表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
37/172

逃げ場のない話し合い



 ざああああああ、と止む気配のない雨音を聞きながら、俺は窓の外を眺めていた。かすかに見える空はどんよりとした灰色で、そこからは傘があってもどう足掻いても濡れるのが確定しているくらいの雨が降っている。

 窓から見える景色、視線を何となく下へ向けると地面にはちょっとした川みたいに雨水が流れていっているのが見えた。


「しばらくはここで足止め、だな」


 そんな事を言ったら遠くの空からゴロゴロという音が響いてきた。そのうち雷も落ちてきそうとあっては、なおの事外に出るのは得策ではない。


 ――現在俺たちは街道から大きく外れた場所にあるロジー集落という場所にいた。

 森の中の集落。ロジー集落は地面に家を建てるのではなく、それこそ巨木としか言いようのない木々の枝の上にコテージのような家を組み立てている。主に樹上で生活しているので、普通にこの森の中を移動しているだけなら集落に気付かない者もいる。

 集落の住人は人間種族ではなく、どちらかといえば二足歩行の猿、といった感じだ。

 ニホンザルのような見た目ではなく、キツネザルのような容姿。彼らは器用に木の上を移動しているし、集落の下を移動する者がいる時はあまり目立たないようにしているのでここに集落があると知る者は本当に極僅かだ。


 とりあえず、ここの集落の皆さんは反帝国組織に手を貸してくれているのでミリアが知っていた。俺は初めて知った。


 木の上に家を組んでいるわけだから、宿とかそういうのは無いのでは、と思っていたが一応誰かしらやって来た場合に貸し出せる部屋、というかコテージがあるらしく俺たちはそこを借りている。

 枝の上の家、となれば安定感大丈夫かと不安になりもしたが、いざ家の中に入ってみれば地上の家とそう変わらないくらいには安定感があった。外に出た時にここが木の上であるという事を忘れて落下しそうだな。


 雨音が酷いが上の方には他の木の枝が広がり、葉もあるためか思っているほど建物は濡れていなかった。びしょぬれになったら雨上がり、湿気どころじゃなさそうではあるが……室内はそこまでしっとりした感じでもない。なので俺たちは現状、室内で雨酷いなーなんてのんきにしてられるわけだ。


 滅多に来客があるわけでもない集落なので、空いている建物は今一つだけだった。

 他にもないわけじゃないけれど、今はちょっと物置のようになっているらしい。片付ければ使えるようになるらしいが、流石にこの雨の中荷物を外に出したりはできそうにないのでこうして一つの家に全員が集まっている。


 雨のせいで何とも言えない空気になっている、というのであれば良かったが、現在とても気まずい空気が流れているといってもいい。

 大きな木を切り倒して作られただろう一枚板のテーブルを挟んでミリアとルフトが向かい合っている。

 ミリアはむ、と眉を寄せて難しい顔をしているし、肩の鳥精霊もじっと向かいのルフトを見ている。雰囲気だけならこれからお説教しますよ、と言わんばかりだ。

 ルフトはといえば、仮面をつけているためにどういう表情を浮かべているか正確にはわからないが、それでもぐっと結ばれた口元から明らかに強張った表情である事だけは理解できる。


「ルフト、話して」


 ミリアが切り出したが、正直これだけでは何の話だと言われても仕方がない。けれども誤魔化す事は許されないとばかりにピリピリした空気がミリアから発せられている。

 ミリアが言っているのは、数日前の村での事だ。

 セオドアたちを村ごと焼いたあの日。

 テオドアと融合したかのようになっていた帝国の研究者の男。

 あいつの言葉に明らかにルフトは反応していた。誤魔化しようがないくらいにハッキリと。


 あいつが口にした誰かの名に反応したのは明らかだった。


 確か……ルーナ、だったか。

 ルフトがその名を知っていて、研究者もその名を知っている。

 こっちの世界じゃインターネットだとかSNSだとかで世界中幅広い交流がとれるというわけではない。

 勿論世界的有名人というのがいないわけではないが、そんなのは数える程度だ。


 では、ルーナという人物を知っている相手の片方が帝国の人間であるという事実から、ミリアは……いや、俺やハンスもだが、少なくともこう考えてしまったわけだ。


 ルフトは帝国に関して何か知っているのではないか、と。


 そのルーナという人物が世界的に有名な存在であれば話はまた違ってくるが、少なくとも俺はその名の人物を知らないし、ハンスやミリアもそうなのだろう。

 であればルーナという人物は帝国の人間が知っている人物、と考えられる。

 帝国と無関係である可能性もないわけではないが、ルーナという人物についてか、もしくはあの研究員か……ルフトが何かしらの情報を持っているとミリアは考え、今こうして切り出したというわけだった。


 ここに来るまでに話をしなかったのか、という問いに関してはしなかった。

 この話がルフトにとってとても都合の悪い話であった場合、外であれば逃げ出す可能性もあったからだ。

 ルフトが帝国側のスパイだとまではミリアも思ってはいないだろう。けれども、関係がある可能性は捨てきれない。


「キミが、この組織に入ってそろそろ三年。かつてキミと一時的とはいえ共に行動した他の隊員の評価や、キミ個人で達成した任務とか、ミリアさん大体覚えてる。

 これでも指示書を出してるのミリアさんだからね。その上でキミのこと、信用できると思ってる。

 でも、だからって何も聞かなかった事にできるほど、うち余裕がある組織じゃないの」


 まぁそうだろうな。

 なんでもかんでも許容して、その許容した中に敵が紛れていたらこの組織、一気にとまではいかずとも壊滅一歩手前くらいには簡単になりそうだし。


 ミリアと鳥精霊からじっと視線を向けられていたルフトは、相変わらず黙ったままだ。仮面のせいでどこを見ているかもわからないが、多分ミリアの方を向いているのでもしかしたら真っ直ぐ見据えているのかもしれない。

「……ボクの話を、信じてくれますか?」

「……悪いけど、それは断言できない。考える時間、必要必要。でも、最初から嘘って決めつけたりはしない。それだけは約束できる。というか、そこしか約束できない」


 ミリアの立場を考えるとそう言うしかないなとわかる。けれどルフトからすればそれはとても曖昧な返事だと思う。ここでルフトが話さない事を選んだ場合、ルフトの立場が悪くなるまではいかなくとも、警戒対象にはなるかもしれない。

 立場的に怪しいからって組織から追放はできないからな……怪しいのが確定しているならともかく証拠も何もないまま何となく信用できない、とかいう理由で人員整理してたら組織として機能しない。何せこっちは人間以外の種族がたくさんいるわけで。彼らにも譲れない部分があるゆえに、他の種族から見ると理解に苦しむ、なんてものだって普通にあったりする。


 そういう意味ではそれなりにまとまった組織ではあるが、多分妙なところで脆いんだと思う。

 まぁ頭抱えて悩むのは上の立場の連中なんで、俺からすれば大変ですねの一言で終わるわけだが。


「あの~、横から口挟む真似して申し訳ないんですけど……あの帝国の研究員ぽい人の口から出た名前の人を知ってるって事はその人物は帝国の人、って事ですよね? 研究員も帝国兵従えてたみたいだし、そこそこの地位があると思っていいはず。

 ……そのそこそこの地位がありそうな人が知ってる人をルフトくんも知ってる、となると……もしかしてルフトくん、帝国出身者です?」

「冗談じゃない! あんな場所、誰が!!」


 ハンスの言葉に激昂し椅子を蹴って立ち上がったルフトは、しかし次の瞬間はっとした様子で口を閉ざした。


 正直今の反応で大体察した、みたいな感じになったよね。俺もミリアも。


「ルフト。少なくともお前が帝国側の奴じゃないってのだけは信じている。とはいえ、それだけだ。ミリアは立場上それ以外の納得できる材料が欲しいし、それ以外でも帝国に関する情報があるなら勿論欲しい。

 知っている事があるなら話してもらえないか?」


 俺はミリアとルフトがいる場所から少し離れた所で、壁に背を預けて今の話を聞いてたわけだが。ついでにハンスも俺の隣にいたわけだがルフトのブチ切れボイスで咄嗟に身を庇うような体勢になっている。

 とりあえず魔法でルフトが蹴倒した椅子を元に戻して座るように促す。

 魔法の使い方がまたアレ、と言ってはいけない。正直下手に近づいたら何かこう、八つ当たりパンチとか飛んできそうな気配がしたからこれはある意味で当然の使い道だ。


 知らぬ存ぜぬを貫けなかったルフトは、ばつが悪そうに再び椅子に腰を下ろす。


「帝国側じゃない。それだけは本当なんです」


 椅子に座り、膝の上に拳を置いて握りしめるルフトは、俯いてしまったのでどういう表情を浮かべているかもここからではわからない。けれど、話すしかない、と腹をくくったのは確かだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ