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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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そして沈める



 戦闘に関して多くを語る事はない。

 苦戦はしたが勝利した。


 図体がでかい割に俊敏だった魔物に捕まらないよう立ち回り、剣を突き刺し時に魔法で凍らせてみるといった対処が良かったのかもしれない。

 ルフトも奴の攻撃をギリギリで回避し隙を見つけたら即座に攻撃を叩き込む。そんな感じでどうにかなった。


 俺が危うく捕まりそうになった時には隠し持っていたナイフでそいつの手を上手く弾いてくれたし、尾がルフトを薙ぎ払おうとした時には俺が風の魔法で弾いた。

 お互い初めての共同戦闘であったものの、思っていたよりは上手い事どうにかなったと思っている。


 俺一人だったらもっと苦戦してたな……と思える程度にルフトは戦えていた。


 うーん、俺はそもそも前世の意識がこう、ぐわっと出てから上手く戦えるかそもそも不安だったんだが、体は勝手に反応してる感じで動いてたからどうにかなってたとも言う。そうじゃなかったら開幕早々捕まってたわ。やっべぇハンスに足手まといとかどの口で言ってんの? って話になってしまう。

 長い年月戦ったりしてきた事で身体がもうすっかり慣れた様子で動いてくれたことに感謝。


 というか、俺は何度か相手の攻撃をかすったりしたせいでちょっと汚れたけどルフトを見れば汚れ一つついてない。俺と違って白い軍服とか汚れすぐ目立ちそうだなとか思ってたのに、その汚れがついてないとか凄すぎないか……?


「助かった。お前がいなかったらもっと苦戦してた」


 だからこそその言葉はするっと口から出てきた。最終的に魔法でどうにかできたかもしれないけど、そうなってた場合もっと怪我をしていたはずだ。


「いいえ、この程度ならどうって事ありません」


 対するルフトは素っ気ない対応だった。……まぁ、年齢聞いて魔物退治専門とか聞いたら本当に大丈夫か……? みたいになったのは仕方なかったとはいえ、ルフトからすれば侮られたと思ったかもしれないしな……


「それよりも、どうしてボクを庇ったんです?」


 ルフトがどう思っているかわからんが謝っておいた方がいいだろうか、とか考えてたらそんな事を言われた。


 庇う……? 庇う……!?

「庇った覚えはないが」

 いやホントに。いつの話だ?

 戦闘中は正直ルフトの動きも一応気にしてはいたけどほぼ自分の事で手一杯な感じだったからそんな事言われてもサッパリなんだが。えっ、ホントに? 俺庇うような事してた?

 おわかりいただけただろうか? それでは再現VTRでもう一度、みたいな感じでちょっと再生してくれないかな。いや無理か。知ってる。


「……この借りは返す」


 だがしかしルフトは俺が庇った覚えが本当にないというのにその言葉を信じてはいないようだった。何だかとっても苦々しげに言われてこっちも困惑する。

 いや、何かこう、ピンチに颯爽と現れて窮地を救いました、みたいな展開だったらはっはっは、崇め奉れよとか冗談混じりに言えない事もないんだが、ホントにこっちがそうしたっていう自覚もないうちに借りカウントされるととても困る……


 例えるならば俺は全く何もしてないのにいつの間にか世界を救った英雄か何かになってたらしくて周囲から無駄に担ぎ上げられるくらいの困惑っぷり。実際に世界救ってるならともかく一切関与してなかったらそんなん言われましても……ってなるだろ?

 今回の場合はどうやら庇ったかもしれない疑惑があるから完全にノータッチですと言っていいかは微妙だが。


「それで、これはどうするつもりだ?」


 ルフトの中では庇われた件はそのうちいつか借りを返すという事で勝手に決定されてしまったらしい。えっ、これ、どっか適当な町で何か飯奢ってもらうとかで貸し借りなしね、みたいにならんかな……個人的には庇った覚えがないから缶ジュース一本とかで終わらせたいけどそもそもこの世界に缶ジュースはなかった。おのれ!

 ペットボトル飲料もないからな。カップに入ったジュースとかはなくはないけど。


 ともあれルフトに言われて俺はたった今倒した魔物を見下ろす。


 ……正直二人でよく倒せたなこんなでかいの。


 周囲には既にこいつにやられた魔物の死体の数々。ぶっちゃけここにいる魔物の大半だって退治するにしても二人だときっと厳しい感じがした。そんな奴らを餌のように扱っていたこの魔物。

 ……名前とかもわからん。ラミアもどきとか言ったらラミアから全力で抗議されそうな勢い。絶対こんなのと一緒にしないでよ! とか言われる。

 俺がラミアの立場だったら言う。


 っていうか、ライゼ帝国にこんな魔物わんさかいるの? えっ、すごく行きたくない……むしろ行かなくていいなら行かないってくらい行きたくない。

 でもなぁ、そういうわけにはいかない気がするんだよなぁ……いっそライゼ帝国で探してる友人の痕跡とかそういうの一切ないよってなってたら行かずに済むんだけど……可能性がゼロじゃない以上はいずれ行くしかないわけで。


 あ、話がそれたな。どうする、って……魔物退治した時って一応退治したって証拠とか必要になるけどこんなでかいの持ってくわけにもいかないしな……一部だけ切断して持ってくにしても、正直ちょっと……どこ切断するんだよって話だ。尻尾の先とかならラミアと見分けつかない感じするし、かといって首を切り落とす? レッサーデーモンがいました? いやこれ絶対違うやつ。


 っていうか魔物の中には特定の匂いを嗅ぎつけてやってくる奴もいるし、もしこの魔物の匂いとかそういうの嗅ぎとってもっとヤバいの来たらヤだしな……この洞窟もどうにかしないといけないわけだし……


 よし、埋めよう。


 考えた結果出た案なんて、俺の頭じゃこんなものだった。

 シンプルっちゃシンプルだがその分とてもわかりやすい。


 もし、もしだ……この魔物がものすっごく生命力にあふれていたとして、今死んでるけどそのうち何かこう、復活とかしたらそれはそれで厄介だし、生き返る以前にゾンビみたいになって復活されても困る。死体が復活しないように燃やすとか、頭と心臓完全に潰しておきたい。

 ついでにライゼ帝国がもしこの魔物をここに解き放ったとかならともかくそうでなくて、この魔物のせいでここを使えなくなったと仮定しよう。

 こいつがいなくなった事にいつか気付くかもしれない。そうなったらここを通って侵入し放題。それも困る。


 洞窟潰すついでにこいつも潰しておこう。

 それが、一番最適解な気がする。


「ここを封鎖ついでに潰しておく」

「え……?」


 ルフトの問いに答えて、俺は踵を返した。今なんて……? みたいな反応されたけど、正直いつまでもこの場所に留まっていたいわけじゃない。

「行くぞ」

 さっさと帰ろう。こんなところにいられるか俺は村に帰るぞ。


 ここが陸の孤島とかだったら完全に死亡フラグみたいな事を考えつつ、ルフトを促す。


「潰す……?」

 何を言ってるのかわからない、とまだ理解が追いついていないルフトであったが、とりあえず移動する事にしたらしく俺の後をついてくる。

 ある程度離れたあたりで一度足を止め、振り返りざまに叫ぶ。


「閉じろ!」


 俺の意図を正しく汲んでくれた精霊が遠慮も容赦もなく魔物が死んでる空間を崩壊させた。天井部分が崩れて落ちて、魔物の死体を潰していく。そこから更にどんどん積もっていって通路が埋まる。俺の目にはもう完全に埋まったように見えるが向こう側からはまだ上から落ちてくる音がしていた。しかしそれもやがて聞こえなくなる。


「……終わったな。戻るぞ」


 仮に向こうにアレと同じ魔物が他にいたとしても、わざわざ瓦礫撤去してこっちに来るガッツはないと思いたいし、ライゼ帝国の連中も同じくだろう。というか瓦礫撤去してる間に向こう側から魔物が侵入してこないとも限らない。そうなったら逃げ場もない状態で戦わなければならなくなる。

 安全確保しつつ作業するにしても、少人数ではどうにもできないし多数の人材を確保できるならそれこそここをどうにかするより他のルートを確保した方がマシだ。


 魔法で瓦礫撤去すればいいだろ、と思われるかもしれないが俺が魔法で閉じたので、そう簡単にいかないようになっている。

 魔法で山ごと吹っ飛ばすくらいしないと無理だが、そもそもそんな威力の魔法を使うなら戦場でやれって話だ。


 ぽかんと口を開けて見ていたルフトも、声をかけると慌てて口を閉じた。


 そうして引き返して途中でハンスと合流。基本的に一本道なので迷う事もなく洞窟を出る。

 洞窟内部は明かりで照らしていたし正直あまり長くいたという実感はなかったが、それでもそれなりに時間が経過していたらしく外に出た時にはすっかり暗くなっていた。


「えー……これ、今日も野宿とかですかね旦那……」


 村からここに来るまでの時間を思い返せば、今から村に行くにしても着いた頃には完全に真夜中になっているだろう。そうなると多分宿開いてない。何のための宿だよ、とか一瞬思ったけどこれが例えばもっと人の多い都心とかならともかく、田舎の方なんて夜遅くなればさっさと寝る事の方が圧倒的に多い。


 前世だってほら、田舎の方だとコンビニとか24時間営業ですらないとか普通にあるし。

 むしろコンビニすら車で行かないと無理、みたいなとこもあるし……前世のばあちゃんの家のある田舎がまさにそうだった。夜に思い立ってアイス買いに行こう、とか思ったらもうそれ死亡フラグ。歩いていくとか散歩通り越して軽い冒険レベル。

 コンビニ前に集まるヤンキーとかいないけど丑の刻参りしてる人ならいたな……かろうじて身を隠せたけどエンカウントしていたらどうなっていたことか……


 村の中でテント張って野宿もそれはそれでとても虚しいので、野宿に適してそうな場所へ移動してテントを収納具から取り出す。ルフトも同じように自分のテントを出す。


「前回と同じようにするから見張りはいらないぞ」

「わかってる」


 もしかして今回もルフトは見張りを、なんてやるのだろうかと思ったからこそ一応声をかけてみたが、流石にやるつもりはないらしい。疲れた様子でさっさとテントの中に入っていった。


「は~、今回はどうなるかと思った……旦那が戻ってくるまでの間気が気じゃなかったわ……わかる? 旦那じゃなくてあの化け物が出てきたらどうしようって思ってたオレの心細さ」

 テントの中に入るなりそんな事を言い出したハンスに、まぁ待ってるだけとなれば心細いだろうし悪い方に想像力が働く事もあるなとは思ったので、そうか、と相槌だけ打っておいた。


「くっ、旦那の対応が相変わらず砂漠対応……ッ!!」


 最近会話量が増えてきたから期待したのに……なんて言ってるが、いや、ハンスの扱いって俺前世の意識が全面的に出る前から大体こんなだったと思うんだが。

 この後まだ愚痴っぽいのが続くんだろうか、とか思ったが、そんな予想に反してハンスはあっさりと寝た。

 ……こいつ、寝つきだけはホント驚くくらい早いな……


 見張りに関してを精霊に頼んで、俺もとりあえず寝る事にする。

 収納具があるからテントの中でもうちょっと快適に眠れる寝具とか用意した方がいいだろうか……今更すぎるがそんな事を考えているうちに、すっと意識が沈んでいく。


 そうして次に目を開けた時にはすっかり朝になっていた。

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