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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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彼が助けられる前



 数日、ハンスとミリアはそれぞれ帝都の中で情報収集をしていたらしい。

 二人が訪れた町や村はほとんどが駄目だった。

 滅んだ後の場所にそっと寄り添って生きている者はいたが、彼らもいずれは帝国を出るだろう。魔法も使えない、いつまた帝国兵がやってくるかわからない、ましてやあの魔物が、かつて人であった魔物がやってこないとも限らない。

 考えれば考える程、帝国で暮らすよりはいっそ見知らぬ土地へ行った方がマシに思えるというもの。


 けれども帝都へやって来た二人が見たものは、今までの光景とはまた違う、至って普通の光景だった。

 帝都の中を行きかう人々。見回りをしている兵士。他の国と比べるとやや活気が控えめな気もするが、それでも帝国内で他と比べれば圧倒的に活気ある街並み。


 整い過ぎていて何だか逆に落ち着かない。


 もっとこう、道を行きかうのが異形の化け物であったりだとか、通りに並べられてる商品が実は人間であっただとか、一体どこの魔都だと思えるような場所であれば納得ができたかもしれない。

 けれども帝都の光景は、そういったものとは違う、他の国でも見かけられるような光景だった。


 帝都では当たり前のように魔法が使われていたので、ここでなら魔法を使っても問題はなさそうだと思ったが、前に聞いた精霊を管理しているという言葉から果たして本当に? と疑問に思い、ハンスもミリアも魔法を使うのは極力避けていた。しかし二人で情報を探るにしたって限界がある。あまり嗅ぎまわっていれば不審に思われるし、人の身で立ち入れない場所での情報を入手させるのであればやはり精霊に頼む他ない。


 鳥精霊が手紙を届ける鳥たちを生み出すように、帝国内部を探るのに鳥を使う方が恐らくは情報が集まるはずだ。


 念の為ミリアは一度帝都を出て離れた場所から鳥精霊に鳥を作ってもらい、時間差で帝都内部へ入り込むようにしてもらった。

 精霊を管理、というのであれば他所から来た精霊に関して既に気付かれている可能性もある。けれど、帝都でその力が発動した場合と、少し離れた場所でそうなった場合とでは気付かれるまでの速度が違うのではないかと考えたのだ。悪あがきとも言える。


 ミリアが帝都から出て離れた場所で精霊に頼んで鳥を作っている間、ハンスの方も帝都の中で情報を集めていた。とはいえそちらは芳しくもない。道を行きかう人々の表情は穏やかで満ち足りている。そういった部分だけを見れば、ここは平和でいい国なのだなと思えるがいかんせん帝国だ。どうにも裏がある気しかしない。


 情報を集めるなら手っ取り早く酒場かな、と思ってハンスはそちらへ足を運び、適当に話を聞けそうな相手に酒を振舞い口を軽くさせ帝国についてあれこれと話を聞いていたが、正直そこまで有力な情報というものがあるでもなかった。ただ、この帝都では犯罪は例え他の国で軽いものであっても重罪とそう変わらない扱いを受けるのだと聞いて、そこだけがやけに引っかかった。


 ハンスから話を聞いたルーカスもまた引っかかっていた。

 彼の場合は帝都についたその日のうちに城に侵入する事になったわけだから、情報収集以前の話であったとはいえ、軽犯罪とはどこからどこまでが該当するのだろうか、と僅かに首を傾げている。

 前世でも犯罪と知らずやってしまった事、とかそういうものがないわけではない。明らかに犯罪だとわかっているものならいざ知らず、実はこれって犯罪になるんですよ、みたいなのがテレビのバラエティか何かでやっていた記憶を思い出していた。


 犯罪と言われてしょっぴかれるまではいかずとも場合によっては警察に注意される自転車の二人乗りだとか、車が通っていないから今のうちに渡ってしまえと赤信号を突っ切ったとか、大人だろうと幼かろうと前世なら誰しも一度くらいはやってしまったかもしれないような事もこの国ではもしかしたら重罪の扱いを受けるとなれば、それは逆にここで暮らす者は細心の注意を払わねばならないのではないだろうか。


 話を聞いていたルーカスが思ったのはそんな事だ。


 帝都に自転車もなければ横断歩道もないけれど、そういった日常生活で知らずやってしまうような事、といったものの中でも犯罪に該当するような事があれば、帝都に暮らす住人にしてみれば気が休まらないのでは? と思ったのだ。


 一応ハンスは朝市をしている場所でも情報収集をするべく数日あちこちをふらふらとしてはいたのだが、朝市の方は酒場よりももっと成果はなかった。誰もかれも当たり障りのない事しか言わない。それはまるで、下手な事を言えばそれが己の首を絞めるのだと暗に言っているようなものでもあった。


 だからこそハンスは情報を集めるのに酒場の方をメインにやっていく事にした。


 数日足繁く通えば常連に顔も覚えられてくる。そうしてその日、ハンスは人相書が外された事を知ったのだ。


 それはつまり、もう人相書の人物を捕まえる必要がなくなったか、もしくは既に捕まったか。

 旦那が既に捕まってるー!? と驚き過ぎたハンスはとにかくミリアと救出作戦を練った。


 ハンスが最初に城に潜入したのはルーカスが捕まった翌日であった。その時点ではさらっと中を探っただけでルーカスの姿を見つける事はできなかったが、それでも大体の見取り図を作る事はできた。流石に帝国の要ともいえる人物がいるような重要な場所までは行けなかったが、そちらにルーカスがいるとは考えにくい。一度戻ってミリアと話し合い、ある程度場所を絞って救出に向かったのだとか。


 ハンスが城に忍び込んでいたなんていう話は当然ルーカスは知るはずもない。それ以前に監守もいないような牢屋で放置プレイ状態だったのだ。もしいたら侵入者がいたとかそういう事くらいは聞けただろうか。


 ミリアが鳥で二人を連れ去るための準備をするべく、鳥精霊に鳥を生み出すのに離れた際に見つけた無人の村を合流地点として、今に至る。


「ところで見たんですけどね、あの城、人間ほとんどいないんですよ」

「人間がいない? いやしかし帝国兵がいただろう。まさか彼らは異種族だとでも?」


 実際ルーカスを捕えて牢屋に突っ込んだ帝国兵だっていた。精霊の加護だか何だか知らんが彼らが強化されているからこそ、全身鎧とかいうくっそ重そうな装備をしつつも人一人抱えて、とかできていたのだと思っているが、もしそうではなく中身が異種族であったのであれば。

 全身鎧なのだから、中身が人間でなくともすぐに気付けなくてもおかしな話ではない。気配だけで察しろというのは無理がある。いや、確かに人間とは何か違った気配の持ち主というのはいるが、そもそも気配だけで察する事ができるような者は極僅かだ。


「オレ、見たんですよ。帝国兵が全身鎧解除したの。中身は何だかわからない、黒い靄のようなものでした」

 城の中を進んでいた時に見る機会があったのだとハンスは言う。一人二人ではない、それ以上の帝国兵がそうであったのだとハンスは真顔で言い切った。


「うい、ミリアも調べたけど、多分帝国兵、人間なのホント少しだけ。ほとんどは向こう、フロリア共和国に送りこまれた。こっちに残ってるの、ヒトじゃない。というか、帝国の中にはもうほとんどヒト、いない」


 同じ鳥ばかりだと流石に気付かれるかと思い、いくつかの鳥を生み出してもらった。そうして帝国内を隈なく見てもらった結果、人が残っている場所はもう数える程度だという。

「……人間至上主義謳ってるけど、皇帝の周囲に人間はいないいないなんだよ」

「異種族の姿は?」

 捕らえられたはずの異種族。奴隷として扱われているであろうはずの彼らの姿が見えないのも気にかかってはいた。けれどルーカスの問いにミリアは首を横に振った。

「どこにもそれらしき姿、ない。少しだけ残ってる人が暮らす場所、人だけ。帝都、少しの人と、それ以外」

「それ以外……?」

「でもそれ、異種族違う。どちらかというと、この子が作った鳥みたいな感じする」

「皇帝が管理してる精霊とかいうやつか……」


 ますます意味がわからない。

 連れ去られた異種族はどうしたのだろうか。


 今の話の中で一つだけ朗報かと思われそうなのは、フロリア共和国へ送り込まれた帝国兵は人間で、この帝国には人間の帝国兵はあと僅かしかいないという点だろうか。

 そうなればもうこれ以上向こうへ潜入するための人手は割かれる事がない。

 ……人間以外の何か、を送りこむ可能性がないとは言い切れないので手放しで朗報だというのは間違いだと思えるが。



「……ルフトに関しては」

「うん、それなんだけどね、旦那」


 困ったように眉を下げ、ハンスは懐からすっと何かを取り出した。ルーカスがそちらへ目を向ければ、ハンスの手には古びた装丁の一冊の本がある。


「城に潜入して旦那を助けに行く前にね、これを見つけたんだ」


 話の流れからそれがルフトに関するものだというのは言うまでもないのだろう。

 どうしたものかと思いつつもルーカスは、その本を手にとった。

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