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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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唐突な別れ



 かわり映えのしない景色。進めども変化のない周囲。出てくる魔物もそろそろワンパターン通り越してこちらを敵に回すのは得策ではないと他の魔物同士で連絡でも回ったのか、出現率が低下してきた。

 単純に倒した結果数が減って出てこなくなっただけかもしれない。


 けれどもそこはどうでもいい。


 毎日毎日同じことの繰り返し……とかちょっとアンニュイな面持ちで呟いたりモノローグで語ったりするような状況を延々と続けてきたわけだが、とうとうと言うべきかようやくと言うべきか。

 洞窟の終わりが見えてきた。


 魔法で照らした明かりとは別の明るさが随分先ではあったが確かに見えた。光が差し込んでいる。

 それを見て理解した途端、まずハンスが歓声を上げた。


「外、外だー!」

「やったね! これでもうこんな場所とはバイバイなんだね!」


 ミリアと手を取り合ってキャッキャして、更にはルフトまで巻き込んだ。

 巻き込まれたルフトは完全に戸惑っている。


「旦那、早く、早く行きましょう! 外ですよ外!」

「落ち着け」


 雨のせいで数日散歩に連れていってもらえなくてようやく晴れたから散歩に行けるとはしゃぎ倒す犬のようなテンションになってるぞ。

 実際ハンスが犬でも何の違和感もないなと俺の中で思い始めてきた。


「外、ってテンション上げるのは構わんがせめて最低限警戒はしろ」

 勢いよく外に出たとして、丁度魔物と出くわしたりだとか帝国の人間と出くわしたりしたらどうするつもりだ。流石に帝国の人間と早々にエンカウントする可能性は低いけれど、勢い余って外にいる魔物と激突する可能性はそれなりにあるような気がする。


 正直外に魔物がいる可能性はそれなりに高いからな。

 人里に近づいたりすることは滅多にないけれど、人里以外であればそれなりにいるわけで。


 俺の忠告を一応は聞きいれたのか、多少は落ち着いたようだ。


「そうだった。何かもう洞窟から外に出られるって思ったけど、この先もまだまだ危険な事にかわりはないんでしたっけ。よし、大丈夫です旦那。勢いだけで突っ走ったりしません!」


 ……勢いだけで、って事は勢いとそれ以外の何かがあれば突っ走るって事か……それなりに付き合いの長いハンスの言葉を読み解くとつまりそういう事になるわけだが……

 とりあえず先頭を行くのは俺だし、出た途端に何かあってもまずその矛先は俺に向かうはずだから、多分大丈夫だろう。


 出口に近づくにつれて、魔法で出していた明かりを消していく。一応警戒しつつぽっかりと開いた洞窟の終着点から出ると――


 そこは、山道だった。


 山、といっても木々が、とかそんな感じじゃない。赤茶けた土や岩が多く、フロリア共和国側の山と比べて何となく殺風景だ。

 周囲を見回すと山道といっても何というか横道に逸れに逸れた結果、みたいな所だ。洞窟から出る少し前から水音が聞こえていたが、俺たちがいる場所から少し下の方に川が流れているのが見えた。

 ゲームのダンジョンなら完全に外れルートみたいな感じだな……

 一応足下を見る限り、多少舗装されてる気がするがあくまでも最低限といった感じか。


 ……昔はそれなりに人の通りがあったけれど、今はもう誰も通らなくなった結果荒れた、といったところだろうか。

 ヒキュラ洞窟が鉱山とかで鉱石が採掘できます、みたいな場所ならともかく、それなら内部はもっと入り組んでいただろうし、となるとこの辺りで暮らしていた誰かがいた……?

 異種族であれば帝国の目を逃れるようにこういった場所で過ごしていてもおかしくはない。一番は帝国からさっさと逃げ出すのが良いわけだが、事情があってそうできない者などが隠れ住んでいた……というのは無いとは言えない。


 ……考えた所で正解がわかるはずもない。精霊に聞いてみたとして、わかるかどうかは半々だ。この辺りに昔からずっといる精霊がいればともかくずっと同じ場所に留まる精霊はそれなりに力を持っている事が多いしそうなると肉眼で確認できる程度の力を得ていてもおかしくはない。それこそミリアの肩に乗る鳥精霊のように。


 けれどもそういった存在は気配も何も感じ取れないのでいないとみていいだろう。


 とりあえず周辺に魔物らしきものがいる感じもしないし、帝国の人間がいる様子もない。

 ひとまず周囲をぐるっと見回してみる。

 どうやら俺たちが今いる場所は大体山の中腹といったところだろうか。

 上を見れば山頂まではまだありそうだし、下を見れば川が流れている。

 こうして見るとそうでもないように感じるが、恐らく流れはそれなりにありそうだな。うっかり落ちたら大変そう。いや、前世俺ならともかく今の俺が落っこちて川流れとかそんな事は流石にないだろう。

 でもまぁ落ちたとしても一応泳げない事もないので大丈夫なはず。何かやべぇ肉食魚でもいない限りは、きっと、多分……


 いつまでもこの場にいても仕方がないのでまずは道なりに進む事にする。

 引き返すとなればヒキュラ洞窟だし、正直またこの洞窟通るのはちょっとな……俺は平気だけどハンスあたりが発狂しかねない。真の暗闇とかそういうわけでもないけど、それでも人間の精神にはあまりよろしい環境ではないもんな、あれ。


 進んでいくと、吊り橋が見えた。

 ここまではほぼ一本道。吊り橋を渡らず無理にここから上を目指すとしても、正直移動が難しい。

 強引に斜面になってる山を登っていけば上に行けなくもないが、土が柔らかくまた木や草が生えてるわけでもないので掴まる場所がない。登るにしても途中で滑り落ちそうなので、下手にここから上へ行くよりは素直に道なりに進んであの吊り橋を通るしかなさそうだ。


 魔法で滑らないようにして移動するにしても、果たしてその意味があるかもわからない。山で遭難した時は一度山頂を目指した方がいいとは言われているが、別に俺たちは遭難しているわけでもない。とりあえずまずは下山したいと思ってはいるけどまだ遭難したと断言できる程の状況でもない。

 まずは道なりに進んでみて、そこから先どうにもならなくなったら改めて山頂を目指す事もあるかもしれないが、いきなり山頂を目指すのもどうかと思う。


 というか、一応山頂っぽい部分は見えてるんだここからでも。

 木々があるでもないはげ山だから、むしろここで遭難するかという気もする。


 草木が生い茂っていて視界を遮っている、とかであればまだしも、この状況で迷う方が難しい気がしてくる。


 先頭は相変わらず俺、次にハンス、ミリア、最後にルフトの順で吊り橋を進む。


「いやー、揺れっ、揺れてる……ッ! 足下もなんかギシギシいってるしこれ大丈夫かな旦那ぁ!」

「知らん。吊り橋なんてこんなものだろ」

 それでなくとも結構な間使われてないだろう吊り橋だ。むしろこんなものではないだろうか。


「念の為言っておくがミリア」

「はーい、なになに?」


 正面を見たまま後ろのミリアへ少し大きめに声をかける。


「まかり間違ってもはしゃいで飛び跳ねたりするなよ」


 高いだの揺れるだの言ってるハンスはやらかさないだろうし、ルフトもしないだろう。むしろこの中であえてそんな事をやるような気がしなくもないミリアに念の為言っておいたが、どうやらミリアはそんな俺の言葉がお気に召さなかったらしい。


「む、流石にこんなところでしないもん! ルーカスひどーい、ミリアさんそこまで考えなしじゃな、あっ!?」


 あっ、て何だ。

 そう思って後ろを振り返ると、橋板が丁度限界を迎えたところだったのだろう。バキッと音を立てて崩れ、そこに穴が開く。後ろへ倒れそうになっていたミリアは咄嗟に体勢を整えようとしたが伸ばした手は何をつかむでもなく空振りに終わる。

 ミリアの後ろにいたルフトが咄嗟に支えた事でどうにかなったが、吊り橋は大きく揺れた。


 ぎぃ、ぎぃ、と軋んだ音が足下や側面にある縄部分からも聞こえてくる。

 これは……不味いかもしれないな。なるべく早く渡りきりたい。けれどだからといって走ったり大股で突っ切ろうとすれば、脆くなっているだろうこの橋は簡単に崩壊してしまうだろう……


「あ、りがとね、ルフト。あぶなかったー」

「いえ、気を付けて」


 穴の開いてしまった部分に足を突っ込んだり取られたりしないよう注意しつつミリアはそろりと進み始める。

 ルフトもまた開いた穴を避けるようにそっと足を伸ばした。


 ばきっ、という音がしたのは直後の事だ。

「ひゃ、わ、わわわっ」

「ぅえっ!? ちょっ、何!? な、ひゃああああああ!?」


「おっ、おい!?」


 またもや耐久度がゼロです状態の部分を踏み抜いてしまったミリアは、今度は前のめりに倒れかけた。

 そうして咄嗟に手に触れたものを掴んだ結果、それはハンスだった。

 背後からきた衝撃にわけもわからずその場で踏み止まろうとした結果――


 先程とは比べ物にならないような状態で、大きく橋板が崩れた。

 さっきのは精々足が一本通るくらいの穴だったから、仮に落ちたとしても股間のあたりで止まるはずだった。いやそれもかなり間抜けな光景になるだろうけど。いや、片足だけなら膝のあたりで止まっただろうか? どっちにしろ尻もちついて終わるようなサイズの穴だった。


 けれど今度のは大穴――ミリアだけではなく掴まれたハンスをも巻き込むような大きな穴だった。

 当然そうなればミリアもハンスも吊り橋から落下して――


「あとで絶対合流するからー!!」

「いやちょっとミリアさああああああん!?」


 どぼしゃーん。


 そんな感じの音を立てて、二人は随分下の方を流れている川へと落下していった。ちなみにミリアの肩に止まっていた鳥精霊は川ギリギリの部分を飛んでいる。


「いやそこは魔法使えよ」

 思った以上に流れが速いらしく、鳥精霊は川の中のミリアを追っているのか水面ギリギリを移動しているが、それもあっという間に見えなくなってしまった。

 だからこそ、俺の突っ込みは聞こえるはずもなかっただろうし、仮に今から俺が魔法で、とかやるのもちょっと手遅れ感がある。


「これ、ボクたちはどうすれば……?」

「後で合流するって言ってるわけだし、僕たちは構わず進めという事だろう」


 流石に俺もこの穴から紐なしバンジーして着水のち流され、なんて真似して追っかけたくないしな。泳げるけどこんな高い場所から飛び降りてとかは中々に勇気がいるぞ……?

 そういうわけで俺はミリアの言葉を信じる事にしてまずはこの場を脱する事にする。正直いつ崩壊してもおかしくない吊り橋の上にいつまでもいたくない……!


 そういった意味ではルフトも同じだったようで、大きく開いた穴を避けるようにギリギリ端の方へ移動して縄を掴みながらそっと移動を開始し始める。


 ミリアが後で合流するって言ってるからそこは心配してないが、どっちかっていうとハンスが心労で大変そうだな、とは思う。

 まぁ、あの二人なら多分大丈夫だろう。多分。

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