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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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鳥を従えし者



「何してるんですか?」


 突然俺に抱き着いて――いや、飛びついてきた相手に対して即座に反応したのはルフトだった。

 見れば剣を抜いて相手に突き付けている。返答次第ではさくっとやるのも辞さない構えだ。物騒!


「光を」


 日も沈みすっかり暗くなってしまった挙句ろくに人も通らないような路地裏は周囲に明かりになるようなものがあるわけでもなく、人の多い通りと比べると驚くほどに暗い。表通りは店の明かりなどでそれなりに明るくはあるが、こちらは本当に真っ暗だからこそ一先ず、といった形で俺は魔法を唱えた。

 周囲がそれなりに明るくなると、今の状況がより一層ハッキリ映し出されるわけで。


 改めて現状を確認すると何だか修羅場のような雰囲気すら感じられる。


 俺に抱き着いている人物に向けて剣を突き付けているルフトとか、ほのかな昼ドラの香りすら漂ってきそうだ。


 一方で剣を突き付けられている相手はきょとりとした眼差しをルフトに向けていた。


「なにって、ひさしぶりだから挨拶挨拶。ね、とても大事☆」


 にぱーっと邪気の一切ない笑顔を浮かべるも、ルフトが納得した様子はない。


「とりあえず……ミリア、離れてくれないか」

「えーっ、ルーカス冷たい! ひさびさなんだからもっとテンション上げてよー」

 ぶー、と言いつつも離れたミリア。その肩に乗っていた大きな鳥が呆れたような表情を浮かべているのは決して気のせいではないはずだ。


 大道芸人です、と言われれば信じてしまいかねない服装の女は、肩に乗った鳥をよしよしと撫でている。


 淡いピンク色の髪は、前世だったら染めるでもしないと有り得ないような色だ。そこにほのかにグリーンも混じっている。完全に二次元にありがちなカラー。それがツインテールになっている。

 顔立ちもそれなりに整っている。くりっとした大きな目は海の色のような青さで、常にキラキラと輝いている。ちょこんとした鼻に、赤く色づいた唇。そのすぐ近くにあるホクロ。

 前世で見たアニメや漫画だと、口元や目元にホクロのあるキャラって割とお色気担当とかそういう要素があったような気がするが、こいつからはそういったものは感じられない。


 パッと見初見の感想を述べよ、と言われたならば間違いなく天真爛漫な妹タイプと答えた事だろう。実際はそんなんでもなかったが。


「えーっと……旦那? その、失礼ですがそちらのお嬢さんは一体……?」


 見た目十代後半から二十代前半に見えなくもないミリアを目にして、ハンスも戸惑ったように問いかける。

 まさかこれ? と指を立てているが、ルフトはその動作がわかっていないらしく、これ? と呟いて首を傾げている。

 あっ、こっちの世界でも恋人とかそういうのあらわすのに立てる指は同じなんだな、と今更のように納得したけど、生憎そんなんじゃない。


「えっ、わたしルーカスとそんな関係に見える!? わぁ、それだけ仲良しに見えるんだね! やったやった」

「おいハンス、あまり馬鹿な事を言うんじゃない。こいつが本気にしたらどうする。面倒な事になるのは僕なんだぞ」


「では、恋仲などではない、と?」


 ハンスではなくルフトが念を押すように確認してくる。いや、ホント、何でそういう風に見えると思われてるんだ。俺の顔か? 顔面偏差値が高いからか?

 やめろその理論でいったらエルフの里なんてどいつもこいつも恋人関係にしか見えないって言われるも同然だぞ勘弁しろ。

 俺の故郷はもうないから幼馴染だとか同郷の奴はいないけど、他の里とかのエルフがそんな目で見られようものならそれこそホント蔑んだ眼差しを向けられるぞ。男と女がいるってだけですぐそういう関係に見るって、どんだけ欲求不満なんですか? とか率直に言われるだけならいいけど、歪曲に捻って人格否定にまで持ち込まれかねない案件なんだぞ。


 ちなみに過去たまたま知り合った相手がそういうのを言っちゃった相手で、そいつは言ったエルフにとんでも冷ややかな視線を向けられて凍り付いていたな。

 まぁ、恋人だと思ってたなんて言われた相手が親子だったからな。ただそういう風に見えてしまっただけ、であればまだしも、そいつもっと踏み込んだ発言してたもんな。


 近親相姦してるのが当たり前みたいな言い方されたらそりゃ言われた側は不愉快極まりないわけで。


 あいつ元気にしてるかなぁ……あ、いや、多分もう寿命迎えてるか? そこまで親しい間柄じゃないから気にしてなかったな。ホント今ふと思い出しただけで、そうでもなければ思い出す事もなかっただろうし。


「生憎こいつとそんな関係になる事は過去一度も、どころか未来永劫有り得ない」

「あーっ、ひっどい! ルーカスなにもそこまで言わなくてもいいじゃない! 確かにそうだけどそれでも言われたら言われたで傷つくんだからね!」

 腰に手をあててぷんぷん! と言っているがあまりのわざとらしさにどう反応すればいいやら。


「こいつはミリア。組織の指示書出してる奴って言えばわかるか?」

「えっ、あの!?」

「……え?」


「えっへん! ミリア・ミルフィリア・ミーミリアさんだぞー。指示書を届けてる鳥さんを管轄しているのだー」


「あとこいつ見た目は人間ぽいけど異種族だから。年齢はお前らより余裕で上だぞ」

「年齢の事に関しては禁句だよー。いい子はお口にチャックチャック! 種族に関しても多分聞いたら知らなーいって言われるくらい少数マイナー」


「は、はぁ……」


 ハンスの戸惑った声。ルフトに至っては何も言わなかった。言えなかった、が正しいのかもしれない。

 そうだよな、こいつのテンション疲れるよな。

 俺も反帝国組織に身を置いた最初の頃に会ったっきりでそれっきりだったから、久しぶりではあるけれどこいつのテンションに合わせておひさおひさ! とか言ってやろうとはこれっぽっちも思わないんだよな。疲れるから。


「え、じゃあそっちの鳥は?」

「この子はわたしの相棒だよ。指示書を届ける鳥さんのリーダー!」


 暗かった時はシルエットくらいしかわからない感じだったが、明るくなった場所で見るとその鳥は、綺麗な青色をしていた。空の青さとはまた違う青。けれどもミリアの肩に乗っているのを見ると、まるで彼女が空を背にしているようにも見える。


「鳥使い、って事なんですかね」

「んーん、ミリアさんは鳥使いではなく精霊使いなのです」

 まだちょっと戸惑いが抜け切れていないものの、ハンスがともかく現状を把握しようとしてか口にした言葉を、ミリアは即座に首を横に振って否定した。


「この子精霊。指示書を届ける鳥さんはこの子が生み出した子」

「へ? あの、旦那……?」

「何だ」

「精霊って、目に見えるものなんですか……?」

「一部は」


「うっそでしょぉ……!?」


 ハンスのその反応もわからなくはないけれど、事実である。


 精霊は基本的に目に見えない。ただそこらを漂っているもの、とされているが、例外だって存在する。魔力の塊に意思があるものが精霊とされているが、その魔力が更に集まって凝縮したものは肉眼で確認できる外見を得る事もあるのだ。

 勿論そこらの精霊と比べて力の差は歴然。そんな精霊から力を借りて魔法を使えばどうなるか……ただの精霊ですら間違えたアマンダの事を思い出せば、言うまでもないだろう。


 本来は自由気ままに行動する精霊、それも誰の目でも確認できる器のある精霊が一所に留まるなんてのは実はよくある話だし、更には誰かと行動を共にするというのもそれなりにある話だ。

 俺が初めてミリアと出会った時には既に彼女はこの鳥の姿の精霊と共にいた。いつから共にいたのか、を気にする必要はないだろう。共にいる年数を考えたところで意味がないからだ。


「あ、でも考えてみればそう……なのか? ただの鳥だとそんな正確に誰それのところに手紙届けられるかっていうのも難しいのに指示書なんて重要なもの……うん、うーん」

 恐らく無意識だろう呟きが漏れているが、ハンスはハンスなりに納得しているようだ。


 確かに普通の鳥に手紙届けさせるのもやってできない事はないだろうけど、大陸のあちこち飛び回らせたり、挙句届け先も移動してる、なんて事なら普通の鳥がまともに届けられるかも疑わしい。決まったルートだけを行き来すればいいってものでもないからな。

 さらには運が悪いと空を飛ぶ魔物に見つかって、なんて事もある。ただの鳥にはちょっと荷が重い。しかし精霊が届けるというのであれば、魔物に見つからないように立ち回る事もできるだろうし、場合によっては力尽くで切り抜ける事もある。帝国の人間が鳥を捕えて指示書を奪おうと考えた事だってないとは言い切れないだろうけれど、少なくともそういった事件は今まで起きた事がないのは、ただの鳥などではなかったからだ。


 そういう意味で考えると、ミリアの存在は反帝国組織に無くてはならないものだ。

 だからこそ普段は組織のリーダーの所にいるはずなのだが……


「そういや何でここに?」

 帝国がこいつの存在を知ってるとは思わないが、それでもどこに目や耳があるかはわからない。見た目から明らかに人間種族ではない、と断言できる程異種族らしい外見をしているわけではないから狙われる可能性も低いとは思えるが、絶対狙われないわけでもない。

 まさかリーダー共々ここに来ました、なんてオチじゃなかろうなと思ってミリアを見れば、ミリアはハッとした表情を浮かべた。


「そうだったそうだった。ひさしぶりだったからつい忘れてた。あのねルーカス、手伝って!」

「げ」

「うわわ嫌そうな顔。でも手伝ってもらうからね! だってミリアちゃん一人じゃ流石に厳しいもの!」


「あのー、ミリアさん、でしたか。それってどういう……?」

 恐る恐るハンスが問いかける。腰が引けてるのはミリアの肩に乗ってる鳥が精霊だという事実を知ったからか、それとも思ったより鳥の目が鋭い事に気付いたからか……


「うん? そのまま言葉の通りだけど?」


 ミリアはハンスの質問の意味がわからない、とばかりの反応だ。手伝えつってんのにそれ以上何があるの、と言い出しかねない。

 仕方なく俺は助け舟――というか説明する事にした。不本意だが。


「ハンス、指示書をこいつが届けてるっていうのは理解したな?」

「え、えぇ、それは。そこの精霊使って届けてるって今」

「そうだな。指示書に関しては必ずしもやらなければならないわけでもない。こちらの都合もあるし、できる時とできない時がある」

「なるべくなら引き受けてほしいんだけどねー。適材適所で割り振ってるんだよ」

「だが、どうしても。どうしても引き受けてもらわないと困る案件だって中には存在するわけだ」

「割と普段からそういうのばっかりなんだけどー」

「そういう時には指示書よりも上の命令書だったりが届く事もあるが、それだって絶対じゃない。無理な時は無理だからだ」

「それで放置されるとこっちもいっぱい困る困るなんだよー」


「ミリア」

「なに」

「ちょっと黙れ」

「ぶー」


 唇を尖らせて目一杯不満です! という表情を浮かべてはいるが、合いの手みたいに不満を挟まれると話が進まない。まぁ本人はそれをわかってやっているのだろうが。

 何せ俺、過去に何度も指示書無視したことあるからな。そんな相手が目の前にいるならそりゃ言うだろう。


「で、命令書でも動いてくれないだろう相手に、どうしても、任務を遂行してもらいたい案件ができた場合。これは滅多にない事だが。

 こいつが直接出向く、という事もある」


「……つまりそれって、今では?」

「そうだな」

「旦那……だから普段から指示書なるべく無視しない方がって……」

「過ぎた話だ」

「それでこうして強制力がっちりな事になってたら、どうしようもないのでは」


 ハンスの正論に、正直何も言えなかった。

 いやまさかここでこいつが出てくるような事になるとか思ってもなかったんで。

 ゲームでいうなら強制イベント。まさかこんなところでそんな事になるとか思ってなかったんだ……

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