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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
二章 ある男女の話
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判明したもの



 その後はとりあえずハンスがうるさかった。

 いきなり魔法で現れた俺に関しては過去何度かやらかした事もあるのでそれだけなら別に驚く程のものでもない。けれども俺だけじゃなく、そこには見知った顔の見知らぬ人物もいたのだから、そりゃハンスが騒ぐのもまぁ、仕方ない……か? と思わなくもない。けど驚くにしても本人の目の前でわーわー言うのはどうかと思う。


 ちょっとうるさかったから頭にチョップ落としてからミリアがいる建物へと向かう。


 ミリアもまたディエリヴァを見て驚いていた。

「ルフト、女の子だった?」

「こいつはディエリヴァだ」


 危うくルフトが実は女で今まで男装してた説で納得されそうになったので、即座に訂正をかける。この誤解、ディエリヴァはさておきもしルフトが知れば色々と問題しかなさそうだからな。

 俺が平然と女装する事もあるからってルフトまでそうだと思われるのは本人からすればとても問題しかないだろう。


 とりあえず俺が帝都近くの森の中の小屋でディエリヴァを見つけた事を話すと、ミリアもハンスもお互いに顔を見合わせた。

「え、あの、小屋に……? 今までずっと?」

「いえ、気付いたらあの場所で」

「どういう事? 帝国、今はもう誰もいない。いるのルーカスやミリア、ハンス、それだけ。あとはもしかしたらちょっとの精霊と、そこそこの魔物。動物も探せばいるかもしれないけど、人はいないいないなんだよ」


 帝国どころか帝国の外にいる帝国に関わった人間も既にいないらしいが、そこまで言う必要はないだろう。

 けれども俺が思ったようにミリアもハンスもその疑問には当然のように辿り着いたわけだ。


 帝国絡みであるならば、下手をすれば死んでいるわけだし。


「すみません、しばらくの間眠っていたから。目覚める前は帝都にいたはずなんですけれど……」

 ディエリヴァもまた困ったように首を僅かに傾げていた。


「ねぇ、もっと詳しく聞かせてくれる? 貴方がどうしてここにいるのか」

 ミリアのその言葉に、ディエリヴァはまだどういう事情でこうなってるのかわかっていないのか、やや戸惑ったように頷いた。



「覚えてるのはルフトが帝都を出る直前です。その後は私、ずっと眠っていたから」

「三年も!?」


 思わず叫んだハンスにディエリヴァは三年、と小さく呟く。そんなに経っていたのかという驚きのようなものがそこにはあった。


「目が覚めたら帝都じゃなさそうな場所にいて、どうしてこうなったのかわからないんです」

「誰かが運んだ? わざわざ?」

「……そう、なのかと」


 まさか自分が夢遊病で寝ながらそこまで行きました、とかでなければ普通に考えてディエリヴァをそこまで運んだ誰かがいたと考えるべきだろう。

 その誰かがその後、黒い液体を吐いたか包まれたかで消滅してしまった可能性も高い。


 どうしてあの小屋にいたのか、とかそういう部分で情報を得るというのはまず難しそうというか無理だなと早々に理解する。

 とはいえ、それでじゃあもういいですとはなるはずもない。


「ルフトが帝都を出る前までは起きていたんだな? できればそっちの話も聞きたい」

「お父様が知りたがるような話はあまりないと思うのですが……いえ、ご所望であれば」


 お父様……ハンスが信じられないものを見るような目を向けつつその言葉を呟く。

 うん、俺も正直最初に言われた時にちょっとどころじゃなく戸惑った。

 初対面でいきなり父親と認識されるのも戸惑うけど、すんなりそう呼んでいいのか? と思う部分もある。


 そうしてディエリヴァが語った話は、概ねルフトの話と同じようなものだった。

 母親が帝都に身を寄せた後、しばらく滞在していた事。七つの時にどこかへ行ってしまった事。

 それから五年程は帝都で勉学に励んでいた事。


 違ったのはルフトが帝都を出る事に決めたところからだ。

 ルフトは帝都を脱出して帝国からフロリア共和国へ行くべくアジール大森林を通ってきたわけだが、ディエリヴァは帝都にいたままだ。そうしてそれから今日に至るまでの間、ずっと眠ったままだったのだと言う。


「その、三年も寝ようと思って寝てたわけじゃないだろ? 何か、やまいとかが?」

「いいえ、私が眠っている間に全部片づけてくるとルフトが」

「魔法か?」

「はい」


 前世で何か呪いで百年くらい眠りに落ちた姫の話があったな、とか思い返すも、ディエリヴァはつまりそれに近い状態になっていた、という事か。

 とはいえその魔法、どう考えても使ったのルフトなんだよな。

 あいつ魔法が使えないって言ってたけど、もしかしてディエリヴァを眠らせる魔法に力使い過ぎてロクに魔法が使えない状態になってたとかなのか?

 それならまぁ、剣に魔力だけとかそういうのもわからないでもない。

 けれども帝国へ来る前、ルフトの周囲にいた精霊は様子見で力を貸していないのだと言っていた。


 ……下手に魔法を使える状態にすると、本人のキャパ越えて無茶な使い方するから意図的に力を貸さないでいた、というのも考えられない事もない。

 ルフトに関してはホント本人がこの場にいないのが悔やまれる。


「既に存在していないわけだが、帝国に関して聞かせてもらえるか?」

 帝国自体は既に滅んだ。復興の可能性も何もない状態で。

 先代皇帝アルデオの子はバンボラだけであったし、そのバンボラも即位こそすれ妻を娶る以前の話だ。

 もしかしたら誰かほかの国から嫁いでくる可能性はあったが、それより前にあいつが身体を乗っ取ったりしていたら、きっと上手い事言ってその縁談をなかった事にしていた可能性もある。

 その他の血族は、と考えるも帝国の人間が貴族どころか平民まで死んでるあたり、ライゼ帝国に関する生存者はいないのではないだろうか。


 もっとずっと昔に国を追われて出ていった没落貴族あたりはかろうじて生きてる可能性もあるかもしれないけれど。


 その中でたった一人だけ無事に生存しているディエリヴァは、今では帝国の内情を知っている唯一の人物と言ってもいい。


「そう、言われても私もあまり詳しくはないのです。

 私が七つの時までは母様もいて下さいました。けれどもその後は……」


 ディエリヴァの態度から嘘を言っている様子はない。

 こちらが尋ねた事を素直に答えるつもりはあるけれど、実際ほとんどの情報を知らないために困り切っているように見える。

 三年、眠りに落ちていたという話だし、ルフトよりもディエリヴァが知る情報は少ないとみていいだろう。


「僕が知りたいのは大まかに分けて三つ。

 一つ、ルーナに関して。

 二つ、ルフトについて。

 三つ、ルーナが帝国に身を置く事になったという知り合い。

 わかる範囲で教えて欲しい」


 話す、と言っていたにも関わらず話したとは到底言えないような状況でディエリヴァが困り果てていた中、俺の言葉にぱぁっと表情を輝かせた。


「それならお話できます」


 そう言って話し始めたディエリヴァから得た情報は、ルフトから聞いたのとそこまで大差ないものではあった。


 ルーナに関してはルフトから聞いた話とそこまで変わらない。


「その、こう言うとなんだがその女と僕とは過去一度しか出会ってないはずなんだが。その父親に関する思い出は一体どこから……?」

「? そうなんですか? そう言われても私にもちょっと……」


 まぁそうだろうなと思った。

 ルーナがその誰かとの思い出を俺に変換しているのは言うまでもないが、ルフトやディエリヴァが産まれる前にルーナはそいつとも関りを絶っている。ならルフトもディエリヴァも知らなくても仕方がないなと思う。見知らぬ誰かとの思い出を俺との思い出にスライドされて語られたとして、それに気付けという方が無理難題すぎる。


 ルフトに関してディエリヴァが語った事もそう多くはない。恐らくは俺たちが知ってるルフトについての情報とそこまで変わらないのではないか、そう思える程度にしか話さなかった。

 俺が帝国で起こった一連の出来事を聞かせて、現在ルフトは生死不明状態であると告げる。正直言う必要ないんじゃないか……? と思ったけれど俺たちの口からルフトの名が出てる時点で、いつかは聞かれるだろう事もわかっている。

 ならば先に事情を説明した方がいいだろうと思いはした。今言っても後から言っても精神的にダメージ入りそうだけど、先延ばしにしたらした分だけ何故もっと早く言ってくれなかったのか、なんて事になりかねない。


「……ルフトは、無事だと思います」

 俺が話し終わるとディエリヴァは静かにそう言った。

 慰め、というわけでもなさそうだ。

「根拠はと聞かれると困りますが、でも、大丈夫です」

 そう言われてしまえばそれ以上こっちも何も言えない。


 大丈夫だと言うのであればそれを信じるしかないだろう。

 その希望がどれだけちっぽけなものであったとしても。


「それで、母様のお知り合いでしたね。

 皇帝陛下の方、ではありませんよね?」

「あぁ、そいつの身体を乗っ取っていた方だ」


 ディエリヴァの言い方からしてまるで皇帝本人にもルーナは面識があるような言い方をされたが、バンボラは既に死んでいる。そいつの情報を今更もらったとしても役に立つものでもない。


「私もあまり詳しいわけではありませんが、彼の名はクロムート。

 種族はわかりません……けれども本人は自らを人間だと言っていました。

 母様に対して好意を抱いているのはわかってました。

 けれども、私もルフトも彼の事は嫌いです」


 む、と眉間に皺をよせ、唇をむっとさせるディエリヴァの様子から嫌っているのは本心だろう。

 けれどもルーナ本人はそこまで嫌っていなかった、という事だろうか。それとも、ルーナも嫌っていたがやむに已まれぬ事情があって仕方なく、というものでもあったのかもしれない。


「あの人、私たちが生まれた時には既に皇帝の身体を使っていました。けれども時々、そう、本当に時々元の姿に戻るのです」

「元の姿に、というかそれ魔法でそう見せてるだけ、だよな?」


 そうでなければあの時バンボラの身体から出てきたような事になってしまうし、もしそうならバンボラの身体はもっとボロボロになっていたはずだ。


「恐らくは。そうして母に言い寄るのです。母は断っていましたけど。けれど、子を抱えた状態ではあまり強く出られなかった」

 確かに場合によっては人質みたいな扱いになりえるわけだし、安全を確保できる状況でもなければ下手な事はできないだろうな。


「……あぁ、ごめんなさい。そちらが知りたい事、もっとたくさんお話できれば良かったのですが、私これ以上は知らなくて……」

「いや、問題ない。ある程度の情報はあった」


 そう、少なくとも今まで名前がわからなくてあいつとかそいつ呼びだった奴の名前が判明したんだ。

 偽名の可能性もあるけれど、それでも呼び名があるのと無いのとでは大きな差がある。


 偽名ならそれもそれで良し、もし本当の名であるならもっと良し、だ。

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