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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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これからの指針



 ルフトが寝込んだ翌日。

 天気は快晴。濡れた葉がキラキラと太陽の光を反射させるように輝いている。

 家を出て、最初に見たのは空だった。木々の隙間から覗き見るようなものではあったが、そこから見える空は確かに青くそれだけで根拠も何もなく今日はいい日だななんて思って。


 まぁその直後下を見て地面は水溜まりがそこかしこにあるので下りたくないなと思ったわけだが。


 昨日のうちにどうにかして各地に連絡を取ったらしいミリアは、ロジー集落の寄り合い所のようになっている家に行き、昨日のうちに把握できた情報のいくつかを共有していた。

 帝国側で合成獣を作っていたという事実。更にはそれらがこちらに放たれているかもしれないという可能性。


 ケーネス村付近の洞窟の事を思い出せば、一歩間違っていたら今頃どこかの町や村あたりが滅んでいたかもしれない。廃村、テオの館と呼ばれた場所で見た合成獣ならあからさますぎて合成獣キメラだとわかるが、一目でそうとわからないようなのが解き放たれていたならば、そいつの被害に遭った場所ではまず魔物の仕業と思うに違いない。


 帝国の仕業だとわかっているかいないかで、その後の対応は変わってくる。

 合成獣の事をただの魔物と思えばそれこそ普通に討伐するなどの対処を考え実行するだろうけれど、そこに帝国が絡んでいるとなれば警戒度はもっと引き上げる必要がある。


 各地で混乱が生じれば、それこそ既にこちらの国に潜入している帝国兵の行動がしやすくなる。

 合成獣を討伐しにいっているとわかっている町や村で戦う力のない異種族を連れ去るかもしれないし、逆に合成獣を倒した直後、油断している所を狙う可能性だってある。


 敵の規模がいまいちわからないので、考えられる最悪の状況はそれこそいくつでも思い浮かぶわけで。


 常に最悪の展開を想定して動くにしても、限度はある。守りを固めるにしたって最悪の展開を想像した上で実行するならそれこそ一軍程度の人数は欲しいし、欲をいえばもっと欲しい。けれどもどこもかしこも人が余っているかと言われればそうでもない。


 ロジー集落の面々はミリアから合成獣の話を聞いて、いくつか思い当たる節があったようだ。

 ただの魔物と思ってたけどもしかしたらあれはそうだったのかもしんねぇなぁ……なんてやや呑気に言っていたものだが、実際にその疑いがあった魔物は既に倒されている。

 けれども、彼らが見たものだけが全てではないはずだ。


 別の集落との交流もしてはいるようで、ほら、あっちの、川むこうの集落でもなんか変な魔物見たっていう話してたろ? とか、むこうの谷の方でもなぁんか妙ちきりんな魔物が出たって話だったねぇ……とか、いくつかそれっぽい話が出てくる。


 その話の魔物が全部そうであったなら、思った以上にこちらの国に入り込んでいると思ってもいい。

 徒党を組んで襲うようなものじゃないのが救いだろうか。見た、という話は聞くが少なくとも見かけたのは一体か二体、多くても三体くらいか。

 けれどもそれぞれ別の場所から入り込んだやつらがどこかで合流してしまえば、やはりそれなりに脅威ではある。


 難しい顔をしていたミリアは鳥精霊に頼んで各地に様々な指示書を飛ばしていた。


 俺は特にする事もなかったけれどミリアに付き添いを頼まれたからこうして寄り合い所のやり取りを眺めていたわけだが。

 思った以上に事態はヤバいかもしれん。

 とは漂う空気で察する他ない。


 何だろうなこの空気。……前世でそういや家にかかってきた電話をとった母が、いつもより1オクターブ高い声で話していたのに急に低い声になって、しばらくはい、とかえぇ、とかいう相槌しか打たなくなった時、のような空気を感じる。何もなければいつもより少しだけ高い声で話してるはずがそうじゃないってだけで何かあった感凄かったもんな……まぁそういうやつは全部が全部深刻な話ってわけでもなかったみたいだけど。


 でもなんか真面目な雰囲気は漂ってたから、楽しい話じゃないんだろうなってのは察する事はできた。


 寄り合い所の雰囲気は、内容が内容なのでふざけられるようなものでもない。だから重苦しく感じるんだろうな。


 付き添いで来たけど俺別に役に立ってるわけじゃなくて、壁に背を預けて立って聞いてるだけなんでいる意味あるか? と割と真剣に思うわけだが多分あれだ。ここの話し合いが終わった後でミリアが全員に情報共有できるかわからないから、それならもう一人何があったか知ってる奴がいた方が後で楽、とかいうやつなんだろう。

 それならハンスの方が適任なんだが、生憎ハンスは朝一で別の家のご婦人に助けを求められて手伝いに行ってしまったので仕方ない。

 俺が代わりにそっちに行けるかというと、俺のコミュ力でそのご婦人の手助けをきっちりできるかはわからんからな。魔法でどうにかできるやつならまだしも、何かご婦人がこどもの世話をしているうちにハンスに手が回らない部分を助けて欲しいみたいな事言ってたから……一応旦那もいるらしいとは聞いてるが、協力して何かやるっていうのは俺には無理だ。


 となれば俺がこちらに来るのはある意味で当然だった。

 ルフトはまだ寝ていたから起こして連れてくるわけにもいかんしな。多分体調はそれなりに回復しつつあるはずだが、だからって、なぁ……?


 とか考えてるうちにどうやら話し合いは終了したらしい。

 ぞろぞろと集まっていたロジー集落の皆さんが出ていく。

 彼らはもともと木の上での生活に慣れているので、木の上を移動するのも危なげがない。一応俺たちが歩いたりする分にも問題ない程度にはふっとい木の枝なんだが、所々雨のせいで濡れて滑る部分があるんだよな……普通の床の上なら滑っても転ぶだけで済むが、ここで滑って転ぶと確実に地上に落下するのでダメージはさらに追加でドン! という何とも有難くもないオマケ付きだ。


 最後まで残っていたミリアが、目を閉じて深い溜息を吐く。


「ミリア?」

「ふー……どう考えたって後手後手も後手。このままだときっと駄目」

「……まぁ、そうだろうな。現状この国は帝国の人間が潜入しているし、ましてや合成獣とかいうのだって放たれてるんだろ? しかもそれを知らない連中の方が圧倒的に多いし、帝国兵が潜入してる件に関しては大っぴらに言えるはずもない」


 一応この国は帝国が狙っているものの基本的には中立国。帝国の人間がいるくらいでは騒ぎにできるはずもない。明らかにこの国に危害を加えているという決定的な証拠があれば話は別だが、合成獣に関しては意図的に放出していたとしても向こうで実験していた奴らが逃げ出していてこちらも探していたんです、とか言われたらそれ以上の追及は難しいだろう。

 帝国の人間がこちらにいる事にしたって言い訳はどうにでもできてしまう。


 それこそある日帝国兵がこの国の王族を殺しその首を持っていた、とかいう誰が見ても言い逃れができない状況にでもならない限りはこの国だって堂々と帝国と事を構えるつもりはないのだ。

 いや流石にそれは手遅れすぎか。帝国側は攻める方だろうからタイミングさえあればフットワークも軽く動くかもしれないが、フロリア共和国は帝国に攻め入る理由が今のところはないからな……明確に国に対して損害を与えているという証拠がないから動けないとも言う。


「うん、だからね、大半はこの国の守り。少数で帝国に潜入するのが最適かなって」

「少数。とはいうが、前にそうやって潜入した奴どうしたよ」

 俺の知ってる限りではアマンダくらいだが、他にもいたはずだ。

 とはいえ、多分全員が無事に戻ってきているはずもない。途中で魔物か合成獣かに襲われて死んだかもしれないし、潜入先で身元がバレて殺された可能性もある。情報を吐かせようと尋問や拷問をされた者だっているかもしれない。


「……潜入しようとして失敗した人、そこそこいる。成功した人、少しいる。でも、肝心の情報ろくになかった」


 それだけあちらさんのガードが固いって事なんだろうが、だったら尚更相手を選ばないと駄目なんじゃなかろうか。


「……だからね、ルーカス。わたしたちで行こうと思う」

「…………え?」

「もちろん、他の人にも指示書は出す。でもそれだけじゃ駄目。確実に情報が欲しいし、なんだったら合成獣とかをどうにかできるならしたい。

 研究してるところか人がわかればそこをどうにかすることで少なくともこれ以上こっちに合成獣が放出される事、なくなるでしょ」

「無理がすぎないか?」


 正直無謀だなと思う。研究所みたいなところを潰せば一時的に合成獣はどうにかできる。研究してる奴を……暗殺でもするのか? まぁしたとして、それも一時的に足止めできるだろう。研究を引き継ぐ奴がいる場合、すぐに持ち直されそうではあるが。

 けれど、少数で帝国に潜入して情報を集めてあわよくば合成獣に関する人か施設をどうにかすると考えると、明らかに戦力不足では?


「ルーカス。考えてもみて。貴方の探してる友人だっていつまで無事かわからない。もしかしたら既に帝国に捕まってるかもしれない。それどころかとっくに合成獣の素材にだってされてるかもしれないんだよ!?」

「あいつがそんなヘマをするとは思えんが……いや、希望的観測だな……」


 友人が帝国にいるかもわからないうちから帝国に行くつもりはなかったが、行かない事でもし居た場合助ける機会を失う事もあり得る。帝国そのものをどうにかできれば言う事なしだが、流石にそれは無理だろう。けれど、合成獣に関する研究施設くらいはどうにかしておかないと友人が知らぬ間に合成獣化した、なんていう事態くらいは防げるかもしれない。勿論手遅れの可能性もあると言われてしまえばそれまでだが。


 ……行かない理由を探して先延ばしにしてもいい事はなさそうだな。


「わかった。とはいえ、無理はしない。というか、ミリア、あんたも行くのか?」

「うん。危険は危険だけど、でもその方が情報をより多く正確に伝えられるから」

「それもリーダーに?」

「きっと難色示されるけど、ずっとこのままだと明らかにジリ貧でいずれピンチになっちゃうからね。それに……ルーカスは、わたしの事、守ってくれるでしょ?」

「あまり期待はするな」

「うん、頼りにしてる」


 ……おかしいな、会話がかみ合ってない気がするぞ?


 と思ったものの、多分これ何言っても無駄な感じがするなと思ったのでそれ以上は言わなかった。



 ところでこの後俺たちが借りてる家に戻ったらハンスが何か怪我してるっぽかったんだが、一体何を手伝ったらそんな怪我を……?

 なんだ、こどもに顔におもちゃとか投げつけられでもしたのか? と聞いたものの、ハンスは苦笑いを浮かべて多くは語らなかった。……やっぱ俺がそっち行かなくて正解だったな。

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