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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
二章 ある男女の話
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行くアテがないから仕方ない



 そういうわけで廃墟群島へ行く事になったわけだが。

 いやうん、何で?

 正直俺もまだちょっと完全に理解してない部分あるけど、まぁ他に行くアテがないのは確かだから仕方ないにしてもだ。

 廃墟群島だぞ?

 クロムートに関する情報らしきものに心当たりがある長老がわざわざ行けっていうくらいだから何かあるだろうとは思いたいけど、廃墟群島だぞ?


 廃墟群島とはその名の通りだ。


 かつてはいくつかの小国が集まって群島諸国と呼ばれていたものの、かなり前に滅んでいる。

 何年前の話だったかな……俺も気付いた時にはもう滅んでた気がするから百年か二百年くらい前の話だったような気がするんだよな……下手したら俺がまだ故郷にいた頃に滅んでた可能性もある。それくらい昔の話だ。


「あの、お父さん。廃墟群島、とは?」


 俺の記憶でも正確に覚えてるわけじゃない代物だ。ディエリヴァが知ってるはずもない。

 仮に帝国に居た時に周辺諸国の知識も教えられたとして、廃墟群島に関してまで教えられるはずもないだろう。帝国からは大分離れた場所にあるわけだし。


 だからこそディエリヴァには俺が知る範囲で廃墟群島について教えたものの、ディエリヴァもどうしてそこへ? と言わんばかりだ。気持ちはわかる。でも他に行くアテ何にもないからさぁ……


 それにルーナやクロムートはさておき俺の友人であるヴァルトに関しては人の集まる場所をいくら探しても見つかる気配がなかった以上、もしかしたらそういう人もロクにこない場所に隠れ住んでる可能性とかのが濃厚だから、念の為って感じで行く事に関してはやぶさかではない。


「廃墟群島に行くルートは正直ない。他の国に行く時みたいに船が出てるわけじゃないからな。とはいえ、僕の魔法でこの大陸に来た時のような手段を用いれば行く事は可能だ」

 そう、交通手段がないっていうのがちょっとどうかと思うけど、俺の場合魔法でどうにかなるから行けるってだけの話だ。

 そういった方法が使えない場合、長老はどうするつもりだったんだろうか。船を造るところから始めろとか言い出しかねないぞあの調子じゃ。


 昔は他の国と交流があったとしても今はもう国そのものがないわけだから、そこへ行くなんて言い出す奴はまずいない。というか俺の記憶にある朧気な知識で群島諸国に関する情報と言えば、海流が複雑な変化をする場所にあるので船で行くのは難しく、群島諸国では翼ある竜……つまりワイバーンだな。こいつらを飼いならしていたらしいので、それで他の国との交易をおこなっていたりしていたらしい。

 群島諸国に行きたい奴なんかもワイバーン便だかで移動していた、なんてのが歴史書にちらっと載っていたはず。国に入る方法も出る方法も群島諸国が担っているので、万一何かあった場合――他国との戦争とか――群島諸国に訪れていた誰かが人質になっていただろうなとかそういう記述もあった気がする。


 ワイバーンを使っての空からの移動がメインってなると、まぁそうなるよな。一応周辺諸国との関りを絶とうとしてないからまだしも、そうじゃなかったら群島諸国って完全に鎖国状態なわけだし。


 いくつかの小さな国が集まってたらしいので、当時の旅行者からの人気は高かったようだ。

 一つ隣の島に移動すればもうそこは別世界! みたいな感じで真新しさがあったんだろうなとは思う。


 まぁ俺が群島諸国に関して知って興味を持って行ってみようかと思った時には既に滅んだ後だったような気がする。


「どうして滅んだんですか?」

「さぁ? 噂が色々あってどれが本当かわからないんだ」


 群島諸国に関して大雑把に話してみれば、ディエリヴァはある意味で当然の疑問を投げかけてきた。

 しかし残念ながら俺も詳しい事はわからない。

 その存在を知った時には既に滅んでたわけだが、周辺諸国が群島諸国が滅びた事を知ったのもそれなりにあとになってからのようだったらしいので。


 例えば何らかの事件か事故があって、大陸一つ……この場合は島一つ吹っ飛ぶような大規模な爆発が起きた、とかであれば周囲に話がすぐ流れるだろう。けれどもそういった派手な事件が起きたわけでもなく、定期的にワイバーンがやって来ていた場所に行ってもワイバーン便が中々来ないまま日数だけが経過して、群島諸国から帰ってくるはずだった誰かも一向に戻ってくる気配がないまま。

 とうとうしびれを切らした周辺諸国の一部の連中が様子を見に乗り込んでみればその時点で既に……といった感じだったらしい。


 荒波を乗り越える船やら万一魔物が出て来た時の事を考えて様々な準備をしてからどうにか乗り込んだらしいので、乗り込むと決めた者たちが実際に乗りこめた時には数か月が経過していたとかどうとか。

 そこから何があったか調べようとした者もいたようだが、何らかの事故があって人員が半減。このまま調べるのは危険と判断した当時の連中が戻って来てそこでようやく群島諸国の滅亡が知れ渡った……らしい。


 その後改めて群島諸国で何が起きたかを調べようとした者たちもいたようだが、海路から向かうのだけでも一苦労。何度かにわたって送られた調査隊も戻ってくる様子がなく……とかなんとか。


 結果として呪われた島だとか何か禁断の秘術を行って失敗したとか、新たな病気にかかって死んだとか、魔物が大量発生して滅んだとか、神の怒りに触れたとか悪魔が滅ぼしただとか、根も葉もない噂話が飛び交って実際はどうしてそうなったのかなんてマトモに把握してる奴はほとんどいない状態だ。


 当時群島諸国へ行って帰ってきた生き残りは何かヤバいぞと思った時点で引き返したそうなので、何があったのかは全くわからないらしい。


 そういうわけで群島諸国は現在廃墟群島と呼ばれるようになってしまっている。


「とってもいわくつきの場所なんですね」

「まぁ平たく言えばそうなるな」

「……群島諸国が残っていた時に、その近くにあるらしい神域の島とやらについてはどうなんでしょう?」

「さぁな」


 さっきの群島諸国が滅んだ理由の一つに神の怒りに触れたとかいうのがあったが、もしかしたらその神域と呼ばれる島に関係があるのかもしれない。とはいえ全部が全部推測だ。

 踏み入ってはいけない島に踏み入ったからこそ滅んだのであれば、それはそれでとんでもないなと思う。


「それで、その廃墟群島はここからどれくらいかかるのでしょう?」

「あー、まぁ、大体三日くらいじゃないか? 僕たちの移動手段で行けば」

「案外遠くないんですね」

「船で行こうとすればこれまた数か月コースだぞ」

「あら」


 精霊の力を借りて水上移動する魔法は、そう考えると便利極まりないわけで。

 普通の船なら流れに逆らって進めるような場所じゃない所でも気にせず逆走できるし、魔物がいても全速力で振り切る事もできる。船の場合は下手に逃げようとすれば逆に船を沈められる事もあり得ることだからな……


 群島諸国……いや廃墟群島か。そこへ行くのであれば上空から行けないのなら海からしかないわけだが、そこで一体何があったのかを調べるべく赴いた調査団のいくつかは群島諸国へ着く前に魔物によって船を沈められたとか言われてる。行く前に沈められたにしろ、辿り着いて島の方で何かあったにしろ、どっちにしても帰ってくる奴がいないのだから真実は知りようがないわけだ。


 とはいえ、俺の魔法で行くのであれば途中で魔物に遭遇しようと気にする事なく突っ切る事もできるし、潮の流れも関係ない。船で行くよりは余程確実だろう。


 とはいえ三日は確実にかかるだろうし、普通の野宿と違って海の上だ。いつもとは違う状況にいらん神経使いそうなのがな……ま、なんとかなるか……?



 朝一で長老の所に行って茶番やらかしたり話をしたりした結果、昼近くにはなっていたもののそこから一日また泊まるつもりもない。そのままミズー集落を後にして再び海岸へとやって来ていた。


 本来ならばコルテリー大森林を更に進み大陸の反対側から行く方が良かったのだが、大森林という大自然の中すくすくと育ち過ぎた昆虫と遭遇した場合のディエリヴァを想像するととても面倒な事になりそうだったのでこうして引き返してきたわけだが。

 まぁ、ここから大陸ぐるっと回る形で出発してもそこまで時間のロスにはならないだろう。その分スピード出せばの話になるけども。


 波打ち際までやって来て、俺は魔法を発動させるべく声を上げる。


「大将、いつもの」


 ちなみにこれが魔法発動のキーワードになるとかどうかしてるなと我ながら思うわけだが、俺に力を貸してくれている精霊たっての希望なのでこれ以外の言葉だと中々スムーズに発動しないんだよな……

 アリファーンあたりに頼めば他の言葉でもいいはずなんだが、アリファーンはあまり水を操ったりする魔法は苦手らしいし……というか実際に前にやってもらったけど途中でアリファーンが力尽きて俺もその直後水に沈んだ事があったしな……


 短時間程度ならどうとでもなるが、流石にここから最短距離でも三日かかるとわかりきってるところでアリファーンに頼むのは自殺行為だろう。仮にアリファーンがやる気を見せていたとしてもだ。


 ともあれこうしてどこぞの常連客のような言葉とともに発動した魔法で、水で作られた竜の上に乗って移動を開始する。

 船酔いとかそういったものとは無縁なのが救いといえば救いかもしれん。

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