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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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決意を新たに



 鉄格子のはまった小窓から見える空には月が浮かんでいる。

 それ以外に明かりになりそうなものは特になく、牢屋の中はまぁ言うまでもなく殺風景の極み。


 前世でだって牢屋に入るような事なかったし今の今までもなかったというのにまさかの牢屋デビュー。


 他にもいくつかの牢屋があるけれど、見る限り俺がいる牢屋以外は誰もいないようだ。隣は見えないが気配を感じないし、向かい側は無人。ずっと奥の方、牢屋に入る時に通ったここから出入りできる通路の方には見張りがいるらしく、うっすらぼんやりと明かりっぽいのが見えない事もないかな、といった程度か。

 何かあったら叫べばまぁ、見張りがとんでくるとは思うけど、いちいちそんな事をする必要性が今のところは存在しない。


 いや、見張りを呼び寄せて何かこう、華麗に相手が持ってる鍵を奪い取るとかできればいいが生憎そういったスキルは持ち合わせていない。なのでわざわざこっちに来られても困るというのが本当のところだ。


 牢屋の中はまぁ、殺風景の極みとさっきも感想を持ったがマジでなんもない。

 かろうじて寝る場所っぽい寝台とあとはトイレがわりだろうか。壺が置いてある。

 寝台は言うまでもないが牢屋内部の石壁と同じような材質で固く、ぶっちゃけこれ置く意味あったか? と言いたくなるようなものだ。もう床に素直に寝るのと変わらないだろこれ……


 地下にあるわけじゃないのが救いだろうか。地下でこんなだったら窓なんてなかっただろうしもっと空気もこもっていたに違いない。とはいえ、仮に鉄格子を外せたとしても小窓から脱出は無理そうだ。まず頭が通らない。頭通ればいけそうな猫とかならまだしも、生憎俺の身体は猫と違うので仮に頭が通っても肩でつっかえ、そこを無理に通ったとしても今度は尻のあたりでつっかえそうである。

 というか、地下じゃないしここ地上何階? って感じなので無理に通って落下しましたってなるとそれはそれで大惨事の予感でしかないのだが。


 さて、牢屋に入れられた時点で俺としては荷物も何もかも奪われるだろう事を想定していたのだが、驚くべきことに牢屋に入れられる直前で巻き付いていた鎖を解除され、そのまま牢へと突き飛ばされて鉄格子状の扉を閉められて終了である。

 いやいやいや、これ魔法で脱出できるんじゃないか? と思ったが、向こうもそれに関しては対策済みであったらしい。

 いきなり鉄格子吹っ飛ばすのもなと思ったので小窓の方に試してみたのだが、魔法を放ってもかき消された。月明かりだけだがそこでよーく見て気付く。

 あっ、これ、魔法強制解除とかする材質のやつだ……そりゃ魔法使える奴そのまま入れるわけだよ。小窓の方がそうならこの牢屋の出入り口になってる部分の鉄格子もそうなんだろうなと思ってじっくり見ればやはりそうで。

 では天井や壁、それから床はどうだろうか。こっちは見たとこ普通の石材にしか見えない。

 とりあえず無難に壁に魔法を放ってみるも、結果は同じく。

 ……これ、断熱材みたいに中に例の素材が使われてるって事かよ……あまり賢くない俺でもそれを理解する他ない。


 魔法でここをぶち壊して脱出するという手段は絶たれた。


 武器も取り上げられる事なく牢屋に突っ込まれた時点で思う事はそれなりにあったが、つまりはここに入った時点で脱出できないからこその余裕の表れだったのだろう。


 魔法が効かないって事はつまり、ルフトみたいに剣に魔力を纏わせて牢屋をぶった切ろうとしても、恐らくその時点で魔力部分を拡散されて威力を消される可能性が高い。試しにやってみたが、やはり結果は考えた通りだった。


 そうなれば本当にどうしようもない。

 いや、収納具も回収されていないので手持ちの道具でもしかしたらどうにかできるんじゃないかなとは思うんだが、爆薬みたいなのあったっけ……?

 基本的に収納具には生活用品とか食料の類はそりゃもう入れてあるけれど、爆薬とかその他の武器になりそうなものだとかは特に必要ないなと思って入れていなかったはずだ。


 ……念の為収納具の中を確認してみる。ちなみに確認方法としては収納具に触れて意識を集中させればそれこそゲームのアイテム欄みたいに収納した物一覧が脳内に浮かんでくるというとてもファンタジーなやつ。

 収納数が少なければともかく大量にあれこれ入れてるとそりゃもうずらっとアイテム名が浮かんでくるので場合によっては頭痛する事もあるので何でもかんでも入れればいいってものでもない。


 とはいえ他にする事もないのでアイテム確認するのを面倒がるわけにもいかない。むしろ今やるべきことはこれくらいしかないわけだ。それにしたって魔法を強制的に解除するあの素材はあまり流通しているものではなかったはずだし、事実俺だって実際目にしたのはほんの少しだけだ。

 そのある意味貴重なものをルフトのように持っていただけならともかく、牢屋全体に使っている……というのは……ちょっとどういう事なんだと言いたい。


 ちょっと考えて俺は収納具の中から化粧落としだとかを取り出してメイクを落としたし、何なら別に今誰も見てる感じじゃないしなって事で女装をやめていつもの服へと着替えた。髪はずっと編み込んでいたからか、ほどいて結びなおしたもののゆるくウェーブができてしまっている。まぁ、放っておけばそのうち戻るだろう。


 帝国領内に入ってからというものほぼずっと女装しっぱなしだったので、何というか久々の解放感。


 ちなみに収納具の中に現状を打破できそうなアイテムはやはりというべきか存在しなかった。知ってた。昔の俺がもしかしたら入れてる可能性もワンチャン……とか思ってたけど、そんな事はなかったぜ。


 さて、この時点でもうやるべきことがなくなってしまったわけだが。

 だからといって何も考えずにそこの寝台に横になって寝るわけにもいかない。考えるべきことはまだある。



 脱出云々の次に考えるべきことはルフトに関してだろうか。

 あの皇帝が本当に本人であるなら、確か名はバンボラだったか……あれとまるでルフトは面識があるようではあった。あの時ルフトは約束通り連れてきたと言っていた。つまりは、ルフトが帝国にいた時点であの皇帝と面識があったという事か。


 ……ルフトの態度から帝国をよく思っていない事はハッキリしていたが、結果としてそこで俺が油断したとも言える。彼の今までの話から、帝国と繋がってるはずがないと思ってしまっていた。それが最大の過ちだったってわけか。

 いやでもあれ演技だったって事か? だとしたらルフト演技派すぎでは。


 帝国を飛び出してこちらにやって来て三年。その間帝国とのつながりは一切見せず、組織の一員として動いてきた。三年の間にもっと怪しい動きをしていたらミリアももう少し警戒していたはずだし、この三年は本当に帝国と一切関わっていないのだろう。

 その皇帝に俺を連れてくる約束をした、というのがちょっとよくわからんが……

 元々帝国内にあった町や村で確かに俺の人相書とか出回ってたし、帝国が俺を探していたというのはわかる。いやなんでだという思いもあるけど。


 さっきの話だと俺は餌とか言われてたと思うんだが……何の?

 エルフだけを食べて生きる魔物とかペットに飼ってるとかか? いやでもそんな生物の話聞いた事ないぞ。合成獣とかか? けどもしそうだとしたら、もっとこう大々的に異種族を捕まえる際にエルフを狙ってるはずだ。

 そんなペットはいないと考えていいだろう。

 ……いないよな? いないと思いたいけどもしかしたらいるかもしれない。このどっちつかず感がとても困る。いるならいる、いないならいないでハッキリしてほしい。


 まぁ、ここで俺がそんな事をぐちぐち言ったところで仕方がない。


 ルフトの事は気になるが、今の俺にはどうしようもない。脱走できるような状況になればいいが、今はどちらにしても無理だろう。


 次に何か行動をとるにしても、まずはこの牢から出された時だろうか。生憎脱獄物の話のように壁に穴開けてだとか床に穴開けてだとかいった行動はどちらにしてもできないので、下手に体力を消耗させず温存させて事態が動くのを待つくらいしかやる事がない。


 かろうじて寝台ですよ、と言わんばかりの台の上に座ってみたが案の定固い。やっぱこれ直接床で寝るのとそう変わらんな……収納具を没収されてるわけじゃないからいっそテントを出すべきかとも思ったが、この牢のスペースの中みっちりになりそうなので寝具だけでも……と思って寝袋を出す。


 ……やっぱり多少寄り道する事になったとしても、寝袋じゃない別の寝具を用意しておくべきだった……俺結構前から買おう買おうと思ってたはずなのに結局先延ばしにしてたもんな……やはり行動は思い立った時にやるのが吉という事か。


 帝国から無事に脱出を果たしたら今度こそちゃんとした寝具買うぞ!

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