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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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どう足掻いても偏る戦力



 どうにか早朝に起きる事に成功し、寝起きドッキリは回避できた。

 まだ町の一部くらいしか起きて活動していないような早朝に出発し、遺跡についたのは昼より前、うぅん……学校でいうなら一時間目が終わって二時間目に入るかどうか……くらいの時間だろうか。会社で例えるには職業によって色々と違うだろうからこれくらい、という判断基準がわからない。ともあれ、大抵の店なら開店している時間帯ではあるはずだ。


 街道が迂回するようになっているのは単純にあたり一帯が森になっているからだ。町と町の間にある森。

 そう規模が大きいものでもないのはある程度伐採されたからだと思われる。

 森の中心部に遺跡があるが、森全部を切り拓かなかったのは……魔物がいたからか、それとも他に理由があったのか……流石にそこまではわからなかった。


 森の外からでも遺跡がある、とわかるわけでもない。そういう意味では規模もそこまで大きなものではないので、遺跡を調べるだけであればそう時間はかからないだろう。

 どちらかといえば魔物と遭遇した場合、そちらの対処に時間をとられる気がする。


 森の中心部、開けた場所に残されたかつて何かの建物だったであろうそれは、俺の目から見て少なくとも異種族の居住区のようには見えなかった。何らかの施設、その建物が朽ち果てたと言った方がしっくりくる。

 なんだろうな……前世の建物だとなんとか会館とかなんとかホール、みたいなイベントとかできる感じの場所、みたいなものに見えなくもない。

 勿論その考えが間違っていて、実はここにかつて住んでいた異種族の館だった、なんてオチだってあるかもしれない。


 何にせよ外から眺めているだけではこれ以上わかるはずもなかった。


「それで? 調べるのはいいが全員で行動するのか? それとも分散するか?」

 周辺に人の気配はない。この辺りでミリアの精霊が目撃したという人間が既にここから撤退した可能性もあるが、建物の中にいる可能性もある。

 周辺に気配はないが、俺たちが運良く遭遇しなかっただけで今は森の方にいる可能性も捨てきれなかった。森で食料になりそうな物を集めてここに戻ってくる、なんて事は考えられない事もない。念の為遺跡周辺を探る方と、一足先に内部調査に行く方とで分かれておいた方がいいような気もする。


「んー……この辺りは、この子の子たちにお任せするよ。わたしたちは中を調べよう。チェックチェック!」


 ミリアがそう言うと肩に乗っていたままの鳥精霊は緩く首を上げて、空を見た。

 鳴き声のようなものは聞こえなかったが、何かは言ったのだろう。俺の耳にもよくわからん言語なのかどうなのかわからない音は聞こえた。

 それが、普段指示書を届けるための鳥を呼びだすものだったらしく、空には数羽、見慣れた鳥たちが飛んでいた。


「えっ、ホントにあれ精霊だったの……? オレ今まで普通の鳥だとばっかり思ってたのに」


 ハンスが眼球零れ落ちるんじゃないかってくらい見開いて凝視している。

 いや、ちょっとくらいおかしいなとか気付かなかったんだろうか。指示書を届ける鳥は、こちらから報告書を届ける時にも現れる。どこにでも現れるその鳥に、本当の本当に何にも思わなかったのか……?

 あれが普通の鳥なら賢すぎるし報告書を届けようとしたこちらの意図を正確に組んで登場するとか空気読みすぎすぎにも程があるだろ……


 とはいえ各地に鳥が配置されてるわけじゃなくて、恐らくはそこらを漂ってる精霊経由で何らかの連絡がされるのだと思っている。精霊同士だと離れていても意思の疎通を行う事ができるもの、というのもいるらしいから。


 鳥たちは一声鳴いてそれぞれが森の中へと向かっていく。

 これで何かあれば親元にあたる鳥精霊に連絡がいって、ミリア経由でこっちも把握はできるはずだ。


「じゃあ行くか」


 見た所建物の中に入れそうな場所は多くない。一応ぐるっと建物の外側を回ってみたが、裏口だったかもしれない場所は崩れて到底入り込めそうもないし、正面からしか行けなそうだ。中を調べる時に二手に分かれたりするかもしれないが、今の所は分かれる必要もないだろう。


「わーい、いっちばーん♪」

「あ、おい……!」


 もしかしたら中にいるかもしれないのに、そんな事は気にしてませんとばかりにミリアが駆けていった。危機感仕事しろ。いやまぁ精霊いるから何かあっても大丈夫だとは思うけど……



 建物の中に入ると、まずそこはホールのように広がっていた。屋敷とかもこんな風になってるところはあるけれど、やはりどちらかといえば何らかの施設のように思えてくる。

 所々崩れていて瓦礫が落ちている場所、床が割れてそこから植物が生えている場所、天井にもそう大きくはないが穴が開いている箇所が入った時点で見受けられた。

 視界の隅の方に階段が見えるが、開いた穴から伸びた植物がその階段を覆うように成長しているようで、そちらから二階に上がるのは無理そうだ。よく見れば階段にも穴が開いているみたいで仮に植物がそこで蔓延ってなくても普通に通るのは難しいだろう。


 その階段がある方とは逆に目を向けるとそちらにもどうやら階段はあった。こちらはかろうじて登れそうな気がする。とはいえ建物の耐久度合いがどうなってるかはさっぱりなので、歩いてる途中で踏み抜く可能性はある。まぁいざとなれば魔法でどうにかできるから、二階を調べられないという事はなさそうだ。


「んー、どこから見ようか?」


 真っ先に入っていったミリアはといえば、ホールの中央部分でくるくると回転していたがその動きを止めると俺たちにそんな風に問いかけてきた。くるくる回っていたせいか、鳥精霊がちょっとだけ迷惑そうな顔をしている。


「どこ、と言ってもな……そうあちこち見て回れるような感じでもないだろ」


 階段がある場所から更に横に通路が伸びているが、その先はどうなってるかわからない。


 前世の何らかの施設に当てはめて考えると、このホールは言わずもがな。瓦礫が崩れて小さな山になってる部分はもしかしたら受付とかそういうのがあったかもしれない場所だと思われる。

 その小山になってる瓦礫部分を挟むように両隣に階段が。しかし片方は植物に覆われて使う事はできそうもない。


 もう片方から二階に行くだけならできなくもなさそうだが、その階段がある場所から更に横に通路が伸びている。この先にも恐らくいくつかの部屋が存在しているはずだ。

 外側からこの遺跡を見る限り、余程おかしな造形をしていたわけでもない。階段を上がったら一階と同じように通路が伸びているのでそちらに行く事もできるはずだ。

 二階から一階を見下ろす事ができるようになっているので、天井はかなり上の方にある。外から見た限りだと三階建てくらいの高さがあるように見えたが、実際中は吹き抜けになっていて二階までしかないようだった。


 階段を上がったとして横の通路へ行かずそのままぐるっと囲むように続いている通路を移動した場合、果たしてどこにつながっているのだろうかと視線をぐるりと動かせば、入り口側に一つ、小部屋らしきものに続いていそうな扉が見えた。玄関の真上。外から見た限りそう大きな部屋ではないはずだ。もし部屋がもっと大きいものなら通路がもうちょっと狭くなっていてもおかしくないからだ。その部屋らしきもの以外には何もなさそうで、続いた通路の先は反対側へ行けるだけらしい。とはいえ、片方の階段が使えない状態なのでもし上で繋がっていなければそちら側は調べる事ができなかっただろう。


 何せ階段と階段の間だけは通路が繋がっていなかったのだから。

 いや、飛び越えればいけるか……しかし着地した途端床が崩れるとかありそうだしな……と思うとその手段も実行するには躊躇うものだ。


「一階と二階、それとも右と左?」


 ミリアの問いに、二手に分かれるのは確定なんだなと思った。

 階で分かれるのであればそれら全部を、左右で分かれるのであれば、同じ階層の半分を担当、というわけか。


「もし何かあった場合すぐさま駆け付けられるようにしておいた方がいいだろう。なら、同じ階で左右に分かれた方がいいんじゃないか?」

「じゃそうする」


 それなら調べるにしても半分がほぼ崩れていたりで調べられなかった、なんてことになった場合でもすぐに相手と合流すればいい。

 けれど一階と二階で分かれてしまうと、そう簡単に合流できそうもない。

 ミリアもそれでいいやと頷いて、じゃ行こう! と俺の腕をとった。

「待て」

「なに?」


「この場合何かあった時の事を考えたら戦力は偏らせない方がいいだろ」

 言いつつ俺はハンスを見た。ルフトは俺の腕を掴んでいるミリアをじっと見ている。その目はなんでそうなるとでも言いたげだった。いや仮面してるから見えないんだけど、何か雰囲気がそう訴えている。


「……でもそしたらミリアに何かあった場合ルーカスすぐ来る?」

「呼べば行く」

「無視しない?」

「指示書じゃないんだから何かあったら行くだろ」

「……わかった。じゃあ、えーっと……」

「何かあった場合逃げる事を第一に考えろよ」

「うい。じゃ、ハンスと一緒にいくね!」


 俺の腕を掴んでいた手を離して、すっとハンスに近づくとミリアは俺の時と同じようにハンスの腕を掴んだ。

「あだっ!? ちょっと思ってた以上に力つっよ!? まってミリアちゃん、いや、ミリアさん!? このままだとオレの腕が有り得ない方向に捻じれちゃうの!」

「……ねぇ、これと一緒でホントにミリア大丈夫?」

「ミリアだけだと気づかないかもしれないが、そいつうるさいから何かあったら気付ける」

「わかった。なんかあったら全力で鳴らすね!」

「えっまってオレの扱いベルとかブザーとかそういう……?」


 ハンスの戸惑いしかない言葉を無視して、ミリアは「じゃ、こっち調べてくるねー!」と言いながらハンスを引きずっていった。まぁ、何かあったとしてもミリアには精霊ついてるわけだし、逃げに徹しろって言った以上ハンスも一緒に連れて逃げてはくれるだろ……多分。

 あんなんでも俺の相棒としてミリアも認識してるから、まさか見捨てたりはしないはずだ。そうでもしないと生き残れない状況に陥ったとかならまだしも。

 まだ何やらごちゃごちゃ言ってるハンスの言葉をまるっとスルーしているらしいミリアたちの姿が見えなくなって。


「じゃ、俺たちも行くか」

 俺はルフトに声をかけたのだった。

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