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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
二章 ある男女の話
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個人的に衝撃的な事実



 小屋の中にいたのは少女だった。

 見た目はルフトに似ている。いや、ルフトに、というよりは俺に、というべきか。

 ルフトは目元を隠すように仮面をつけていたが、彼女はつけていなかった。最初から素顔が露わになっていたからこそその事実に気付くしかなかったわけだ。


 最初にルフトかと思ったのは顔立ちがそっくり同じだったことと目の色も同じであった事。けれど違うと気付いたのは、最初から顔を露わにしていたからというわけではない。

 彼女はシンプルなエプロンドレスを着ていた。全体的なラインが少女であると主張している。

 あまりまじまじと見るのは失礼すぎるが、胸の部分も膨らんでいたし肩のラインやスカートから伸びた足なども野郎じゃないだろこれ、といったもので。


 ルフトが女装している可能性も考えたけど、これは完全に女性。

 何だかんだ俺も女装する回数はそれなりにあったから、なんとなくわかる。そんなところで観察眼のレベル上がっててどうするんだっていう気持ちもあるけれど。


 一方少女の方も俺を見て驚いているようだった。

 驚きと、困惑。戸惑い。そういった感情がなるべく表に出ないようにとされてはいるが、それでも表情には滲んでいる。


「きみは……?」

「貴方は……?」


 疑問の声を上げるのは、お互いに同時だった。


「あ……」

「あっ」


 そうしてかぶったー! という感じの反応をしたのもこれまた同時だった。

 俺としてはうわやっちまったな、という気持ちであったが少女の方はどうしたものかと困ったように眉を下げ、両手は胸元のあたりでぎゅっと握りしめられていた。

 そうして何度かこちらへ視線を向けて、口を少しだけ開いて、閉じて。

 それは何かを言うタイミングを計っているようだった。


 そうだな。二度もかぶったし、そうなると三度目を警戒するよな。


「ルーカス・シュトラールだ。事情があって帝国にいる」

 とはいえそのタイミングを計っている状態を見れば今すぐ言葉を口にしないだろうというのもわかるので、俺が空気を読まずに発言すればいいだけの話だった。こっちまでタイミングを窺っていたら三度目もかぶる可能性はあったわけだが、こんなところでラブコメとかにありがちな男女で何かを言おうとして発言のタイミングがかぶってやきもきする気まずい空気体験をするつもりもない。


 そもそもそういうのは片思い、もしくは両片思い、両想いの相手がやるからこそであって、ここで自分の顔と似た相手とやってもな、という気持ちもある。

 正直ラブコメだと若干甘酸っぱさもあるわけだが、現実としてはとてもしょっぱい。

 相手が見知った顔の見知らぬ人物でなければもしかしたらラブコメ時空のような流れになったかもしれない。


 簡潔な名乗りに少女はあ、と小さく声を出し、少ししてから胸元のあたりで握りしめていた拳をといてスカートの裾をそっと摘まむ。

 そこからの一連の動作はそれなりに礼儀作法を叩き込まれた令嬢のようでもあった。


 カーテシーっていうやつだっけ、俺転生してから知ったんだよなこれ。いやスカートの裾摘まんで片足ちょっと下げて膝少し曲げて頭下げるっていうアクションは前世でも知ってたけど、その動作に名前があるってのを知ったのは転生してからです。


「ディ……ディエリヴァと申します」


 何というか、顔はとても似ているというかもう同一人物と言ってもいいくらい同じようなのに、これだけで明らかにルフトとは別人だとわかる。

 まぁルフトとは初対面が初対面だったもんな。初っ端から喧嘩腰だったし……まぁルフトの事情を考えればああいう態度になったのも仕方ないかな? と思わなくもないんだが。


「念の為聞くが」

「は、はい」

「ルフト、もしくはルーナ。その名に聞き覚え、または心当たりは?」


 これだけルフトとそっくりなわけだし、無関係の可能性は低いと思う。


「ルーナ、は私の母です」


 その言葉に思わず俺が固まったのは無理もない話だろう。


 え、生まれた子ってルフトだけじゃなかったん……? 双子か?

「じゃあルフトは……」

 俺のその言葉にディエリヴァはこくんと小さく頷いた。


 いや、いやいやいや、ルフト!? あいつホントに重要な情報こっちに落としていかなかったんだな。いや仕方ない事なんだろうけど、それでも随所にヒント散りばめるくらいしてもよくないか!?

 まぁ俺が言えた義理じゃないのかもしれんけども。


「ルーカス、その名前は聞き覚えがあります。

 …………お父様?」


 どこか躊躇うように、おずおずとそう呼ばれた俺が途方に暮れそうになったのは言うまでもない。


 ルーナが母だっていうならそうなんだろうけどさー……俺の知らないうちに既に子持ちになってるとかしかも二人とかどういう事なんですかこれ……



 ――とりあえず、個人的にとても気まずくはあったのだがだからといって何も話さないままでいるわけにもいかない。

 ルフトがいないとはいえ、ではルーナに関してはディエリヴァから聞けるだろうと思ったわけだし、それ以外にも気になる事は聞けるだけ聞いてしまおうというのもあった。

 俺はここにいる事情を大まかに話して、今度はディエリヴァに問いかけた。どうしてここに? と。


 そもそも彼女はいつからここにいたのだろうか。

 ルフトは一人で帝国を出てきたはずだ。帝国を出てすぐさまフロリア共和国側へ行き、そこで反帝国組織へと身を置いた。この時点で彼女も一緒だったのであればそもそもミリアが知らないはずもない。


 帝国の人間全てが消滅したも同然な状況下で彼女だけが無事、というのも疑問が残るがこれはあいつがルーナの子であるルフトやディエリヴァには単純に他の国民に施した何かをしていなかった可能性と、あの黒い液体を仕込まれる前にルフトとは別ルートで帝国から脱出していた可能性の二つがある。

 そうしてたまたまこのタイミングで彼女も帝国へとやって来た……偶然にしては出来過ぎているが、絶対に無いとも言い切れない。

 どれだけ荒唐無稽な話であっても、事実は小説より奇なりなんて言葉もあるくらいだ。絶対に無いと言い切るならそれだけの根拠を示す必要がある。


 ……大体前世の幼馴染の家庭環境とかもある意味サスペンスか何かか? って感じだったからな。ないって言い切るならそれだけの根拠ってやつが必要になってくるんだよな……自分の周りではそんな話聞いた事ないってだけで有り得ないと断じるのは早計すぎるし考えが狭すぎる。


「どうして、と聞かれると困るのです。私も何故ここにいるのかわからなくて」

 頬に手を添えて困ったように眉を下げるディエリヴァの言葉を待つ。

「私、帝都にいたはずなのに……気付いたらここに」

「事情を聞かせてもらえるだろうか?」

「それは、はい。構いません」


 どうやらディエリヴァ本人も現状を把握していないらしいが、それをどこまで信じていいのかもわからない。


「すまないが、他に仲間がいるところまで一緒に来てもらえるか?」

「仲間、ですか? はい、大丈夫、です」

「ここで話を聞いてから、というのも考えたが、どのみち向こうで同じ話をする羽目になりそうだからな。だったら一度で済ませたい」


 正直身も蓋もない言葉だなと思うが、偽りない本当の気持ちでもあった。

 ここでディエリヴァに関して色々聞いたとする。で、流石に彼女をここに放置しておくわけにもいかないだろうから、やっぱり連れて行く事になる。そうなるとミリアやハンスに今までの事を話さないといけなくなる。


 どう考えても二度手間になるわけだ。だったら最初から一緒に来てもらってそっちで話をした方が手っ取り早い。

 とはいえディエリヴァに何らかの事情があって俺以外と接触したくないという可能性もあったので一応事前に問い合わせてみたけれど、どうやら俺の仲間に会う事も問題はなさそうだ。

 まぁここで断られるとそれはそれで何か色々疑う事になるから来てくれるのはありがたい。


 じゃあ早速戻るとするか。

 とはいえ来る時は魔法で空を駆けての移動だったわけだが……流石に彼女を抱えて来た時と同じ移動方法はどうだろうな。流石に問題あるか。


「ここに戻ってこれるかはわからないので、何か持って行く物があれば今のうちに用意をしておいてほしい」

「大丈夫です。ここに私の物はありませんから」

「そうか」


 まぁ最初にこの小屋に踏み入った時点で殺風景だしどっちかっていうと旅人が一時休憩するのに使う、みたいな雰囲気だったしで、流石に俺もここが彼女の住処だとは思っていない。とはいえ見た目で判断して実はここは彼女の住処でした、という展開も無きにしも非ずなので念の為言ってみただけだ。

 しかし思った通り別にここにディエリヴァの私物などは無いとの事なので、早速小屋から出る事にした。


「ここから少し離れてるから、徒歩で行くには時間がかかる。だからこそ魔法で移動するわけだが、その」

「はい」

「手を、いいだろうか?」


 すっと差し出した手。

 ルーナの娘だというディエリヴァはルフトの事を考えれば間違いなく俺の娘でもある。

 ルーナの容姿が俺に似ていたならともかく、彼女の見た目はディエリヴァとは似てすらいない。髪の色も、肌の色も違う。彼女と同じなのはルフトもそうだったが目の色だけだ。


 年齢的に思春期にだってなってるだろう娘さんにいきなり触れ合うような手段を出すのはどうかとも思ったが、これでも考えたんだ。抱えていくよりは余程マシでは、と。


 一瞬だけきょとんとした顔をしたディエリヴァだったが、言葉の意味を理解したのだろう。特に嫌がる様子もなく俺の手の上にそっと自らの手を乗せた。


「彼の者のもとへと我らを導け」


 あの町の名前を知っておくべきだったのだが、いかんせん滅んだ後だ。帝都からそこそこ近くにあった町、という程度の認識しかなかったので今回はハンスがいる場所を目印にする事にした。

 俺が魔法を使う際に協力してくれる精霊は、それなりに長い付き合いだ。ハンスの事も知っているのでそこに飛ばすのであればそう難しい事でもない。


 ほんの一瞬の浮遊感。次いで視界に一瞬だけ違和感があったが、それもすぐに何事もなかったかのようになる。

 その一瞬で、俺とディエリヴァは町の中を移動していたのだろうハンスの目の前に出現していた。


「……え、旦那?」

「わぁ、空間を移動しちゃう魔法なんですね」


 いきなり目の前に現れた俺たちに思わず足を止めて困惑した様子のハンスとは対称的にディエリヴァは物珍しそうに周囲を見回していた。

 さっきまで割と戸惑い気味、みたいな態度だったのに案外こいつも肝が据わってるな……って思ったところで見た目以外にルフトとの共通点を見た気がした。

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