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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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はぐれた後のはなし



 ハンスとミリアが吊り橋から落下し、その下の川へ流された後。

 ルーカスの予想を裏切って二人は思った以上に流れの速い川にどこまでも流されてしまっていた。もし途中に岩場があれば引っかかっていたかもしれない。引っかかった時点でそれなりに怪我をしていただろうけれども。


 流れ流され、そうしてようやくどうにか脱出したのは、メレーベ湖から程近い川だった。


 直接メレーベ湖に繋がってるというわけでもなかったために、流されて行った結果魔物が大量にいるメレーベ湖へ、なんて事にはならなかったがヒキュラ洞窟との距離を考えるとかなり離されてしまったのも事実だ。


 途中で呼吸が続かず、また上手く息継ぎできる状況でなかったハンスが危うく死にかけていたけれど、それもどうにか回復して二人が辿り着いたのは、小さな村だった。とはいえ、無人であったが。

 この時点で二人は魔物が襲ってきたからこそここから逃げ出したのだろう、という結論に至っていた。

 いくつかの家の家財道具は残されていたものの、大半がなくなっていたからというのもある。


 けれどそこから街道沿いに次の町へ行って、そこで見てしまった。

 町を魔物が襲っている光景を。

 その魔物は普通の魔物とは違っていた。

 ルーカスが村でみた光景。種を植えられ魔物へと変じてしまったそれと、酷似していた。


 二人が町についた時点でほぼ手遅れの状態だったため、二人はある程度魔物を倒して安全な場所へ逃げた後、もしかして帝国はこっちが思っている以上にヤバいのではないか、という結論に至ったようだ。

 どちらにしても帝国内に入り込んだ以上、何らかの情報を集める必要がある。はぐれてしまった二人と合流しなければならない。

 研究施設を潰すにしても、ハンスとミリアの二人だけでは流石に難しいものがある。せめてルーカスやルフトと合流しなければ……と研究施設の場所、それから帝国で今何が起きているのかを探りつつ二人は帝都へと向かう事にしたのだそう。


 帝都へ向かったのは単純にそこが敵地真っ只中、中心部だからというのもある。

 流石に堂々と帝都へ行くつもりはなかったが、その周辺である程度何らかの情報を得る事ができるのではないか。そう考えたからこそだった。

 研究所があるとして、それが帝国内部の辺境側にある可能性もあったわけだが、重要な情報は帝都付近に集まるだろうし、重要な施設もそうである可能性もあった。

 結果としてルーカスと合流できたのだから、そういう意味では正しい選択だったのだろう。


 勿論二人も途中の町や村でルーカスに関する人相書は見ている。早々に何かしでかしたのだろうか、と思ったが見かけた人相書が随分前からあるような汚れ方をしていたのでその事に関しては思い直したものの、だからといってこれ何ですかと聞くわけにもいかない。

 帝国の外からやって来た、と言ってしまえば聞いたところで疑問に思われる事はないだろう。知らなくて当然だと言われる方が可能性としては高い。

 けれど外から来た、という話が流れ流れて帝国兵たちに届くと流石に問題がある。下手に目をつけられるような行動は控えたい。


 だからこそ、ハンスもミリアもルーカスの人相書については気になりつつも誰にも聞けないままだった。


 もしかして今回潜入する以前に、もっとずっと昔に帝国に来た事があったのでは? とも思ったのだが再会したルーカスにそれを否定されたので、人相書についてはますます謎のままである。

 ルーカス本人も何でだろうなと言ってる時点で解決する気がまるでしない謎だ。


 はぐれてからの行動を聞いて、ルーカスが皇帝に狙われているらしい事を知ったが帝国に来た事もない男がどうして行った事のない国の皇帝に狙われているのか。人違いだと言われれば納得できるがそうでないのなら謎でしかない。


 ともあれここでその事を首を捻って考えた所で解決するはずもない。

 気を取り直して二人は各々話の続きを開始する。


 帝都から離れた辺境と呼ばれるような場所にまで足を運んだわけではないが、それでも帝都へ行くまでの途中にあった町や村には立ち寄っていった。帝都から離れた場所は、ほとんど人がいなかった。

 ほとんど、というか完全にいない場所もあった。そこかしこに襲われたような跡が残っていたので、魔物の襲撃でも受けたのだろう。二人はそう判断してそういった場所からは早々に立ち去った。


 帝都にそこそこ近づいたあたりで立ち寄った町もまた、酷いものだった。

 既に魔物の襲撃をうけただろう跡がそこかしこにある。

 一部では燃えたような跡すらあった。大きめの屋敷があったのだが、そこの一部が燃えたらしく白い壁の間に不自然な黒があった。すべてが燃えなかっただけマシなのかもしれないが、既にそこの住人はいないようだった。

 てっきりここも誰もいないのだろうと思っていたが、そこには人がいた。

 何かに怯えるような顔をして、外の通りを歩くのも何かから逃げるようにしている住人たちは、ハンスとミリアを見ると「きみたちもか」とだけ言い、ひとまずは宿へ案内してくれた。


 とはいえ宿といっても本当に簡素な、かろうじて雨風を凌げる屋根のある室内といった感じだったが。


 ハンスがあれこれ話を聞いたところによると、どうやらこの町の住人達も他の町や村からやって来たらしい。やって来たというよりは逃げてきたというべきか。


 聞けば彼らもまたある日魔物に襲われて、どうにか逃げてきた者たちらしかった。

 ある者は帝国兵がやって来て、他の住人に何かを無理矢理飲み込ませていただとか、その人が魔物へと変貌してしまっただとか、その魔物が襲い掛かって来たのでどうにか逃げてきただとか。

 まぁ、こんな話が帝国外に広まれば明らかにヤバい内容ばかりである。


 そもそも人間至上主義どこいったと言いたくなるような話。

 帝国に住む者のほとんどは人間だ。中には勿論異種族もいるかもしれないが、奴隷にされるとわかりきっている以上堂々と異種族である事を明かしたりはしないだろうし、隠れ住んでいる事だろう。であれば、普通に暮らしている者のほとんどは人間のはずだ。

 だというのに、ハンスとミリアが見たものは、帝国兵が謎の種を与え帝国で暮らす人間を魔物に変貌させて、その魔物が他の人間を襲う。そんな帝国からすれば何の得にもならない話。


 魔物が帝国の住人ではなくそのまま野山へ流れ、国境向こうのフロリア共和国へ行くのであれば帝国の目論見もわからないではないのだが、実際のところは近くの町や村を襲っているようだし、これではただの同士討ちではないか。


 ルーカスの話を聞いた時点ではそちらは住人が大量に死んでいる様子ではないが、ハンスとミリアが通って来た場所はほとんどが全滅。帝国の狙いが何一つとしてわからない。

 魔物を増やすにしても、その魔物だって特別強いわけでもない。確かに普通の魔物と比べると異形ともいえるようなのが多いし、何も知らない状態、初見であれば混乱を生み出すには充分だと思われる。

 けれど、帝国内で混乱を生み出して何になるというのだろう。


 逃げてきた住人達にハンスが話を聞いてみたところで、何が起こっているのかなんてわかりようがない。むしろ彼らの方こそ教えてもらいたい気分だろう。


 しかし。

 ここで二人はおかしな情報を得る事になる。


「なんでも皇帝はこの国の精霊を管理しているって話らしいですよ旦那。実際、その町に逃げてきた住人の皆さんがどれだけ魔法を使おうとしてもなぁんにも発動しなかったんですよね。というか、話によると滅んだ人里では精霊もいないようなので、どれだけ魔法を使おうとしても無理だとか」


「わたしやハンスは魔法を使おうと思えば使えない事もないけれど、それはこのこがいるから。でも、町の人たちはどれだけ頑張っても魔法は一度も発動しなかった。このこが手を出せば話は別だったかもしれないけど」

 肩に乗ったままの鳥精霊をミリアがそっと撫でる。

 もしその町で鳥精霊が町の住人に手を貸していたら、それはそれで大変な事になっていたかもしれない。鳥精霊を精霊だと直接言う事はなくても、ハンスとミリアが来てから魔法が使えるようになった、なんて事になれば下手をすれば町に留まるように言われていた可能性もある。


 そもそも目に見えないはずの精霊を管理できるものだろうか?

 鳥精霊のように実体を持っているなら捕獲する事も可能かもしれないが、見えないものを捕まえるというのはいささか無理が過ぎる気がする。


 けれどもだからといってそれを嘘だと言い切るのも不味い気がする。

 もし、もし本当に精霊を管理しているのであれば。精霊を撤収させた地で魔法が使われた気配を察知、とかされた日にはこちらの存在が即座にバレてしまうのではないだろうか。

 元々魔法を使う事はあまりなかったが、帝都へ近づく以上は今以上に魔法を使う事を止めておいたほうがいいだろう。お互いにそう決めて、二人は帝都へと向かう。


 二人が帝都についたのは、ルーカスとルフトが帝都に着く数日前の話だった。

 とはいえ、とった宿が別だったため合流する事はできなかったのだが。

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