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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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再会近況報告



 どう考えてもヤバいサイズの鳥に運ばれ辿り着いたのは、帝都近くにある小さな村だった。多分徒歩で半日かかるかなー? くらいの距離だろうか。俺たちが帝都に来た時とは違うルートにあるので、俺はこの村に来た事はない。

 村のど真ん中に落とされた俺は咄嗟にどうにか着地したけれど、いやうん、ツッコミたい。

 ゲームとかのさ、何かどう考えても物理的とか以前に安全面に問題しかなさそうな移動手段でぶっ飛ばされました、みたいな感じの到着の仕方だったんだが……これ何でいけると思われた? 下手しなくても普通に怪我するところなんだが。


 というかだ。いくらなんでも騒ぎにならないかこれ。


 夜だというのに鳥が飛んでるのもどうかと思うが、これ間違いなく普通の鳥じゃないしな。俺とハンスを落とした後は、何事もなかったかのように近くに降り立っている。

 ちなみにハンスもどうにか着地に成功しているので大怪我をしたとかそういう事はない。


「ハンス! どうだった……あっ、ルーカス!! 無事だった! 生きてる!!」


 近くの民家らしき場所から出てきた人物がテンション高く飛びついてくる。


「ミリアか。ハンスがいるならと思っていたが無事だったんだな」

「それはこっちのセリフ。色々情報集めて大変だったんだから」


 すっかり周囲の明かりなんて見えないくらいに暗い村の中でこんな騒いで大丈夫だろうか、と思ってつい他の家々を見回してみたが、何事かと起きだして様子を窺うような村人の気配がない。


「ミリア、この村は……」

「誰もいない」


 俺の言いたいことを即座に理解したらしく、ミリアはそっと首を横に振ってみせた。


「誰も? 帝都からかなり近くにあるような気がするんだが、本当に?」


 それもなんだかおかしな話だ。

 帝都が栄えているからそっちで暮らそう、とか考えたとしても全員帝都に行けるかといえば微妙な気がするし、仮に村人がここを捨てたとしても帝都周辺に出没する魔物などを退治するのにじゃあこの村を駐屯地に使おうと考えるはずだ。一から全部を作るよりは、既に人が暮らしていた、暮らせていた場所があるのだ。そこを上手く利用するくらいはするだろう。


「旦那、ここで話をするのもなんですし、まずは建物の中へ行きましょうか」


 ハンスに言われ、それもそうだなと頷く。人里に魔物は滅多に近づいてこないけれど、もしここが本当に村人が誰もいない場所であるのなら魔物が近づいてこないとも限らない。今は俺たちがいるとしても、たった三人だけじゃそこらで野営してるのと大差ないだろう。


 俺たちを運んできた鳥は、何事もなかったかのように消える。ミリアの肩にいる鳥精霊を見れば完全に一仕事終えた顔をしていた。まぁ、薄々そうなんじゃないかなとは思ってたけどやっぱりか。


 見回した範囲にある家はどれも原型を留めている。人がいなくなってからかなりの年月が経過したという感じでもなく、割と最近になってここを立ち退いたと考えるべきだろうか。とりあえず特に何も考えないで適当な家に入ったからといって、その家が倒壊するような危険性はなさそうだ。


「とりあえずこっちこっち」


 とはいえ既にこの村にいたミリアは既に自分たちが使う場所を決めているのだろう。俺の手を引いて先程出てきた家へと移動する。


 村長の家だとか、はたまたそれ以外の村の権力者の家だとかといった感じはしなかった。

 どちらかといえば、夫婦二人で過ごしているような、こじんまりとした家だ。

 村人がここを出ていったのであれば家の中は何もないのだろうと思っていたが、俺の予想をあっさりと裏切って家具は大体そろっていた。

 何もなかったとしてもミリアだって収納具を持っていたはずなのでミリアが用意したと考える事もあったけど、見たところ家具はミリアの趣味とは少しばかり異なる。となればやはり最初からここにあった物だろう。


 家の中に入り、短い廊下を抜けた先はリビングのようだった。テーブルを囲むように椅子が四つ置いてある。

 全体的に落ち着いた色合いというか、素朴というか……ともあれ残された家具を見る限り大勢で暮らしているという感じではないが、それでも来客が来ないとも限らない。椅子が四脚あるのはそういう事だろうと考える。


 ミリアに手を引かれ、あれよあれよという間に椅子に座らされる。

 そうしてミリアも俺の向かいの椅子に腰を掛けて、最後にハンスが座った。


 家の中に家具は残っていたけれど、だからといって室内全体を照らしているわけでもない。テーブルの上には小型のランタンが置かれていて、それがこの室内唯一の光源だった。



「色々と話さないといけない事はあるけれど、まずはお互い無事に再会できた事を喜ぶべきですかね、旦那」

「……まぁ、そう、だな……?」


 言いつつ何となくハンスの方へ視線を向ける。

 久々に見たからか、そこはかとなくハンスが逞しくなったようにも見える。人間の成長ってこうしてみると中々の速度だよな……俺が人間だったころはあまり成長したとかどうとかって実感なかったけど。

 精々健康診断とかで身長伸びてるなー、くらいの認識しかしてこなかったし。


 いや、それよりもだ。


「何でこのランタンを?」


 ハンスをちらっと見て成長を噛み締めている場合ではない。本来ならもっとこう、今まで何があったのかを話すべきなのもわかっているが暗い家の中、テーブルの上に置かれたランタンだけが唯一の光源、というその状況にまず突っ込むべきだと思ってしまった。

 いや、別にさ、これが屋外とかならなんとも思わないんだよ。キャンプみたいだなー、くらいのノリで受け流せるんだよ。でも室内。しかも自分たちが座って囲んでいるテーブルの上に置かれているときたら、何か視界がぼやっとしそう。

 せめてもうちょっとどうにかならんか。

 ランタンの明かりがもう少し控えめであればいいのだが、思ってるより強めの明かりのせいで向かい側にいるミリアの表情は明かりが邪魔して正直なところよくわからない。

 ミリアを見ようとするとランタンの明かりが邪魔になって眩しいとすら感じる。決してミリア自身が眩しいとかではない。


「魔法はあまり使わない方がいいと思ってるから」

 テーブルの上に肘をたて、手を組んでその上に顎を乗せているらしいミリアの声。とりあえず俺が眩しそうにしている事には気付いたらしく、ミリアはそっと立ち上がるとランタンを誰も座っていない椅子の上に乗せて少し距離を離した。眼球にくる眩しさはどうにかなったが、これはこれでなんというか……微妙な暗さがどうにかならんか、と思ってしまう。

 いっその事魔法で明るくしたいくらいなのだが、ミリアが深刻そうに言うものだから俺もすぐさま魔法で部屋の中を明るくするという行動にはでなかった。


「……どういう事か、勿論説明があるんだろ? お互い情報交換といこうじゃないか」

「それは勿論そのつもり」

 こくり、と頷いたミリアに正直こいつらが吊り橋から落ちて下の川に落ちて流された後の事がとても気になるが、正直俺の方はこれといった情報を掴んだわけじゃない。だからこそ先にさらっと説明する。


 ヒキュラ洞窟を出て最初に辿り着いた村での出来事。

 最近のものではなく前からあると言われている帝国内の人里にある俺の人相書。

 そういうわけで帝国内で俺はほぼ女装をしていたというある意味どうでもいい話。

 結果として特に何事もないままに帝都へ到着し、そこで色々あって城内に侵入。しかしそこで捕まってしまった事。

 それらを話す。


 正直盛り上がるような部分もない、平坦な話だ。

 ルフトと二人で帝都まで行って、その後は……ルフトについて話すのはどうしたものかと思ったが、彼がこの場にいない時点で言わなければならないだろう。

 帝国との繋がりはないと言っていたはずのルフトはしかし皇帝と何らかの約束を結んでいた。俺を餌に、という話は正直今でも何の事だったのか……


 普通牢屋にぶち込んだ後割とすぐにそういうネタばらしってやらないか? それともそういうのはあくまでも創作の話の中だけなのか? 正直あの皇帝なら何か言いそうな気がしてたんだけども。

 釈然としない部分はそれなりにあるが、それをこいつらに言っても仕方のない話だ。


 俺の方は粗方話し終えた。これ以上の事は聞かれても正直知らんとしか言いようがない。


「それで? そっちは今まで何を?」


 だからこそ俺は、こいつらが今の今まで何をしていたのか、何の情報を掴んだのかを問いかけた。

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