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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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気分はちょっとした肝試し



 街道から離れた場所、と言われケーネス村のような場所か? と想像したものの、実際に足を運んでみるとケーネス村とは違い、こちらはどちらかというと隠れ里のような印象を受けた。


 ……山の近く、っていう点ではまぁ、似たような立地条件かなと思わなくもないんだが。

 とはいえケーネス村は山が近くにあったとはいえ、いざ行こうとすればそれなりの時間がかかったものだがこちらは違う。本当に山のすぐ麓、といった感じであった。


「……こんな場所に村なんて作っても不便すぎやしないか?」

「おおかた、人目につきたくないところだったんだと思う」


 人の気配なんてすっかりない廃村で、思わず呟いた俺にミリアが周囲を見回しながらそんな言葉を返してきた。

「いや、人目につきたくないって割には……その、あれ悪目立ちしてないか?」

 あれ、と言いつつ俺が指さしたのは、この村の中にあるには不自然な館だった。

「……正直、ミリアさんもあれはないかなと思っている。でも他の家なんかは目立たないようひっそりひっそりしてるから」

「そこはまぁ、わかるけど」


 ミリアの言い分もわからなくはないのだ。確かに村の中にいくつかある家を見れば、何というかなるべく人目に触れないよう、目立たないよう、と言わんばかりに建てられている。

 そもそもこれを家と言っていいのか俺は疑問なんだが。

 一応建物と言われればわからなくもない。ゲームとか漫画だったら完全なる手抜きハウスと称されそうな真四角の建物。そこに申し訳程度の入り口。

 三角の屋根とかそういうのもない。真四角。そのせいか上は山の方から吹いてきた風で飛んできたらしい葉が積もっていたりしていて、正直景観どうなのと思ってしまう。

 こまめに屋根の上から落として掃除しているわけでもなかったらしく、家の上では葉が積もり、それ以外にも鳥が巣でも作ったのか何というか……色んな物が集まった結果そこで新たに草やら苔やらが育っている。

 まるで髪の毛か何かのように建物の上から蔓植物が伸びて家の外側を覆っている家すらあった。


 いや、ここがそういう村です、と言われればそうなんだで納得したかもしれないが、いかんせん唯一どどんと存在感マシマシの館のせいでそういう村です、という言葉には何の説得力もない。

 村の奥まった場所に、場違いだとしか思えない館が一つ。

 こちらは周囲の家と比べると至って普通の館であり、また植物が覆うようになったりもしていない。廃村ごと買い取って新たにここに館を建てました、と言われたらなんでだよと突っ込むだろうけど、まぁそれなら館だけ真新しい感じでもおかしくないなと思ってしまうような……そんな感じで館は存在していた。


「いや、人がいなくなってから随分経ってるんでしょうねここ」


 適当にいくつか入れそうな家の中を調べてきたハンスがやってくる。


「何かあったか?」

「いいええ。特に何かに襲われて、とかではないのはわかりましたけど、何ですかね。村の人たち一斉に夜逃げでもしたんですかね? ってくらいなあんにもありませんでしたよ旦那」


 家財道具一式を持って出ていったのであれば、確かに何かに襲われてとかではないのだろう。

 襲われた時点ですぐさま逃げるわけだし、そうなれば最低限持てるだけの貴重品くらいはともかく、家財道具を全部持って逃げられるような余裕があるはずもない。


「家具もないし、なんにもない建物の中でも草とかぼーぼーに生えちゃって、とても住めたもんじゃないですね」

 片手をぶんぶん振りながら言うハンスの様子から大袈裟に言っているわけでもないのだろう。


 街道から大きくはずれ、まるで隠れ里のようにひっそりと存在している村という事もあって最初は賊か魔物にでも襲われたのでは、と思ったがハンスが調べたところによると、そういう感じでもないらしい。


 確かに魔物が襲ってきたとして、ここをそのまま棲みかにしていたなら俺たちがこうしてやって来た時点で襲われていてもおかしくはない。しかし見たところ魔物の足跡のようなものもないし、見れば見るほど放棄されて時間が経過した単なる廃村としか言いようがない。ただちょっと悪目立ちしている館を除いては。


「ルフト」

 だからこそ俺はただ村を眺めているだけのルフトに声をかけた。

「この村について他に何か知っている事は?」


「と言われても……生憎ボクもそう詳しくないですね。噂程度にしか」

「うわさ、っていうけど、この村の事はミリアさんもあまり知らないから、できたら教えてほしい」


 ミリアの場合は鳥精霊の生み出す鳥が各地を巡っていたりするので、そこから得た情報も鳥精霊経由で教わったりしているから、この大陸以外の場所も結構詳しい方ではあるのだが、生憎手紙を届けに行った鳥が行動した範囲外だと情報が入る事も少ない。

 下手に敵に狙われると困る立場にあるために、普段はなるべく外を出歩いたりしないし、それでも時折気分転換に出たとしても、周辺の噂話程度の事は耳にするだろうけれど、離れた場所の、ましてやこんな隠れ里めいた場所の情報など入ってくる事はまずないのだろう。


 次に情報に詳しいのはこの中だとハンスだと思うが、ハンスもまぁ、聞き込みとかしてもこんな廃村の情報を得るような話題は持ってこないだろうと思う。あくまでも帝国の動向だとか、あとは俺の友人に似た人物を探すだとかに偏っているので、こういった場所について知るのであればそれは友人に似た誰かがこういった場所にいるとかそうでもないと知る流れにならないはず。


 俺も精霊から情報をもらう事はあっても友人の情報とか、魔物が出るとか出ないとか、精霊が困ってる感じの話題とかとても偏ってるので特に事件があったわけでもなさそうな廃村とか知るようなきっかけがそもそも無いなと思う。


 となればこの村について一番詳しいのはルフトだろう。それが例え彼も詳しいと思っていないにしても。


「噂、というか……えぇっと……前に、この辺りで魔物退治をした事があるんです。あ、指示書とかからじゃなくて何か付近で困ってるっていう話と、退治したら報酬が出るっていうので」


 成程報酬目当て。別に悪い事ではない。

 指示書の中でも重要度が高く、それでいて危険度もそこそこ、みたいなやつはマトモにこなせば報酬が出る事もあるが、どこそこに行け、みたいな指示では報酬が出るわけでもない。そもそも反帝国組織に所属してるのって別に職業とかに該当しないからな……なんで俺みたいにあちこち移動してるタイプの奴は冒険者みたいに魔物退治の依頼を請けたりだとか、あとは行商めいた事をしてみたりだとかで路銀を稼いだりもするわけだが、そうじゃない奴の場合は普通に拠点にしてる場所で商売したり他の仕事と掛け持ったりしている。じゃなきゃ生活できないしな。


「魔物は退治したし報酬ももらった。その時にその相手から村に寄ったかを聞かれたな……遠目で見てなんとなく館っぽいのが見えたけど行ってないって答えたら、その方がいい、とは言われた」

「つまりここに来たのは初めて?」

「はい。どうして行かない方がいいのか、一応聞いておこうと思ったので聞いてみましたが……まだ生きてるかもしれないから、って言われましたね」

「ちなみにそれ、いつの話だ?」

「確か去年かそこらの話だったと思う。

 ……当時はちょっとボク自身余裕がなくてあまり細かく覚えてないんだ」


 そう言われてしまえばそれ以上聞いても無駄なんだなと理解するしかない。

 というか、一年程度だろうと何年前だろうと、それでも覚えてるだけでもまだ有難いと思うべきなのだろう。


「まだ生きてるかもしれない、って……館の住人が? え、でもこの村、見たとこ人が住まなくなってから去年どころの話じゃないでしょ? もっとそれ以上の年数経過してるはずよ? オレの見立てだけど」


 ハンスがそんな風に言うのももっともだった。


 この村に去年まで村人がいたとは到底思えない。人が住まなくなった建物は劣化するのが早いというが、それでも建物の傷み具合を見ればもっと経っていると思えるのだ。植物に関しては環境次第で短期間でもわっさわっさ生える事があるから何ともいえないが、放棄されて二、三年以上は経過してるはずだ。


「なんだかわからないけど、とりあえず館の中を調べてみるしか」


 何でこの村から人がいなくなったか、というのも気にならないといえば嘘になるが……まぁ、家財道具一式持って出ていくくらいだ、それなりの事情があったのだろう。

 ルフトの話で謎が残っているものの、それよりもこの村にもし帝国の人間がやって来て、移送方陣を展開しているかもしれない事の方が今は重要だ。


 とはいえ、誰かがここで暮らしているとかそういう気配はしないので、館の中も恐らく何も無いとは思うのだが……確認しないで多分大丈夫だろ、とか思ってたら実は全然大丈夫じゃなかったオチなんてのも想像できるので、ミリアの言う通り館の中を調べてみるしかないわけだ。


 いっそ場違いにしか見えない門をくぐり、敷地内へと入り込む。


 玄関扉はしっかりと施錠されているが、そこは精霊に頼んで魔法で鍵を開けてもらえば問題ない。

 ……精霊が人助けをするとはいえ、こんなん手当たり次第にやられたら空き巣とかし放題だよな……一応精霊にもある程度やっていい事と悪い事の区別がついてるみたいだから、平和な町で犯罪に魔法使おうとしても成功する確率はとても低いのが救いかもしれない。


 まぁ、場合によっては魔法で犯人を教えてもらうとかできなくもないから……魔法使って犯罪しても完全犯罪とはいかないみたいだからな。


 重々しい音を立てて開いた扉の向こう側、館の中へと入る。


「……ハンス、気を付けろよ」

 足を踏み入れて早々に、俺は警告していた。

「へ? 旦那? 何かあったんですか?」

「何かも何も、誰もいないはずの館の中が既に明るいとか明らかに異常事態だろうが」


 俺たちは精霊に魔法で扉の鍵を開けてもらいはしたが、建物の中を明るくしてほしいとはまだ頼んですらいない。たまに気を利かせてくれる精霊もいるにはいるが、これは明らかに違う。


「この館、明らかに何かいるぞ」

「ぅえっ!? 何かって何!?」

「そこまで知るか」


 燭台だとかランプだとかで照らされているわけではない。明らかに魔法による明かりで館内は明るい状態にある。であれば、ここには魔法を使える存在がいるという事だ。

 ……村を見る限り誰かが出入りした様子はない。であれば、館の中にいる何者かは外に出たりはしていない……? いやどうやって生活してるんだ。水くらいは魔法で出せなくもないけど、食料はちょっと無理があるぞ。この館の中で作物の生産でもしてるとかか? いや、そもそも村には畑らしきものはなかった。恐らくはすぐ近くの山で食べられる物を確保して生活していたと思われる。


 ……ルフトが以前言われた生きているかもしれない何か、がいるとでもいうのだろうか。


 わけがわからないながらも、俺たちは館の中を進む。

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