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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
序章 途中からニューゲーム!
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転生してる事に気が付いたのはよりにもよって戦闘中でした



 懺悔をしよう。


 人を、殺しました。


 これだけだと完全にこっちが悪いみたいに思われるかもだが一応言い訳はさせてくれ!

 正当防衛だ!!


 そもそも、何か気付いたら襲われてたし襲ってきたのは複数人。

 抵抗した結果、相手が死んだ。

 これを正当防衛と言わず何と言う!?


「そもそも殺されるような理由に心当たりが…………うぅん、ない、よなぁ?」


 思わずそんな風に呟いて、とんでもない違和感。

 なんでだ? と考えて、あぁそうか、声だと思い至る。


 …………OKそろそろ現実をきちんと見据えようじゃないか。


「これはあれだな、一時期流行った異世界転生とかいうやつ……! なんでだああいうのは二次元で見るから楽しいんであって自分が体験したいわけじゃないんですけど!?」


 ベッドに腰かけた状態で項垂れていたものの、そこで自分の頭を抱え込んだ。

 うぐぬぬぬ、としばらく唸っていたものの、何だか疲れたので唸るのをやめる。てっきりこれが単なる夢で、ここらでぼちぼち覚めてくれれば良かったんだが……



 ――状況を整理しよう。


 まずは自分の状況を理解しないとろくに身動きもとれやしない。


 今いる場所は先程三人に襲われた場所からやや離れた宿場町。

 一応それなりの部屋をとったので外に音は漏れていないと思いたい。漏れてたら今の呟きとか呻き声とか聞かれてる可能性考えないといけないから漏れてないと信じたい。大丈夫だよな……?


 まぁさておき。

 まずは自分の事だ。


 異世界転生した。これは確定している。

 なんでって、なぁ……?

 自分の姿が明らか違うんだよな。部屋の壁に小さい鏡がついてたんだが、そこで思わずガン見した。誰こいつ……あっ、自分か。いや俺!? みたいな気分になったのはほんのついさっきの話。


 前世の俺は多分死んだ。いや、確実に死ぬ直前まで意識があったわけじゃないけど今こうなってるって事は多分死んだ。

 前世の俺、リアルラックだけはやたら低かったからな……事故に巻き込まれる事一体何度目だったんだ……?


 雨の日にスリップした車と接触して多分死んだ。信号無視とか飲酒運転よりは親もまだ不幸な事故で割り切ってくれると思いたい。

 ついでに言うと前世の俺はもうちょっと身長高かった。ぶっちゃけると180よりちょい上くらいまであった。それが今はどうだ。きちんと測定してないから正確な数値はわからんが、多分十センチは低くなってると思われる。


 いや、身長よりももっとわかりやすい部分に目を向けよう。

 前世の俺は典型的な日本人だ。背が高かろうが顔面偏差値はお察しだったのでそこは触れてくれるな。

 しかし今の俺、染めてもないのに金髪。腰まで伸びたサラッサラの髪とか正直これホントに俺の髪の毛か……? という違和感が凄い。シャンプーのCMとかに出れそうなサラサラ加減。

 そしてカラコンいれたわけでもないのに澄んだ菫色の瞳。ひぃ、違和感しかない……!

 顔立ちも前世の俺とは打って変わって美人系? 可愛い系? まぁとりあえず整ってるんだろうよ。あと何か耳尖ってるんですけど……えっ、これ人間の耳っていうかファンタジーもので割と見かけるエルフとかいうやつでは……? と思ったあたりで、あぁそうだ俺今エルフだと実感する。


 性別は前世と同じく男だけど、見た目だけなら美少女に見えなくもない。うわぁ、すっげぇ違和感あるぅ……

 身長もまぁギリ背の高い女性みたいなものかな? って感じなので男性なのか女性なのかわからん中性的な見た目だ。これで性別が女性になってたら確実に絶望してたわ……


 あまりにも外見前世と違い過ぎてこれはアレだ、もしかしたら死んだ俺の魂がふらっと別世界に迷い込んでたまたま死にかけたとか死にたてほやほやの身体にINしてしまったのでは……? と考えたかったが、どうやらそれも違うらしい。


 前世の幼馴染からいくつかこれ面白いよと渡されたラノベに、異世界転生ものだとか、憑依転生ものだとかそこそこあったから一瞬魂が入り込んだだけ状態なら体の記憶とか読み取ってどうこう、みたいな展開であれと思ったけれど、この身体が幼い頃に知るはずのない知識でもって生活してたから確実にこれ最初から俺ですわ……前世の記憶を前世のものだと思う事もなく、ただなんとなく不思議だなー、くらいのノリで考えてたみたいだけど、前世で得たサバイバル知識とかその他諸々駆使してたわ。


 目を閉じてあれこれ思い返してみると、前世の俺という自我がひょっこりする前の俺は、とても物静かな人間だった。いや、種族的にエルフなんだけどこの際そこら辺は気にしない事にする。


 物静かではあったけれど、これは確かに俺だなと思える部分が多々ある。憑依しちゃいました、とかそういう展開はここで消えた。


 異世界転生した、という事実は受け止めるしかない。だって今俺エルフだもん。人間ですらねぇもん。いや見た目人間に近いからまだいいかなって思うけど。

 これがゴブリンとかオークだったら詰んでた。同族とコミュニケーション取れるかもわからんし人間となんてうまくやれるかも疑わしいからな。見つかった途端魔物だ殺せ、みたいになったら詰む。

 エルフならまだ……まぁ、どうにか……うん。


 でだ。

 俺、ちょっと色々思い返してみたんだけど、過去の記憶が何ていうかサイレントムービーかな? ってくらい静かだし断片的すぎるんだが……いや、記憶を失ってるとかじゃなくて、色々ありすぎて覚えてない感じなんだよな。思い出そうとすれば多分思い出せるけど、今全部思い出す必要はなさそうなので大まかに思い返す。


 まず俺、エルフの集落で育った。森に囲まれた小さな集落だ。

 両親に見守られ穏やかに、それでいて健やかにすくすくと育っていたわけだが、三十年くらいしたあたりで故郷が焼き払われました。

 その時に両親死んだよね。


 前世の両親は一足先に置いてきたけど今世は早々に置いてかれたわ。

 この世に生を受けて三十年、といえばもう成人して独り立ちしてるようなものだろ、って思うかもだが今の俺はエルフ。エルフの三十歳とか全然おこちゃまだから。人間だったら未成年だから。それどころかまだ義務教育真っ最中とかそんな感じだから。


 そんな幼いいたいけなお子様が一人生き残るとか人生ハードモードが過ぎんか?

 前世の記憶が薄っすらでもなかったら死んでたぞ俺。


 故郷が焼き払われるとか一昔前のゲームなら勇者か魔王側の何か悲しい過去を背負った四天王ポジション狙えそうな生い立ちだよな。

 両親死んだしなんなら同じ集落に住んでた他の皆も死んだ。生き残り、俺だけ。


 人生ハードモードが過ぎんか!?


 とりあえずここから俺は前世の記憶をうっすら活用してどうにか一人で暮らしていた。じゃなきゃ死んでた。森の中での暮らしはエルフだし親が色々教えてくれてたけど、それ以外の場所でのサバイバルに関してはマジで何の知識もない状態だったからな。前世の記憶がなかったら。

 川で釣った魚とか捌き方もロクにわかってない状態だったからな、前世の記憶がなかったら。


 で、まぁそっからあちこち放浪してなんやかんやあって今に至るわけなんだが。

 これじゃ端折りすぎだな。


 とりあえず今、とある帝国とそれに対抗する組織、みたいな……言うなればレジスタンスとかか? そういった所に所属している。


 その帝国ぶっ潰すために今はあちこちで仲間集めたりだとか情報集めたりだとか物資かき集めたりだとかしてるらしいんだが、俺はその中でも一応情報収集をしている……らしい。

 いやちょっとまだそこら辺実感ないからわかってないけど。


 ちなみに現在俺、大体三百歳。エルフなら一応成人はしてる年齢だけど……えっ、ここで? ここで前世の記憶ログインしちゃったとかちょっと色々タイミングおかしくないか!? と思わなくもない。

 仮に人間に生まれてたら前世の記憶というか人格がひょっこりする事もないうちに人生終わってる年数ですけど!?


 ちょっともうマジでわけがわからない。


 ずっと静かな場所で揺蕩ってたような気がしたのに、何だか泥の海から這い出たような感覚に陥ったらそもそも襲われてたし。俺という前世の自我がハッキリした時点でいきなり戦闘中とか正直取り乱して叫びださなかっただけでも充分偉いと思う。もしあの場で取り乱していたら確実に殺されてただろうしな……


 どうせ前世の記憶を思い出したとかいう状況ならもっとこう、穏便な時に思い出したかった。何あれ戦闘中とか、どう足掻いてもテンパるしかない状況。

 もっとこう、熱が出て三日三晩寝込んだ後に思い出したとか、階段から落ちて頭ぶつけたとか、すっ転んで頭ぶつけたとかの頭に衝撃を受けたパターンとか、せめて周囲が安全な時であってほしかった。

 それか生まれた時点で最初から前世の記憶あります状態。

 ……いや、だとしたら故郷焼き払われた時点で心死んでたな。普通に絶望するわ。


 だってアレだぞ。前世ならまだ小学校低学年とかそれくらいの年齢に家が全焼して両親も死んで、頼りになる親戚とか一人もいないとかいう状況だぞ。

 それでも日本なら施設とか行く場所はあるだろうからまだどうにか……いやどっちにしても幼心にクリティカルするわ。


 そう考えると何だかんだすくすく育った今の俺、とても凄いのでは。


 もう親に褒められる事もないし年齢だってそれなりだから周囲から褒められる事もないだろうし、これからは積極的に自分で自分を褒めていくスタイルでいこう。そうやって自己肯定感上げとかないと何かそのうちどっかで心折れる気がするからな……俺。


 正直開幕から人殺しちまった……! とか思ってどうしようかとパニクってたけど、多分あれ帝国側の人間だろうし、そもそも仕掛けてきたの向こう側からだしじゃあいいかなって思う事にする。

 うん、正当防衛正当防衛。

 そもそも今の俺エルフだし、人間の法にどこまで当てはまるかちょっとわからんのよな。人間社会の中で生きる以上はそりゃ多少は、ってなるけど異世界だし。前世基準でやっていい事悪い事の区別はつくけど、果たしてここでどれだけそれが通用するかもちょっとよくわからん。


 そもそも殺人って死体が発見されて初めて殺人となるわけだけど、あの状況で果たして他の誰かが彼らを発見するかどうか……何せこの世界普通に魔物いるし。今頃多分餌になってる気がする。


 ……え、そんな魔物とか普通にいる場所を俺って一人で行動してたの? マジか……ヤバ……


 そう考えると生きてるだけで素晴らしいな!

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