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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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一つの国の終わる時



 まず最初に結論から言おう。


 帝都は崩壊した。


 城が壊れただけにとどまらず、帝都は全体的に崩壊した。


 ぽっかりと開いた大穴の中に何もかもが沈んでいった。

 城で開いていた穴は底が見えないくらい深くもしかしてこれ、世界の裏側にまで続いてるんじゃないだろうなと思えるものだったけれど、実際はそんな事もなく。

 普通の人間なら死んでるだろう距離ではあったが俺もハンスも無事ではあった。事前に発動させておいた魔法のおかげだ。


 けれどもルフトは。


 ルフトの姿はどこにもなかった。


 時間の許す限り探したかったが、鳥に乗ってミリアが早々に俺たちを回収してしまったので満足いくまで捜索したとは言えない。

 上空から一度くるりと旋回して帝都だったそれらを見渡して、ミリアは帝都からやや離れた位置にあった町へと鳥を移動させた。

 俺を牢屋から連れ出して連れてきたあの村じゃないのかと思ったが、そっちは安全じゃないかもしれないと言われてしまえば無理にそこに行くとも言えない。

 そもそもあの村別に何があるわけでもないしな。帝都に近いってだけで。



「まず、情報交換しよう。何があったか知るの、とっても大事大事」


 人っ子一人いない町の中、宿屋だった建物の中に入るとミリアがそう口火を切った。

 鳥に乗って移動してる途中で意識を取り戻したハンスも反対する必要性がないという事で頷いている。


 情報量的にもそう重くならないだろうミリアから話をしてもらう事にした。

 ミリアは基本的に帝国兵の目につかない場所にいてもらってあとは鳥から連絡もらってこっちを回収するべく待機、という状態だったので俺たちが城に再び侵入した後であってもそこまで一大スペクタクルな冒険譚とかないだろうし、と思っていたのだが、それでも多少の情報はあった。


 基本的には人目につかない場所で待機していたのは確かだ。

 けれども全く誰もいない場所で、というわけでもない。いざという時に鳥を出して俺たちを回収するのであればあまり離れすぎても問題があるわけだし。

 だからこそミリアは何気に帝都にてスタンバイしていたわけなのだが、そこで一部の住人が唐突に消えたそうだ。

 その住人達は恐らく皇帝が――いや、実際は皇帝の中にいたあいつの仕業なんだろうけど、魔法で作り出した架空の住人であったのだろう。帝国兵だって一部はそんな感じだったわけだし。


 次に、本来のちゃんとした人間の住人が死んだ。

 あまりにも突拍子のなさすぎる話ではあるが、彼らもまた溶けるようにして消えてしまったのだとか。黒い液体に包まれるようにして。


 ちなみにその黒い液体、こっちからしても若干覚えがあるわけで。

 念の為消えたのはいつごろかと確認してみれば、消えた直後に城が崩壊し始めたそうなので、鳥で俺たちを回収する本当に直前だという話だ。


 まぁ、皇帝のお膝元、と言ってしまえばそりゃ住人に何か仕込んでてもおかしくないかな……? と思う事もあるけど。それにしたって、帝国内のいくつかの町や村が既に滅んでる挙句、帝都もまさか……という気持ちもあった。

 帝国が人間至上主義を掲げているのは今に始まった話じゃない。他の国だって知っている事実だ。


 けれど、皇帝バンボラを操っていたあいつの目標はそれとは別だろうと理解するしかない。

 現にあいつはルーナについてしか言っていない。行動原理の全てがルーナに起因していると言ってもいいだろう。

 黒い柱として無理矢理固めて作られたようなアレを思い出す。

 精霊っぽい力が確かにあの柱にはあった。あいつも自称人間との事だが精霊のはずだ。

 それらを取り込んでいた、としてもそれはそれで異常だ。


 精霊はこの世界に満ちている魔力の塊が意思を持ったものとされている。精霊にも満たないただそこらを漂っている魔力を吸収する事はあっても、既に意思をもつ他の精霊を取り込んだりする事はないはずだ。

 それに関してはアリファーンたちが言っていたので、間違いないだろう。精霊本人がそう言っているのだから。


「ともあれ、どう考えてもこの国はもうおしまい。反帝国組織は本来の目的にのっとって動くだけ」

 城も皇帝も兵士もさらには住人たちまでもが壊滅したような状況下で、新たに帝国の皇帝を名乗ってこの国を建て直そうなんて考える奴がいるとも思えない。少なくとも帝国領内には。他の国からここを奪い取ろうとする者はいるかもしれないが、多分帝国だった場所はこれから先フロリア共和国に吸収されるだろう。


「ま、事後処理はあるから当分は大変かもしれないんだけどね」

「それでも帝国がこうもあっさりとなくなったんだ。楽な方だろ」


 本来の予定では、きっともっと長引いたはずだ。

 俺たちが何事もなく研究施設と呼べるものだけを破壊して帝国から時間を稼ぐような真似をしたとして、その後もまだまだフロリア共和国側と反帝国組織は帝国に注意を払わなければならないまま。全面的な戦争になるとしても、下手をすれば数年はここで足止めを食らう連中だっていたはずだ。


 研究施設どころか国崩壊させるまでにやらかした俺が言えた義理ではないが。


「ルーカスも当事者。事後処理手伝って。ね?」

「少しだけな」

「むー」


 全面的な協力じゃない事が不満だったのか、頬を膨らませるミリアだが勘弁してほしい。研究施設どころか国崩壊までしたんだぞ最小限の人数で。ある意味俺何人分の仕事したんだって話にならないか?

 いやまぁ、帝国を崩壊させたのは俺一人の力じゃないけれども。


 ミリアとしてはそれ以上話せるような情報もないらしく、次に話をしたのはハンスだ。

 とはいえこっちも語るべき部分はそう多くない。

 俺と別れた後地下牢へと向かい、そこでルフトを救出。そうして脱出する流れだったが、ルフトがルーカスの所へと言うので気乗りしないままにあの場に乗り込んだそうだ。


「それだけ?」


 あまりにもあっさりと終わった内容に、ミリアが小首を傾げて問いかけた。


「ん、まー、大まかにそうですね。途中でちょっとは話もしたけど、それだって大したものじゃありませんよ。

 とりあえずルフトくんについて少し旦那に話したって部分とか、あとは色々」


 その色々、の部分には恐らく俺がルフトについて知った事も含まれていたのだろう。

 父さん、と呼ばれた事を思い出す。

 正直全く父親らしいこと何一つしてないんだがな!? そもそも子供生まれてたっていう事実すら知らずに生きてきたもんな!?

 あの時、助けられなかった事を悔やむ。


 考えようによっては母親とは早々に引き離されて、次に会えた父親はコレだろ。

 その割にルフトって真っ直ぐに育ってないか? 俺ならもっと捻くれてる。

 母親の教育が良かったんだろうな。これで母親も俺に対する恨みつらみを口にしていたら多分ルフトは俺に対してもっと辛辣だったに違いない。

 ……とはいえ、俺そのルーナと思しき女とはたった一度会っただけのはずなんだが……

 そこら辺含めてルフトと話がしたかったんだがな……とりあえず今は無事でいてくれる事を祈るしかない。


 ミリアとハンスが話し終えて、残るは俺だがそもそも俺だってそう話すような内容があるわけでもない。

 皇帝だと思ってた奴との対峙。柱の部品のように集められた彼ら、彼女ら。自分じゃどうにもならないと判断したので呼んだ精霊アリファーン

 その後の事はハンスが乗り込んできたあたりと大差ない。


「いやあの旦那、かなりさらっと言ってますけどもっと話すべき部分ありますからね!?」


 話せる事は話したなと思って締めくくろうとしたらハンスからそんな声が上がった。

 話すべき部分? 大体話したし他に何かあったか?


 本気でわからず首を傾げていると、ハンスがテーブルに手を叩きつけた。

「うっそでしょ本気でわかってらっしゃらない!? 精霊! 精霊の話!!」


 ……あぁ、そういう。

 とはいえそこまで話すような事あっただろうかと思える。俺たちが穴に落ちた後、上でやってたドンパチに関してか?

 まぁ確かに確認の意を込めて聞く必要はあるかもしれん。


 そう判断したので俺は精霊の名を呼んだ。


「そういうわけだから、ちょっと説明してほしい。アリファーン」

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