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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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滅亡した国で



 帝国に関してはもうどうにもならないというかこれ以上どうにかしようがないというか、という事態になった。そもそも皇帝が既に死んでいるし、他の帝国に住んでた連中もほぼいない。

 ミリアの鳥で帝国内を探ってもらったが、まず生きてる誰かを探す方が難しいくらいに誰もいなかった。


 帝国に来る前はてっきりもっと人員も多数存在していると思っていたんだがなぁ。


 国としても完全に死んでる状態になってるとか誰が思うよ。


 城に再び侵入してそこから城がなくなるどころか帝都もろとも消滅してから既に数時間が経過している。

 少しだけ仮眠をとって起きてみれば、ミリアが難しい顔をして手紙を手にしていた。


「どうした?」

「どうもこうもない。向こうでも騒ぎになった」

「向こう?」

「フロリア共和国」


 帝国が領土を拡大しようとすれば真っ先にその餌食になるだろう国。俺たちが少し前までいた国。

 帝国がなくなった、という報せは果たしてどこまで広がっているのかわからないが、そこまで騒ぐ事だろうか? いや、いきなり国がなくなりました、なんて聞けば確かに大ニュースだけど騒ぐよりまずは確認のために人材を派遣すると思うんだよな。その人材を決めるのに揉めてるとかならわからなくもないんだが……と思っていたらミリアはそっと首を横に振った。


「これ見て。リーダーから」

 そう言って差し出してきた手紙を受け取って丁寧に折りたたまれた紙を開く。


「…………これは…………」


 俺としてもこれ以上何を言うべきかわからなかった。


 内容としては帝国関連。

 帝国から間者として忍び込んでたであろう帝国兵やら冒険者やらが黒い液体を吐いて消滅したとの事。


 皇帝の身体を使っていたあいつが魔法で帝国の住人を水増し……って言い方もどうかと思うが、ともかく見せかけていた事は確かだ。ミリアが消えた住人を見ているしそうでなくとも黒い液体という時点で関係が無いなんて事はないだろう。

 ミリアが見たのは液体に包まれたとの事だが、フロリア共和国にいた帝国関係者っぽい相手は黒い液体を吐いて、という微妙な違いこそあれど、結果は同じだ。


 フロリア共和国側にいた帝国関係者はあいつが魔法で作った架空の住人というわけでもなくちゃんと実在している人物だった。

 …………あいつの目的がよくわからない。

 いや、ルーナという人物に会うためというのはわからんでもないんだが、それ以外がだ。

 ライゼ帝国は人間至上主義を謳い、掲げていた。けれどもその皇帝の身体を乗っ取っていたあいつのやり方を見ると、人間種族に対する扱い最底辺が過ぎないか?


 帝国にいる人間に何かわけのわかんない種植え付けたり合成獣の素材にしたり、帝国兵は一体どう言いくるめていたのだろうか。精霊の加護、とかあったしそっち系統か?

 元から帝国側というわけでもなかったが手を貸した冒険者あたりにも何らかの対処をしているあたり、あいつが人間を憎んでいるとか言われても納得する勢い。


 ルーナとやらが一時的とはいえあいつの所にいて、その後ルフトを置いてけぼりにして出ていった理由もわかればもう少しわかりそうなんだが……情報が少なすぎる。

 皇帝の目的はまぁ、俺たちが知るところだろう。人間至上主義によるそのための統治。その統治を自国だけじゃなくて世界全土に広めていこうというやつ。

 けど皇帝の身体を乗っ取ってたあいつの目的はそうじゃない。人間至上主義を掲げるにしては人間の扱いがそこらの石ころより軽すぎる。


 わからない事だらけだな……まぁそのうちどっかで判明するだろ、と気軽に他人事のように思いたい部分もあるが、あいつの狙いに俺が含まれてるだろう事を考えると楽観的に放置もできない。

 帝国の目的の一つに異種族を捕えて奴隷にするとかあったし、実際捕らえられたであろう異種族は帝国で俺が見た限りあの柱に使われていた。それがあいつの目的の方であったなら、放置もできないだろう。

 他の国で異種族失踪事件とかあったら真っ先にこれを疑うレベル。


 友人を探す事と並行してあいつの居場所も探るしかなさそうだ。

 探すにしてもヒントも何もあったもんじゃないんだがな……

 多分そのうち向こうの準備が整ってこっちに襲い掛かって来る方が早いんじゃないかなぁという気もしている。



「帝国関係これもう完全に滅亡だろ。そういう意味では残党とか考えなくてよさそうだけど、手放しで喜べるものでもないな」

「それはそう。むしろあの黒い液体何って事で警戒されてる」

「……確かにそうだな。帝国と繋がりがあったやつだけ、で今は済んでるがそのうち全然関係ない奴もそうなる可能性があるかもしれないとか考えると呑気に放置とはいかないか」


 とはいえあの黒いのはあいつの何らかの魔法のもたらした結果、という気がしなくもないのだが。根拠は、とか言われるととても困るので下手に発言もできない。


「おかしな病気が広がってたんじゃないか、って話になりつつあるみたい。うーん、もしそうだとしたら、帝国に今もこうしているミリアさんたちも大変大変」

「病気じゃないのは言うまでもないだろ。知らない奴からすれば知らないからこそ色々言えるだろうけど」

「うん、そだね。でも、だから帝国に人を送ってあれこれ調べるっていうのちょっと難航してるっぽい」


 やっぱりか。

 何かさっき揉めてそうだなとか思ってたのがまさか本当にそうだとは。こんなところを当てても何にもうれしくないな。


「それで? 僕たちはこれからどうなる? 正直僕としては帝国に関してはもう終わった話として友人探しに戻りたい」

「ルーカスぶれないね……」

「そのついでにあいつの捜索もするつもりだが」

「あいつ?」

「皇帝乗っ取ってた奴。名前知らないからあいつとしか言いようがない」


 他の呼び方候補を出せとか言われるとルーナ狂とかか? 自分の名前はあいつの口から出てこなかったけどルーナの名前なら何度か出てたからな。

 ルフトの口から出た情報としてはルーナは知り合いの伝手でルフトを産む前に帝国に身を寄せる事になっていたようだが、その時点で既に皇帝は乗っ取られていたと考えるなら……ルーナの知り合いとは果たしてどちらの事だったんだろうか。

 皇帝の方が知り合いであったなら、ある日皇帝に皇帝じゃない何者かが乗り移っていた事を知ってどうにかする手段を探すべく出ていった説もあるだろうし、最初からあいつの方が知り合いであったならそれはそれでわかった上で皇帝の身体を乗っ取っていたのをスルーしていた可能性。闇しかないな?


 ルフトはあいつの事を知ってたようだが、それもいつ暴露されたかによる。

 最初からならそれはそれでどうなんだと思うし、もしルーナがいなくなった後、皇帝だと思っていたものが皇帝ではなかった事実と共に明かされたとかだとそれもそれで……となる。


 バンボラの言葉を思い返すにあいつはバンボラの父の仇でもあったようだし、いや、バンボラが即位したのいつだった?

 正直自分が関わってる国じゃない所の皇帝の即位年数とかいちいち調べたりしないし興味もないからな……そこら辺調べたら何かヒントとかないだろうか。可能性低そうだけど。


「? ルーカス、どうしたの?」

「しばらく帝国に滞在しろっていうならその間僕はしばらく帝都付近を調べておきたい」

「うん、それはいいけど。せめて他のメンバーがこっち来てくれるまではいてくれると助かるし」


 でも、帝都のあたりなんてもう何もないと思うよ?


 最後に言われた言葉に俺はだろうなと内心で頷いていた。


 それでも、ただ何もせず組織の他の連中がこっちに来るまでの間を待つのも暇でしかない。流石に仲間が到着する前にミリアだけ置いてここから別の場所へ行くのもな、とは思うのでそれまでの間の時間つぶしのようなものだ。



 俺たちが一時的に拠点として使っていた町から帝都までは少し離れているので、ちょっと出かけてくるという気軽な散歩のノリで行けば思った以上に時間がかかるわけだが、そこは魔法で短縮した。

 帝国の人間は全滅状態だが、魔物は普通に生きている。なので陸路を行くと割と遭遇しかねないので空を飛んで移動した。

 あまりアクロバティックな動きはしなかったがそれでも安全バーのないジェットコースターのようなスリルはあった。正直あまり使いたい手段ではない。

 普段はこんな移動方法使うと下手すると人目に触れて騒ぎになりかねないのだが、そもそも目撃者になるだろう人が誰もいない。陸路をちまちま進むより圧倒的に早く到着するので、そうなると使わないという選択がない。


 途中で魔法の制御間違うと地上に真っ逆さまなんだけどな。それ考えると結構怖いな!?

 とはいえ、俺が前世の記憶を思い出す以前から結構この手段使ってたみたいだし、今更とも言う。意識としてはちょっと怖いなと思うんだが、身体の方はすっかり慣れていてひょひょーい、みたいな効果音でも出そうなくらい軽やかに移動していた。


 そうして辿り着いた帝都は、まぁわかっていたが何もなかった。

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