状況把握に努めよう
さて、自分の事に関してはさておくとして、この世界についてちょっと整理してみようと思う。
エルフとかいる時点で完全に前世と違う世界だってのは理解するしかない。
エルフ以外にも色んな種族がいるみたいだし、嫌でも理解するしかないわけだ。
それに何よりこの世界、魔法が存在している。
完全にファンタジーワールドじゃん。
魔法て。魔法て。
前世で大真面目にそんな事言ったら鼻で嗤われるやつ。
漫画とかゲームの中の話なら別におかしなことじゃないけど現実として話そうものなら人によっては爆笑されるやつ。
夢とかロマンはあるけれど、ネタをネタとして理解して話してるならいざ知らず本気で言ったら頭大丈夫って言われるやつ。幼稚園児くらいならまだセーフかもだが前世の俺の年齢で言ったら精神的なあれそれ心配されるやつだな。
とはいえ魔法といっても何でもできるわけでもない。
というか、ゲームでありがちな魔力使ってどうこう、ってのは確かにそうなんだけど実際ちょっと異なる。
魔法を使うべく使用される魔力。その源となる魔素――マナとか呼ばれるものはそれこそ世界中どこにでも漂っている……らしい。目に見えるわけじゃないから知らんけど。顕微鏡とかで見れるかもわからん。多分無理じゃね?
生きとし生ける者の中にも魔力はあるので、大気中に存在するマナを感じ取る事ができる。これは個人差がある。
ゲームでいうところの魔法使いキャラなら魔力はそれなりにあるからよりしっかりと感じ取れるかもしれんが、戦士みたいに魔法とは無縁の存在だと……どうなんだろうなぁ? 魔物の気配とかは感じ取れたとしても、それが魔力云々かってなるとまた違う話だろうし。
ゲームだとMPがゼロのキャラも普通にいるけど、この世界に関してはどれだけ魔力が低かろうとゼロってやつはいない……と考えていいのか? 限りなくゼロに近いみたいな低い奴はいるかもだが、流石に詳しくは知らん。故郷を滅ぼされて結構たつしあちこち色々放浪したけど積極的に周囲の人と関わってきた感じでもないからなぁ……いやだって寿命長い分出会いもあれば別れもあるし。久々に知り合った奴に会いにいったらそいつ既に寿命で死んで挙句そいつの子どころか孫がいたなんていうのもあったし。
まだ今の俺じゃない俺だった時の話だけど、それでもやっぱり心にくるものがあったみたいで。
うん、まぁ、知ってるやつが死んだって話はさ、流石に……この世界スマホとかあるわけじゃないから気軽に連絡とれるわけでもないし。
過去のあれこれを思い出してちょっとしんみりしたが、とりあえずこの世界には魔法がある。
とはいえ、魔法というのは自分一人の力で使えるわけではない。
なんとこの世界、精霊がいる。
いや、エルフがいる時点でそりゃいてもおかしかないだろってなるんだけど。
どうにも周囲そこかしこに存在してるらしいんだよな。大抵は目に見えないけど。
精霊ってのはこの世界ではどうやら魔力の塊みたいな存在で、そこら辺を揺蕩ってると。
で、魔法を使う際にはその精霊にお願いする形で使うんだそうだ。
精霊は人の手助けをするのが好きなのか何なのか、いればとりあえず力を貸してはくれる。
とはいえ必ずしもこちらが願った通りに力を貸してくれるとは限らないらしいが。
精霊の力を借りずに己の魔力のみで行使する力を魔術と呼ぶらしいけど、自分の魔力だけでやるとなると結構とんでもない量の魔力を消耗するらしく、基本的には精霊の力を借りて行う魔法がメジャーだ。
目に見えなくてもそこらにいるって考えると、ちょっと落ち着かない気がするのは俺だけだろうか。
この世界の住人からすればそれは当たり前の事だから今更、ってやつなのかもしれないが、つまりあれだろ? ちょっとエロ本とか見たりしてる時も周囲に精霊がいるわけだろ?
前世でだって幽霊とかそういうのはいるとかいないとか言われてきたけど、あれはほら、いたとしても自分には見えてないし~とか気にするものではない認識なわけだけど、この世界には精霊がいるって実証されてるわけだろ?
え、気まずい。
エロ本とか以前にトイレでちょっと大きい方とか用を足してる時とかも何か気まずいんだが。
自宅だと気にならないけど、出かけた先の施設とかのトイレだと他の人も利用してるじゃん? その時に何かこう、思いっきり出せるかってなるとちょっと気にする時とかないか? 流石に爆音発生させるとちょっとさぁ……って感じで控えめになったり……そういう時にもつまり精霊がいるわけだ。
自分の目に見えてないから切羽詰まってたら気にしてる余裕はないと思うけど、それでも後から冷静に考えるとその存在を理解してる以上は何だかこう……居た堪れない気分になるような。
俺が常に見られている事に快感を得られるタイプだったらまた別の話になっていたかもしれないが……いや止めよう、この話題は不毛だ。
そう、つまりはさっき俺を襲ってきた三人のうち一人を倒したのは魔法の力である。
話の流れが無理矢理すぎる? 気のせいだ。
本来魔法ってのは精霊の力を借りて行うわけだが、必ずしも力を貸してくれるとは限らない。
例えば部屋の中が暗くなってきて、ランプに明かりを灯そうとした時に、
「部屋を照らせ」
だとか、
「明かりを」
だとかわかりやすく言って魔力を使えばその場に一体の精霊もいないとかいう状況じゃない限りは明かりがつく。
その程度の願いなら精霊は快く聞いてくれる。
あれだな。「アレ〇サ、電気つけて」とかいうのと大体同じだな。
けれども、例えば。
「あいつ殺して」
とかそういうやつだと精霊も拒否する場合がある。
それは精霊が争いを好まない個体であったりだとか、力が弱くそれを実行できない場合だとか。
魔力の塊でそこらを漂っているだけみたいな精霊だが、こちらの手助けをしてくれるという時点で多少なりとも人格というべきか、まぁ自我はあるらしい。
好戦的な精霊がそこにいた場合はもしかしたらそれを実行できるかもしれないが、精霊の力が弱い場合、もしくはそれを望んだ相手の魔力が低く、精霊に頼むための対価として差し出せる魔力が少ない場合。まぁいくつかの要因があれば叶わない場合もある。
ちなみに俺の場合はその魔法を既にある程度使いこなせるので、先程の襲撃者に至ってはああいう事になった、と……
あとはそうだな。宿に来る前に既に怪我は治してある。ついでに脇腹のあたりの服が破れたけどそれも直してもらった。
魔術で服を直そうとすると時間を逆戻りさせるとかになるので、おっそろしく難易度高いし消費魔力も半端ないが精霊に頼めば案外簡単にこの程度はどうにかなるようだ。
魔法って便利だなー!
まぁなんでもできるかっていうとそうでもないみたいなんで、妄信してはいけない。
あとはこの世界に関しては……さっき言ってた帝国とレジスタンス的なやつ?
この世界にもいくつかの国はあるんだけど、その中でちょっと面倒な思想持ってる国があって、そこがライゼ帝国。
数ある種族の中で人間こそが最も優れているとかいう感じの思想を掲げて、それ以外の種族に関しては人の僕たるべき、みたいな考えの国で他の種族を捕えては奴隷にしたりしてる所だな。
で、それに対抗するのが反帝国組織。名前が何の捻りもないけれど、つまりは俺が所属しているところだ。
人間以外は全部奴隷になれなんて暴論に従えるはずもない。だからこそこの組織に関してはいくつかの国が絡んでるし、当然所属してる大半は人間以外の種族だ。
中にはライゼ帝国の考えに反対する人間もいるけれど。
で、帝国は人間以外の種族を捕えるために各地に侵略しかけたり、対するこっちは防衛したり相手の拠点を叩き潰したりしている、と。拠点潰した時に向こうに捕まった奴を解放できればなお良し。
とはいえ、これはある意味でいたちごっこだ。
こっちが完全降伏して奴隷となり下がるか、はたまた帝国を潰すか。
仮に今の皇帝が心変わりするかってーとしないだろうし、皇帝一人暗殺したとしても人間至上主義意識に凝り固まった帝国の人間が考えをすぐに変えるはずもない。
つまりはどちらかが潰れるまで続くわけだ。
一体何年かかるんだろうな、この戦い。
思い返せば今の皇帝だけじゃない、先代、先々代あたりから既にその人間至上主義思考があったみたいでキナ臭い時期はかなりあったし、皇帝一人どうにかすれば終わるなんてのは確実にこの時点で有り得ない。
帝国以外の人間の国まで参加してないからまだしも、もしそうなったら世界全体が戦場になりかねない。うぅん……今の俺の住んでる世界物騒過ぎない?
とりあえずライゼ帝国以外の人間の国が参加してきたら流石にこっちも分が悪くなりそうだしな。
もしかしたら水面下で手引きしてる国もあるかもしれないけれど、表立って支援してるところはなかったはず。完全に人間だけの国って実はそんなに存在してないし、大体どの国にも他の種族が暮らしている。表立ってライゼ帝国に肩入れすれば自分の国に住んでる異種族が敵対するか逃亡するかだし、そうなればその種族によって成り立ってる産業が駄目になる可能性もある。
かといって反帝国組織にも表立って参加しない国は、恐らくあわよくばを狙っているのだろう。異種族によって成り立ってる産業のいくつか、帝国が完全勝利した場合異種族を奴隷として扱えるようになる。そうなれば国はそいつらを公然と使いつぶせるわけだし。税金増税だとかただで使える労働力だとか、その他にも今までは彼らの権利も考えていたけれど、それらは必要なくなりましたよなんてことになれば国からすればそりゃ都合のいい奴隷が大量にって流れになるわけだしな。
反帝国組織に属する事で人間種族をないがしろにする可能性とかあれこれ理由をつけて、そちらの考えに反対はしないけれど……とあれこれ体裁を考えていますよ、というのを前面に押し出して中立を名乗る国が多い。
敵に回らないだけマシかなと思っておこう。下手に藪をつついて敵に回られるのも面倒だし。
しかしそう考えるとマジでこの世界ヤバいな。