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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
二章 ある男女の話
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親子ぶらり旅が決定した



 ディエリヴァから得た情報は、正直ものすごく助かった、というほどのものでもない。

 けれども何も知らない状態からほんの一歩分とはいえ踏み出したようなものだ。

 少なくとも俺の事を何か知らんが狙ってる奴の名が判明しただけでも大分、マシだと思う。


 名前も知らない奴に知らず狙われてるとかよりは、一応誰が狙ってるって明確にわかる方がまだ何か対処できそうな気がしてくる。

 前世でもほら、ストーカーがいたとして、名前も知らん奴よりはどこの誰が、って身元わかってる方が訴えやすいとかね、あるからね。警察に駆け込んでマトモに解決するとは限らんけど。

 幼馴染は直接拳で決着ケリをつけてた。武器使わないだけ慈悲たっぷりとか言ってたけど、それもどうかと思う。幼馴染の武器ラインナップはバールのようなものか鉄バット。釘バットとかもあったけど概ね殺意が高すぎる。

 苦言を呈した事もあったが、アイスピックとかじゃないだけ優しいでしょ? とマジで曇りなきまなこで言ってのけてたもんな……


 と、まぁ、前世の幼馴染に思いを馳せてる場合じゃない。


 しかし……クロムート。クロムート、ねぇ……?


 こっちの世界に転生してこの方その名前を聞いた覚えは一度もない。

 過去に実はどっかで遭遇してて恨み買ってる可能性も考えたけど、これっぽっちも心当たりがない。

 ルーナの知り合いだっていうし、俺の事が知られたのは恐らくそのルーナからだろう。

 まぁ、胎の中に子がいて、父親は誰だと聞かれてルーナが答えるのを躊躇うとかでもなければ答えただろうし、その時に知られた可能性はある。


 そう考えると俺にとっては元凶ってルーナなのでは?


「そうだディエリヴァ。ルーナの種族はわかるか?」

「母様の……? いえ、異種族だとは言ってましたが、直接お聞きした事はありませんね」

「そうか」

「お役に立てなくてごめんなさい」

「構わない」


 そもそも聞く機会もなければ知らないままであるのは当然の話だ。

 こっちじゃどうだか知らないけど、前世でだって子供が母親の名前を知ったのはかなり遅くなってから、なんて話もあったしな。

 子供は母の事を大体ママって呼ぶだろうし、幼稚園や保育園だとお母さんたちは子供の名前にプラスしてママ呼びだったりもするし、小学校にあがってからにしても、親の名前を知る機会というのはそこまでなかったような気がする。

 自分の名前を持ち物に書いたりするのは親がやったり自分でやったりと家庭ごとに違う事はあれど、親の名前も必要になるような書類とかは子供からすればノータッチ、なんてのが多いしな。


 前世、幼馴染じゃないけど小学校から中学校までの九年間ずっと同じクラスだった奴がいたけど、そいつは自分の母親の名前知ったの中学入る時だって言ってた。

 流石にそれは遅すぎやしないだろうかと思ったものだが。


 こっちの世界だと名前は知る機会はそれこそ早くからあるかもしれないが、種族に関してはわざわざ口に出すような事でもない限り知る事もないのかもしれない。

 ましてや帝国は人間至上主義の国だった。そこで母親の種族に関して聞くような真似は親がさせないだろう。親が異種族であると知られてしまえば、その子も当然その扱いになる。

 皇帝の身体を乗っ取ってるクロムートがルーナやルフト、ディエリヴァをそういった目に遭わせる事はなさそうだとは思うが、それでも上の命令を無視したりする奴が出ないとも限らない。


 種族に関しては意識しないようにされていたのではないだろうか。


 とはいえ、クロムートはルーナにのみ執着しているような節があるし、ルフトやディエリヴァに関しての扱いはルーナよりも圧倒的に軽いだろう。

 けれども扱いを雑にしなかったのは、ルーナの子であったからではないだろうか。


 ほら、母親がいない時に子供虐待する再婚相手みたいな……バレたら母親がマトモだったら間違いなく捨てられるの男の方っていう……クロムートは虐待してないかもしれんけど。

 ルーナがルフトやディエリヴァが七つの時にいなくなった理由がわからないが、その後も一応面倒は見ていたようだし、二人に対する愛情がなかったとしても少なくともルーナが戻ってきた時に心証が悪くなる事はないだろう。

 というか世間一般から見ればルーナの方が子供置いて出ていったようなものだしな……


「ミリア」

「うい、何ルーカス」

「この件が落ち着いたら僕はしばらく自由行動をとらせてもらう」

「前にも言ってたけど、やっぱり?」

「あぁ、というかそうした方がお互いのためかもしれない」

 俺がそう言うと、ミリアは何度か視線を彷徨わせる。

「お互い?」


「クロムートが僕を狙ってるのは確定している。であればしばらく僕は単独行動に回った方がいいだろう。下手にそっちと行動を共にすれば無関係の奴まで巻き込まれかねない」


 そう言えばその可能性をミリアもすぐに思い浮かべたのだろう。

 ミリアは直接目にこそしてないが、城の中で何があったのかを知っている。

 クロムートがあの人間も異種族もごっちゃにしてしまった柱のようなものをまた作るような事ができたとして。

 恐らく狙われるのは俺の周囲の人物の可能性が高い。

 勿論全然関係のない誰かが狙われる事もあるけれど、俺に対する嫌がらせを兼ねて組織の連中を狙うという可能性はかなり高い。

 行動を共にしている相手だと特に。


「……言い分としては理解できる。納得はあまりできないけど。

 でも、ルーカス自分の目的ある。別行動仕方ない、のもわかる」

「妥協点としては連絡はそれなりにいれる」

「……信用できないけど、まぁ仕方ない。連絡こなかったらたくさんたくさん請求するから」

「それは勘弁してほしいな」


 過去、ミリアからの手紙の返事を放置しまくった時の事を思い出す。

 あの時の自分は特にそこまで何を思うでもなかった気がするが、それでも最終的に圧に負けた気がするんだ。

 今の俺なら多分もっと早く圧力に屈する。


「そういうわけだからハンス。お前とはしばらく別行動だ」

「ぅええそりゃないよ旦那ぁ!」

「そう言われてもな。これから行く予定の場所にお前を連れていくわけにもいかない」

「え、既に行く場所決めてるの? ビックリするくらい計画的?」

「別行動ではあるが、お前はお前で俺の探し人っぽい奴を探してくれると助かる」

「ねぇそれ滅茶苦茶難易度高いやつじゃない? 旦那の探してる人、大まかな特徴しか聞いてないし名前も知らないんだけど!?」

「僕の友人じゃなくてもルーナの方を探してくれても構わない。クロムートの反応からして生きてはいるだろうしな」

「クロムートを探せ、とは言わないんですね」

「下手に近づいたら危険だからな。そっちは無理に深追いするような事はしなくていい」


 口では不満を述べているものの、ハンスは既に俺と別行動して人探しするためにまずどう動くかを考えているようだ。


「えーとミリアさん。旦那の動向こっちも知りたいんで連絡来たらこっちに教えてもらっても?」

「何ならハンス、しばらくミリアの手伝いしてほしい」

「えっ、それオレみたいな下っ端がやっていいお仕事!?」

「ルーカスの仲間みたいなものだしだいじょぶだいじょぶ」

「いやそこは仲間って断言してちょうだい!?」


 ミリアとしてはちょっとからかっただけのつもりらしく、ケラケラと笑っている。ハンス自身もすぐにミリアなりの冗談だったとわかったようで、ちょっと諦めたように肩をすくめた。


 ハンスがミリアの近くで手伝いに回るというのであれば、そう大きな危険もないだろう。

 はぐれて二人で行動していた期間がそこそこあったようだし、その時にミリアもハンスの有用性に気付いたのかもしれない。

 何だかんだ仕事のできる奴だからな、ハンス。


「あ、あの……」


 そうして割と話が纏まりかけていた中で、おずおずと片手を上げたのはディエリヴァだった。


「あの、私……」


 まるで行き場のない迷子みたいに不安そうな表情でディエリヴァは俺たちを見回した。


 ……そうだな。流石に彼女を放置するわけにもいかない。

 とはいうもののディエリヴァは組織に属するわけでもない。入るか、と聞けば入るかもしれないが、入ったとして後方支援とかそういう形になるかもしれない。流石にルフトみたいに魔物退治専門、というには無理があるような気がするし。ルフトも顔に似合わず実力はあったけれど、ディエリヴァの実力はわからない。戦えたとしてもあまり強そうには思えないし、ルフトよりは実力的に劣るのではないかと思えた。

 そもそも魔法でとはいえ三年眠っていたわけで。いきなりそんな動けるとも思えない。


 仮に組織に入って後方支援で事務みたいな仕事を任せたとして、だ。

 クロムートが現時点で俺への嫌がらせに狙うとしたらディエリヴァはかなりの確率で狙われる可能性が高いんだよな……組織の中も絶対的に安全とは言えないし、周囲に誰もいない時を狙われた場合はどうにもできない気がする。

 であれば一人にせずに誰かと組ませるべきだ。

 とはいえ一緒に行動させる相手は選ばないといけないだろう。何かあった時になすすべなく、なんて事になったら――

「お父様と一緒にいてはいけませんか?」


 俺の考えを遮るように、ディエリヴァが控えめにそんな事を言いだした。


「それが妥当かも」

「うーん、まぁ、どこの誰とも知らない相手に預けるよりは……旦那の傍の方が安全な気も……?」


 しかもミリアもハンスも難色を示さない。

 むしろ俺が適任だろみたいな反応だった。いやあの、結構危険な状況になる可能性高いんですけど?


「旦那、ルフトくんもそうだったけど、ディエリヴァちゃんだって今までずっと一人だったわけでしょ? 旦那に自覚がなくても親なんだし、一緒にいてあげた方がいいんじゃないの?」


 ルフトの生い立ちについて聞いていたハンスは、割と早い段階でルフトの味方に回る感じだった。なら、それとほぼ同じ生い立ちのディエリヴァにそうならないはずもない。しかもルフトは帝国を出て三年、組織の中にいたけれどディエリヴァは魔法で眠っていたようだし寝ていたからといって孤独であった事に変わりはない。


 確かに身寄りもない娘を放り出すような真似はできない。

 しかも俺に自覚は無いが一応は俺の娘でもある。一応っていうか実際事実なんだけども。ルフトはともかくディエリヴァの存在を知ったの今日だからな……今日初めて会った相手が実は血の繋がった娘だとか言われてもすぐさま父親の自覚が出るかと言われると正直もうちょっと時間が欲しい。


 おぎゃあと生まれた時から一緒にいたならまだしも、既に成長してるからな、実感とか遥か彼方すぎる。


「駄目、ですか……?」

 縋るような目を向けてくるディエリヴァ。何かあってもルーカスが一緒ならどうにかなるなる、と言わんばかりのミリア。ハンスに至っては言うまでもない。


 ここで、断る、という選択肢を選べるような度胸は今の俺にはなかった。


「生憎僕は根無し草も同然だぞ。野宿だってしょっちゅうだしマトモな生活とは言い難い日だってそれなりにある。それでも?」


 確かに一緒に行動した方がいいのかもしれない。とはいえ、それでも内心でどこか安全な場所で保護された方がいいのでは、という思いもあった。ルフトはともかく、城の中で生活してきたであろうディエリヴァには野宿だとかろくに舗装もされてない道を延々歩き続けるとか、場合によっては魔物の襲撃だとか、無理なのではないだろうか。

 そう思ったからこそあえてそう言ってみたのだが、ディエリヴァは果たして理解しているのかいないのか、ぱっと表情を輝かせて、

「はい、足手まといにならないように頑張ります!」

 なんて言うのだ。


 これでやっぱ置いてく、とか言ったらミリアとハンスにふるぼっこだよな俺。


 かくして、いつまでになるかはわからないがディエリヴァと行動を共にする事が決定されたのだった。

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