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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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追い詰められた選択肢



 現実で見る事はあまりないが、前世のゲームでなら割とよく見た光景だなと完全に現実逃避した思考。

 そう、ゲームでだったらこういうの見た事あるなで済ませられる。


 まず何か黒いどろどろした液体。悪臭が漂ってくるとかではないが、明らかに粘度の高そうな液体が接着剤か何かの如く複数の人間を繋ぎとめている。黒い液体に埋もれるようになっている部分もあるため、顔だけが見える者、腕だけが見える者、顔以外の部分だけが見えている者、といった具合に必ずしも全体が見える状態ではないが複数名がその液体に絡めとられている。

 形状としては柱のようにも巨大な棺のようにも見える。黒い液体に埋もれている時点で柱よりかは棺桶に近い気がしなくもない。


 そしてそれらを更に繋ぐようにぐるぐると巻き付いている鎖。


 液体と鎖によって身動きを封じられるようにされている彼ら、彼女らは口々に助けを求め、はたまた殺してくれと懇願していた。

 懇願といっていいのかは微妙なところではあるが。


 見方を変えてみると柱状になっている黒い液体から人が飛び出ていると言えなくもない。そこから出るに出られない奴らが時折こちらに手を伸ばしてくる。それはまるで救いを求めるようにというよりは、道連れにでもしようと言わんばかりに。


 そんな属性を述べるなら明らかに闇属性とかついてそうな代物が、よりにもよって六柱。いや、柱って数え方でいいのかもわからんが。俺たちを取り囲むように出現したそれは、宙に浮いた鎖によって見えないどこかに繋ぎ留められているようだ。下の方は欠けて決して地面にマトモに立たないような状況だ。柔らかめの地面であれば突き刺さるかもしれないが、生憎ここではそうならないだろう。

 だからこそ本来ならば不安定すぎてすぐさま倒れてしまいそうなのに、見えない何かに繋がれているように伸びた鎖がその柱を倒れる事を防いでいる――ように見える。


 元々魔法があるような世界だ。いちいち道理だとか理屈を求める方がどうかしているのかもしれない。

 いや、魔法にもそれなりに規則性とかあるのかもしれないけどいかんせん精霊の匙加減みたいな部分あるから、いまいち断言しづらいんだよな。


 口々に漏れている言葉はそう変わりない。どの柱からも助けを求める声と殺してくれと頼む声、いっそお前もこっちにこいよとかいうお断り案件な言葉も聞こえてはいるが、耳を貸す必要性はなさそうだ。


「……合成獣キメラ、ではないな……」

「あのようなものと一緒にするな。先も言ったがこれは我が同胞よ」


 そういやこいつら呼び出す時にそんな事を言ってたな……同胞、えっ、ちょっと言葉の意味辞書とかで調べた方がいいのでは。

 流石にそんな事を言ったらどちらかの不興を買いそうなのであえて言葉にしなかったけど、正直戸惑いが隠し切れない。


 複数の人物をまるで部品のようにくっつけて一つの形にしているのはどの柱も同じだが、使われている相手は見える範囲でわかった事だが人間だけではなく異種族の姿もあった。とはいえ、俺に理解できたのは俺と同じく尖った耳を持つエルフが使われているなという事くらいだが、恐らくは他にもいるはずだ。腕とか足とかにもっとわかりやすい特徴のある種族がいればともかく、例えばドワーフの腕があったとしても全体的に見えるわけでもなく腕だけだった場合、その腕が本当にドワーフのものかもわからない。鍛えた人間の腕である可能性すらある。


「……強制的な仲良しこよしはどうかと思うが」


 同胞、と言っていた。

 まるでこいつらと皇帝が同じものであると言わんばかりであるが、正直そうは思えない。

 何だ、人間至上主義は実は表向きで実の所は種族関係なく手に手をとってとかそういうあれか? それにしたってこんな禍々しい手に手を取っていこうみたいなの冗談じゃないが。手に手をとる以前に鎖で縛られてるもんな。種族という垣根を越えて仲良く、というのは確かに難しい部分もあるけどこんな強制的に無理矢理やったところで亀裂が広がる一方では。

 さっきから聞こえてくる言葉がどれもこれもネガティブなものばっかりっていうのもそう思える一因だろう。


 まぁ仮に聞こえてくる言葉がポジティブなものであってもそれはそれで頭おかしい案件だと思うんだろうなとしか思えないけど。


 なんて思ってると、それぞれの柱の中央部分にぎゅうっと何かを凝縮したような音とともに光が集まる。なんていうかあれだ、エネルギー砲が発射される前のチャージタイムみたいな感じで……あ、これもしかしなくてもヤバい状況だな?

「護りを――」


 咄嗟に魔法で盾っていうかバリア張ったけど、正直一度防いだだけでボロボロになった。俺はまだ無傷だがバリアは駄目になってしまった。

 この手の攻撃はチャージタイムあるだろうと思ってたけど、一度目が放たれた後すぐさま光が集まり始める。あっこれ立て続けにくるやつか、と思ってどうにかもう一度防ごうとして――


 二度目は一斉掃射って感じじゃなかったから防げたが、時間差攻撃を仕掛けてきた事で逆にこっちがヤバくなった。一度でバリアが破壊されないとはいえ、こっちが次の手を打つ前に新たな一撃がやってくる。波状攻撃によって一度で破壊されずとも、二度目か三度目くらいの攻撃でバリアが崩壊する。一瞬の隙をついて攻撃に出ようにも、皇帝も魔法で攻撃してくるので防ぐ事しかできていなかった。


 これ最初に刺し違えてでも的覚悟で攻撃しないと駄目だったパターンか……?

 なんてどこか他人事のように考えつつ、柱からの攻撃、皇帝とか巻き込めないかと思って移動したものの皇帝もそれは想定していたのだろう。近づけば明らかにヤバいだろうなって感じの魔法をぶっ放してきた。そうなると咄嗟に距離を取るしかない。


 いやこれジリ貧では……?

 そう思いつつも隙をついてこっちも魔法で応戦する。


 防御防御防御攻撃防御防御回避防御攻撃、みたいな感じでほとんど守りに徹してる状態だったが、それでも時間がかかったとはいえ柱二つは破壊できた。破壊された柱は黒い液体がぼとぼとと床に広がって鎖も縛っていたものなど何もないとばかりに落下し、その際床に触れると同時に鎖は砕け散った。

 液体とともに落下した人だった彼ら、彼女らは――


 あぁ……あああああああああ゛あ゛あ゛あ゛……!!


 断末魔の叫びとともに黒い液体の中に溶けるように消えていく。


 どうにか二つとはいえ柱を破壊したために、ほぼ全方向から攻撃が飛んできたのが少しだけ和らぐ。

 この調子で他の柱もどうにかしないとな……皇帝に攻撃仕掛けようとすると柱がそれはもう凄まじい勢いで攻撃してくるものだから、まずは柱からどうにかしないと、ってなってるし。

 ゲームだったら守られてる状態の皇帝は柱をどうにかするまでは様子見とかしてそうなんだが、悲しい事に現実なので皇帝も普通に攻撃してくる。しかも防がずそのまま食らおうものなら多分一撃で致命傷になりそうな威力の魔法ぶちかましてくる。


 何、難易度ハードモードとかなの?

 確かに前世で人生はクソゲーって言葉もあったから難易度ハードモードでもおかしくないけど、こういう場面で適用してほしくなかった。

 そもそも俺の生い立ちが既にハードモードなんだからこれ以上のハードさは正直いらないんだがな……


「さぁどうする。このままではそう遠くないうちに死ぬぞ? わざわざ戻って来て死にに来たわけではあるまい?」


 余裕綽々、といった感じで皇帝が笑う。確かに柱は二つどうにかしたけれど、敵の数が減ったという感じは正直あまりしていない。動ける範囲が多少広がった気はするけれど、その分皇帝が魔法で攻撃を仕掛けてくる頻度が上がったので命の危険度合いは正直柱を減らす前よりも上がっている。


 これは柱を六つ、纏めて同時破壊しないといけないやつだったかもしかして……とゲームのボス戦攻略するノリで考えてみたけれど、同時破壊はそもそも現実的に難しい。

 俺の力だけでは各個撃破がやっとだ。しかしこのまま各個撃破を続けていってもジリ貧から脱する事は難しいと理解してしまった。


 この状況を脱するとすれば、この場から逃げ出すか柱を同時破壊して皇帝と一対一で戦って決着をつけるかのどちらかしか思い浮かばない。


 とはいえ、だ。

 ここから逃げるにしても果たして逃げ切れるかはわからない。

 仮に逃げたとして、その後が問題だ。


 俺は城に潜入しているし、何ならこうして皇帝と敵対している。世間一般でそれ何ていうか知ってる? 賊って呼ばれるやつだよなどう考えても。

 仮にこっちにどんな大義名分があったとしても、正当な手段じゃない方法を選んだ時点で城に勝手に忍び込んでそこで暴れた時点で、どんだけ言いつのったところで犯罪は犯罪なんだよな。

 法廷で上手い事弁護できれば情状酌量の余地がある、まで持ってけるかもしれないけど、一般家庭ならともかく相手が国のトップ。皇帝。


 法廷以前にその場で断罪されても文句いえないやつ。


 上手く逃げたとしても、俺が城に忍び込んで皇帝と戦ったという事実が消えるわけじゃない。

 俺の存在を何故か向こうは知っていたようだし、そうなれば俺が逃げたあと皇帝が狙うのは反帝国組織そのものになる可能性が高い。


 国境超えたわけじゃない方法で国に忍び込んで、挙句城に潜入。国の中枢、トップに攻撃を仕掛ける。

 端的に申し上げてテロリストとか言われても否定できんな……!


 皇帝もそんなネタをみすみす見逃すはずもない。ここぞとばかりに反帝国組織に手を貸している国ごと糾弾しかねない。そうなれば場合によっては手の平返すように俺が所属している組織と縁を切ろうとする国だって出てくるだろう。


 組織が俺だけを切り捨てる、という事をすれば被害は最小で済むが、恐らくそれはない。組織内で確かに好き勝手やりすぎた奴が追放されたことがないわけじゃないが、今回の場合は俺が勝手にやらかしたわけでもないからな……


 とりあえず考えなくてもこの場から逃げ出すのは後の事を考えると無し。

 となると柱同時撃破に賭けるしかない。


 しかし俺の力だけではそれも難しい。

 そういうわけで俺にとれる方法としては、他力本願になるが――


「アリファーン!」


 助っ人として呼ぶしかない。

 姿を見せずに力を貸してくれていたアリファーンが俺の呼び声に応えるように姿を見せる。


「嗚呼、嗚呼! この時を待っていた!!」


 しかしそれに対して歓喜の声を上げたのは、皇帝だった。直後、柱から伸びていた鎖が更に伸び、アリファーンを捕える。


「うわ、これは……あ、あぁぁあああぁぁぁッ!?」


 じゃらじゃらと音を立てて巻き付いた鎖にイヤそうな顔をしていたのはほんの一瞬で、アリファーンが悲鳴を上げた。鎖に纏わりつくように黒い液体が流れていく。しかもパチパチと弾けるような音をたてて。その液体がアリファーンに触れる事でより激痛が走るのか、アリファーンの悲鳴がより強くなっていく。



 ……これは、もしかしなくても、だ。


 やっちまったな……

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