁ、そういうものだと割り切れる。

 生前の何らかの執着や未練が残って、とかよく聞く話ではあるわけだし。


 そう考えると昆虫よりは確かに自己主張が激しいな。

 意思の疎通ができるタイプの幽霊ならともかくそうでなくとも敵対するなら魔法で攻撃も可能なわけだし。

 ……何にせよディエリヴァが怯えたりする可能性が低いというのは何よりだ。

 コルテリー大森林、ミズー集落より更に奥地へ行くような事になっていたら今頃虫よけスプレーとかありとあらゆる虫よけグッズでガチガチに防御を固めていたかもしれないし、その上で恐怖であまり足が進まなかったかもしれない。


 それと比べればここでの探索はそう大変な事にならないのではないか。虫はいるかもしれないけど、それでもコルテリー大森林で遭遇する可能性の高い巨大な昆虫とかはいないだろうし。

 ……いないよな?


 廃墟群島からやや離れた所にポツンと島が一つあるのも確認できた。長老の言った通り、確かに何か大きな木があるのが見える。あれが神域……ねぇ? そう呼ばれてるらしいというのはさておき、こうして見る分には全くそれっぽい感じはしない。

 島に足を踏み入れてあの大きな木の根元のあたりまで行ってそこで見上げたらもしかしたら圧倒されてそんな風に思う可能性はあるかもしれないが、こうして遠くから見るだけなら特になんとも。


 まぁ足を踏み入れたら何か災いが起きるとか言われてるようだし近づかないに越した事はない。


 船の墓場となってしまった島周辺から、どうにか上陸できそうな場所を発見してそこから島に降り立つ。島自体は全部が全部くっついてるわけじゃないから他の島に行く時はまた水上を移動しないといけないだろうけど、もしかしたら船の残骸の上とか通れそうな部分もあるからそう頻繁に魔法を使う事もないかもしれない。

 とはいえ、下手な山道なんかより移動が大変そうな気しかしないわけだが。


 ともあれ最初に降り立った島は、恐らく観光地としてワイバーン便が多く出ていた島なのだろう。

 すぐの場所にすっかり寂れているものの看板が立っていて、


 ワイバーン便 こちら→


 かすれているもののどうにかそう読み取れた。


 矢印が向いている方へと視線を動かせば確かに何かそれっぽい建物が見えた。周囲は広々としていて他に何があるわけでもない。

 まぁ、ワイバーンが着陸するスペースがいるわけだからこの辺りは意図的に何もないんだろうなとはわかる。


 かつて群島諸国と交流があった一番近い大陸は既に俺たち通り過ぎてきたわけだけど、群島諸国へ行きたいという者はあの大陸へ行き、そこからワイバーン便に乗っていったという事だろう。

 物珍しそうに周囲を眺めているディエリヴァを連れてワイバーン便発着場へ足を運べば、建物の外観こそボロボロになっているものの中はそこまででもなかった。


 思っていたより劣化してないな……と思いながら中へと入り、すぐ近くにある受付だっただろう場所を見る。

 大まかにではあるがワイバーンが群島諸国と近くの大陸との行き来をするスケジュールらしきものが書かれたものがあったが、島の名前や大陸の名前などは文字がかすれてほとんど読めなかった。


 とりあえず当時ワイバーン便は三日に一度くらいの割合で出ていた事がわかったが、それだけだ。


「ワイバーンで飛んで、往復とかはしなかったんでしょうか?」

「人を乗せて運ぶわけだからな。一人二人を乗せてっていうならもっと沢山飛んだかもしれないが、恐らくは何か……人が乗れる大きな箱とかそういうの吊るして飛んでたんじゃないか? ワイバーンの数が多いなら少数を乗せて飛ぶ回数を増やせばいいが、そうでないなら少数のワイバーンで大勢を運ぶしかない。

 大勢を運んだ後はワイバーンも休憩が必要だったり人を乗せる道具のメンテもいるだろ。流石に途中で駄目になって海にドボン、じゃ大問題だからな」

「なるほどー」


 実際の事は知らんけど。まぁ三日に一度となるとそういう感じじゃないのかなぁ、と。

 建物の中は受付と、あとはワイバーン便を利用する客が時間まで待つための場所であったり軽食が取れるだろう食堂らしき場所があったりだとかしていたが、更に奥は職員が休憩したりする場所なのだろう。関係者以外立ち入り禁止と書かれたプレートが壁にくっついていた。

 無視してそこを進んでみれば、休憩所らしき場所や備品などを置くための部屋がいくつか。更に奥へ行くと建物の反対側へ到着したらしく、そこからは外に繋がっていた。


 建物の裏側にあたるこちらは外に出ると巨大な厩舎らしきものが出てすぐに視界に映る。

 馬小屋と比べると大きさがその倍どころの話ではないので、考えるまでもなくワイバーン用だろうな。


 中に入ってみたものの、ワイバーンの影も形も何もない。当然か。群島諸国が滅んだ後ワイバーンがどうしたかはわからないが、仮に無事だったとしていつまでも大人しくいるはずがない。餌がなくなれば求めてどこかへ飛んで行く事は容易に想像できた。


 建物の中をざっと見た限り、どうやらワイバーンが見学できる催しもあったらしく、それらのスケジュールらしき時間が記された紙が壁に貼ってあった。

 とはいえ、これもボロボロでどうにかかろうじて読めたがもし壁に貼ってない状態であったなら、そこらに落ちていた紙とかであったなら拾った時点でボロボロになって読む事すらできなかったかもしれない。


「なんていうか、思った以上にワイバーンが観光産業として活躍してたみたいですね」

「そのようだな」


 新たに生まれた仔ワイバーンとかお披露目できる時期はいついつです、みたいな案内だとか、生まれたワイバーンの赤ちゃんの名前募集! なんていうのとか。

 ワイバーンじゃないけど前世でもこういうのあったな……って考えるとやる事はどこも似たようなものなのか。


 思った以上にワイバーンが飼いならされていたという事実には驚くしかない。

 え、そんな簡単に懐くものなの?

 だったらちょっと空の移動手段とか便利そうだから所有したいとかちょっと揺らぐよな。

 ……まぁ、餌代だとか街とかだと馬じゃないから待機させる場所とか色々大変そうってのもあるけど。


 ワイバーン便発着場、みたいな場所から離れて別の場所へ行く事にする。

 群島諸国の中でもここは一番小さな島らしく、ぐるっと回るだけならそう時間はかからなかった。


 まぁ、観光に来た人間ならそこかしこにある土産物屋とか、名物の食べ物屋とか見て回るだろうから結構な時間がかかるんだろうけどな。

 現在は人が住んでる様子もなければ店なんてどこも開いてないから俺とディエリヴァが島の中を見て回ってもはしゃげる要素はどこにもない。


 ただ思っていた以上に建物は劣化していないようなので、夜になったらどこかの建物で休めそうだというのはありがたかった。野宿でもいいんだけど、急な天候の変化とかがあるとテントがあろうとなかろうと面倒である事に変わりはないからな……

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