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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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切り札



 帝国兵との戦いは中々に苦戦した。

 そもそも最初の時点で人数に差がある。

 その時点でもう不利だ。

 囲まれないよう立ち回って相手の攻撃を防いだりしたものの、これ囲まれたら逃げ場はないし相手の攻撃を回避しようにも囲まれた時点で動ける範囲が限られるしでいずれフルボッココースが確定。

 背後だけはとられないように注意しつつ動いているが、不利だと思うのはそれだけじゃない。


 装備の差が! ありすぎる!


 相手が全身鎧と盾という防御ガチガチ状態なせいで、こっちの攻撃がほぼ通らない。


 ゲームでいうなら通常攻撃だとダメージが与えられなくて、特技とかスキルとか必殺技みたいなの使ってようやくダメージが入るみたいなやつ。だがしかしダメージが通ってもしょぼい感じでしか与えられない、みたいな。ゲームだったらぶっちゃけこれ、あっ、負けイベントなんだなとか早々に思ってさっさと死ぬやつ。

 実際にこれが負けイベントならまだしも、現実に負けイベントっていうものがそもそもあるのかとても微妙なのでここで抵抗するのをやめてやられるという選択肢はないんだけどな。


 まず足とか言ってたし!

 何、折られんの? 切り落とされんの? どっちもノーサンキューだわ。


 次に喉とか言われてたし。

 これ絶対潰されるよな。下手したら声帯切られるとかいうやつだよな。

 こいつら人の命をなんだと思ってるというのか。


 え、何? エルフだから人じゃない?

 生物って時点で動物虐待ですけど!? 人間も一つの生命として枠組みしちゃえば動物ですけど!? 動物虐待とか人として屑じゃん! くそっ、動物愛護団体は一体何をしている!

 いやまぁ、異世界にまで出張してきたらそれはそれでガッツ凄いなってなるけど。

 むしろエルフを愛玩動物の括りに入れられるとそれはそれで困るけれども。絶対各地でエルフと人間種族との対立が激化する。今そこまでギスギスしてるわけじゃないけど絶対ギスギスする。


 脳内でそんな事を考えつつも、どうにか二人は倒す事に成功。


 前に一応帝国兵と戦った時の事が参考になった。


 鎧があるから自分の武器だけじゃ確実に攻撃は通らない。魔法を使おうにも統率のとれた動きで接近されてしまっては中々使えない。

 魔法を発動させた時点で自分にもその影響が、なんて事はないけれど仮に帝国兵の一人が火だるまになったとしよう。その状態で抱き着かれでもしたら流石に俺もダメージを受ける。

 火以外でも相手が捨て身でやって来た場合は危険だ。


 だからこそ俺はルフトを見習って剣に魔力をこめて威力の底上げをした上で切り合っていた。これなら頑丈な鎧であってもそれなりにダメージは通る。


 二人いなくなった事でいくらか立ち回るのも楽になってきたが、まだまだ油断はできない。

 危ない時はルフトが援護に回ってくれているが、ルフトに頼ってばかりもいられない。

 というかルフトの方も見た目にわかりやすい怪我こそしていないが、大分息が上がっている。長期戦に持ち込まれればこちらが危うい。


「中々やるな……」


 一人倒して残るは三人。

 隊長らしき奴が感心したように呟いた。


 威嚇程度の威力の魔法をぶちかましたりもしたけれど、あの鎧マジで頑丈過ぎて石投げつけた程度の意味しかなさそうなのが困りもの。もっと高威力の魔法をぶつければどうにかなりそうだけど、下手をすればルフトを巻き込みかねない。


 状況が状況じゃなければ撤退も考えたけど、俺たちは帝国に潜入した状態なわけで。ここで逃げたら帝国に俺らの存在が知られてしまう。

 いや、そもそも俺何か既に知られてるっぽいけど、存在をただ知られてるのと、ここにいますよって知られてるのとは別物なわけで。

 俺だけが知られてるならまだしも、場合によっては俺と行動を共にしていたハンスの事も知られている可能性だってある。

 いや、あいつらはそうだとしても上手くやってくれると思うけど、ここで俺らが逃げた事で帝国各地に伝令でも出されてみろ。そうなれば俺たちだけじゃない、ハンスとミリアも格段に身動きがとれなくなるだろう。


 考えれば考えただけ、ここでこいつらを倒すしかないという結論にしかならない。


 魔力込めて剣で殴り掛かる真似しても、正直そろそろ腕が限界なんですけど……パン切り包丁でマグロ解体してるみたいな明らか手段を間違えてる感ある。下手したらこっちの剣がそろそろ限界迎えるんじゃなかろうか。


「こちらも本気を出す事にしよう」


 うっわ何か変身するボスキャラみたいな事言い出した!

 本気じゃなかったんか!

 勘弁してほしい。ゲームだったらもうMP尽きて回復アイテムもなくなりかけてどうにもならなくなったみたいな気分なんですけど!? いや俺はまだ魔法使えるけども。


 本気を出す、と言われても見た目からしてわかりやすい変化はないのだろうと思っていた。

 ところが俺の予想をあっさりと裏切って、隊長格の男の全身を黒いオーラが覆い始めた。

 え何。マジで変身しちゃうの?


 ゆらりと禍々しくも感じられる黒いオーラが一度男を覆い、竜巻のように勢いを増した後は一度霧散したかのようにオーラが見えなくなる……が、再び足下から湧き上がるように黒いオーラが男に纏わりついている。

 明らかに変身したわけじゃないが、あ、これヤバいな、というのはわかる。

 気配というか存在感というか、何というかとにかく圧倒される雰囲気があるのだ。前世でこんなのと遭遇してたら確実に遠巻きにされてるし、下手したら警察呼ばれてる可能性もあるわ。職質まったなしですわ。

 何かもう既に何人もの人殺しましたみたいなヤバい雰囲気すごいするもん。

 いやさっき村の連中殺してたから人殺してたのはそうなんだけど。


 その黒いオーラがどういった効果があるのかもわからないし、こっちから下手に仕掛けるのも何か嫌な予感しかしなくてどうしたものかと身構える。相手の攻撃を受け止めるのも何か嫌な予感しかしないし、何があっても意地でも避ける。そのために相手の動きを一瞬たりとも見逃さないように見据えた。


 向こうも盾を構えた。剣の方ではなく盾だ。そして――


「え――?」


「か、はっ……!?」


 気付けばルフトが吹っ飛んでいた。

 ちょっと数メートル程、といったどころじゃない。下手したら数十メートルは吹っ飛んでいる。一瞬で近くにいたはずのルフトの姿が見えなくなる。


 は? 冗談じゃないんだが?

 何があったのかさっぱり見えなかったが、何をされたかはわかる。

 盾を構えてあいつは突進した。ルフトに向かって。

 結果としてその凶悪な体当たりを食らったルフトが吹っ飛んだ。

 ただ、それだけの話だ。


 これが剣であったなら。

 今頃確実にその身体を貫かれていたことだろう。

 そう考えればまだ盾で良かったと思うべきだろうか。

 いや、あれはあれで結構なダメージ食らってそうだけど。けど気配を手繰ればまだ死んでないようだし盾で助かったと思うべきか。剣だったら死んでた。


「さて、次はお前だ」


 言って男は剣を構える。

 俺の死へのカウントダウンが始まった――


 とか言ってる場合じゃないんだわ。


「くっ、凍れ!」


 咄嗟に放った魔法はしかし、黒いオーラに阻まれるようにかき消された。


「無駄だ。精霊の加護により我らに生半可な魔法は効かぬ」


 さっきまでは一応多少なりとも効果があったような気がしたが、黒いオーラが出てからそうなったって事は本当にそうなんだろう。加護と言われるととても大仰な感じもするが。

 けれどもその言葉がハッタリでない事も理解できた。

 さっきまでならまだ攻撃を受け止める事もできていたけれど、黒いオーラが出てからの事はルフトの事で証明されている。

 ゲーム的なステータスで考えるなら攻撃力が上がったと思うべきかもしれないが、恐らくは単純に身体能力が増している。

 攻撃力が上がるだけなら魔法をかき消すなんて事もないからだ。


 視線を巡らせる。俺の逃げ場を奪うように、封じるように残る二人がすっと前に出てきた。見ればこちらもうっすらとではあるが黒いオーラを纏っている。

 隊長格よりは目立つ感じじゃないけどこいつらもか……

 こういうのせめて隊長格だけの特権とかそうであってほしかったなー……


 ともあれ今、ルフトは遠くに吹っ飛んでいってこの場にいないし、俺一人でこの三人をどうにかしないといけない。……無理ゲーでは?

 ある程度攻撃が通るとかであればいいけど、これどう考えてもさっきより防御力も増してるとかだろ。攻撃してもダメージ1とか下手したら0とかなのでは?


「覚悟はいいな、まずは足だ」


 はー、こうなるとさっきのセリフのまずは足で、次に喉ってのがよくわかるわ。

 こうなれば魔法は脅威でもないもんな。普通はまず魔法をどうにかしようって思うはずなのに足が最初に出た時点で何か変だなとは思ったけど、こうなってしまえば理解するしかない。


 俺にできる事は現在驚く程少ない。取れる行動を即座に考えてみても、この状況をどうにかできるかとなればとても微妙だ。勝率を叩きだそうとしても可能性はびっくりするくらい少ない。その少ない可能性に賭けるにしても、ほぼ負けが見えてる状態だ。奇跡を望むにしても無理がある。


 普通の手段であれば、の話だが。


「……諦めたか?」


 剣を手にしていた腕を下ろした俺を見て、隊長格が問いかける。


「いいや、その逆だ。なぁ、助けてくれないか」

「命乞いか? 今更」

「いや、お前らには言ってない。なぁ、僕をこいつらから助けてくれ。今の僕じゃこいつらを倒せそうにない。

 頼むよ、アリファーン」


「誰に助けを、ぉ、ぎゃあああああああああ!?」

「うわああああああ!?」

「燃え、燃えて、ひぎぃああああああああ!?」


 隊長格と残った二名の悲鳴が重なる。黒いオーラを纏っていた鎧が赤く染まる。中は既に炎で満ちているのだろう。悲鳴、いや絶叫が響き渡り、手にしていた剣と盾を取り落とす。先に地面に落ちた剣、盾と比べると鎧がおかしいというのは一目でわかった。

 鎧と盾はほぼ同じ色だったはずなのに、今は盾と比べると鎧が圧倒的に赤く染まっている。


 悲鳴は途絶え、今は命を乞う言葉が漏れ出ているようだがもう手遅れだろう。鎧が溶ける。出来の悪い飴細工のようにどろりと溶けて地面に落ちる。既に中身は存在していないのだろう。もう声は聞こえない。


 正直、この手段だけは使いたくなかったんだがなぁ……

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― 新着の感想 ―
[一言] お?カリファーンが精霊だとしたら助けてくれなんて曖昧な願いでも意図を汲んでくれる精霊なのかな??? 都築が気になるずぇ
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