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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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第一村人ならぬ第一住人……でいいのだろうか



 館の中は至って普通の館ですね、といった感じのものだった。

 これがどこか――それこそ城があるような貴族も沢山住んでます、みたいな場所であれば館の見た目にこだわったりだとか、内装をこれでもかと飾り立てたりだとかしたかもしれない。

 貴族なんてのはある意味見栄の張り合いみたいなのがどうしたってあるわけだから。


 けれどこんな隠れ里も同然な目立たない、ひっそりとした村の中にそんな贅を極めた館なんて建てた所で意味がない。周囲にいるのは貴族ではなく平民ならどれだけ凝った館を建てたところでその凄さがわかるはずもないからだ。それなら普通の一般的……いや一般的って言い方もどうかと思うけど、まぁそういう館を建てるだけで充分だろう。周囲の家がそもそも漫画とかで言われる豆腐ハウス――あくまでも形状が――なわけだから、その時点で二階建てとか屋根があるとか普通の家より豪華という時点で目立たないはずもない。


 貴族の館がずらっと並んでいるような所なら没個性的、いや、逆にしょぼさで目立てるかもしれない。


 ともあれ、隠し通路とか隠し部屋とかがあるような感じでもなく、庶民が思い浮かべる館、という点ではとても一般的な館である。


 村の家の方は家財道具なんて何も残されていなかったが、この館の中はそれなりに家具が残されていた。

 というかだ。

 明らかに誰かが生活してる感じがする。

 村の外に出た感じはない。足跡とかが残っているわけでもなかったし、そもそも村がもう村として機能していない。外に出て畑があるでもなく、ちょっと買い物に行くような場所だって存在していない。隣の町まで、なんて気軽に出かけられるようなものでもない。


 ちょっと隣の町まで、で数日がかかるわけだし。車で三十分の距離にコンビニがあるとかいうド田舎よりヤバいと思う。前世のド田舎は別に移動距離がちょっとあるだけで済むが、こっちは更に運が悪いと魔物とか盗賊とかに遭遇するし。

 いや、前世もまぁ、通り魔とか、カツアゲとか、ないわけじゃないけど。でもこっちと比べるとエンカウント率は低いはず。


 誰かがいるかもしれない、というのは早々に気付いた。

 だからこそ俺たちは警戒しつつ探索をしていったわけだが……



「ぅぇえ、何なの何なのさっきのアレェ……!」


 館の中で遭遇したそれを目の当たりにして、まずハンスが半泣きになった。気持ちはわかる。


「この館で一体何が起きたの? 不思議不思議」


 ミリアも正直顔色があまりよろしくなかったが、こっちはまだハンスと比べればマシだ。


「…………」


 ルフトに至っては何かを言う気力すらないようだ。


 さて、いくつかの部屋を見て回って、人が生活してる痕跡っぽいものはあれど、何かがあるわけでもなさそうだなと思った俺たちの前に現れたのは、端的に申し上げて化け物だった。


 小型犬くらいの大きさのトカゲっぽいものがいて、最初は魔物か!? と思ったものの、体は確かにトカゲっぽいんだが、その上、顔は人のものだった。控えめに言ってきめぇ。

 そんなのが近づいてきてみろ。まずハンスがパニくった。

 咄嗟にパチンコでタバスコ練りこんだ玉をぶち当てた結果、それが眼球にダイレクトアタックしたらしく悶える人面トカゲ。


「肉だ、新鮮な肉だァ……!」

「食わせろ、食ったら戻るんだよぉ……!」

「何でおれがこんな目に……!」

「助けてくれ」

「殺してくれ」


 悶えてる間に人面トカゲの口から出てきた言葉の数々がこれだ。

 どう考えても正気を失っている。

 話しかけて情報を得ようとしても、恐らくこちらの声は聞いちゃいない感じでとめどなく言いたいことをひたすら言っているだけのようで、ミリアが思わず魔法でそいつにトドメを刺した。


「死にたくないぃ……死にたくないぃぃぃ……!」

「これで楽になれる……」


 ちなみにこれが死ぬ直前の言葉だ。


 複数いたわけじゃない。一匹……いや、一匹って単位でいいのか? まぁともかく、単体だった。

 言ってる事はまぁ、わからんでもないが……みたいな事を言いつつも死んでったわけだ。


 ちなみにこの後人面蛇、人面蜘蛛なんてのと遭遇してそいつらも似たような事を言いながら死んでった。


 いやあの、何ですこのホラーハウス。お化けが出てきてキャー、とかいう以前に生理的に無理みたいなビジュアルの奴がこうも立て続けにくるとかどういう事?

 言葉が通じるなら話し合い可能かと思いきや、あっちはこっちの肉を食おうとしてくるのでやむなく倒した。流石に生きたまま肉をムシャアされるのはちょっと……いくら魔法で怪我を治せるとはいえ、だからって痛い目をみたいかと問われれば答えはノー。


「…………ルフトが聞いた話の中で、まだ生きてるかもとか言ってたのって、もしかしてコレか?」

「だとしたらもっとこう、騒ぎになってるんじゃないの!? 無理でしょこんなんどうしたって話題になるでしょ!? むしろ全力で周囲に話して逃げる事をお勧めするわ!」

 何の気なしに呟いた俺に即座に返してきたのはハンスだった。

 いやうん、俺も正直こんなんご近所にあったら話題にしないはずもないし、何なら逃げるな。


「……村の連中が家財道具一式持っていなくなったのはこれが原因か……?」

 いや、だとしても話題になるよなどうしても。なんかうちの村でやべぇ魔物出てきたんですけど! とか絶対言うわ。だっていつこいつらが館の外に出て自分たちが住む場所に進出してくるかわかったもんじゃねーもん。しばらく見ないで安心したころに大量繁殖して人里に一斉行進でもされてみろ。あっという間にB級パニックホラーの出来上がりだ。


 それでなくともこの世界、テレビとかないんだから全国ニュースでお知らせ☆ なんて事はない。旅人からの話だとか、真偽の程が確かではない噂話が割と重要な情報源。俺みたいに精霊の声が聞こえればそれもまぁ、情報源として扱う事もあるけれど。

 一般市民の得られる情報源なんてたかが知れている。国や組織の上の方なんかは間諜とか、それこそミリアみたいに鳥精霊から得る各地の情報とかまぁ、それなりにあるけれども。


 それにしたってこんな生理的に無理寄りの無理でしかない場所の話が一切出てこないとかないわ。もっとこう、直接的に言うのが憚られるとかでもそれなりに噂になってないとおかしい。


「噂になりようがないのだ……旅人よ」


「誰ぇっ!?」


 どこからともなく聞こえてきた声に、反射的にハンスが叫んだ。ひぃん! とかいう泣き声も混じっているのでそろそろガチで泣き出すんじゃなかろうか。

 声は落ち着いた中年男性のもの、と思えるものだが聞こえてきたのは上の方。声の主の背がとても高い、と考えてもいささか不自然な位置から聞こえた気がして、まさかな……なんて思いながらも視線を上げる。


 人面蜘蛛、リターン。


「一片残らず炭と」

 化せ――そう、魔法を発動させるつもりだったが、まぁまて、と人面蜘蛛は至って冷静に前脚の一つを動かして制止するようなそぶりを見せる。


「殺してくれるのは有難いがな、少し話を聞いてはくれまいか」


 その言葉で、魔法を発動させるのを中断する。

 死にたくないだとか、命乞いをするような言葉であれば先程も聞いたのでまだしも、彼はその逆のようだ。落ち着いてこちらを見据えている彼――彼? いや、顔は初老入るかどうか、くらいの男の顔だから彼でいいのか? 彼はともあれ、こちらと話をする意思はあるようだ。


 話が通じるなら、情報を得られる。

 とはいえ、俺もそうだが他の奴らも全員警戒はしている。そりゃそうだ。一抱えほどもある大きさの人面蜘蛛だぞ。話合おうという意思があるっぽいからまだしも、これ普通に蜘蛛型の魔物だったら結構危険な存在だし。

 というか、そのサイズで許されるのは大きなクマのぬいぐるみとかだと思う。ぬいぐるみならまだ誰が抱えても多少は微笑ましく見えるが、こんなん抱えるとか罰ゲームどころじゃない。前世で一体どんな業を背負ったんだと自問自答するレベル。


 一先ず俺はミリアやハンス、ルフトへと視線を向けた。

 ハンスは「えっ、本気でこんなのとお話しするの?」とでも言いたげだし、ミリアは「どういったものであれ情報は大事大事、聞くだけ聞いてみよう」といった感じか。こちらと目が合うと頷かれた。

 ルフトは……人面蜘蛛から視線を逸らすようにしていたしこちらとは視線が合わなかった。けれども警戒はしているし、いつでも武器を抜けるように腰の剣に手を添えている。


「話を聞け、と言われてもな……一体何の話だ」


 俺が問いかけると人面蜘蛛は前脚でもって器用に自らの顎を撫でさするように動かす。人の身であれば何とも思わない動作だが、体が蜘蛛というだけで何だか別の意図があるようにも感じられてしまう。


「そうさな……ここは場所が悪い。ちと移動しよう」

「……大丈夫なんですか旦那ぁ……」

「いざとなったら館もろとも爆破する」

「それ大丈夫っていいます旦那ぁ……」

「第二第三のあんなのまた出てきたら木端微塵にするしかないだろ」

「っていっても既に第二第三どころじゃないでしょぉ!? 人面蜘蛛はあちらさんで二人目ですよ!?」


 小声で、というかそんなんホントに最初のうちだけで、恐らくハンスの声は完全に向こうにも聞こえているだろう。天井にいた人面蜘蛛は壁をするすると移動していたが、動きを止めて振り返った。


「確かにまだいる。だから場所を変えるのだ」


 この館の事にそれなりに詳しいだろう相手からまだいる、なんて言われてハンスは「ひっ」とひきつけみたいな声をあげた。状況が許すのならば、きっと白目をむいて泡を吹いて倒れたに違いない。

 いや、こんな場所で倒れられたら色々と面倒なんでハンスには是非とも頑張って自分の足で移動してほしいところだ。


「ほかにもいる、ってやつらはあんたと違って話ができないタイプか? さっき俺たちが遭遇したみたいな」

「ぬしらが先程であったのが誰かは知らんが、まぁそういう認識で合っておろうな。ともあれ、わたしも他のに見咎められると面倒でな。すぐ近くの部屋へ行くぞ。安心しろ、何もない」


 凄い。こんなにも安心できない安心しろってセリフ、ある意味初めて聞いた。

 まぁ、ここでこいつを無視して館の中を調べるよりも会話が通じるならある程度情報を得られるだろうし、もしこいつがこちらを陥れようとしていたにしてもどうにかなる……はずだと思いたい。

 それに考えてみれば通路で立ち話とか、確かに他の魔物……というかクリーチャーがこの館の中をある程度自由に移動しているなら会話中にエンカウントもあり得る。


 いざとなったらさっきハンスに言ったように、本当に館を木端微塵レベルまで爆破するしかないだろう。

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