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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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現れた帝国兵



「現地についてさえしまえば簡単な依頼だったんだ。隠された地下室に設置するだけでいいって……!」


 助かる道が見えたと思っただろう男は堰を切ったように話し始めた……のだが、起承転結でいうところの転あたりをいきなり話されているようにしか思えないくらい唐突な導入だった。

 そのせいでミリアもどう判断していいものなのか、かすかに首を傾げている。


 こいつの話を聞くよりも、いっそさっさと地下に下りてこいつが何をしてきたのかを確認した方がいいのではないか、と思い始める。いや実際にそうしようと思ったところだった。


「…………!」


 しかし俺の耳が地下からした何かの音を捉える。

 何か……いる……?


 本人は必死なのかもしれないが聞いてる側からすれば纏まりのない話を延々としている男には聞こえていないだろう。というか、自分の話している言葉だけで一杯一杯のようだ。自分の命を握っている、という自覚があるだろうからミリアの一挙手一投足には気を配っているだろうけれど、地下からした音に気付いた様子もそれらを誤魔化そうとしている様子もない。


 ハーフエルフでもあるルフトも今の音を聞いただろうかと思ったが、ルフトは男の話に一応耳を傾けているようなので気付いてはいないようだ。

 もっと誰が聞いても聞こえた、といった大きな音ならともかく、俺が聞こえたのだってそもそも男の話よりさっさと地下に行った方がいいんじゃないかと思ってそちらに意識を向けていたからだろう。


「何か来る」

 地下に続く階段を見ながら言った俺に、ミリアもハンスもルフトも一斉に同じように階段へ視線を向けた。男だけが一拍遅れて「え?」と場違いみたいな声をだして、話すのをやめる。


「地下に、まだ仲間が?」

「い、いや、そんなはずねぇよ。あるわけねぇ。何も、何もなかったんだ。信じてくれよぉ……!」


 何かあるのを誤魔化そうとして必死に言い訳をしている、と見えなくもないが、男の様子からしてこれは本心だろう。仲間がいるのであればその目には助けが来たとか、少なくとも自分の現状が変化する事を分かった上での反応になるだろう。けれども男の目にはそんな希望が浮かぶでもなく、どころか本当に自分たちが地下に行った時は何もなかったんだと言って、じゃあ何で音が聞こえるんだと困惑している。

 これが演技ならたいしたものだ、と思うのだが……


 俺以外の耳にもその音が聞こえたのだろう。


「足音……?」

 ハンスが思わず男を見る。男は必死に首を振った。勿論横にだ。

 誰もいなかった、とこちらに信じてもらおうと何度も繰り返しているが、実際に聞こえてくる音は誰かが階段を上がって来る足音にしか聞こえない。


 とはいえ、こいつらのようにまだ軽い感じの音ではなく、もっと重々しい、というか金属的な音のようにも聞こえる。

 こいつらもそれなりに武装はしていたけれど、それでもまだそこらの冒険者と大差ない。魔物と戦う事もあれど、各地を移動する事が多かったり拠点を決めてその周辺でしか活動しないにしても、彼らは基本的に動く。だからこそあまり重たい装備などで身を固める事は滅多にない。

 どこで何があるかわからない状況下でロクに動き回れないような重たい武器や防具を身に着けていたら、それこそいざ何かあった時、敵対する側からすればそいつはいい的になる。

 事前準備をして敵を引き付けて的になるのと、そんな事態を想定せずに的になるのとでは全然違う。


 しかも聞こえてきた足音から一人ではなく複数いるらしいという事が判明した時点で、俺たちは物音を立てないようにしつつも階段から離れるように距離を取った。男も全く動けないわけではなかったらしく這うようにしながらも階段から離れようと試みていた。

 這うようにしていた身体を反転させて尻もちをついたような状態になり、そのまま階段とは逆――後ろへとずりずりと移動していっていたが、足音とともに階段から姿を見せたそれを目にして動きが止まる。


「え……?」


 それは男の呟きだったのか、ハンスの声だったのか。正直ちょっとよくわからない。


 姿が見えたとはいえ、そいつらの動きは止まる様子もなく上がってくる。

 一人が完全に階段を上がりきって、その後ろに続いていたであろう奴がいるので出たところで一人目が足を止める事もなく。

 座り込んだまま見上げている男の目の前まで移動して、そこでようやく一人目は足を止めた。


 その頃には既に全員が階段を上り終え、この階層に到達していた。


「任務の達成を確認した。ご苦労」


 恐らく一人目だろうそれが言う。

 こもった音声は顔面が覆われているからか。


「え、いや、あの、はい。えっ、なんで」


 目の前にずらりと並んだ六名は、皆同じ姿であった。

 姿、というとちょっと語弊があるか……全員が同じように頭から足下まですっぽり完全武装していたからだ。

 全身鎧フルアーマーに、片手で持つには苦労するだろうなと思える大きめの剣。しかしそれが両手剣かと問われれば、きっと違うのだろう。何せ俺の頭から胴体のあたりまでは隠せそうな大きさの盾も持っているからだ。両手で剣を持つなら盾を持つ余裕などあるはずがない。


 兜で顔も隠れているので誰が誰なのか、というのはわからない。ま、中身に知り合いがいるとは到底思えないのでそれはいいだろう。


 男はポカンとしたまま最初の一人である兵士……いや、騎士か? 重装歩兵よりも見た目の装備が豪華な感じだから多分騎士とかか? わからん。

 ともあれどうしてここに? とばかりに見上げている。


「さて、任務達成に関しての報酬だが」


 しかし男の問いに答える様子もないままに、騎士の一人は言葉を続ける。僅かに頭が動いたのは、恐らく周囲を見回したのだろうか。正直顔面隠れる兜で、目元も何かホントに見えてる? みたいなやつなんでそんなちょっと顔動かした程度で見えるものなのか? とは思うが。


「二名は死んだか。では、報酬を渡すのは必然的にお前という事になるな」

「えっ、今、ですか……?」

「あぁ、受け取るがいい」


 周囲に俺たちがいるのにそんな事は一切気にしていないと思われる騎士に、見上げたままの男はこれどうしたらいいんだろう、という困惑した空気すらあった。


「っ、待て!」


 正直一人だけ生き残った男が最終的に死んだとしても仕方がないとは思っていた。ミリアだって情報抜いたらこれ以上余計な事をされないように始末する算段を整えていたはずだ。だから、別にどうでもいい。そのはずだがそれでも。


 咄嗟に騎士がやろうとしていたことを止めようと、俺は剣を抜いて斬りかかる。しかし騎士はまず片手で扱うのも苦労しそうな大剣を片手で抜くと俺の攻撃を受け止め――


「ぎゃあっ!?」


 盾を手にしていた腕を、男に向けて振り下ろした。

 盾の形状は長方形のように長く、しかし下の方は三角形のように尖っている。見ようによっては剣の形状に似ているかもしれない。その尖った部分が男に向けて振り下ろされ、逃げる事も防ぐ事もなく男は無防備にその一撃を受けた。

 怪我を完全に治していればもしかしたら避ける事はできたかもしれない。

 いや、仮に治っていたとして、果たして回避できたかは疑わしい。男は自分に危害を加えられるなど思ってもいなかっただろう。


 俺の細身の剣で相手の剣をどうにかできるとは思えなかったがあっさりと弾かれたので、そのままの流れに任せて後ろへ跳んで距離を取った。正直俺の武器でこの盾とか鎧とかどうにかできる気がしない。頑張っても最終的に俺の剣がぽっきり折れる未来しかみえない。


「ミリア!」

「まかせて!」


 俺の言葉に頷いて、ミリアは鳥精霊に何かを告げる。次の瞬間発動した魔法は、男を殺した騎士から少し離れた場所にいた残り五名の中心地点で爆ぜるように炸裂。咄嗟に盾を構えて防御行動に移っていたが、爆発がおさまった後、その盾はほぼ使い物にならないくらいにひしゃげていた。


「ちょっとちょっと旦那! これどういう事!?」


 ハンスが叫ぶ。


「どうも何も、こいつら帝国兵だ」

「……どういう事!?」


 状況を把握したとはいえ、何でここに!? とばかりにまたもハンスが叫ぶ。しかしここで何事もなく彼らとお別れできるはずもない。ハンスも懐から武器を取り出して構える。

 腰にある短剣は役に立たないと踏んだからか、ハンスが手にしているのはパチンコだった。


 ……いや、それもどうかと思うんだけどな? とは思ったが、丸腰よりはマシだと思おう。


 立て続けにミリアが、というか鳥精霊が魔法を発動させる。固まっていると不利だと判断したのだろう、咄嗟に散開したが、二名ほどは発動した魔法を避けきる事なく巻き込まれる。


 男を殺したのがこの中のリーダー格だとしても、そうじゃなかったとしても、流石にこんなガッチガチに装備固めた相手を複数残した状態が続くのは厳しいものがある。

 だからこそ俺も咄嗟に魔法を使っていた。


「砕け!」


 ガィン! という音とともに鎧の一部が砕ける。そこにすかさずハンスがパチンコで何かを打ち出した。命中したそれは、ぼん、と小さな音ではあったが確かにそこで爆発した。


「ぐっ……!」


 生身部分に攻撃が当たれば流石に何事もないように振舞うのも難しいだろう。一撃で倒せるくらいの威力の魔法を使えればいいが、正直加減がわからない。力加減を間違えば、あたり一帯消し飛ぶ事もあり得るので少しずつ調整していくしかないが、盾や鎧、剣のどれかを駄目にできればこちらの危険度も下がる。

 鎧が壊れればそこにハンスがパチンコで打ち出した小型の爆薬みたいなのが炸裂するし、そうでなくともミリアの鳥精霊がどうにかしていく。


 そうだルフトは……と思って見れば、彼は普通に剣を手に戦っていた。

 鳥精霊がある程度弱らせていたからか、驚く事に華奢な武器であっても弾かれる事なくむしろ互角に打ち込んでいた。

 ルフトが一人引き付けているので残り三名は俺とミリアとハンスでどうにかするしかない。


 とはいえ、それも簡単に行く気がしなかった。

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