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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
二章 ある男女の話
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疑惑の繋がり



「それで、一体何の話を聞きにきた?」


 一通り茶番やらかして満足したらしい長老が何事もなかったかのように話を戻す。

 いや、最初っからその流れで開始してほしかったんだけどな……と、こぼした所で仕方がない。

 文句を言ったら言ったでまた別の茶番が始まりそうなので、俺は気にした様子を一切見せる事なく本来の流れに乗った。


「人を探している」

「前に言ってた友人か?」

「それも探してるが、増えた。

 ルーナという女と、クロムート。名に聞き覚えは?」

「……ふむ、ふぅむ……? ルーナ、ルーナ……」


 長老は口の中で何度か名を転がすように呟いて、しかし思い当たらなかったのだろう。そっと首を横に振った。


「生憎聞き覚えはないな。そもそも何故ワシに?」

「僕よりも精霊の声を聞く力があるだろ。生憎僕はその場にいる精霊にしか聞けないけどそっちは離れた場所の精霊の声も聞こうと思えば聞けるって前に言ってたじゃないか」


 世界中を漂っている精霊ではあるけれど、彼らの興味の移り変わりは激しくちょっと前の事なんて覚えてないやー、みたいなのも結構いる。他の大陸から来たよー、なんて言う精霊も、じゃあ向こうの大陸で何か印象に残ってる出来事とかあった? って聞いてみればあった気がするけど忘れた! なんて返ってくるのも珍しくない。

 記憶力が低いとかではなく、精霊基準で興味があって覚えておこうという話題が少ないらしいので、精霊の声を聞けるといっても正直な話凄く役に立つというわけでもない。


 勿論、その場その場での情報収集というのであれば役に立つ事もあるし、精霊の全部が全部そういう軽いノリでぽんぽん忘却しているわけでもないからたまにではあるが少し前の話くらいは聞ける。


 長老の場合はこのミズー集落から外に出なくてもクルメリア大陸全土の精霊の声を聞く事だってできるし、更に頑張ればギリギリ隣の大陸の精霊の声も聞くだけならできるらしい。そう、前に言っていた。

 聞くだけでこっちの声を遠く離れた精霊に届けるのは難しいようだが、それでも集落から出ないままかなりの情報を得ているというのはすごい事だと思っている。

 まぁ、興味の移り変わりが激しい精霊の声だと話題もぽんぽん変わるらしいので半分くらいは本当にどうでもいい話らしいけど。


 話を聞ける相手が近くにいるとわかっている精霊ならこっちにあれこれ色んな情報をくれるけれど、そんな相手が話を聞いているとは思っていない精霊の話の内容なんて、本当にあちこちに飛ぶらしいのだ。

 ……最初に聞いた時は盗聴か? と思ったのは無理もない話だと思う。というか盗聴だよな?


「それで、その二人はお前さんにとってどういった相手だ?」

「ルーナはディエリヴァの母だ。それでクロムートは」

「ディエリヴァの母という事はお前さんの妻か!?」


 くわっと目を見開いて話を遮ってきた長老に、あ、何か面倒な事になりそうだなと思い始める。


「なんだもしかして逃げられたか? 世界を股にかけた夫婦喧嘩か?」

「違うし何でそんなワクワクしてんだ」

「他人の修羅場とか超絶面白いゴシップじゃろ」

「人の不幸は蜜の味っていうのを隠そうとしないその態度はどうかと思うが夫婦喧嘩以前の問題なんだわ」


 というか仮にもさっきお前自分で息子同然な俺の娘なら孫みたいなもの、とか言ってたディエリヴァ本人がいるのにその態度はどうかと思うんだ。

 ほら見ろディエリヴァが若干引いてるだろうが。


 思うだけで口に出さずに俺もまたディエリヴァと同じようにうっわ引くわ……みたいな表情を浮かべる。


「親子そろってそんな顔せんでも。夫婦喧嘩じゃないならなんだ。もう一人のクロムートだったか? そいつに寝取られでもしたか?」

「修羅場っぽさを増量しないでもらえないか。あと仮にもこどもの前で寝取るはないだろ。あとまだ寝取られてない」

「まだ!?」

「あからさまにワクワクするな」


 駄目だこの爺さん……里に引きこもってろくに外との接触がないから娯楽に飢えてる……長老とかやめて外に出た方がいいんじゃないか? 人の多い街とか行けば多分そこそこ色んな修羅場が見れると思うんだよな。

 痴話喧嘩から酒場での酔っ払いの乱闘、はたまた謀殺しようとしてる企みなんてのも場合によっちゃ見れるはず。


 俺がそんな事をのたまえば、赤の他人の修羅場だとそこまで面白みないし、とか言われた。適度に知ってる奴が修羅場るのが面白いらしい。

 その性格どうかと思う。

 思ってても言っちゃいけないやつだろそれ……


 修羅場の気配を察知しない状態ならそこそこマトモなんだけどな……まぁ、自分で修羅場を作ろうとかしないだけマシかもしれん。


 とりあえずここで話をもったいぶっても仕方がないのでルーナという人物についての説明に入る。

 たった一度しか会った事のない女。

 その後は一度も会った事のない女。


 ……そういう意味では逃げられたという長老の言葉も間違っちゃいないんだろうけど、これ逃げてるって言えるんだろうか……?


 クロムートはそのルーナに執着を向けているようだし、帝国を滅ぼした原因みたいなものだ。話さないはずもない。狙いがルーナだけであればいいが、どうにも俺も狙われているようだしで放置しておくわけにもいかない気がしている。

 ……というかだ。狙われているようだし、というより狙われてるよなどう考えても。ちょっと希望的観測でふんわり表現してるけど、ガッツリ狙われてるよな。


 クロムート本体が皇帝の身体を乗っ取っていた事から、もしかしたらずっとあの姿のままでいるのは難しいのかもしれない。一時的に外に生身で出る事は可能であってもずっと生身だと健康状態に問題をきたすとか、そういうのがある場合、防護服でも着るかのように他人の身体を乗っ取ってるという可能性だってあるわけだ。

 ルーナが俺に何らかの、それも好意的な感情を抱いていたとして、であれば俺の身体はクロムートからすれば丁度いい器とみなされるのも理解したくはないがわかる。

 中身が別であっても外見がそうであれば、もしかしたら……と考えるのは前世でも似たような話があったくらいだ。想像できないわけじゃない。


 狙われてる側からすればたまったものじゃないが。


 ともあれ、長老にルーナとクロムートに関する一連の話をし終えた俺はうーむとか言って何やら考え込んでるのをあまり期待せずに眺めていた。

 かなり広範囲の精霊の声を聞ける長老でも何の情報もないというのなら、この辺りにはルーナもクロムートも来てはいないのだろう。


「……何というか、似ておるな?」

「似てる? 何にだ」

「探し人。お主が探しとる友人とその女、大体の特徴同じでは?」

「…………確かに、言われてみればそうだが」


 けれど、肌と髪と目の色が同じというだけだ。それだけなら別に同じであってもそこまで珍しい話でもない。

 エルフだって大半は金色の髪に青い目か緑色の目をしてるのが多い。俺は菫色という大半の色合いよりも少なめの色で生まれたけれど、これだって同じ色の目の奴がいないわけじゃない。髪の色が違うエルフだって勿論いるし、けれどもたった一人だけその色だ、なんてのはまずいない。


 探し人の大体の特徴が似ていたとしても、そんな事は特別気にするものではないように思える。というかそれだけで繋がりがあると考えるのも早計すぎやしないだろうか。


 俺が探してる友人とルーナが同じ種族である、という部分が確定したとして、じゃあこの二人がお互い知り合いであるという可能性は高いかというとそうでもない。

 仮に金髪碧眼のエルフを探している、という奴がこの世界にいたとしてだ。金髪碧眼のエルフがこの世界にどんだけいると思ってんだって話になるのと大体同じなんだよな。


 長老は俺の表情から大体何を言いたいか察したらしく、わかっているとでも言いたげに鷹揚に頷いてみせた。


「だが、繋がりがないとは限らんぞ。というかワシは恐らくその二人、繋がりがあると考えている」


 俺としては関係があるかもわからないと思うのだが、どうやら長老は俺の考えとは正反対だったようだ。


「あの、どうして……どうしてそのお二人に繋がりがある、と?」

 控えめにディエリヴァが問いかける。彼女もどうやら繋がりがあるとは思っていないようだった。


「まぁ、そうさな……あまり楽しい想像にはならんが、これはワシの考えで正しいというわけじゃない。そこ念頭において聞いてほしい」

 俺の話だけで根拠はない、と前置いた長老は、ゆっくりと語り始めた。

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