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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
二章 ある男女の話
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鍛える気のないコミュ力



「クロムートという人物に関しては生憎こちらも心当たりがない。精霊から聞いた話でもそういったものは聞かぬしな……しかし、だ。帝国で起きた一連の出来事で、何となく気になる部分がある」


 いつまでもルーナに関しての話をしていても、怖い想像ばかりが増えていきそうだったのだろう。長老がいかにもわざとらしい咳払いを一つして、話を変える。


「何となく、なんだな」


 正直存在そのものに疑問しかないような相手なんだが。


 精霊の力を取り込んだり自分を人間だと名乗ったり。人間が精霊の力を取り込んだりできるはずがないし、精霊が人間を名乗る事はまずないはずだ。というか人間名乗るにしても人の身体乗っ取ったりまではしないんだわ。普通の精霊は。


 精霊が実体を持つまでに力を得るのには、かなりの時間がかかるのだそう。アリファーンたち実体を持つ精霊から聞いた話からどの精霊も同じような事を言っていたので間違いはないはず。

 人の目に触れられる程の力を得た精霊が人間のフリをして紛れ込む事はあるかもしれないが、けれどもそこで人間だと名乗る事はあまりないと思われる。

 種族を聞かれて素直に精霊と答えるか、あえて人間以外の異種族の名を出すか。


 人間が精霊のフリをするというのも正直得は一切ない。


 周囲に言って回ったところで精霊としての力が無ければすぐに嘘なんて暴かれるものだし、それ以前に自らの身を危険に晒しかねない。


 この世界にあるお伽噺というか童話というか昔話で、精霊のフリをした人間の末路っていうのがあってな?

 そいつは口先三寸で周囲の人間を騙していったがとうとう本物の実体を持った精霊に人間である事を見破られ、最終的に魂引っこ抜かれたっていうオチが待っていたわけだが。


 考えようによっては魂だって人の目に見えるものじゃない。だからこそその人間は本当の意味で精霊に近づいたのだという見方をする者もいたが、人間が死んだ後精霊になるかどうかは誰も知らない。精霊に聞いたところで知らないのだから、知りようがない。


 この昔話という本当にあった怖い話もどきは、嘘を吐いたらいけないよというこども向けの教訓話として受け取るべきか、精霊相手に下手な事言うと命失うからなっていう全体的な警告なのか……どう受け止めるべきなのか未だにわからない話の一つだ。


 割と世界的に有名な話なので、多分どこの大陸の生まれであっても多少話の流れに違いはあれど大まかに知ってる者がほとんどだろう。何だかんだ寝物語として幼い頃に一度くらいは語られている話だ。

 ……受け取り方次第で怖い話すぎるのでこんなの寝る前に語られたら怖くて眠れないこどもも出る気がするのだが。


 クロムートが人間であるのなら、この世界の人間種族全てがああいったことができるのが当たり前だとなりかねない。勿論特殊能力持ちの人間だっているから、そういう特殊枠と考えるにしても異常すぎる。

 人の身体を乗っ取る、寄生のような事をする、この時点で既におかしい。


 前世テレビで見た話で臓器移植した人が、今まで嫌いだった食べ物が唐突に好物になって、調べてみるとその移植した臓器の持ち主が実はその食べ物大好物でした、みたいなのはあった。

 でもこれそういった話ですらないわけで。むしろそういう話だったらまだ微笑ましかったのに。


 ではクロムートは実体を持つ精霊なのかと言われれば、それもちょっと断言しにくい。


 精霊は別の精霊を取り込んだりしない。

 アリファーンやハウ、エードラム、他の精霊だってそんな事は出来ないと言うのだ。


 精霊が力を得るのは基本的にこの世界に存在する魔素を取り込む以外ない。

 そこかしこに漂う魔力の素を取り込むと言ってもそう簡単にいくものでもなく。


 人の願いに応えるように力を使い、そうして力の使い方を学びつつ少しずつ魔素を取り込んで成長していくらしい。この世界に漂う魔力の塊に意思が宿ったものが精霊で、意思が宿る前の魔力だけを取り込んで成長していくのだと。意思が宿ったものに関してはそれがどれだけ脆弱だろうと取り込む事はできないのだと精霊たちは言っていた。


 こう話を聞くと精霊は増え続ける一方な気がするが、力の使い方を間違えて自滅する精霊もいるらしいので目に見えない精霊で世界が一杯に埋め尽くされてるとかでもないらしい。

 ……まぁ、実体を持たない精霊を見る眼を持つ者も極まれにいるわけだが、もしそんな風に世界がみっしり精霊で埋め尽くされていたらそれを見る事ができる者は下手したら発狂してるわな。


 しかしそれらの話を踏まえると、どうしたってクロムートの存在は異常だ。


 あいつは全てではないが、アリファーンの力も取り込んでいる。

 実体を持った精霊の力を奪うだけじゃない、帝国の精霊の少なさを考えるに実体を持たない精霊たちも取り込んでいるわけで。

 本来精霊はそれをできないと精霊たち本人が言っているにも関わらずそれができる存在は、果たして精霊と言えるのだろうか……?


 勿論本当にクロムートが精霊である可能性が無いわけじゃない。突然変異という可能性もある。


 どちらにしても、クロムートの存在が異常である事に変わりはないのだが。


 どこもかしこも異常性しかないようなクロムートに関して、しかし長老が気になる部分は僅からしい。

「とはいえワシも詳しくは語れぬ。気になるのであれば廃墟群島へ向かえ」

「……は?」

「場所は知っとるだろ」

「そりゃまぁ、聞いた事はあるが……え? 何でわざわざあんな場所に?」

「運が良ければ何かしら残っとるはず」

「いやそれ運が悪かったら何も残ってないっていう意味だよな」

「何もなければもっかい戻ってこい。その時は仕方ないから話してやろう」

「いや今話せよ」


 いきなり説明丸投げされて俺としてもビックリなんだが。

 無駄足に終わる可能性が高いなら今ここで何らかの情報知ってるだろう本人の口から何か話せよとしか思わないわけだが、長老は頑なに口を割らなかった。


「大っぴらに言える話じゃないからどうしても知りたいならまずそっちへ向かえと言うとるんだ。何もなかった、もしくは行ったけど頭悪すぎてよくわからんかった場合のみ仕方ないからワシの口から話すと言うとろうに」


 これ以上粘ったところで何かおかしな方向に煽られる気しかしないので、仕方なく諦める。

 いやもうこれ、数日適当な所で時間潰して行ったけどよくわかりませんでしたとかした方が手っ取り早いのでは、とも思うんだが、長老の事だ。ちゃんと足を運ばないとわからないような話まで持ち出してくるに違いない。

 まずあの島で見たものの中で何がわからなかった? なんて聞かれれば実際行ってない以上全部とかしか言いようがない。


 長老のこの言い分からして、行けば何らかの情報はあるはずだ。

 廃墟群島そのものが殆ど崩壊しているとかでもない限り、長老が言わんとする話の断片くらいは拾い上げる事も可能なんだろう。きっと。

 だがしかし正直そこまでする価値があるのか? という気しかしない。


 クロムートに関する何らかの情報があればまだいい。けれど、無駄足で終わる可能性の方が高い気がしてならない。


 しぶる俺に対し、他にアテがあるのかと長老は問う。

 …………無いんだよな~。

 別のエルフの里とかにいる物知りな相手の所に行くという選択肢もあるけど、俺が知ってて行ける他のエルフの集落とかの物知りエルフはどっちかっていうと外の情報あんまり興味ないタイプが多いから……言われてみればそんな噂聞いた気がするな、で済ませるようなのが大半だ。


 外の世界の情報にもそこそこ興味と関心持ってるの、ここの長老くらいなんだよなぁ……

 若い世代のエルフなら好奇心で外の世界見てくる、とか言ってあちこち放浪する奴もいるけど、そういうのと遭遇して情報交換できる機会は正直そこまで無い。


 他の種族との情報のやりとりは俺があまり得意じゃないしな……エルフなら俺の知らない場所の里とかに入り込んだとしても、まずどこの里から来た? とか向こうも話を聞く姿勢だからどうにかなるけど異種族の場合はそういう会話のとっかかりも無い場合が多いから……コミュ力に難があるのはわかっている。


 はぁ、と無意識のうちに溜息が零れていた。


「行くのか?」


 そのまま立ち上がった俺に長老が問いかける。


「行けと言ったばかりだろう。現状知らない事ばかりでのんびりしてる余裕もない」


 多少のんびりできるという根拠があればいいが、今はそうじゃない。いつ何が起きるか……のんびりしてるうちに力を回復させたクロムートがこちらに襲い掛かってくる可能性すらある。余裕かましてたらとんでもパワーアップしてクロムートが帰ってきました、なんて事になったらシャレにもならない。


 俺が立ち上がった事でディエリヴァも察したのだろう。すっと音もなく立ち上がっていた。


「じゃあ、行ってくる」

「おう。……あ、そうだったそうだった。廃墟群島近くの別の島には間違っても行くんじゃあないぞ。やたら大きな木があるから間違えたりしないとは思うが、そっちは太古から神域と呼ばれておる島だからな。下手に踏み入ったら災いが起きると言われている。

 過去の言い伝えにどれだけ信憑性があるかは知らんが、こういうのは関わらなければ無害な事が多い。間違っても興味本位で行くんじゃないぞ」

「一応心の片隅に留めておく」


 廃墟群島と間違えて上陸するフラグな気もするんだが……やたら大きな木とやらがあるなら流石に間違えたりしないだろう。廃墟群島にも似たような木がない限りは。


 しかし、廃墟群島か……いや、うん、どこぞの王宮へ行けとかどこぞの神殿国家へ向かえとか言われるよりはまだマシだろうか……正直そっちの方が何らかの情報得られそうな気もするんだけど、俺のコミュ力はそう高くないからな……行って駄目ならまたここに戻ってくればいいだけの話だし。うん。

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