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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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思った以上にノープラン



 ともあれ。

 合成獣を研究している施設とかどうにかするのが本来の目的であったわけだが、合成獣がコストかかるし手間もかかるし、みたいな感じで先程のような得体の知れないヤバい種を主流とさせているならこれまた話は違ってくる。


 生産工場があれば勿論それを破壊してしまうのが一番いいわけだが、そこから既に離れ帝国兵に支給されてるだろう物まで回収となるととてもじゃないが無理がある。

 どれだけの兵力があるかもわからんのに、更にそこから既に支給されている物資を回収しろとかもっと無茶だ。


 製造元を潰せば後は兵士たちが持ってる分だけ、と考えればまぁ、まだ何かどうにかなるような気がするけどそこをどうにかしたとして、帝国内の外れの方の領土にある町や村などに暮らす人が無事でいられる保証はない。


 避難を呼びかけるにしても、帝国兵に魔物の苗床にされますから逃げて下さいとか言ったところで果たしてどれだけ信用されるだろうか。いや、無理だな。俺ならまず信じない。


 一応平和に暮らしてるところである日明らかに異邦人がやって来てそんな事言ったとして、素直に信用できるかってなるとまぁ信じない。

 むしろろくでもない話を流布している犯罪者扱いで帝国兵かそれに通じる誰かしらに通報するわ。


 明らかに帝国兵がヤバい事してます、という一目でわかる証拠でもあればともかく。


 けど仮に帝国兵から種を奪い取ってそれを見せたくらいでは信じないだろうし、じゃあ仮に誰かに犠牲になってもらって目の前でそれを見せたとしても、帝国の評判を貶めるためにそうしている、とかこちらに疑いが向くだけだろう。



「そういえば、どうして帝国は僕の事を?」

「……ちゃんとした意味で知っているのは一部だけだと思います。帝国の人間全てが知っているというのは流石に誇張すぎるかと」

「じゃあ、さっきの村の連中が知っている可能性は低い、と」

「それはどうでしょうか……知っているのはある程度位の高い人だけだと思いたいです。辺境あたりは」

「それもそれでどうしようもないな」


 何故知っているのか、という部分はルフトもよくわかっていないようだ。

 けれども上の立場の奴の方が知ってるとなれば、下手に帝国の中枢に侵入するのも難しくなってくる。


 とりあえず帝国内の町や村のどこも立ち入れないくらい知られているわけじゃないのであれば、宿を利用したり食料を買うくらいはどうにかなりそうだけれども。


「そういえば、あいつらが言ってたこの国の精霊は我らとともにある、とかいうあれは?」

「……言葉の通りです」


 しばしの沈黙の後、ルフトは困ったように告げた。


「例えば明かりを灯すだとか、水を出すとか、洗濯物を乾かすだとか、洗うとか、そういった生活の中で必要なものに関しては問題ないんです。

 でもそれ以外に関しては、この国で精霊が力を貸す事はまずありません。

 帝国兵などは別ですが」


「それはそれでおかしな話だな?」


 確かにさっき見た光景から思い返すにそう、と言われればそうなんだろう。生活に必要な魔法だけはよく使う事だろうし、だからこそあの時あの村娘は帝国兵に一矢報いようとした時に何の反応もなく戸惑っていた。

 けれど、そんな事が有り得るだろうか?


 人の助けとなる存在である精霊が、帝国兵を皆殺しにしろという望みを無視するところまでは考えられない事もないが、その後の姉さんを助けて、というアレはどちらかといえば精霊が手を貸しそうなものだった。けれどもあれも無反応。


 帝国兵は村の人たちを家畜と呼んでいた。戯れで力を貸していたとも。

 ……まるで帝国兵は精霊からそうだと聞かされていたようではないだろうか。


 いや、え、有り得るのか……?


 まぁ確かに実体化できる精霊がいれば会話は可能だろう。

 けれどそれ以外の精霊の力の行使まで介入できるものだろうか……?


 いや、それ以前にこのあたり精霊の存在が希薄すぎて生活に関わる魔法はどうにかできてもそれ以外は精霊も力を貸せない状況にあると言われた方がまだ理解できる気がするのだ。

 だがそうなると、あの帝国兵が見せた加護とやらがわからなくなる。

 あれだけの力を与えるのであれば、それなりに力のある精霊が近くにいないとおかしい。けれども精霊の存在が希薄であるというのなら、あの加護とやらが起こるのもおかしい。


 精霊を管理できている、とかいうのであればともかく、目に見えない精霊を管理するというのは到底無理だろう。空気を管理するとかいうのと同じくらい無謀が過ぎる。


 こっちの村には空気を一切通さないけどその周辺だけは空気流す、とか普通はできないのと同じような事のはずだ。

 力のある精霊が取り纏めている可能性もあるけれど、それだって全部を、というのは無理だろうし。


 アリファーンはこの辺りとてもイヤな気配がすると言っていた。

 力ある精霊がこの辺り一帯を仕切っているというよりは、精霊の力に干渉できる何かがあると考えた方がいいのかもしれない。


 もしそうなら、今回はともかくあまり周囲に俺の存在が知られるようになると、俺の魔法に関しても何らかの制限が与えられないとも限らない。

 ……となるとやはり大っぴらな行動は厳禁だな。


「ルフト」

「はい?」

「帝国内についてはどれくらい詳しい?」

「……正直、ボクもそこまで詳しいわけじゃありません。特にこの辺りの辺境と呼ばれるあたりに関してはさっぱり」


 帝国から脱出する際に通りすがったかもしれないが、辺境に関してはその程度だと言う。

 まぁアジール大森林突破してきた時点でだろうなとは思うけども。


「質問を変える。お前が知っている帝国というのは具体的にどのあたりだ?」

「…………帝都です」


 母親と二人、母の知り合いの伝手で帝国にいたとは聞いていた。

 話の内容から薄々帝国の中心部に近い位置にいたのではないだろうか、と思ってはいたのだけれど……まさか中心部に近いどころかまんま中心部だとは……

 え、それでよく今の今まで無事だったな……?


「帝都以外は?」

「生憎と。帝都から出て、すぐに向こう側へ行ったもので」


 食料とかどうしてたんだろう。なんて疑問はそもそも収納具があるし、帝都にいたのであれば食料や他の道具も確保しようと思えばできなくもない。そこから逃げ出して他の誰かに目撃されないために一切町や村といった人がいる場所を通らなかったからこそ、途中で見つかる事もなくフロリア共和国側へ来る事ができたのだろう。あとはアジール大森林を通ってきたというのも大きい。

 ルフトの母の知り合いというのがどういった人物かまではわからないが、一応母親がいなくなった後も多少は教育をしていたようだし経済的にはそれなりに余裕があると見受けられる。


 そうじゃなければ自分の子でもない相手に金と時間のかかる教育などするはずもない。

 こっちの世界の学校は存在こそすれど、義務教育なんてものはない。それなりに金がなければ通わせる事もできないし、そういった場所に通わせる事ができるとなればそこそこの財力が必要になってくる。


 ルフトは学校に行った事はないようだが、母親の知り合いに色々と教わっていたらしいし、彼が出ていくとなればそのままそこでじゃあ達者で、とはならなかったのではないだろうか。

 それを考えるとルフトが帝都を出た後、もしかしたら追手のようなものが出されていた可能性も無い、とは言い切れない。

 無謀かつ無防備に国境へ行っていたならば連れ戻された可能性が高いが、アジール大森林なんて場所を通ってきたのであれば、いたとして追手もルフトを追跡するどころではなかっただろう。


「とはいっても、帝都の事はなんでも知ってるなんてことはありませんよ。念の為」

「流石にそこまで期待はしてない」


 帝都と一言で言ったところで、広さはかなりのものだろうし。

 前世で言うなら東京に住んでるっていうだけで東京都の全てが詳しいかと言われたらそうじゃないだろって話だ。いや、もしかしたらめっちゃ詳しい奴も中にはいるだろうけれど、基本的には自分が住んでる所とよく出かける先とあとは学校とか会社とかの周辺とか、それ以外だとイベントとかやってる所とかそういうあれこれくらいではないだろうか。


 人の出入りがあって当たり前の場所ならともかく、自分が住んでるわけじゃない所の住宅街とか知り合いでもいない限り詳しくはなれないだろうし。


 帝都がどれくらい広いかはわからないが、帝国の中心部だ。それなりの大きさではあるだろうし、その隅々までルフトを頼ろうという気はない。


「ところで、帝国内の地理はどれくらい把握している?」

「え? えっと……随分前に一度だけ地図を見たくらいなのであまり詳しくは……ちなみにどちらに向かう予定で?」

「帝都だ」

「…………正気ですか」

「勿論」


 あの帝国兵たちの言葉を全部信じるなら、帝国の人間という括りにいるのは恐らく帝国の中心部にいるだろう連中なのだろう。それ以外の場所に住む奴の大半が本人の知らぬうちに家畜扱いを受けていると考えれば、重要な施設は帝都かそれに近い場所にあると考えた方がいい。

 正直こっちが行くとなればその分危険度も跳ね上がるわけだが……帝国の端っこをうろうろしていたところで重要な情報や物は見つからないだろう。


 そういったあれこれを告げると、ルフトはしばらく黙りこくった後で、深い溜息を吐いた。


「……言われてみれば……理に適っているというか……はぁ、わかりました。わかりましたよ。案内します。とはいえボクも大分朧気にしか覚えてないので最短距離で、とはならないと思いますけど」

「充分だ」


 ルフトが知ってるルートからとなると、アジール大森林近くからスタートするのがいいのかもしれないが、ここからアジール大森林がある場所まではかなりの距離になるはずだ。

 流石にそのルートを選ぶのはあまり良い感じではない。とりあえず朧気な記憶であってもルフトの案内で適当な人里が見つかれば一度そこに潜り込んで改めて帝都の場所を確認させてもらえれば、後はどうにでもなる。


 人に紛れ込んでの情報収集が苦手ではあるものの、流石にこの状況で苦手だからとか言ってる場合でもなさそうだしな……俺のコミュ力がマトモに発動する事を祈るしかない。


「それじゃ、明日は早めに出発したいし今日の所は休むとするか」


 俺の言葉に頷いてルフトは自分のテントの中へと入っていく。



 ……もしかしたら夜中あたりにでもハンスやミリアがこちらと合流するのではないか、と淡い期待も抱いていたが、残念ながらこの日は合流する事はなかった。

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