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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
二章 ある男女の話
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少しばかりの前途多難



 十日かかると思われていたが実際は八日程で組織のメンバーとフロリア共和国から選ばれた調査隊と合流した。引継ぎするにしても、俺ができる事はほとんどない。情報のやりとりはミリアが主流で行っているし、ハンスがそのサポートに回っている。

 その様子を見ていると中々に名コンビではないかと思う。


 何だかんだ二人で行動してたわけだから、それなりに息の合う状態になっていたのだろう。ま、状況が状況だったわけだし、ちゃんとお互いに合わせないと変な所で危険な事になりかねない可能性があったわけだから、本人たちからすれば笑いごとにもならない。


 合流できたので、俺は早速最短ルートでフロリア共和国へ行くべく国境がある方向へと出発した。

 既にミリアともハンスとも別れの挨拶は済ませている。

 ディアリヴァが俺の後を遅れないようにと足早についてきていた。


 事前に確認してみたが、ディエリヴァは魔法を使った事がほぼ無いらしい。

 そもそも皇帝が――というか実際は皇帝の身体を乗っ取っていたクロムートが、ではあるが精霊の管理をしているというのであれば、そりゃ使う事もないだろう。

 クロムートがどうやって精霊を管理しているのかというのはディエリヴァに聞いてもわからなかったが、ある意味切り札に近しいものだ。そう簡単に教える事もないだろう。


 生活苦にでも陥るのであればまだしも、帝国の、それも城にいたのであれば衣食住に常に困窮するという事もないだろうし、魔法を使うという必要性はほぼないはずだ。

 それ以前に精霊を管理しているのであれば、ディエリヴァが魔法を使おうとしても上手く発動しなかった可能性もある。ルフトはそれでも魔法を使ったらしいが。


 魔法についてはこれから少しずつ挑戦してみるのも有りだとは思うが、ディエリヴァはずっと帝国にいて、ましてやここ三年程は眠りについていたのだから戦闘経験はまるでない。

 これも事前に確認しておいて良かった。

 もしうっかり魔物と遭遇してルフトと同じノリでディエリヴァに任せていたら、最悪彼女は死んでいたかもしれない。流石にそれはちょっと……


 戦闘経験もない挙句ロクに体を動かす機会もなかったディエリヴァの体力は正直言ってそこらの一般市民と大差ない。いや、下手したらそれ以下。

 俺は一応歩幅をディエリヴァに合わせていたが、それでもそう行かないうちに既にディエリヴァの体力は限界が近かったらしい。一生懸命俺についてこようとしているが、既に息が上がっている。

 それでも弱音一つ言わないのはガッツあるなと思うんだけど、いや、無理すんな?


 休憩するか? と声をかけたがディエリヴァはまだ出発してそれほど経っていないので! と断ってきた。

 無理すんな。

 このまま進めば途中で限界が来てそこで倒れるパターンまっしぐらだ。

 下手すれば前世の俺とそう大差ない体力具合かもしれない。


 そう言うととても前世の俺が貧弱な感じがするが、事故に巻き込まれてなきゃ多分もうちょい人並みの体力はあった。

 前世の俺、身長もあったし事故に遭ったりしたものの家の中での筋トレに励んだりしたから体格だけはそれなりによく見えたんだよな……というかそれ以外の事故に巻き込まれかけた時の怪我とかで、何か歴戦の戦士みたいな感じになってたもんな。実際は全部巻き込まれた怪我なのに。戦場帰りですって言ったら多分信用された。

 実際は怪我のせいで派手なアクションかませるような状態でもなかったから、見掛け倒しだったんだけどな。


 ディエリヴァは見た目可憐なお嬢さんなので体力がなくても別に文句が出ない感じがとてもいいなと思う。俺の前世で体力ないとか事情を知らない奴からはネタにされてたもんな。

 ディエリヴァを可憐と言うとほぼ同じ顔してる俺もルフトも可憐枠に入ってしまうのでそれはそれで何とも言えない気持ちになるのだが。


 流石にこれ以上はディエリヴァも限界だろうなと思ったあたりで休憩をいれた。



「ごめんなさい」

「それは何に対しての謝罪だ」


 丁度宿場町に到着したので遠慮なく建物の中に入り、場所を借りる。

 野宿だと焚火とか必須だけど今のところ魔物もまだこの辺りに近づいていないようだし、それなら建物を借りた方がマシだろう。

 ちょっと大きめの宿屋の中は案の定誰もいない。事情を知ってるから平然と利用できるけど、そうじゃなかったら唐突なゴーストタウンにビビり散らかしていたに違いない。

 考えてもみてほしい。旅の途中で通りがかった宿場町で休んでいこうと思って足を運んでみれば、誰もいない。これだけなら魔物か何かが原因でここを捨てて別の場所にいったんだろうか、とか思えるけど逃げたにしては荷物が残りすぎている。じゃあ襲われた? と思っても襲われたような痕跡もない。


 事情を知らなければついさっきまで誰かいたように思えるのに、忽然と人だけが消えてしまったとかそれ何てホラー?

 前世でも何か船でそんなのなかったっけ? まぁ帝国から人間が全て消えたのは既に数日前なので、前世の船のように食事はまだ湯気をたてて誰かが食べている途中のようなものだとか、そういうのはなかったんだが。

 というか保管されずに皿の上に乗っていた食べ物とか虫がいたので速やかに魔法で消した。

 やっぱり増えてるじゃないか! 正直他の帝国の町とか村に立ち寄りたくないな……これ絶対虫が繁殖パラダイス築いちゃってるやつだろ。


 俺も虫は好きか嫌いかで言えばどちらかといえば嫌いなんだが、悲鳴を上げるほどではない。とはいえ、流石にこういう人が生活している空間に大量に、という展開はとてもイヤだ。

 大自然あふれる場所で沢山いるのはまだわかる。でも自宅とかでこんな大量に繁殖されてみろ。地獄だぞ。


「私、お父さんの足引っ張ってますよね」


 俺が虫に対してちょっと意識を飛ばしている間に、うつむきつつもディエリヴァがこたえる。

 いきなり謝られたから何かあったか? と思って聞き返してみたものの、返ってきた答えは正直なんだそんな事かと思えるものだった。


「想定の範囲内だ。問題ない」

「でも」

「それを理解した上でこちらも共に行動する事に決めた。何も問題ない」


 断ろうと思えばミリア達がいた時に、ディエリヴァが俺と一緒に行動したいと言った時にあれこれ言って諦めさせる事も可能と言えば可能だった。

 とはいえそうなると向こうにいくらかの負担がかかるだろうと思ったというのもあるが。


「移動に関してはこれから考えるしどうにかする。気にしなくていい」

「でも」

「気にするくらいならこれから少しずつでも体力つけろ」

「はい……」


 当然と言えば当然だが部屋は別々だ。

 一応掃除はされていたようだが、この数日で虫が増えたせいもあって一度魔法で全体的に綺麗にして、それから各々部屋で休む事にする。


 さて、ディエリヴァには気にするなと言ったが、実際このペースで移動するとなると国境まで予想していた二倍くらい時間がかかりそうだ。

 ……今までほぼ一人で行動していたし、それ以外で一緒に行動した相手はハンスだとか、放置していても勝手についてくるタイプだ。ミリアは……体力的に劣っていたとしても鳥精霊がいるからな……移動に関しては鳥精霊に任せればどうとでもなる。

 けれどディエリヴァは今の所魔法を使えるわけでもないし、体力もほとんど無い状態だ。


 ゲームで言うなら自分と同じくらいのレベルだった仲間と別れて新たにレベル1の仲間と行動始めたみたいな感覚。ゲームだったらとりあえず適当なところで一戦すれば戦闘不能にでもならない限りはレベルが上がるだろうけれど、現実はそう単純なものじゃない。


 体力をつけてもらうのは勿論、とはいえ彼女のペースに合わせたままだと中々目的地へ行く事もままならない。


「……ま、仕方ないか」

 国境抜けてフロリア共和国側へ行くまでの間は最悪俺が抱えて走ればいいか。

 ディエリヴァが嫌がる可能性もあるから念の為魔法で荷車とか作っておくべきだろうか……舗装されてない道を行くとなるとそれはそれで揺れが気になるところではあるが。

 というか下手したらまるで人攫いに間違えられそうな気がするんだよな。帝国内は人がいないからともかく、フロリア共和国側でそんな事したら確実に問題だ。

 いやでも時間短縮のために帝国内だけならこの方法有りでは……?


 割といい方法なのでは、とか思ったけど冷静に考えると台車無しで直接抱えた方が軽いのでは、と思ったので結局台車を魔法で作るのはやめた。


 後になって考えると無駄だったな、なんてのはよくある話だ。

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