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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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囚われの――



 ハンスはルフトの顔を見た事があるのだという。

 いつの話だそれ、とツッコめば、ロジー集落でと返ってきた。


 ……そういやルフトが寝込んだ時があったな。あいつを一人置いて俺たちは他の事をしていて、先に戻っていたハンスが怪我をしたっぽい感じだったのは何となく言われれば思い出せる。

 どうしたのかと聞いてもあの時のハンスはちょっと、と言葉を濁しただけだったが、あの時か。


 たまたまルフトが仮面を外した時にタイミング悪くハンスが戻ってきてしまい、目撃したのだとか。


 ルフトが仮面を外している、という事実にも、そしてその顔がこれまた俺とそっくりだったという事実にもハンスは驚いていた。

 その後は殴られて口止めされたようだが。


 えっ、殴られたのお前。あの怪我じゃあそれか。


 そこで黙っているを選ばなければ殺すとまで言われていたようだ。

 いやでも、殺すって言われてもなぁ……


 俺の表情を見てハンスは「あの時のルフトくん本気でしたよ」と述べる。


 けどあの時点でもしハンスを殺していたら、俺とミリアがルフトを敵とみなすのではないだろうか。

 仮にハンスが殺されて当然だという理由をでっちあげるにしてもだ。

 ちょっと無理があるんだよな。


 例えば表向き善人だけど裏では……みたいな感じに話を持って行こうとしてもだ。

 ハンス、人生の大半を俺の追っかけしてるから、そういう話に持っていくにしても説得力が弱い。何かどんでん返しできそうな証拠があれば話は別だが、瞬時にそんなものを偽装工作するのも難しいだろう。

 魔法があればそれもどうにかできるかもしれないが、ルフトは魔法を使えないと言っていた。いや、それが嘘である可能性とか考えだしたらキリがないのも事実だけど。

 ハンスに関しては少なくともガキの頃から知ってる状態だ。そんなハンスの隠された一面、とか言われても正直証拠がなければ俺は信用しないだろうし。


 他にも咄嗟にでっち上げられそうな理由を考えてみたが、そのどれもが正直ちょっと……となるようなものだ。ルフトが言って即座に彼の言葉が信用されるようなものが、果たしてあの時点であったかどうか。


 ルフトの事は全く信用していなかったわけじゃないが、何かあった際、ハンスとルフトのどちらを信じるかとなればその場合はハンスの方にやや天秤が傾く。

 ハンスの場合は多少の証拠とかそういうのも持ってくるからな。証拠がなくてもそういう発言に至ることになった部分をきっちり話すし。まぁ普段は割と聞き流してる事のが多いんだが。


「あの、今言う事かと言われるかもしれないんですけど、ルフトくん、割と旦那の事攻撃してましたよ」

「あったか? そんな事」


 俺が言うとハンスは「あっ、やっぱ気付いてなかったんですね」と顔を引きつらせる。


 ハンス曰く。

 道中魔物が出た時だとか、ヒキュラ洞窟だとかでルフトは時折俺を巻き込みかねないような攻撃をしていたのだとか。

 ……そうか? どっちかっていうとあれ俺のサポートに回ってる感じだったが。


 そう言うとハンスは旦那が危なげなく回避してるから何事もなかったけど、そうじゃなかったら今頃巻き込まれて旦那大怪我してるか死んでるかですからね!? と叫ぶ。


 そう言われてもな……思い返せばルフトと初めて共闘するに至ったケーネス村近くの洞窟でも、そんな素振りはなかったはずだ。俺が危うく魔物に捕まりそうになったりした時に絶妙なタイミングで魔物の攻撃を弾いてくれたりはしていたし、その後別の場所でだってルフト自身犠牲になるような動きをしない程度にはこちらの補佐に回っていた。


 ハンスとミリアとはぐれた吊り橋以降も、二人だけで進んでいた道中でだってあいつとは何だかんだ上手い事やってきたのだが。


「それ多分全部旦那が神回避してきただけです」


 そう言ったハンスの声は、ひどく呆れていた。


「最初はね、そりゃ旦那も気付いた上であえて素知らぬ振りをしていたのかなって考えてたんですけど。ヒキュラ洞窟内でそうじゃないってなったこっちの心境わかります? 旦那は全然気づいてないし、となるともし何かあった際危険だからって二人に気付かれないようにミリアさんに手紙渡してやりとりしてたんですけどこっちは」

「うん、あの吊り橋を渡る時、あえて二人を離した。でも結局それが裏目に出た感じ。こうして合流できるまで、とっても冷や冷やした」


「そうか」


 そこまで言われるとそれはそれで何かごめんな? って気分になる。


 ヒキュラ洞窟を進んでいた数日の間でもルフトは偶然を装って俺を狙っていたというのか……しかもハンスは薄々気付いていたとか。こうして言われるまで気付かない俺とかそりゃはぐれた後色々心労があった事だろう。

 とはいえ、二人きりで行動していた間、正直俺は身の危険を感じた事は一度たりともなかったんだが。あ、いや、帝国兵と戦った時とかアリファーン呼んだりしたしそりゃ多少はヤバいなと思った事がなかったわけではないけれど、ルフトが原因でとかそういうのはなかった。


「それから」


 ハンスの視線が少しばかり揺らぐ。言いにくい事をこれから言いますよ、というわかりやすい反応だった。


「旦那を助ける前にオレ、ルフトくん見かけてるんですよ」


 つまり俺がいた牢屋に来る前の話って事か、と意味を理解して、その割によく無事だったなと思う。

 見かけただけでこちらに気付かれていないからこそなのかもしれないが、それにしたって一歩間違えば俺を助けに来る前にハンス自身が死んでる可能性もあったわけだ。


「旦那を連れてきたのだから約束を果たせと誰かに言い寄っているようでした。けど」

「念の為聞くけどその言い寄られてた相手、服装的に皇帝じゃなかったか? 見た目はとてもそうは見えない感じっぽいやつ」

「……あれ皇帝だったんですか? え、確かに服だけ見れば豪華な感じだったしどっかの貴族のお偉いさんかなとは思いましたけど……あ、でも考えたら帝国内に人間はほとんど残ってないし、貴族だから残ってると考えるのもおかしな話か……?」


 一応俺があの時見かけた皇帝の外見を述べると、そうですそいつそいつ、と頷いたので間違いなくバンボラ皇帝だ。

 俺が見かけた肖像画と比べると思いきり外見違い過ぎてどうしてこんな事に……ってなるけど。


「でも次の瞬間ルフトくん魔法か何かで壁際まで吹っ飛ばされて、その衝撃で意識失ったみたいで」

「……仲間割れ、いや、もともと約束を果たすつもりが皇帝にはなかった……?」

「帝国兵に運ばれていったので、オレてっきり旦那が捕まってる場所の近くとかに行くのかと思ってそっと尾行したんですけど。

 ルフトくんは地下牢に連れていかれました」


「地下牢まであるのかあの城」


 正直そんなに一杯牢屋ばっかあってもどうすんだって思うんですけれども。

 城という場所に最低限何か忍び込んだ賊を捕えるための場所とかあるのはわかる。場合によっては粗相をしたメイドとかを突っ込むお仕置き部屋みたいな扱いになってる所もあるって小耳にはさんだ事もある。でも、地下に牢を作ってあるなら俺が捕まってた上の階にあるあの牢屋とか何で? って思うんだが。本気で。


「地下牢自体はそこまで攻略するの難しい感じじゃないかなって思ったんで、魔法が使えれば脱出は簡単かと。けどだからこそ旦那がいなくて、ルフトくんは意識失ったままだし流石に彼を救出して城の中移動するのは難しい。そもそもルフトくんにもルフトくんなりの事情があったとしても一緒に行動して大丈夫かどうかもわかりませんでしたから。

 場所は覚えてあるので、助けに行こうと思えば行けます」


 というかだ。この帝国内の精霊を管理してるとかいう皇帝の話がどこまで本当なのかもわからない。ルフトは魔法を直接的に使ったりしたわけじゃなかった。剣に魔力纏わせて威力を上げたりはしていたけれど、それ以外の魔法を使う姿は見た事がない。武器を取り上げられた場合、果たして肉体強化などができれば自力脱出も可能かもしれないけれど、魔法が使えないという自己申告が本当であった場合自力で脱出するのは難しいかもしれない。

 剣には無意識で魔力を纏わせている可能性もあるし、武器がないなら己の拳に魔力を、という器用な真似ができるかもわからない。


 とはいえ。


「ルフトを見たのは俺を助ける前の話か」

「えぇ、はい。流石に今日の話なんですぐに別の牢に移されたりしないはずですけど。え、旦那もしかして今から!? 今から行っちゃうの!? ってか行くの!? 確かにルフトくん旦那の子らしいですけれど」

「正直俺の子だとかそういうのはどうでもいい。言われたところで自覚もないしな」


 いきなり貴方の子です、とか言われても実感も何もあったもんじゃない。

 いや、素顔を最初から見ていたらもしかしたら多少は違っていたかもしれない。


 俺に対して攻撃を仕掛けようとしていたらしい話はともかく、思い返すとまぁ、俺に対する若干のトゲのある態度だとか、俺たちと行動を共にするためにハンスを腰ぎんちゃくと呼ぶのをやめたりだとか、何かそれっぽい部分はちらほらあったんだよな。


「どっちにしてもあいつから話を直接聞くのが一番手っ取り早い」


 皇帝が俺を狙っている理由も、それ以外の事も。


「俺は収納具も没収されなかったから牢屋の中でも普通に生活できていたけど、ルフトは?」

「武器は没収されていたかもしれません」

「あいつの収納具の中にどれだけ道具が入ってるかにもよるが、あまり時間をかけてられないだろう。それに脱出した奴がその日のうちに戻ってくるとは流石に向こうも思ってないだろ」

「奇襲、って事です……?」


 城の中にいるのが皇帝とルフトと、後は人ですらない帝国兵だというのであれば遠慮も何もいらないだろう。


 正直帝国に関しては放置でも何かそのうち勝手に自滅しそうな予感はするんだけど、放置した結果最悪の事態になりそうな気もしているからな。こういう時は自分の勘を信じた方がいい。


「そういうわけだミリア。また鳥で城まで移動させてほしい」

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