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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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ゆらり、ただよう



 翌日。

 雨はまだ止まない……が昨日に比べればマシな気がした。

 ざあああああ、がさあああああ、に変わった程度だけど。


 それでも着衣遊泳きめるのか? みたいな雨ではなくなっただけでもマシだろう。

 だが俺たちは今日もロジー集落から動かなかった。

 いや、動けなかった、というべきかもしれない。


 ルフトが熱出した。


 熱といっても風邪だとかではなく、多分ストレスか知恵熱のどっちかなんじゃね? みたいな感じだ。

 まぁ、帝国と繋がりがあるかもしれないとかいう疑惑だとか、抱え込んでたものがあったわけだし……話したからすっきりしました! とはいかないだろう。

 恐らくルフトも色々と思い悩んでいたんじゃないだろうか。組織に身を寄せて三年。帝国から逃げ出してすぐだ。すぐに帝国から来たなんて言えないだろうし、時間が経てば経つだけ言いにくくなってくる。


 いくら潔白の身であっても帝国から来たというだけで若干疑いの目は向けられるだろうし、周囲が信じたとしてもそれ以外のあまり関りのない組織の連中とかたまに顔合わせた時に謂れのない事を言い出さないとも限らない。帝国から逃げ出してきた、とはいえ、この組織に所属する連中の大半は帝国に恨みがある者だって当然いる。

 彼が悪いわけじゃない、とわかっていても行き場のない怒り、憎しみなんてものの矛先が向いてしまう事だってあるだろう。平たく言えば八つ当たりなわけだが。


 ルフトもそれを考えたのだろう。なら帝国からなんて余計な事は言わない方が身のためだっただろうというのも理解はできる。

 最終的にどうしても打ち開けなければならない相手がいたならともかく、そうでもない大した付き合いのない相手にまで話す必要はない。俺だってそう考える。

 ……そう考えるとルフトは色々と考える事が一杯あったのだろう。

 うわ……俺十五歳の頃何してたかな……あ、いや、こっちに転生した時は確かそのくらいの頃には父親について回って森の中の歩き方とか弓の使い方とかあれこれ教わってたとは思うんだけども、前世の俺だとその頃の年齢……あ、幼馴染とゲームばっかやってたな。


 RPGとかは適当にレベル上げる作業手伝ったりとか、ミニゲームの時にスコア競い合ったりだとかしてたし、対戦格闘ゲームもやったしパズルゲームもやった。ランダムで使用キャラ選んでやると中々に面白ハプニングが発生してなんかすっげぇくだらない事でゲラゲラ笑ってたっけ……


 それ以外にもノベルゲームでえっ、これ死に覚えゲーじゃなくて? とか言いながら選択肢延々埋めてく感じで周回したり、ギャルゲーでリアルタイムアタック始めたり、乙女ゲーのヒロインを何故か無駄に漢前なキャラだという脳内設定を付け加えた上で好感度を全員ギリギリな部分で攻めて最後はどうなるかまさにその時の流れ次第よ……! とかやったり。

 ちなみにホラーゲームは怖がってたのは最初の頃だけで途中からはもう爆笑しながらやってたっけ……


 こう考えると俺と比べるとルフトってとてもマトモというか、その年齢にしてはしっかりしすぎてないだろうかという気しかしないな。


 まぁともあれそんなルフトが体調を崩してしまったからといって、体調管理もできないとかお子ちゃまだなハハハ、なんて煽るはずもない。前世の俺とかいうのと比べると仕方ないなゆっくり休めよという気分にしかならなかった。


 熱を出したからといって風邪というわけでもないので、ルフトにできる事は基本的に寝て安静にすることだけだ。ほんのり汗ばんではいるみたいだけど、着替えさせる程汗をかいてるわけでもない。

 というか、着替えとかルフトが持ってるにしてもそれはルフトの持つ収納具の中だろうし、俺やハンス、ましてやミリアが勝手に出す事はできない。


 なので俺が定期的に魔法で服を乾燥させるに留めてある。

 ルフトは仮面をつけたままなので、おでこに氷嚢を置けるはずもないので、こちらも魔法で枕をひんやりさせてある。いや、流石に本人の許可なく外すのもな……と思うわけで。

 あとは起きた時に腹が減ってるようなら食べ物を出すくらいしかやる事がない。


 最初はハンスが面倒を見ようとしていたが、ハンスだと魔法で服を乾かすにしても枕を冷やすにしても細かい調整ができるか微妙なところだったので、俺がこうして看病役となったわけだ。

 旦那、人の面倒って見れます……? とこれまた失礼な質問をされたが、気持ちはわからなくもない。

 ハンスと知り合った時も俺、別にあいつの面倒見たわけじゃないからな。なんか怪我とかした時に治してやったりはしたけど、甲斐甲斐しくお世話なんてものは全くしていなかったのだから、ハンスが俺がそういった行為の一切をできないものだと思っていたとしても何にもおかしな話じゃない。


 いや、俺だって別に看病くらいでーきーまーすー。

 前世でも母が熱出して寝込んだ時にかわりに台所に立ったりだとか、掃除とか洗濯とかやったわ。あ、でも父親が入院した時は流石に看病とか病院の人がやってたから見舞いに行く程度だったけど。

 幼馴染が風邪ひいて寝込んだ時もまぁ、コンビニで食べやすそうなゼリーとか飲み物差し入れた程度だったか……いやでもやればできる男でしたよ俺は!


 ハンスが失礼なのは仕方ないにしても、こうして俺と一緒にじゃあ看病するとか言い出されても正直うるさいだけなのが目に見えてるので、雨が降っていたけどハンスはミリアと一緒に行動させることにした。

 ミリアは雨足が弱まってきた事で鳥精霊に頼んでリーダーへの連絡や、それ以外の指示書などを出すべく外へ出たし、ついでにロジー集落の人たちにもいかにも合成獣、みたいな魔物が出たら連絡が欲しいとか速やかに逃げろとか、その他諸々な話し合いをすることになっている。


 そういった情報のやりとりはミリアにしかできないし、ハンスは一緒に行けば一応俺のかわりとして情報の補足くらいはできるだろう。むしろ俺がミリアと一緒に集落の連中と話し合いとか役に立てる気がまるでしない。


 結果的にこれは適材適所だなと思うわけだ。


 寝込んでいるルフトではあるが、俺は別にベッド脇に寄り添っているわけじゃない。いや、看病って事で一応いた方がいいのだろうかと考えてもみたが、寝てる時に誰かがそばにいるのってどうなんだ?

 俺だってこれが母親とか父親とかならまだわかる。でもルフトにとっての俺はそうではない。

 他人が近くにいるとわかる状態で眠れるだろうか? と考えた結果衝立の向こう側、つまりは自分のベッドに腰かけてぼーっとしている。それである程度ちょこちょこ様子を見てその上で魔法で服を乾燥させたり喉が渇いた時の事を考えてベッドから手が届く範囲に飲み物を用意しておいたりしているわけだ。


 気分はなんだか人に見つからずにこっそり人間のお手伝いをする妖精のよう。いやそんなメルヘンな代物でもないけど。いや、でもエルフならそうのたまっても許されるのでは……? 一応外見だけならまぁ、おっきな妖精って言っても通じるかもしれない。

 なんて我ながら頭の悪い事を考えていたら、ルフトに声をかけられた。


「どうしてボクの看病を……?」


 最初うっかり寝言か何かかと思って聞き流すつもりでいたが、聞こえてきた声は明らかに起きてる声だしこちらに向けて話しかけているとわかるものだったので、ちょっと遅れてから返事をする。


「何、他にやる事がないからな。人がいて落ち着かないなら僕も外に出ているが」

 雨が降ってるとはいえ木の上なら葉がいい感じに傘のように遮ってくれる所もあるのでそういった場所にいれば問題もない。

 昨日だったら雷とか鳴ってたし外に出るとか冗談じゃなかったけど、今日は雷が鳴ってるわけでもないので大丈夫だろう。

 まぁ一応雷避けみたいなのあるとは思うんだけど……それでも絶対大丈夫かって聞かれるとちょっとわからんからね……


「……いえ、いて、もらえますか……」

「わかった。何かあったら言ってくれ」


 とはいえ別にルフトも動けないわけじゃない。トイレに行くから肩かして移動手伝ってくれ、みたいな事もないだろうから俺にできる事なんてほとんどないだろう。

 定期的に様子見てちょっと魔法使うくらいしかやる事がない。


「迷惑じゃなければ……話を聞かせてもらえませんか」

 衝立の向こうから聞こえてくるルフトの声は、体調を崩したから心細さでもあるのか、何だか迷子のようだなと思えるものだった。

「話?」

「はい、貴方が、今まで立ち寄った場所とか、見てきたこととか」


 うーん、寝物語をご所望か?

 面白い話は多分ないと思うので、まぁ聞いてるうちにあまりのつまらなさに寝るだろうなと思った俺は、そうだな、と一言前置くように呟いて。

 そうして寝る前の子に童話でも聞かせるような気持ちで話し始めたのだった。


 途中途中で相槌のような声が聞こえていたり、ルフトにとってはよくわからない物に関してそれってなんなんですか? みたいな質問が飛んできたりしたものだが、その相槌の頻度が下がってくる。


 お、これはそろそろ寝るな。衝立からそっと顔だけ覗かせてみれば、とても眠そうにしているルフトが見えた。仮面があるのでわからないが、それでもきっと瞼が仲良くくっつきそうになってると思えるしそれをどうにか回避しようと抗っているように見える。話の途中だから寝てはいけないとか思ってるのだろうか。いや、寝ていいんだぞ? 語ってる俺も正直眠くなってきた。自分の話のつまらなさに。


「眠いならここまでにしておくか?」

「いえ、最後まで聞き、ま……」

 そっと声をかけてみたが、ルフトは反射的にだったのかその提案に頷いたりはしなかった。いや、眠さのあまり起き上がってたら首とかがくんと船をこぐ勢いだったと思うから、無理はしないで寝るべきだと思う。

 しかしそう言ったもののやはりとても眠くなっているのだろう。呼吸が完全に寝入る直前。


「また、いつか、続き……」

「あぁ」


 それこそ寝言のような曖昧さで続きをねだられた。いや本気か?

 そこ突っ込んでしまうのもどうかと思ったからさらっと頷くだけにとどめたけど、聞いてる側も眠くなる挙句語ってる側も眠くなるような話のどこに需要が!?

 わからん……ルフトが何を思ってこんなくっそつまらん話の続きをせがむのかさっぱりわからん。

 若い子の考えてる事だから? うんまぁ俺種族的にまだ若い方だけどそれでも三百年生きてるとなると人間だったらとっくに死んでる御年おんとしだものね。

 生まれてまだ二十年にも満たない相手の考える事とかわからなくても仕方がないのでは?


 そんな風にちょっとしたカルチャーショックのようなものを覚えながらも、俺もまたベッドに横たわって寝た。多分まだ話を続けていたら多分俺が喋ってる途中で寝落ちしていた。

 いやまぁ、どっちにしても寝るんだけどな。

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