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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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お急ぎ便洞窟



 国境以外で帝国へ入り込むルートはいくつかある。


 一つ、ケーネス村の近くの山付近にある洞窟。

 しかしこちらは塞いでしまったので現在は通行不可。魔法で塞いだ道を開通させるつもりはない。


 二つ、アジール大森林。

 ルフトが帝国からこちらにやってくる際に通ったとの事だが、本人も言っていたがお勧めしないルート。

 何でって魔物が多いからだよ。別名魔の森。

 ロジー集落も森の中にあるわけだけど、そこと比べるともう天国と地獄。ロジー集落のある森はそもそも住めるもんな。アジール大森林で暮らそうとかいくら森の中での生活に定評があるエルフだってノーサンキューだわ。俺だって御免被る。

 むしろそこで暮らせとか言われたら幼い頃に故郷を焼き払われた挙句ここで暮らせと!? みたいな感じに全力で被害者ぶるわ。三百歳の本気の駄々こねを見せてやるしかない……! とか絶対おかしな方向に覚悟決める。


 俺は直接行った事がないアジール大森林だけど、あの森入って中心部に行くにつれてじめじめというか、湿度が高いみたいなんだよな。熱帯雨林とかいう単語が普通に浮かぶけど、実際そうなのかまではわからん。

 ただ、進めば進んだ分だけ不快指数が上昇するようなところでなおかつ魔物と遭遇する確率も高いとなれば、正直そこから行こうとは思わないんだよな。


 一日や二日で抜けられる距離でもないし、そうなると湿度の高いじめじめした森の中、夜を明かす事もあるわけで。

 真夏のくっそ暑くて寝苦しい日とか想像するといいだろうか。それだけでもきついというのに更にそこに魔物とのエンカウントというドキドキイベントがあります、とか控えめに申し上げてクソ。


 何かそこでしか採れない貴重な薬草があるとかいう話だけど、それくらいの恩恵というかプラス要素がなければ完全にただのじめじめした森。

 いや、その薬草が欲しい相手からすれば、逆に最悪かもしれないな。そのためだけに魔の森に行かなきゃいけないわけだから。


 ともあれ、アジール大森林は流石にちょっと、と思うので却下。


 三つ、トルペ山脈。

 フロリア共和国と帝国の両方にまたがるようにして存在してる山はケーネス村の近くの山もそうなんだけど、こっちの方がまだどうにかなりそうな気がしなくもない。

 魔物の巣がそこまでないという点においては。

 ただ、問題としてこの山に暮らしているらしい異種族が少々厄介といえば厄介か。

 すんなり通してくれればいいが、下手に絡まれるとそこで確実に足止めを食らう。強引に振り切っていこうにも、そいつら強いらしいからな……帝国でやる事があるのにそこで力使い果たして、とか考えるとここもできれば遠慮したい。


 四つ、ヒキュラ洞窟。

 ここもある意味魔物の巣窟だが、アジール大森林に比べればマシな気がしている。すくなくともじめじめはしてない。洞窟の内部もそこまで入り組んでるわけじゃないらしく、迷う事もなさそうっていうのもポイントが高い。

 アジール大森林とかも進めば最終的に帝国に辿り着きはするだろうけれど、下手をすれば道に迷う可能性がある。魔物と遭遇して戦ってるうちにちょっと方向感覚狂ってどっちから来たっけ? みたいにならないとも限らない。

 まぁ、精霊に道尋ねればどうにかなるとは思うけど、それも完全にアテにしていいものではないからな……


 それに比べればまだこっちの方が道に迷う事がほぼない、というだけでマシな気がする。

 魔物もそこまで強くはないらしいし……ただちょっと数が多いらしいが。


 五つ、メレーベ湖。

 湖、とは言ってるが正直湖ってこんなんだっけ? みたいな規模。

 対岸が見えてるとかならまだいいが、見えない。

 帝国側からもここを利用してこっちに来る可能性が一時期考えられたが、この湖にも魔物が棲んでるらしいので油断はできない。

 こっそり侵入するのであれば目立たない小舟で夜陰に乗じてとかそんな感じでやってくるのがベターだと思うのだが、湖の規模がそういうのをやれる感じじゃない。


 湖そのものにちょっと足をつけたくらいでは魔物もすぐさま襲ったりはしないけれど、中心部に近づくあたりで襲い掛かって来るらしい。

 小舟だと下手をすれば破壊され、泳ぎに自信がある者であったとしても船を壊されて湖にドボンした直後からすぐさま動けるわけでもない。

 ……人魚とか魚人とか、そういった水の中でも俊敏に動ける種族であればともかく、そうでなければ湖の中心近くで水の中に投げ出された時点でほぼアウト。


 メレーベ湖に関しては正直とても遠慮したい。

 実際そんな体験したら確実にトラウマになる。泳げなくなったらどうする。

 いや普通は泳げる以前に生きて帰ってこれるかが疑わしいというかほぼ絶望的なわけだが。


 この湖を行くのであれば、まず小舟とかちゃちなものでは無理。いっそ軍艦レベルのやつじゃないと向こう側に無事にたどり着けないんじゃないか? という気がしている。

 しかしそんなゴッツイ船で移動してみろ。バレるわ。国境があるにも関わらずそれを無視してここから向こうに、なんてなれば密入国だし武装した船とか宣戦布告ととられてもおかしくないし、逆に帝国がこっちに来た場合もすわ開戦かみたいになるわ。

 仮に魔法でステルス機能みたいなのつけるにしても、ずっと持続は無理。きっつい。仮にやって成功したとしても、向こうに着いた頃には疲れ果ててぐったりしてしばらく使い物にならないのが確定している。



 こうして考えると、アジール大森林とメレーベ湖は無いわ……ってなるな。

 どこも魔物が出るのはほぼ確実だけど、その中でも群を抜いて嫌だなと思うこの二つよ……


 メレーベ湖なんかは水際でちょっと遊ぶくらいのノリでキャンプするくらいなら安全ぽいけど、そこを越えろとなれば危険度が一気に跳ね上がるし、水の中に引きずり込まれた時の事を考えると俺たち全員不利すぎる。

 魔法で水中でも呼吸できる事はできるけど、咄嗟にそれができるのは俺とミリアくらいだ。

 ハンスとルフトを助けるのがちょっとでも遅れたりすると色々怖いのでここを選ぶのはないなとより強く思う。


 仮に冬であれば湖が凍るかもしれないけど、湖の底にいる魔物が氷の上を歩く獲物に襲い掛からないとも言い切れないので……どっちにしても危険。

 夏だろうと冬だろうと湖の中に引きずり込まれるとかとてもイヤすぎる。


 一応候補としてはこれだけある、というのを提示した結果、ハンスとルフトもアジール大森林の他にこのメレーベ湖はないなと思ったようだ。


 となると考えられる候補はトルペ山脈とヒキュラ洞窟。


 トルペ山脈に暮らす異種族は強く、魔物の巣が近くにあっても問題なく暮らしていけるらしいので味方にできれば心強い、とミリアが言っていたが、同時に彼らは宴会とかどんちゃん騒ぎとかそういうのが好きな種族らしくてだ。

 旅人が訪れれば歓迎の宴を開き、長々拘束される可能性は否定できないとの事。

 以前そこで引き留められた人がいたらしいのだが、ミリアの知る限りでは一人は三か月、もう一人は一年程そこで暮らす事になったらしい。どんだけ宴してんの。

 宴も普通に飲めや歌えや踊れやのどんちゃん騒ぎで済めばいいが、場合によっては何かそこからファイトクラブみたいな展開になったりすることもあるとかどうとか。


 ……トルペ山脈もないな。なるべく早めに帝国に行こうとしてる時にそこで足止めされるとなると、とても困る。強引にそこを突破する事も考えるが、余計な労力を費やすよりは素直にそこを通らない、という選択をした方がとてもマシな気がする。


「そうなると消去法でヒキュラ洞窟か」

「そうなりますね。念の為聞くけどそこはどうなの?」


 ハンスが恐る恐るといった感じに問いかけてくる。聞かれたミリアはふむ、と小さく声をもらし、手をそっと顎に添えた。


「少なくともこの中だと、多分一番マシなはず。というか、ここを使ったっていう人の話があまりない。組織の人で帝国に潜入した人、トルペ山脈とメレーベ湖経由」

「メレーベ湖から行ったの!?」

「湖の上を行くんじゃなくて、湖沿いに進んだみたい。けど、とっても遠回りだったって言ってた」


 湖沿い……まぁ、確かにそれなら水の中に引きずり込まれる心配はなさそうだけど……けれども真っ直ぐ湖を進むのに比べ、確かに遠回りにはなるわけで。


「具体的にどれくらいかかったんだ?」

「通った人の報告だと二か月だったかなぁ」

「流石にないな」


 急いでるんだからそんな時間かけたくない。


 逆に言えば時間さえかければそれなりに安全に進めるという事になるのかもしれないが、お急ぎの時には困りものだな。


「じゃあ、やっぱヒキュラ洞窟から行く感じですかね……」

「そういう事になるな」


 今まで帝国に潜入する奴らは、トルペ山脈かメレーベ湖沿いのルート、後はある程度準備を整えて国境をどうにかしたルートのいずれかなのだろう。

 俺らも国境をどうにかできれば、とは思うが……流石にこの見た目を完全に誤魔化すには少しばかり難しいものがあるので国境は最初から選択肢に入らない。


 時間をかければそれなりに安全に行けるルートがあるからこそ、大抵はそちらを選択した、と。

 まぁ俺ら基本守りの姿勢だからな。今のところは。

 急いで帝国に向かうにしても、近くにいる組織の連中に指示書出してそっちに任せたりしてたんだろう。

 近場にいるやつに頼んだ方が遠くにいるやつに頼むよりは同じ時間がかかってもスタート地点が近い分どうにかなる。

 けれども流石に今回ばかりは近場にいる奴に頼むわけにもいかない。


「ところで、肝心のヒキュラ洞窟ってどこにあるんです……?」


 アジール大森林やトルペ山脈、メレーベ湖なんかは地図にも記されているが、ヒキュラ洞窟に関しては地図のどこを見ても載っていなかった。となればルフトが聞くのも無理はない。


「ヒキュラ洞窟はね、ここ」


 言いながらすっとミリアが地図上を指し示す。

 困った事に、と言うべきか、それとも運が良い事に、と言うべきか……ヒキュラ洞窟はロジー集落からそれなりに近い場所に存在していた。

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