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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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彼女の行方



 ティーシャの街にて行方をくらましたアマンダという女に関して指示書に記されていた情報はそう多くない。

 ハンスと同じく人間種族で、彼女もまた反帝国組織に所属している。

 赤い髪の気の強そうな風貌の女。

 少し前までライゼ帝国に潜入していた。


 指示書を何度見直してもこれ以上の情報は記されていなかった。


 ライゼ帝国に潜入していたアマンダが何らかの情報を得てライゼ帝国から脱出。その後仲間と落ち合い情報を、とかいうにしてもだ。

 帝国からここまでかなり離れてるんだが!?

 落ち合うにしてももうちょっと別の場所があるだろうに。

 いやまぁ、帝国から追手がかかった場合を考えるとそう近くで落ち合うのはまずいと考えたにしても、それにしたってここ!? という気持ちで一杯なんだが。

 下手したら大陸の端から端、くらいの距離があるんですけれども。


 馬とか移動手段をもってたとしても流石にちょっとどうなの? と思うレベル。


 俺は正直ライゼ帝国がどういう所なのか、を詳しくは知らない。いや、人間至上主義みたいなとこなのはわかってるんだけど、直接ライゼ帝国に行った事がないので。

 ただ、いずれ行くことになるんだろうな、とは思っている。


 だからこそこうして同じ大陸に足を踏み入れたようなものだし。


 ビニオス大陸――つまりはライゼ帝国がある大陸なんだが、ここにはもう一つフロリア共和国が存在している。人間至上主義を謳うライゼ帝国とは違いフロリア共和国は人間もそれ以外の種族もうまく共存していきましょうね、というスタンスだ。

 とりあえず、ライゼ帝国が何らかの行動を起こすにしても次に狙われる国はフロリア共和国というわけだ。

 別の大陸にある国ならともかく同じ大陸にあってその思想は正反対となれば対立は免れない。

 フロリア共和国としてはライゼ帝国と争うつもりはないらしいが、ライゼ帝国からすれば目の上のたんこぶみたいな存在だろう。


 ちなみにフロリア共和国は帝国と反帝国組織のどちらにも属さない中立である。表向きは。

 裏では反帝国組織と繋がりがあるけれど、それ大っぴらにしちゃうと色々問題なんで……


 ライゼ帝国が異種族を捕える事に関して積極的に妨害もしないけれど、反帝国組織が大陸内を移動していても関与しませんよ、という感じか。一応国境もあるし共和国側まで来て帝国が異種族を捕えたりすることは大っぴらにはやらかしていないので今の所は表面上、平和に見えない事もない、といったところだろうか。


 国境ギリギリの共和国側の町や村あたりでアマンダは仲間と合流できなかったのだろうかと思ったが、彼女にも何らかの事情があったのかもしれない。それにしたって、とは思うがまぁ、ティーシャの街でアマンダと会って話を聞ければそれで大体解決だろう。


 ――そう、思っていたのだが。


 ティーシャの街に到着して早数日。

 アマンダは一向に見つかる気配も様子も何もなかった!


 すぐに見つかるかどうかは確かにわからなかったので、気長に探す事になるかもしれないなとは思っていた。そもティーシャの街にいる反帝国組織の人間――この場合は異種族も含むけれど面倒なんで人間でひとまとめにする事にした――はアマンダの姿を見かけてはいたが、直接話をする事はなかったらしい。ちなみに街を出て他の場所に行った事も考えにくいとのこと。


 であれば街のどこかにはいるはずなんだが……


 ハンスが頑張って探してくれているようだが見つかる気配は一向にない。


 数日は滞在する事になるだろうなと思っていたので宿はとってある。ちょっとボロいが値段はそこそこ、といったところだ。ハンスは見た目だけなら普通の人間だし自分と常に行動していなければ彼が反帝国組織の人間だとは思われないだろう。とりあえず宿でも別々の部屋をとっているし、宿で部屋をとる際も時間差でとった。


 この後ハンスが俺に話しかけてきたとしても、エルフが物珍しいとか周囲には適当に言い訳できるようにしてある。


 周囲に反帝国組織の人間しかいないのであれば別にこんな小細工するつもりはないんだけど、もし帝国の人間が紛れ込んでいたならこういった小細工であってもしておいて損はないはずだ。

 フロリア共和国は表向きは中立。帝国の人間がいたとしても、侵略行為でなければ立ち入りを拒否する事もない。明らかに武装してこれからこの国を侵略しますよ、となれば話は勿論別なのだけれどそうでなければ見過ごすしかない。


 とりあえず他に同じく組織の奴とかいたら俺はそっちから話聞けばいいか、とか思っているので日中はティーシャの街をふらふらしているだけだ。正直俺みたいに軍服着てる奴見ないんだよね。

 え、もしかして制服を一応支給してはいるけれど、別に着る必要ないとかいうやつだったりする?


 まぁ動きやすいし頑丈だしこれはこれですっかり馴染んでる感あるから今更他の防御力高そうな服に変更するのも面倒なんで俺はこのまま軍服でいくけど……

 何せ俺、前世でもあまり服のセンスはなかったからな。女装する際の女物に関しては前世の幼馴染が色々とおしゃれに気を使ったりしていたのでそれを参考にしてた……と思う。まぁ元が良いので何着ても似合うからあとはどうにか乗り切れ精神でいる事も否定できないんだけどな。


 女のフリをする時はある程度見た目に気を使って、男の時はそうじゃないっていうのもある意味で周囲の目を多少誤魔化せるだろうと思いたい。


 こっちもあまり収穫らしい収穫はないけど、そこら辺歩いてるだけでも周囲の話声とか聞こえてくるから全く何の情報もないわけではない……といいなぁ。とりあえずハンスが何かこれって感じの情報を持ってきてくれることを祈ろう。



「――なんでも幽霊が出るらしいんですよね」


 俺の思ってた情報と違う!!


 宿に戻って来て夕飯を済ませた後、お互い時間をずらして部屋に戻った後ハンスは人目を忍んで俺の部屋にやってきた。

 そんで開口一番がそれってどういう事だよ!


「幽霊、ゴースト、魔物の類か?」

 そんな言葉が自然と俺の口から出てくる。

 前世基準の俺なら寺生まれのTさん案件はノーサンキューですと言いたいところではあるが、こちらの世界だとゴーストとかの魔物はいるらしいので取り乱す事なく至って冷静にそう返す事ができた。


 ところでこの世界、普通に魔物も存在しているが、別に積極的に人を襲ったりするわけではないらしい。とりあえず人里付近には滅多に姿を現さない。それ以外の所では普通に遭遇するので俺みたいに各地をあちこち移動するような奴からすればそこそこ脅威ではあるけれど、例えば生まれ育った町や村から一生涯外に出ない、なんて奴からすれば魔物は大体無縁の存在といってもいい。


 それでもごくまれに例外として人里を襲う魔物が出る事もあるが、それだって滅多にない。一応魔除けの香だとか、聖水だとか結界石だとかないわけじゃないが、小さな村なんかじゃそういうのも使ったりしていない。


 どっちかといえば脅威なのは、盗賊だとか山賊だとかだろう。魔物と違い積極的に人里を狙う奴の方が魔物より厄介だというのがこちらの世界での認識だ。


 うーん、前世で考えるなら、確かにたまに住宅街にクマが出没! なんてニュースがあれば恐ろしいけどそれよりは空き巣だとか強盗の方が身近っちゃ身近だよなぁと思うようなものか。クマとエンカウントするよりは家に帰ってきたら空き巣とバッタリ遭遇、なんて事の方が有り得そうではある。

 多分そういう感覚なんだと思う。そう考えれば理解できる。


 けれどもハンスが口に出したのはそんなちんけな小悪党の話ではなくゴースト。あくまでも魔物に分類されるだろうそれの話だ。

 ハンスは自分の胸のあたりで両手をだらんと下げてこちらからすればお馴染みでもある幽霊っぽいポーズをとっている。ひゅ~どろどろ、みたいな効果音が欲しいところだ。


「やー、それがなぁんか話聞いてると魔物とは違うみたいな気もするんですよねぇ……」


 両手をおろしてハンスは戸惑ったようにこちらを見た。


「魔物だったら確かに討伐しないとなんですけど、別にその幽霊が人に危害を加えたって話は出てないんですよ。でも姿は時々目撃されてる」

「本当にそれがゴーストであるという証拠は?」

「普通の人間は壁をすり抜けたりできないんですよ旦那」

「魔法でどうにかできるだろ」


 そう、この世界魔法があるんだから大抵の事はお願い精霊たん☆ で案外いける。

 ちょっとそれは無理じゃないか? みたいな願い事も精霊の気分次第で叶う事もあるのだから、何かの拍子にうっかりそういう願い事をしてみた結果叶ったなんてオチだって余裕で有り得る。


「は~、これだから魔力特化エルフ様は……いいですかぃ旦那、魔法ってのは確かに便利な代物ではありますけどねぇ、普通の、そんじょそこらの人間が使える魔法ってのは精々生活に関する事で精一杯なんですわ。

 例えばランプに火を灯したり、水を出してもらったり、洗濯物を乾かしたり。

 それ以上の事を願うのなら、それこそ対価として自分に差し出せる魔力量がものを言うわけです。あと願い事の内容。

 今回の一件が仮に魔法で幽霊になってみたいみたいな願いだったとして、そんなの叶えてくれる精霊がいるとは到底」

「あるんじゃないか?」


 ハンスの言葉を遮るように言ってみれば、思いもよらない事を言われた、みたいな反応が返ってきた。


「幽霊に、ではなく疑似的に精霊と同じ視点に立ってみたいとか同じようになってみたいなんて願いを口にしたら? 精霊は人の願いを手助けするのがいっそ本能と言ってもいい。何の気なしに貴方が見ているものと同じものを見たい、なんて願いを口にだした奴がいて、そしたら精霊なんて喜んでやらかすんじゃないか?」


 普段は人の目に見えない精霊。確かにそこにいるとわかるのは魔法を使った時だ。それ以外であれば普段はその存在を察知すらしない。

 けれども精霊は人に寄り添う。例え人の目に直接触れる事はなくとも、だ。

 そんな相手が、手助けする程度には好きな相手からあなたと同じ目線に立ってみたい、みたいな事言ってみろ? 喜んでやらかすと思うんだが。


 気持ち的には普段仕事仕事で忙しく中々家族と接する機会がない父親が、娘でも息子でもどっちでもいいけど子にお父さんのお仕事ってどんな事してるの? なんて興味を持たれて聞かれた時の気分が近いだろうか。将来お父さんと同じお仕事したい、とか言われたら余程機密事項ばかりの職業でない限りはお父さんだって普段中々家族と接する機会がない分あれこれ話をする事だってあるだろう。

 必要な資格とかあれば事前にこれとこれは勉強しておいて損はないぞ、とかそういうの教えたりとかもするだろう。


 俺があまりにもさらっとあり得るぞそれ、なんて言ったものだからハンスも考え込んでしまった。

 けれどもあれこれ考えていくうちに、確かにないとは言い切れないな……? とでも思ったのだろう。ちょっとだけ顔を青くさせた。


「とはいえ、それが本当にゴーストかどうかも疑わしい。異種族の可能性も普通にあり得る」

「えぇー、あり得ますかそれ……? ゴーストみたいな種族って……えぇ……?」


 ハンスは首を傾げているが、世の中広いんだし知らない種族がいてもおかしなことでもないだろう。

 前世だったらUMAかな? とかちょっとオカルト系のニュースが賑やかになるだろうところではあるが、こっちは異世界。エルフだってドワーフだってホビットだって獣人だっているし、もっと色んな種族も存在している。別に今更風変わりな種族がひょっこり出てきたとしてもそう驚く程の事でもないと思うんだが。


 というかだ。

 本来はアマンダを捜索していたのに、何でその、わけのわからん相手の情報拾ってきたんだこいつは……

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