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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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そこにある違和感



 酔っ払いが連行されていった先、そこは一言でいえば留置所みたいな場所だった。


 ルフトは宿を出ていった直後は堂々と通りを進んでいたものの、行き先がある程度わかってからは彼らの後を追っているという事に気付かれないように極力人通りのすくない場所を選んで移動していた。

 とはいえ帝都はそこかしこを見渡してもあまり治安が悪そうな区画がない。

 ルフトの後を追いながらも改めて帝都を見た俺の感想としては、整い過ぎていて逆に気味が悪い、これに尽きた。


 人が多く集まるようになれば、その分どうしたって貧富の差は出てくる。そうして生活にも差が出るのがある意味で普通だ。帝都のような都会と呼んでいいような場所じゃなくたって、辺境の村であってもそれは変わらない。

 周囲が同じ平民であっても、家族の数が異なればその分生活にかかる費用だって変わってくるし、食べ盛りのこどもたちが多くいる家庭と既にこどもが巣立った後の大人しかいない家であれば、例え暮らしている人数が同じであっても食料事情が異なるのは当然だしその分かかる金額も違う。

 どうしたって差は生じる。

 貴族が暮らす場所と平民が暮らす場所、これだけでもう差がでて当然のはずなのに、帝都はどこを見てもそういった差があまりないように思える。


 平等。

 そう言えば聞こえはとてもいいが、何というかそういうのとも違う気がした。


 酔っ払いが連行されていった先の留置所のような場所は、一見すれば留置所だとはわかりにくい見た目の建物でもあった。見た目は帝都の中にいくつか存在する見張り塔のようなものとそう変わらない。

 ……見張り塔は実は一つか二つしかなくて、後は全部こういった留置所のようなものである可能性も出てきたな。

 酔っ払いは最後まで何かを懇願していたが、その言葉が聞き入れられる事もなく建物の中へ連れられていってしまった。



「……で、なんであれを追いかけた?」

 連行した連中から身を隠すように建物を窺っているルフトに小声で問いかける。

 これが知り合いだったというのであればわかるが、何となく違う気がする。知り合いであったならもうちょっと追いかけてる時に焦りとか不安とかそういった空気があってもおかしくなかったが、追いかけていたルフトの様子から単純な好奇心とも違うし、何というかとても淡々としていた。これで知り合いって言われたら逆に驚くわ。


「恐らくですが」

 酔っ払いを建物の中に押し込めた奴以外は既にくるりと踵を返して引き返していっている。彼らが通り過ぎるのを見送ってから、ルフトは声を潜めた。


「あの建物、城に繋がってます」


 一瞬何を言われたのか理解できなかった。


 城。

 それが何を示しているか理解できないわけじゃない。けれども頭は一瞬理解する事を拒んだ。


 実際に城という建物に足を運んだ事は少ない。前世ではまずそんな機会なかったし、転生してから数える程度にあったけれど、それだって自由に動き回れたわけじゃない。限られた範囲を移動するだけだったから、そういう意味ではほとんど内部に関して知るわけではないけれど。

 それでも前世でプレイしたゲームの中には城の中を移動するものだってあったから、何となく想像するくらいはできる。


 有事の際に王族が脱出するための隠し通路とかそれに近い何かが存在する可能性はゼロではない。というかあってもおかしくない。だからこそ、あの建物がそういったやつ、と言われればまぁわからなくもないのだ。

 けれど、仮に何かがあってこの国の皇帝が逃げ出すとして。

 城から隠し通路を通ってあの建物の中に移動したとしよう。


 ……いや、おかしくない?


 そういった隠し通路とかって、まず敵国が攻めて来た時にもうどうしようもなくなって敵の目を掻い潜ってとにかく逃げ出すためのもの、と考えるのが普通だよな。あとは魔物の軍勢が押し寄せてきたとか。

 どっちにしろ現状じゃもうどうしようもない状況になった時に使うためのものだと考えれば間違いではないだろう。


 で、城から逃げたまではよくてもだ。

 ここに来て、その建物から出て帝都の中を逃げて外に、って考えるととてもおかしくないか? と思えるのだ。

 まず、ここ帝都の中では割とまだ内部。隠し通路使って逃げるにしてもその出口は巧妙に隠された街はずれとかそういった場所が妥当ではないだろうか。

 仮に敵国が攻めて来た場合、この辺り普通に兵を配備されてそうなんだよな。敵の目を掻い潜って脱出、ってやるにはちょっと無理がある。

 魔物が大量発生して襲い掛かって来た場合はどうだろうな。魔物の種類にもよるけど建物とか無差別に破壊するようなのだったらこの辺りも壊されてそうだし、建物放置で人だけ襲うタイプなら上手くすれば逃げられる可能性はある。


 ……いやそれにしたって城から逃げる際にここが出口ってのはどうかと思うんだよな。


「繋がってる、って思う根拠は」

 だからこそこの疑問はある意味で当然で。

 俺が知らなくとも帝都にいたルフトからすればわかる何かがあるのだろうか。


「帝都を見て、何かおかしいと思った部分は?」


 しかしルフトは俺の質問に答えるわけでもなく、逆に質問で返してきた。

 いや、質問に質問で返すなってよく言われるやつだけど、それはさておきおかしいと思った部分? そりゃいくつかあるわ。

 俺が思ってたおかしいと思った部分を述べれば、ルフトは少しの間黙り込んだ。


「……数年帝国から離れていた間に、もしかしたら他にも研究所のようなものができているのでは、と思っていたりもしたんですが特にそういった話が出たわけでもなかったので、恐らく研究施設は同じままです。

 もとはギムレー博士が任されていた施設。それは城にあると言われています。

 ギムレー博士がそこから追いやられた後、そのまま後任に明け渡された……新しく研究施設を建設するよりその方が目立たない」


「言い分はわからなくもないがな……」


 確かに新しい建物を造ろうとすれば秘密裏にというわけにもいかないだろう。大工とかそういうところから帝国兵だけでやるわけにもいかないだろうし、そうなれば建物を造る事に参加した者がその建物の存在を知る事になるわけで。完成したあとで口封じに殺すなんてのも流石に問題が出てくるだろうし……


 いやこれが異種族を奴隷として扱ってそいつらに造らせて、って話なら口封じに終わったら始末する説有りかなと思うんだけれども。

 異種族を奴隷として扱うとか言ってたわけだし、そうなっていたとしても何もおかしな事はない。むしろその事実があったとしても、やっぱりか、としか思わない。


 けど、それもそれでちょっとな、と思うわけだ。

 というか奴隷として扱うならその後喉潰すとかして喋れなくすればその時点で周囲に建物を造った事が漏れるはずもないよな。それもそれでどうかと思うけど。


 帝国兵が新たな建物建設しました説もそう考えるとちょっと微妙。

 前世、日本の冬にはある地域で雪像を作るお祭りなんてものもあったけれど、ああいうノリでやるにはちょっといかがなものかと思うし、そうじゃないにしても帝国兵にそこまでさせるとなると、どこぞのアイドルグループか? と言いたくなってしまう。無人島開発みたいなノリでなんでもやってたもんなあのアイドルグループ……アイドルの概念が崩れる話はやめよう。


 それに、そういった研究施設を新たに建設するにしても、場所の問題もある。

 俺たちが通って来た人里にはそういった物は勿論なかったし、そういった話も聞かなかった。


 帝都からあまりにも遠くすると、研究報告をするために連絡をするだけでもそれなりに時間がかかるので効率的な面で考えるとあまりよろしいものでもない。

 帝都の中に新しく造るにしても、それならそれで目立つのではないかと思える。


 ……あれこれ考えると確かに既に存在する施設をそのまま流用したと言われればしっくりくるが……


「それでどうしてここが城に繋がってるという事に?」


 疑問としては当然そうなる。施設を流用した。ここまではいい。けど、それでここが城に繋がっているという事になるのは納得がいかない。

 俺の反応に、しかしルフトは何を言っているんだろうと言わんばかりの反応を示した。


「今、連れていかれた人がいたでしょう。彼がどうしてここに連れてこられたかわかりますか?」

「どうして、って酒飲んで酔っ払って暴れたから、か? これ以上暴れられても困るだろうからとりあえずどこかに隔離して一晩頭冷やせって話じゃないのかこれ」

「いいえ」


 前世でもたまに酔って暴れて警察のお世話になる人がいたと思うが、それと同じようなやつじゃないのか。そう思って言った言葉はしかしあっさりと否定されてしまった。


「帝都は表向きとても犯罪行為に厳しい国です」

「……そう、か」


 いきなりなんだ? と思ったが余計な口は挟まない方がいいだろう。

「そうして捕らえられた犯罪者はその後見かける事がありません」

「いきなり不穏」

「そういった犯罪者を研究所で使っているという話を聞いた事もあります」

「人権ってこの国もしかして存在しないやつかこれ……」


 そういや前世で読んだライトノベルの中にも悪人に人権はないとか言ってた作品あったな。更生できそうなら更生の機会を与えてもいいのでは、と思うがもしかしてこの帝国にはそういうのもない感じか?

 これが大量殺戮を行った凶悪犯だってんならともかく、さっきの男なんて恐らくただ酒飲んで酔って暴れただけだと思うんだが。酔って暴れた結果誰か人が死んだ、とかならまだしもそういう感じでもなさそうだったし……え、それでもやらかした以上はアウトって事か?


 ……帝国の法律とか全部把握してないとうっかり悪い事と知らずにやらかして、とかいう最悪の展開がありそうなのが恐ろしいな。


「その話が本当なら、ここに連れてこられたあの人はここから城に連れていかれるのでは、と」

「…………まぁ、言ってる意味は理解できなくもない」


 理屈としてはそこまでおかしい感じはしない。色々とぶっ飛んでるなとは思うが。

 けど、一時的にここに拘留されているだけで、時間を置いてからここから出されて別の場所へ運ばれる可能性だってあるわけで。

 けどそれを言ったとして、じゃあずっとここで見張っているかとなればそれも難しい。

 いつまで見張ればいいのかわからない状況でずっとここにいるというのも正直きっついものがある。


 手っ取り早いのはここに忍び込んで内部を確認する事だろうか。

 ここから城に繋がっていればルフトの言葉は大正解で城にある研究施設へ行く事になるし、そうじゃなければさっきの酔っぱらった男を確認して終わるだけだ。


 …………正直個人的には宿に戻って休みたい気持ちで一杯なんだが……宿で休んだその後の事を考えると今行動した方がいいんだろうな、気が進まないけど。


「仕方ない。行くか……」


 荷物全部持ってる状態だからな、俺。準備したいからとかそういうのもなく即座に行動に移れるとか優秀が過ぎるな。

 何かもう無理にでも自分を褒めないとモチベーションも何もあったものじゃないんだ。察してくれ。


 誰に向けてのものなのかわからない事を思い浮かべつつ、俺は人の目がない事を確認して建物に侵入することにした。

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