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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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本気を出した結果



 ルフトから何となくしか覚えていませんが、と言われ描いてもらった地図を頼りに進むこと早数日。


 ヒキュラ洞窟から近い場所にあった村は本当に帝国内でも辺境というものだったのか街道らしきものもなかったのでしばらくはどこに向かって進んでいたのかすらさっぱりだったが、どうにかこうにか町らしきものが見える場所までやってくる事ができた。


 街道っぽいものがあったにはあったけど、どうやら今では利用されていないものだったらしく途中で道は途切れてたしでそこで軽く迷ったりもしたけれど、どうにか人里に到着。

 いや、思った以上に長かった。


 ちなみに今になってもまだハンスとミリアとは合流できていない。


 あの川から流れていって、果たしてどこまで行ってしまったのだろうか。

 まさか死んだとかじゃないだろうな、と最悪の想像をしてしまったが鳥精霊がいたのだから、その最悪はないはずだ。次に最悪の展開を考えるなら、向こうでも帝国兵と遭遇して戦う事になった場合だろうか。

 精霊の加護とかいうあの黒いオーラを纏った状態の攻撃を食らえばハンスなら一溜りもないだろう。いや、ミリアがどうにかしてくれると信じたいが、ミリアもミリアで自分が一杯一杯だったら無理だろうしな。


 ……一応万が一の事を考えて心の準備だけはしておくか……


 ハンスが生きてて俺がこんな事を考えてたと知ったらそれはそれで怒りそうな気もするが、心の準備も何もないままにミリアと合流してハンスは途中で死んだとか言われた場合を考えたらどうしたって心の準備無しの方が俺の心に大ダメージ。


 これが自分の全く知らん誰かが死んだって話ならまだふーんで済ませるかご冥福をお祈りいたしますとか言えるけど、何だかんだハンスとの付き合いも長いからな……



「あの町について何か知ってる事は?」

「……生憎と。少なくともボクが行った事のある場所じゃないのは確かです」

「となるとやはりあの町である程度情報収集はしないといけないわけか……」

「情報取集はわかりますけど、本気で言ってます? このまま行ったら目立つなんてものではないのでは」


 俺もルフトも一応上からポンチョっぽい上着を装着して軍服を隠すようにしてはいるけれど、それでもこのままでは目立つだろう。

 何せ俺はエルフで明らかに耳を見れば異種族である事がわかるし、ルフトもまぁ、耳が若干尖っている。

 それ以前にルフトは目元を隠す仮面をつけているので仮に耳に注目がいかなくとも人の視線は向けられる事だろう。


 うぅん……うん、やっぱこのまま町に行くには問題あるよな。


「とりあえずどうにか誤魔化すか」

「魔法でですか?」

「それもある」


 とりあえず俺たちがいるあたりは街道沿いというわけでもないので、そう簡単に人と遭遇する事もなさそうだ。一度テントを収納具から出して俺はその中に引っ込んだ。

「しばし待て」

 ルフトにそれだけを言い残して、テントの中で更に必要な道具を取り出していく。



「待たせたな」

「…………え」


 思った以上に時間がかかった気もするが、時間にして一時間程度だろうか。具体的な説明もせずにそれだけ待たされたルフトからすればさぞ退屈だっただろうけれど、テントから出るなり文句を言うでもなくむしろルフトは予想外の何かを見たと言わんばかりの反応だった。

 まぁ無理もない。


「ルー……カス?」

「他に誰がいる。声だってどこからどう聞いても本人だろう」

「いえ、あの、若干高めの声出しておいて本人とか言われてもちょっとすぐに認識できないので。じゃなくて、その恰好は……?」


「見ての通り女装だが?」

「あ、はい。ボクの目がおかしくなったわけではないんですね納得しました。ではなく。何故女装を……?」

「人目を誤魔化すのに丁度いいかと」


 俺の言葉に理解が追いついていないのか、ルフトは小首を傾げたまま黙り込んでしまった。


 久々の女装だが、別段腕が落ちたわけでもない。収納具からばっちり姿見だって取り出して確認したのだから、問題はないはずだ。


 まず髪型。これは普段根元で一つに結ぶだけというとても楽な感じだったのを丁寧に編み込んでフィッシュボーンと呼ばれる髪型へと変えた。そうして結ぶのに使った物も紐ではなく少し素材にこだわったリボンである。色は赤。


 服装も誰がどう見ても女物の服ではあるが、こちらもちょっと良い感じの素材が使われた服だ。貴族の令嬢がお忍びで出かけている、といったコンセプト。色は明るめ。スカートなので足がちょっとスースーするけど決して素足を晒すつもりはない。何とニーソックスを装備しているわけだが、スカート丈は膝下なので普通のハイソックスで良かったのでは? と思わざるを得ないがそこはそれ。

 何かの拍子にうっかりスカートがひらりとめくれあがった時にハイソとニーソなら素肌が見える可能性が低いのがニーソである。

 ストッキングは伝線しやすいし、かといってタイツはなんかこう、股下が落ち着かないので個人的に履きたくない。

 移動しているうちにうっかりソックスがずり下がる可能性を考えてガーターベルトまで持ち出したので余程の事がない限りは大丈夫だろう。


 見えない部分に何故ここまで力を入れているんだ……とちょっと冷静になってしまったが、まぁそこはそれ。


 俺程の顔面偏差値をもってすれば化粧とか必要ある? と思いもしたが念の為化粧もしてある。

 とはいえあまりゴテゴテに塗りたくって折角の美貌を損なわせてクリーチャーみたいなの作るわけにもいかないので、あくまでも自然に、それでいて元の顔の印象を変える程度に。


 あとは魔法で耳の部分を人間のものとそう変わらないように細工してしまえば、どこからどう見てもちょっといい家のお嬢さんといった感じだ。

 服に合わせて靴もちゃんと履き替えているし、爪もほんのり色づく程度に紅を塗った。あまりゴテゴテさせすぎると全体のバランスが崩れる気がしたので、あくまでもほんのり程度だ。


 今の俺なら二丁目の蝶になれる……!


 いやどこの二丁目だよとか蝶ってなんだよと内心で突っ込んでしまったが、まぁ俺自身姿見でしっかりチェックしたけどまさかこれが男だとは到底思えない出来上がりだった。

 元々俺の声もそこまで高くなく低くなく、といった感じなので気持ちちょっと高めの声を意識して出せばもう完全に女性である。

 可愛いは作れる。前世でよく耳にしたフレーズだが成程。確かに。


「どこか不自然な点はあるかしら?」

 女性を意識して柔らかめな口調で問いかけてみれば、ルフトは無言で首を横に振った。


 問題ないらしい。

 これが手遅れですといったニュアンスの首振りだったらどうしようと思ったが、態度からしてそういう感じじゃないっぽいので良しとしよう。


「それはそうと……その、胸は?」

 おっと、まさか胸にまで言及されるとは思っていなかった。


「詰め物だ」

「……もう少し入れたりしなくていいんですか?」

「何事もやりすぎは厳禁だからな」


 そう言うとルフトは一応納得した様子だった。


 女装した際に一応胸にも詰め物を入れて多少ふくらみを出してはいる。

 ここでつい欲張ってこれでもかとばかりな巨乳を作り出す、なんてことをやらかす奴はもしかしたらそれなりにいるかもしれないが、それは時と場合による。

 仲間内だけの宴会芸ならいざ知らず、そういうんじゃない全然知らない人たちの中に紛れ込むのに、やたら目を惹く巨乳は逆に邪魔になる。

 いや、顔の印象を薄れさせてあえて胸に目を向けるという方法もあるにはあるけど、まず無駄に盛るとその分胸が重くなる。万一この姿のまま戦闘にもつれ込んでみろ。胸が大きすぎるのは邪魔にしかならない。

 かといってじゃあ最初から胸がなくてそれをコンプレックスに思っているタイプの女性を演じるのも面倒。なので若干ではあるが胸は作っておく。

 貧乳の場合はまず顔を見て女だと判断されてもその後何故か胸のあたりを注視されたりして結局どっちだ? みたいな反応をされる事もあるのでそれもそれで面倒というのもあるからこそ、目で見て胸があると判断される程度にしておくのが一番面倒が少ないという事実。


 うん、あとはそうだな。あまり全力で我儘ボディな感じにしちゃうとだな、下心満載な男に声かけられたりして逆に面倒になったりするんだよな。

 一応女装するときは服装をある程度貴族がお忍びで、とかそれなりに身分がありそうな感じを装っているのもそういった面倒を避けるためだ。

 自分から貴族だと言わなければ周囲が勝手に勘違いしただけで言い逃れもできるしな。



「僕はこれである程度人目を誤魔化せると思うが……ルフトは……そうだな、流石にお前も僕と同じようにするには色々と問題がありそうだし、髪の色だけ変えておくか」

 言いつつ魔法でルフトの髪の色を変更する。金色だった髪は一切の光も通さないような漆黒へと変化した。


「ボクも同じようにすると問題が、というのは?」

「よそ者がやって来た時に女二人だとよからぬ事を企む連中ってのは一定数いるんだ。困った事に」

 女一人の場合でもそうだが、女二人になっても女であるという時点でそういった連中に目を付けられた時点で面倒ごとは発生する。そういった面倒ごとをいくつかピックアップして説明すると、確かに面倒ですねとルフトも納得したようだった。


「というか、その女装、あえて自力でやる必要あったんですか? 最初から魔法で変装すればよかったのでは」

「あぁ、それも念の為だ」


 俺の魔法がそう簡単に解けるとは思っていない。何せ力を貸してくれる精霊はそこらを漂っている奴ではなく、昔から俺の周囲にいた奴だ。

 だからこそそう簡単に尻尾を出すような事にはならないと思うのだが、万が一敵対した相手がこちらにかかっている魔法を解除しようと思い立った場合、魔法で変装しただけだとあっさりと元の姿に戻ってしまいかねない。

 そうなった場合、状況が状況だととてもこちらの不利になる。

 だが魔法をかけてあるのが耳だけであるならば、異種族である事を知られたくない女性がそこだけ魔法を使っていた、という風にみられて終わる。

 魔法で変装した場合だと異種族である以前に女装癖の変態扱いされかねないので、結果として正体がバレた流れになった時の展開も更に厳しいものになりかねない。


 対するルフトの髪色だけ変えたのも、親族に嫌いな相手がいて、それと似ている事が嫌で……とか誤魔化しようがある感じにしておけばそれ以上踏み込んでくる人間というのは案外いないものだ。

 勿論個人的にぐいぐいくる相手というのはいるが、こちらにかかっている魔法を見破って解除しようとした相手がいたとして、そういう相手は基本的に大勢の前で真実を暴く事が多い。正義は我にありってか。

 けどそこで家庭内の込み入った事情にまで踏み込んだりはしないんだよな……大勢いる場所でそこまでやればデリカシーに欠けるとか言われる事もあるわけだし。


 そういったあれこれを説明すればルフトも「……理解できなくはないです」と一応納得してくれた。


 ルフトの髪色を変えたついでに耳も目立たないようにしたし、一先ずはこれで大丈夫なはず。

 女装した時に俺は今まで持ってた武器も収納具にしまいこんだけど、いざとなればすぐ出せるから仮に俺の事を知っている帝国兵と遭遇しても武器が同じとかいう理由ですぐさまバレる事もないはずだ。

 マントの留め具にしてあった収納具は今は目立たないような位置に身に着けてあるし……ルフトも髪の色が変わっただけだが何というか印象がガラリと変わった。


 これで流石に一目見ただけでバレるとかはないだろう。

 何かその考え方が既にフラグな気がしなくもないが……大丈夫なはず。うん。

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