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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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協力者って言っていいのだろうか



 つらつらと語るセオドアの話から、とりあえずこの館が帝国の人間にとても都合よく使われた事は理解するほかない。

 テオが心酔していた男はどうやら帝国の研究者のようで、そいつがこの館にいる人面の蜘蛛やら蛇やらトカゲやらを作り上げた人物らしい。趣味悪ッ!!

 作るにしてももっとマシなの作れと思ってしまうわけだが。

 いや、それそのものが生命を冒涜しているとか言われるのであれば、やるにしてもまずは……犬とか猫とかの愛玩動物みたいなのを掛け合わせて品種改良、くらいからスタートするべきでは?

 まぁそれも前世だと難色示す奴は一定数いたわけだが、こんな誰が見ても可愛いって絶対言えない合成獣キメラよりはまだ、まだ賛同を得られる気がする。


 この館にも移送方陣が展開されているらしく、帝国から兵士がやってきたりしてここから各地へ潜入するべく移動した者もそれなりにいるらしい。

 いかにも帝国兵です、みたいな武装してなければ一目でわかるはずもない。普段は冒険者です、みたいな服装してれば余程、帝国の話とか機密情報になりそうなのとか漏らさない限りはバレる事もないだろう。


 研究に必要なものは帝国から送ってもらえばいい。それなら物資の調達に関してもこの村であれこれする必要がないので、外から誰かがやって来た、なんてすぐに知られるはずもない。ここから外に出た帝国兵たちの大半は夜、静まり返った頃にそっと出て行ったりしていたようだし。


 ちなみに。

 俺たちがこの館の中で見た他の人面キメラシリーズ、あれ、どうやら村の人らしいんだ。


 家財道具持って逃げたんじゃなくて、人体実験に使われてた。

 家財道具に関しては帝国兵が後々移送方陣で帝国の方へ送って処分。村人は館の中で実験素材。これだけで簡単に家財道具持って村から出てったんだな、って思われる状況の出来上がりとか、やべぇな、こんな簡単に人って失踪しましたみたいになっちゃうんだな。


「……ルフトが以前この近くを通った時にこの館の事を聞いたようなんだが、まだ生きてるかもしれない、とは何に対する言葉なんだ?」

「……あぁ、あやつか。そうさな、前に一人、興味本位か何かでここに近づいた者がいた」


 俺の言葉に少しばかり逡巡し、そこでようやく思い当たるものがあったのだろう。

 セオドア曰く、彼は別の村に暮らす青年だったと思うが、と前置く。


「自給自足の村といえども、全く交流がないわけではなかった。とはいえこちらに人を呼ぶ事はまずないし、この村の場所も外ではわざわざ口に出したりしていない。

 けれども、彼は恐らくその情報の少なさゆえに興味を持ってしまったんだろうよ。

 結果、アレを見てしまった」

「あれ、って何かヤな予感しかしないんすけど、一体何です……?」


 ハンスが恐る恐る問いかけた。


「テオ……弟だったもの、だ」



 さて、話はちょっと戻るが、セオドアがこんな姿になった時点で既に他の村人たちも同じように強制的に人間卒業する羽目になったわけだが、それはセオドアの弟でもあるテオドアも同じであった。

 どうやら研究者の口車に乗せられて、薬を飲まずとも健康な体になれる、とかいう甘言にまんまと騙されたらしい。

 実際帝国側からもらった薬でそれなりに体調も良くなっていたのも事実だし、頭ごなしに嘘だと思えなかったのだろう。そして信じた結果が化け物への仲間入り。えげつない詐欺だよマジで。


 いや、研究者の言葉はウソじゃないんだろうけどな? 普通はそう言われたら人間卒業しないで今の身体のまま健康になれるとか想像すると思うんだわ。そこの認識の差で事故起きてるとかもう色々とアウトじゃね?


 テオは勿論というか当然というか、抗議したらしい。そりゃクレーム入るわこんなん。

 けれども研究者の男は、これは前段階だと言ったらしい。

 この時セオドアもその場にいたのだけれど、いかんせん身体がこんな事になったせいで冷静さを取り戻すに至れなかったとかで、細部まで覚えていないとの事。


 まぁ俺もこんなんなって直後に冷静なままでいろとか土台無理な案件なんで気持ちはわかる。

 俺だって前世の記憶が完全に戻って転生してるってなった時めっちゃ取り乱したもんな。内心で。


 化け物の身体になった時点で健康体にはなれた。セオドアもいつもの重苦しい感じは消えていて、移動するだけなら何の問題もなかったと述べている。いやでも身体蜘蛛ですけど……

 でもそんな身体でお外に出られるかっていうと無理だろ。他の人里行っても確実に魔物扱いされるわ。いくら言葉通じても姿が魔物にしか見えないし。


 虚弱体質とかで館から出られない、みたいな奴が健康になったらまず外を自由に移動したい、とか考えるのが当然の流れだと思うんだが、これ外出たらあかんやつ。人目に触れたら殺されるパターンになるやつ。


 ところが研究者はここから元の人間の姿に戻れる方法があると言ったらしい。

 うっそだー。物理的に無理だろどう考えても。ってか、まず物理的にこんな合成獣キメラができるってのも前世基準で考えるとありえないだろってなるんだけども。

 え、でも戻れるか……? なんか適当な部品くっつけてあれこれ作るのは可能でも、それを元に戻せってのは難しくないか? おもちゃとかにありがちなブロックならくっつけて取り外して、は簡単だけど生体となると無理では? いくつかの果物混ぜて作ったミックスジュースの中から後になって一つだけ果物取り除いて、とか言われたら無理だろ? 混ぜる前に言えって話だよな。


 まぁ、俺としては無理だろと思うわけだが、そんな姿になってしまったテオドアはその言葉を信じるしかなかったわけだ。

 いやそれ絶対騙されてるの見て研究者ほくそ笑むやつじゃん……


 ともあれ、戻る方法ってのが食う事らしい。


 だからこそ、最初のうちは館の中にある食料を他に犠牲になった村人たちとテオドアで争うように食べていたのだとか。ちなみに館の外に出ようにも鍵がかけられ、外には出られないので館の中にある物しか口にする事はできない。

 館の中にあった食料は早々に尽きたが、戻る様子は一向にない。

 そうこうしているうちに、誰かが誰かを食べ始めた。帝国兵は館の中を移動する際全身鎧を身に着けていたので手が出せず、研究者もまた一室に閉じこもり出てこない。


 かつて村人だった相手同士で食い合うという、何だその地獄みたいな展開……という事になったそうだ。


 ……じゃあ俺たちが見た他のやつらはかろうじて生き残ってたやつらか……

 確かに肉を食わせろとか言ってたような気はするが……生き残っていたならもっとこう、個体としても強いのかと思ったんだけど、そうでもなかったような……


「仲間同士で食い合ったところで、戻った者はいなかった。唯一、テオだけがその身体に若干の変化があったくらいか。奴は、かろうじて人の姿に戻れはした。

 ……とはいえ、以前の姿と同じというわけでもなく、ぶよぶよとした肉の塊のような姿だったが」


 なんだその、戻れる、ただし元の姿に戻れるとは言ってない、みたいなやつ。詐欺じゃん。


 その頃には時々姿を見せる帝国兵が、本国から死体を取り寄せていたらしい。罪人を処刑したやつなのか、人体実験の果てに死んだ奴なのかは知らないが、その死体すら館の中の連中はこぞって争うように貪ったのだとか。体のいい死体処理上になってやがる……


「その時に、一人の若者が訪れた。お前さんにこの館の事を話した奴だろうな。そいつは鍵のかかったドアを魔法で開けて入ろうとしていた。

 だからな、ついこの姿を晒して窓の方から入れば死ぬぞと忠告してやったのだよ。そうして嘘だと思うなら、裏に回って二階の部屋の窓を覗けるなら覗いてみろ、と」


 扉越しならともかく窓からならまぁ、声の大きさ次第では聞き取れない事もない。忠告したのが普通の人間ならともかく、人面蜘蛛となれば脅そうとしたって無駄だぜ! なんて言えるはずもない。

 忠告を聞き入れ、どうにかして二階の窓から中を覗いたのだろう。

 そこで、他の化け物の姿を見たかしたのだろう。そうしてまたもや戻って来た彼に、セオドアは下手に誰かを呼んでしまえば餌になりかねない。放っておけばいずれは餌がなくなり死ぬだろう事を伝えたのだとか。


 とはいえ定期的に帝国兵が死体を処理しにやってきたら、それも随分先の話になってしまうような……


 ともあれ、ルフトに館の事を話した奴がおおっぴらに話を広めなかった理由はわかった。冒険者が集団で武装して確実に滅ぼす、みたいな感じならともかく、ちょっと気軽な肝試し感覚で人が行けば大変な事になってしまう。


「あっ、魔法。そうだ魔法。どうしてあなたたち館の外に出ないわけ? 鍵がかかってたから? その姿だと鍵を開けられないから? でも魔法でなら」

「使えないのだよ」

 ハンスの声に、セオドアは至って冷静に返した。


「魔法は精霊の助けを借りて行うもの。精霊は人を助けるのが趣味とか生きがいとかまぁそんな感じで思えばいい。けど、そうなったあんたらは人と認識されなくなった。あとこの館の中精霊が極端に少ない気がする」

「その通りだ。とはいえこの館の中の明かりは魔法によるものだ。……誰も使っていないはずなのにな」


「……監視してるって言ってる」

 ミリアが鳥精霊から何かを告げられたのだろう。肩に乗ってる鳥を撫でながら言った。


 魔法は人の魔力と、それから精霊の助けがあって発動するもの。けれど例外はどこにだって存在する。

 精霊が己の意思で勝手に魔法を発動させる事もないわけではない。

 ……そう考えるとある日いきなり何でか知らんが魔法が発動した、とかいう事故が起きてもおかしくないのでホントこの世界色々物騒すぎでは?

 ま、確かにこんなん外に解き放たれたら大変な事になるから僅かに館の中に残っている精霊は本当に監視しているのだろう。

 もしかしたら俺たちが入って来た扉の鍵も今頃施錠されてる可能性が高い。


 帝国兵が外に出るのもどうせなら防いでほしかったけど、流石にそこまで望むのはな……


「それで? その話をしてあんたは俺たちに何をさせようと?」

「何、簡単な事。この館を終わらせてほしい」


 まぁそうだろうなとは思っていた。

 わざわざこんな話を長々聞かせてから、お前らは餌となれー! とか言って襲うのもおかしな話だ。

 セオドアの話からテオドアはかろうじて人の形に近い状態になれはしたけれど、それでも人とは言い難い何かになってしまったのであれば、セオドアや他の村人たちが元に戻れる可能性は限りなく低いと考えていい。


 それにここが帝国の拠点になっているというのであれば、どちらにしても放置はできない。移送方陣を破棄し、その上で彼らの事も放置はできない。何かの拍子に館の外に出るような事になった場合の事を考えると、放置というのは最悪の選択でしかない。


 とはいえそれなりに拠点として利用されていた場所が使えなくなった、となればそのうちここに様子見に来る誰かはいそうだが……それもまぁ、館が使い物にならないとなれば諦めるしかないだろう。


「わかった。案内を頼めるか?」

「引き受けてくれるか。有難い。それならば、こちらだ」


 家具の上にいたセオドアはぴょいと身軽に床に着地して、カサカサと移動する。

 とはいえ扉を開けるのは苦労しているので、それに関してはハンスが開けた。


「きゃー!?」


 まぁ、開けた直後に他の村人が待ち構えてるとか思いもしてなかったハンスが悲鳴を上げたわけだが。

 ハンスの悲鳴の合間に「肉……新鮮な肉……」とかって聞こえてきてるから余計にホラーでしかない。

「燃えてしまえ!」

 鳥精霊の力を借りたミリアが待ち構えていた村人だった者たちを焼き払う。


「なぁ、村の連中っつってたけど、これあとどんだけいるんだ?」

「さて、お互いに食い合ったりしているから正確な数は知らんが……もう然程残っとらんだろうよ」


 これ、来るタイミング次第ではこの館の中の村人がもっと一杯いたり、場合によっては帝国兵との戦いとかもあったんだろうなと考えると……マジで適当な相手に指示書送ってここ確認させなくて良かったなって思うわけなんだが。


 かつては知り合いだっただろう相手が焼き払われて炭と化したのに眉一つ動かさないセオドアは、ドア付近の廊下にもう他に誰もいない事を確認するとするすると移動を開始した。

「旦那ぁ、ホントに大丈夫ですかアレついてって……」

「一部屋一部屋しらみつぶしに見てくよりはマシだと思え」


 ここが誰も住んでいない場所とか、ケーネス村の時のような洞窟、はたまた遺跡であれば壊しておしまい、でいいんだけど。中途半端に破壊してこの中にいた村人が生きて脱出できてしまうような事になると、いずれ他の町や村がホラー展開に見舞われてしまうので破壊するにしても中途半端な事はできない。


 セオドアが案内してくれるっていうなら、とりあえずはそれを信じる他ない状況でもあった。

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