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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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限られた選択肢



 このままだと色々こっちが不利すぎるのでは。

 そう気付いてしまったが故に、俺たちは帝国へ潜入する事となった。


 ……わけなのだが。


 まぁぶっちゃけ帝国行くぞ、ってなったからってそう簡単に行けるわけじゃない。


 というか簡単に行ければ誰も苦労はしない。

 フロリア共和国内の街道を延々進んでいけばとりあえず最終的に国境付近の街へとたどり着く。フロリア共和国の中でも三番目くらいに大きな街であるそこは、ライゼ帝国と何かあった場合確実に戦火に巻き込まれる事が決まっている場所だ。最初の防衛ラインと言ってもいい。


 そこが敗れた場合、いくつかの防衛ラインは存在しているが帝国がどういうルートで侵攻するかによって変わる。生憎俺は軍師じゃないので帝国がどう動くかまではまったくわからん。

 けれども言える事といえば、ティーシャの街があるあたりまで侵略された場合、フロリア共和国を纏めている王城がある場所までは目前という事だ。そうなれば敗北は濃厚である。


 とりあえず国境付近の街まで行けば、帝国まではあと少し。それは確かなのだが。

 現状がこんな感じなので、帝国に行こうとしてもそう簡単に行けるはずもない。異種族はそもそも行こうとしないだろう。むしろのこのこと行けばどうなるかわかったものじゃない。

 一応、異種族は帝国に行くのそうハードル高いとかってわけじゃなさそうなんだけどな。何せせっせと捕らえて奴隷にしてる異種族が自らやってくるのだから、余程物々しい雰囲気でもない限りは向こうもウェルカムなのだろう。とはいえ、無条件で国境を通る事はできないわけだが。というか、仮にそんな堂々と国境から行ったらカモがネギ背負って挙句鍋とかその他具材一通り持って行くようなもの。というかもう調理直前であとは鍋に火をつけるだけみたいな感じすらある。


 行ったが最後帰ってこれなさそうだよな。これ。


 俺は見た目からしてエルフなんで行こうと思えば行けなくもない。まぁ国境越えた後は普通に狙われまくっておちおち休息もとれないだろうけど。

 ルフトもまぁ、耳とか見れば人間とはちょっと違うのがわかるから、彼も通ろうと思えば通れるはず。


 問題はミリアとハンスだ。

 この二人、ハンスはともかくミリアは異種族ではあるものの見た目は人間とそう変わらない。耳が尖ってるとか人間の瞳孔と比べると明らかに違いがあるとか、尻尾が生えてるとか羽が生えてるとかそういうのは一切ない。見た目だけで異種族と気付け、というのは少々無理がある。それはある意味で都合がいいのだが、国境を通る、というのを選択する場合は都合が悪い。


 人間至上主義と謳う帝国は、では人間は普通に通すのかと言われればそれも少し違う。

 一応通れない事もないが、通行手形とかその他にもいくつか検査項目があるらしいのだ。


 通行手形を手に入れれば通れる。それは他の国でも普通の事ではある。まぁ他の国でもそこまでキナ臭いわけじゃない場所は通行手形とか必要ない所の方が多いくらいなんだが。


 一応国境には、こちらから帝国に行く者もいるだろうけれど、その逆で帝国から出て行こうとする者もいるわけで。しかしそれが異種族であれば通すわけにはいかず、人間であっても少しばかり入念に調べるようなので、国境を使っての移動はやめておいた方がいいだろう。

 行くときは簡単に通れるかもしれないが、代わりに異種族狙いの誰かしらはいるだろうし、場合によっては速やかに連絡が通ってしまう場合、どこにいっても付け狙われる。

 帝国の情報を探るのにそれは流石に面倒ごとが大量に舞い込んでくる予感しかしない。


 だからこそ国境から行くのは正直得策ではない。そこ通ると確実に監視がつくと思っていい。

 これが自分たちには何もやましい事なんてありませんよ、というのであればともかく、帝国に潜入して情報を得るとか研究所とかそういう合成獣に関連する場所をどうにかするぞ! という目的がある俺たちからすればやましい事ありまくりなわけで。


 ミリアの話では何名か帝国に潜入した際、一部は山とか越えていったらしいが、アマンダは確か国境から行ったらしい。しかし帰ってくる時は国境以外のルートを使ったのではないか、と。

 まぁ、帝国から逃げるようにこっちに戻って来て、そんでもって行った場所が国境付近の街どころかそれ以外の町や村すっ飛ばしてティーシャの街だったからな……そこまで距離を取らないと安心できない事があったのだろう。


 国境以外のルートがないわけじゃない。平たく言うと密入国なわけだが、さっきちょろっと出てきた山とかな。ケーネス村の近くにあった洞窟や山を越えるのでも行けない事もないが洞窟は魔法で埋めたから使えないし、再度魔法で撤去して通るのもちょっとどうかと思う。

 山の方も魔物の巣になってるからそこから行くのも少しばかり面倒ではある。それに、どうにか帝国側に行ったとしても山を下りて、そこから近くの人里がどこかというのがわからない。帝国の中心部からは程遠いのでどうにか帝国に行くにしてもそこからの侵入は色々と割に合わない。



 と、まぁあれこれ考えたところですぐさまいい案が浮かぶわけでもない。

 俺とミリアだけで情報を完結させて次の行動に移るわけにもいかないし、まずはハンスとルフトにも話をするべきだろうという事で話したわけだが。


「えっ、旦那本気で言ってる? もう帝国乗り込むんです? いくらなんでも色々情報とか不足しすぎじゃない?」

「とはいえ、このままだとじわじわと削られる一方だぞ」


 正直帝国は時間をかければかけただけ有利になると言ってもいい。

 異種族を捕える事も、合成獣を解き放つ事も。こちらに帝国兵を送りこむ事も。戦力を整える事だってそうだ。捕らえられた異種族を解放するべく何度かそういった連中を叩きのめしはしたけれど、全部を叩きのめしたわけじゃない。テオの館のような場所で移送方陣が使えるのであれば、そこから捕らえた異種族を帝国へ送り込む事も可能なのだ。


 帝国兵が潜入してる程度であればもうしばらく国内の調査だけで問題なかったけど、ここにきて帝国で作った合成獣もこっちの国に来るように解き放ってるなんてなったら、時間をかけるのは不利だ。そんな情報流石に大々的に周知させるわけにもいかない。知ったら間違いなく大なり小なり混乱は起きる。


 隙を見せればそれこそ帝国側の思う壺。


 国内に潜入した帝国兵をどうにかするにしても、誰がそうなのかすぐにわかるはずもないし、移送方陣設置されてそうな場所を調べるにしたってそれなりの時間はかかる。

 それに一度破棄したからといっても、潜入している帝国兵が新たな場所で移送方陣を設置してしまえばそれこそいたちごっこだ。


 そう考えると、とりあえず帝国に行って合成獣だけはどうにかするのが一番確実な気がしてくるんだよな……合成獣に関しては流石に研究施設を破壊されたらすぐさま別のところで同じように研究を、と行けるか微妙なところだし、研究者をどうにかできればそれ以上の進展は見込めなくなるわけだからして。


 そういった説明をするとハンスも難しい顔をしながらも納得する他ないようだ。


「危険は承知の上。ハンスは別にこっちに残ってもいい」

「旦那が行くなら行くに決まってるでしょ!? ちょっともうヤだ旦那! なんでいっつもオレの事置いていこうとするかなぁ!」

 それはまぁ、危険だから……としか言いようがないわけだが。


 旦那が行くなら例え火の中水の中! とか言ってるハンスはこれもう何言ってもついてくるな。

 ハンスに関してはまぁ、今更だしと思ってルフトへ視線を向けてみる。


 ルフトは帝国から逃げてきた身の上だ。また帝国に行くなんて、と消極的な反応をされてもおかしくはない。けれど、

「行くのであれば、わかりました」

 思った以上にあっさりとした反応だった。


「いいのか?」

 俺としては嫌ならここで行動を共にするのも取りやめてしまえばいいと思っていたのだが。


「えぇ。それで? 国境から行くつもりがないなら、どこから行くつもりです?」


 ミリアが広げたこの大陸の地図に恐らくは視線を落としているのだろう。仮面のせいでわからんけど。

 とりあえずルフトはコン、と指で地図を一度軽く叩いた。


「ボクが帝国から逃げ出す時はアジール大森林を通ってきましたが、正直お勧めはしません。帝国兵も逆にそこからこっちに潜入する事はないと思います」


 帝国からどういうルートを辿ったのかをルフトから聞いて、そこから行けそうならそこでいいんじゃないか、と内心考えていたがその案は口に出すよりも前にルフトの口から却下された。

 しかしまぁ、アジール大森林……いや、それはないわ……むしろよくそんなとこ通ろうと思ったな……


 ふと顔をあげればミリアも俺と同じような表情を浮かべていた。


 うん、まぁ、つまりは、ここある意味で最悪のルートだもんな……

 帝国から逃げ出してすぐさまこっちの国に来て反帝国組織に身を置いたって言ってたけど、ここ通ってって……強行軍すぎやしないだろうか……流石の俺もちょっとどうかと思う。

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