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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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ハイキングコースとかあるわけない



 結局あの後宿で懇々と人間種族について語られそうになったがそれはほぼ強制的に打ち切った。

 そんな事して休む時間を減らしてどうすると割と正論っぽい事を言ったらハンスがひるんだのも大きい。


 そこを強引に押し通すような事になっていたらもしかしたら夜遅くまで語らわなきゃいけなかったかもしれないが、ハンスにも一応そこら辺考える頭はあったらしい。


 そういうわけでさっさと夜になったら寝て、朝は早めに起きて出発したわけだが。


 魔物がやってくるだろう場所として村人からも言われていた山は思っていたよりも遠かった。

 結構近くに見えてるような感じがするから余計に遠く感じたのかもしれない。

 昼前くらいには到着するかと思っていたが、山の麓に辿り着いたのは昼を少し過ぎたあたりだった。


 精霊の話だと山向こうから逃げてきてるって話だったけど……この山の向こうっていうと……


「この山の向こうってもしかしなくてもライゼ帝国の領地ですよね。とはいえ山超えてこっちに侵略するかっていうと多分ないだろうと言われてるみたいですけど」


 俺が遠くを見るようにしていたらハンスがそんな事を言ってきた。


「そうなのか?」

「えぇ。こっち側は割と木々があって青々してますけど、向こう側は確かあまり木もない荒涼とした感じだとか聞いた事があります。

 山を越えて侵略しに来るとなると、装備が面倒な事になるんだと思います」


 荒地からいきなり木々が生い茂る場所になると、確かに何というか移動がしにくいだろうなとは思う。身を隠せそうではあるけれど、大軍で侵攻、となると移動しにくい場所なんて自分たちの機動力をみすみす失うようなわけで、こっちがそれに気付いたら迎撃される事も余裕で有り得る。

 攻撃を仕掛けるならもっと有利な場所から来た方がいい。


 こういった場所を選んで移動するのであれば、それこそ人目につかないよう侵入する奴くらいだろうか。


「あと、山の上の方はこっちも向こうも魔物の巣がそこそこあるらしいって聞いてるんで、わざわざそんな場所を通るっていうのもどうかって話ですよねぇ」


 言われてみればそれもそうか。人が住んでる場所にやってきた魔物を倒すのは当然として、あまりにも酷いようなら討伐隊を組んで巣へ向かうという事もあるにはある。けれども目的の魔物以外にも近くに別の魔物の巣があったりする事もあるので巣へ行くのはかなりの危険が伴う。

 普段は縄張り争いしてるような魔物たちが討伐に来たこっち側を敵とみなしてこういう時だけ手を組んで戦う、なんてとても面倒な事だってあるからな。


 仮に山向こう、ライゼ帝国の領地から侵攻しようなんて考えた奴がいたとして、じゃあまずはそこに住む魔物たちをどうにかしない事にはいけないわけで。

 そこに棲む魔物をどうにかしたとしよう。改めてこっちに侵攻するぞー! となった時、こっち側の魔物も相手しないといけないとか考えると正直割に合わない。自分たちの領地側はほら、魔物の巣をどうにかすればその分安全になるわけだから、メリットはないわけじゃない。でも、そこからこっち側にきてこっちの魔物の巣もどうにかしないといけないなんて事になると、正直メリットよりもデメリットの方が大きい。

 何で他所の国の魔物の巣とか報酬もなしに片付けなければならんのか。冒険者とかだってギルドから依頼出てなきゃやらないぞ。


 ……下手したら侵攻する前に戦力減るな。

 余程の馬鹿かとっておきの秘策とかでもない限りやらないだろ。

 多分山とかを移動しようとするのなんて、亡命するとか、そうでなくとも危険を冒してでもあの場所からこっちに来なきゃいけないとかいう理由でもない限りいないのではないか。

 ……というか、ライゼ帝国からこっちに来るにしたって、他に方法はありそうだからわざわざ危険度の高い手段を選ぶ奴とかいない気がする。

 いたとしても、多分魔物の巣とかに近づくわけだしそこで死んでる可能性大。


 俺が精霊から聞いた話だと山道からくるのではなく、繋がってるらしい洞窟から来てるっぽい感じだったし山道を行くのではなく洞窟を探した方がいいだろう。

 というか登山とかやりたくない。やるにしてももっと平和な場所でやりたい。


 ともかく意識を切り替えて精霊の声に耳を傾ける。このままだとハンスもルフトも山道を普通に行きかねないからな……


「どうくつはこっち」

「ほんとにいくの?」

「いってもいいけどあぶないよ?」


 村で情報をくれた精霊とはまた別の精霊たちの声。村でもそういや危ないとか言ってたけど、あっちはまだ行くのなら気を付けろよ、みたいな雰囲気があった。

 しかし今聞こえた声からは本気で心配してる感じだ。やめた方がいいと思うんだけどなぁ、というのがにじみ出ている。


 危ないって……危ないって何がどう危ないんだろうか……危ないの度合いによっては俺も正直行きたくないんだけど……いやでも行くしかないわけで。

 ここで俺らが断った場合、次にケーネス村に指示書を持ってやってくる奴がいつ来るかわからないし、その間に魔物がわんさかこっち側に来てその魔物がケーネス村でも襲ってみろ。作物の被害が、なんて言ってる場合じゃない。


「我らの前に導を」


 俺が魔法を使うと、ハンスは「え? ここで?」という感じで目を見開いていたし、ルフトも山道を行こうとしていた足を止めていた。俺の言葉に応えるようにして、小さな光が灯る。

 それはこっちだと言うように何度か小さく跳ねて山道とはまた別の――かろうじて人が通れなくもなさそうな場所を進んでいった。


「あっちだな」

「旦那、今のって」

「魔物がどこからきているのかを調べるにしても、あまり時間はかけたくない」

「その言い分には大いに賛成ですけどね」


 一足先に進んでいった光がまるで立ち止まって振り返るようにして「はやくはやく」とばかりにその場で何度か跳ねた。

 どっちが表でどっちが裏かなんてわからないのにやけに感情表現が上手い光だ。


「魔法……」


 どこか呆然としているルフトにも声をかけて、俺は光の跳ねている場所へと移動する。

「魔法、使えたんですか……」

「? そりゃ使えるだろ。エルフだぞ僕」

 小走りで俺の隣に並んできたルフトが言った言葉に、内心でえっ、俺エルフだと思われてすらいなかった!? と驚く。いや、エルフなのは見ればわかるはずだ。まず誰が見ても俺の事はエルフだってわかるくらい何かこう、絵に描いたお手本みたいなエルフ感あるはずだ。

 えっ、何で魔法使えないとか思われてたんだ?


 いや、考えてみると確かに俺普段はあまり魔法使ってないから、組織内で俺の事知ってる連中の中でももしかしたら実はエルフのくせに魔法苦手とか使えない説考えてる奴いるかもしれないけど。

 でもその場合、使えると思ってる前提の奴じゃないか? 驚くの。えっ、魔法使えないんですか!? エルフなのに!? みたいなノリで。


 俺エルフだけど、の言葉にルフトも「そういやそうだった……」みたいに呟くものだから、一瞬俺って実は自分が思ってる以上にエルフっぽく見えていないのではなかろうか、とすら思い始めてきた。あとでハンスにちょっと確認してみるかな……俺ってエルフに見えなかったりする? なーんて。

 多分答えに困る気がするな。ハンスの事だから「旦那、なんでそんな質問を……?」とか本気で困惑するのが目に見える。でもルフトの反応もちょっと引っかかるし念の為、そう、念の為聞いておこう。



 先導していた光はすいすいと木々の間をすり抜けて進み、俺たちがあまりにも離れるとその場で止まって早くこいとばかりに跳ねる。それを追いかけて行った先、なんともわかりにくい場所に、それはあった。


「洞窟、ですねぇ……」

 ぽっかりと口を開けているそれを見て、ハンスは目を細めて洞窟の奥を見た。こちらからは真っ暗で見えないので多分そんな事をしたからといって洞窟の先が見えるはずもないのにしばらく目を細めて凝視して、結局ほとんど見えなかったのだろう。

 細めていた目を戻してそっと首を横に振った。


「何かいる感じはしませんけどねぇ……」

「いたとしても奥の方だろ」


 そんな入り口付近とかわかりやすい場所にいるか? 普通。


「まぁ、山の上の方行くより先にこっち調べる方がマシかもしれませんね」

 山の上の方を見て、それから洞窟へと視線を戻す。


 山の上に行ったとして、そこで魔物の巣をいくつか発見するだろうしそこで魔物退治する事になったとして、精霊の言葉を信じるなら村にくる魔物はライゼ帝国側から逃げてきた魔物だ。こっち側の魔物の巣をどうにかした後で更に向こう側に行く必要が出てくるかもしれないし、もし向こうの巣もどうにかしたとして、山の上の方の魔物は特に関係なくて洞窟からやってくる奴が本命でした。つまりは山の上まで行ったのは無駄足でした、なんてオチになったら目も当てられない。


 ゲームだったら経験値稼ぎたいからって無駄にあちこちの魔物を倒す事もあるけれど、実際にやれとなればそんな疲れる事したいはずもない。


 精霊の言葉からこの洞窟もまた向こう側につながってるようだし、ここをどうにかすれば多分どうにかなると思いたい。ここどうにかしても解決しなかったらその時はその時。もしそうなったら上が本格的に対処するべくもっと人を集めて討伐隊とか組むだろう。まさかそんな状況になった時にまた俺たちだけで解決しろとか言い出したりはしないはずだ。そうなった時は仕方がない……精霊に頼んで山ごと吹っ飛ばすしか……!

 万一そんな事になったら大惨事なので、上はよく考えてほしい。俺はやると言わなくてもやる事がある男だ。


「照らせ」


 洞窟に入るにしても暗すぎるのでまずは魔法で明かりを確保する。道案内をしていた光とは違う、鬼火のような光がゆらゆらしながらも洞窟内に漂っていく。


「じゃ、行くか」

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