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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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後悔先に立たず



 ところで俺にはストーカーがついている。


 そう言うと何だかとても深刻な状態であるはずなのに全くもってそんな気配を今の今までこれっぽっちも出していなかったのには理由ワケがある。


 そのストーカーな、精霊なんだ。


 目には見えなくともこの世界のそこかしこに魔力というのは存在している。魔素、というのが本来は正しいがまぁそんな事はどうでもいい。

 で、その世界中どこにでも漂ってる空気と同じようなものに意思が宿ったものが精霊だ。


 これについては俺が異世界転生してるー!? と驚き現状把握しようとした時にも確認したからまぁ今更だろう。


 目には見えないが人を助けてくれる精霊。

 しかしあくまでも精霊基準での助けなので、意思の疎通が上手くいかない場合アマンダのような最期を迎える事もある。


 本来は目に見えないはずの精霊だが、例外はある。

 ミリアの肩に乗っていた鳥精霊のように実体を持って誰の目にもわかるような状態でいるものも中には確かに存在しているわけだ。


 基本的に世界中どこにでもいると思われている精霊だが、場所によっては精霊が少ない土地もある。

 そういった場所では魔法を使おうにも中々助けてくれる精霊がそもそも近くにいないために魔法が発動しない、なんて事もあるわけだ。


 そして恐らくこの帝国がある土地、ここも何となく精霊が少ない気がする。


 声が、ほとんど聞こえないのだ。

 普段から精霊の声を聞いているわけではないが、それでも意識を集中すれば聞こえない事もない。むしろ精霊は人の手助けをする存在だ。声が聞こえるとわかれば喜んで話しかけてくる事もあるし、実体を持たない存在でも姿を見る事ができるといった相手がいればそれはもう構って構ってとばかりにやってくる。


 自分という存在を認識してもらうには魔法を使う相手の手助けをして、魔法が使えたという事実によってそこに精霊が存在しているという事を認識してもらう、とかいう状態なわけだしそりゃ魔法を使わなくても認識できる相手なんていたらそりゃそうなるよな、とはわかる。


 けれどもこの辺り、意識を集中させてみてもあまり精霊の声が聞こえなかったのであぁ、少ないんだなーとは理解していた。具体的には村に来る前には既に。


 けど全くいないってわけでもないはずだ。

 現に村娘の一人が魔法を使おうとして不発に終わった事はあるけどその前は使えたみたいな事を言ってたわけだし。

 夜になって暗くなってきたのだから、部屋の明かりを灯したりするのに魔法を使ったりしたのだろう。

 さっきまで使えたのに今は使えないとなれば驚くのも仕方がない。魔法を使い慣れていればそういう事もある、で済ませられるが状況が状況だ。あの場合は混乱しても仕方がなかった。


 例えばミリアのように常に精霊が一緒にいるのであればそういう事態に陥る事はない。

 だからこそ、今ははぐれてしまったあの二人が心配ではあるが、どうにかなると思っている。魔法という手段が封じられたならかなり心配する度合いが上昇するけど、魔法が使える状態なら余程の事がない限りはどうとでもなるだろうと思っているからだ。



 さて、俺もそういった意味では魔法が使えないという状況に陥る事がない。

 さっき魔法が使えない村娘の部分で俺もちょっと戸惑ったけど、よく考えたらその戸惑いは無意味だったと思いだしたのがそれだ。

 そもそも俺の傍にもずっといるもんな、精霊。


 とはいえずっと一緒にいてずっと行動や言動を見張られて……いや別に監視とかそういう意味でやってるわけじゃないのはわかってるんだけど、それはそれで落ち着かないからってんで普段はなるべく姿を見せないようにしてもらっていたり、宿の部屋とかの外で待機してもらってたりしてたわけだ。


 そう、だから多分俺が前世の記憶ばっちり蘇って人を殺して正当防衛だとは思うけどどうしてこうなってるんだおろろろろ、みたいに混乱してた時の事も多分そこまでガッツリ見たり聞いたりはされてないはず。


 野宿の時に見張ってくれてる精霊ってのもこれ。

 俺が魔法発動させる時に力を貸してくれるのもこれ。

 長い付き合いだからちょっと言葉足らずでもそれなりに通じてるのには大助かりであるわけだ。


 ミリアの鳥精霊に関しては名前があるのか知らないが、俺の周囲に常にいる精霊には名前がある。


 それが、先程俺が口に出したアリファーンだ。


 鎧の上半身が溶け、下半身だけが残った状態のそれを一瞥する。

 何も知らない奴が見ればどうしてここに鎧の下半分だけがあるのだろうか、と疑問に思うだろうくらい不自然さしかない。中は真っ黒になっていてわからないが、わざわざあえて中を確かめようなんて思うはずもない。

 燃えて、燃え尽きて炭になっているどころか、果たして残る何かがあったかもわからないが、ついさっきまで確かに中に人がいたという事実を知っている以上転がっている足部分を拾い上げて中身を確認しようなんて思うはずもない。


 俺がさっき村を焼き尽くした時に力を貸してくれたのもアリファーンだろう。基本的にどんな種類の魔法であっても手を貸してくれるけど、こいつは特に燃やす事に関しては特化している。


 ふ、と空気が揺らぐのを感じた。

 見れば俺の正面にはいつの間にやら人が立っている。


 いや、人の姿かたちをしてはいるけれど、実際には人ではない。


 今の俺の身長が大体百七十そこそこだが、その俺よりもほんのちょっとだけ高い背。身体つきはがっしりしているわけでもひょろっとしているわけでもない。

 けれどもパッと見ただけでは性別がどちらなのか、まるでわからなかった。


 赤い髪はまるで炎のようにも見える。

 顔立ちは整っているが、これもまた男女どちらかはっきりわからないものだった。

 金色の目が、じっと俺を見ている。


 生まれ変わった俺も正直びっくりするくらい顔立ちが整ってると自負できるわけだが(何せエルフだし)、彼、いや彼女? もちょっとどう言っていいのかわからないくらいに整っている。整い過ぎて良くできた人形と言われれば十人中十人が納得してしまうだろう。じっと黙って立っているか座っているだけなら間違いなく騙せる。瞬きをしたりちょっとでも動けば人形だと思っていた者はさぞ驚く事だろう。


「ほめて」

「……おう、助かった。ありがとな」

「もっと」

「いつも助かってる」

「もっと」

「そのうちマイホームとかできたら神棚作って祀る事にする」

「何か思ってるのと違う讃えられ方ぁ……」


 なんかもっとこう、あるでしょ!? なんて言っているが、これ以上どう言えというのか。

 ちなみに声も正直男なのか女なのかわからないので精霊に性別を求めるのがそもそもの間違いなんじゃないだろうか、と思わなくもない。いや、もっと性別はっきりしてるタイプの精霊もいるにはいるけれども。


 アリファーンの声はなんというか、男と言われれば男に聞こえるが女と言われれば女に聞こえる、みたいなどちらにでも受け取れる声だ。

 アニメで少年の声を女性声優があてているような感じだろうか。いやでもあれはあれでちゃんと少年と言われれば少年に聞こえるな、って感じだからまだそっちのがハッキリしているかもしれない。


「ともあれ、助かった。また頼む」

「……まぁ、いいけど」

 まだ不満そうではあったがそれでもしぶしぶと引き下がる。


 アリファーンとは過去にちょっと……まぁ、あったせいでお互い距離をはかりかねているといった部分がある。そんな状態でもずっといるので俺の方も少しずつでも歩み寄ろうとしているところ、といった感じか。

 個人的には今くらいの距離間でいいような気もしているんだけどな……


「一応忠告しておくけど、このあたりとてもイヤな感じしかしないよ。魔法に関してはキミは問題ないけど……精々気を付けて」

「あぁ、わかった」


 ホントにわかってるのかな、なんて呟きながらもアリファーンの姿が消える。

 あいつが姿を消したのは単純にここにそのままの姿でいると色々と危険だと判断したのと、あとは……俺がまだ異世界転生したという事実に気付く前、そう頼んだからに他ならない。

 まぁ今ここでずっと姿出されたままでも余計な面倒ごとが発生しそうだからな……そう、例えば、ルフトに対する説明だとか。


 ともあれ、まずは吹っ飛んでったルフトと合流するべきか。

 気配はあるからまだ生きてるはず。とはいえ……無傷とはいかないだろうな。

 すっかり暗くなってこれ以上どこかに移動するにも厳しいし、ルフトと合流したらまずは手当してそれから……ここで野宿、だろうな。

 そう考えるともう気分が滅入りまくりなわけだが。


 帝国で何故か俺の事が知られてるらしいし、そうなると人間に変装してももしかしたらマトモな町や村で宿に泊まれるかどうかも疑わしくなってきたぞ……え、流石にずっと野宿はイヤすぎるんだが。

 こんな事なら先延ばしせずにしっかり良さげな寝具を揃えておくべきだった……!

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