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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
終章 とある誰かの話
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再会っていうよりは初めまして



 それぞれ食べたい物を口にして、どこそこのお店がいいだとか、そっちの店が気になってるだとか話しながら進んでいくうちに、建物の外に出る。

 組織の拠点、というわけでもないが、それなりの人数が詰めてる場所でもあるのでそこそこの規模なのだが、生憎ここに食堂なんてものはなかった。

 なので食事の時はどうしても外に出る事になる。


 お互いに行きたい店を挙げていくうちに、とりあえず二つまで絞る事はできた。

 店の位置からしてどっちもそう遠くないし、混雑してない方でいいんじゃないか、というとても雑な感じに決めた。これで方向が逆、とかであればもう少し揉めたかもしれない。


「おとーしゃ」


 その途中。

 そんな声がしたかと思えば、ルフト目掛けて小さなこどもが駆け寄ってきた。

 泣いてないけど泣きそうな声で、けれどもようやく見つけたとばかりに嬉しそうに。


「えっ」

「いや、違う」


 驚いたように見やるハンスに咄嗟に否定の声を返す。


 確かにルフトは組織で活動して各地を巡ったりして、まぁそこで言い寄られたりはした。異性同性問わず。

 見た目はエルフだし性別を変更したりもしていないので女性に言い寄られるのはさておき男性からも言い寄られるとは思ってもみなかったが……まぁそこはさておき。


 言い寄る相手はいたけれど、今のところ恋愛に興味があるでもない。だからこそそういった仲になった相手はいなかったし、ましてや父のように無理矢理既成事実を作られるような事になった覚えもない。


 父ルーカスの場合はどうしたって自分と瓜二つの顔をしていたルフトを見れば親子ではない、と否定しきれないものもあったけれど、今ルフトに駆け寄って足にしがみついてきたこどもはルフトとは似ても似つかない。


 黒い髪に菫色の瞳。どちらもルフトとは別の色だ。

 顔立ちも似ている、とは到底言えない。可愛らしい顔立ちをしている、とは思うものの自分との共通点はこれといって特にない。


「迷子かな」

「でしょうねぇ。ねぇお嬢ちゃん、どこから来たの? お名前言える?」


 迷子になりかけていただろう幼子は、ルフトの足にしがみついてこそいるがわんわんと泣き出す様子はなかった。しゃがみ込んで問いかけたハンスをきょとりと見上げ、ぱちぱちと目を瞬かせている。


「んと、リリー」

「そっかぁ、リリーちゃんね。おじさんはハンス。でこっちがルフトくん」

「……おとーしゃじゃ、ない……?」


 ぽかんとしてルフトを見上げるリリーに、ルフトは目でハンスに「馬鹿」と訴えた。

 これで父親ではないと知ったリリーが泣きだしたらどうするつもりだ。

 ハンスもそれに今更思い至ったらしく、あっ、と言い出しそうな顔をしていた。うっかりにも程がある。


「えーっとはぐれちゃったのかな? じゃあおじさんたちが一緒に探してあげよう。だから泣かないでね!?」

「…………うん」

 若干目が潤んでいるが、リリーは特に泣き出す様子もなく頷いた。思ったよりも聞き分けのいいお子様である。


 はぐれないように手を繋ごうにもリリーはまだ小さくて、ルフトやハンスが手を繋ごうとするとやや腰を曲げないといけない。しかしその態勢はハンスにとっては厳しいものがあったので、ちょっとごめんねと声をかけてハンスはリリーを抱き上げた。


「……何か慣れてますね?」

 こどもを抱きかかえるその動作があまりにもスムーズだったので、ルフトも思わずそう呟いていた。


「そりゃあね、一応うちにもチビいるし」

「……そういやそうでしたっけ?」

「そうだよ。リリーちゃんはそういやいくつ?」

「みっつ」


 ハンスの問いにリリーは指を二本たててそう言った。

 指の数を信じると二歳なのだが、流石に二歳児が一人迷子とかシャレにならないので三歳児なのだと信じる事にする。


「ハンスさんとこは」

「あぁ、うちのチビはこないだ五歳になったよ」

「そうでしたっけ。早いものですね」


 ルーカスたちと別れた後、ハンスはミリアの秘書的立場として働く事になった。

 そこでなんやかんやあって知り合った女性と付き合って結婚したのは、七年前だ。その時点で一応各地を巡っていたルフトには連絡をしたのだが、ルフトからすれば結婚したのだってまだつい最近の話だと思ってる節すらあった。下手をしたら子供も生まれたばかりだと思われていてもおかしくはない。


「子供の成長って早いものなんですね」

「それをルフトくんが言う……?」


 ともあれまずは迷子の親を探さなければ。食事をするのに外に出たけれど、かといって迷子を放置しておくわけにもいかない。


「リリーちゃんのお父さんはどんな人?」

 ハンスが問いかければリリーはそっと指をルフトに向けた。

「そんなにボクに似てるのか……?」

「ルフトくんに似てるとなると……」


 ハンスとルフトの脳裏に全く同じ人物が浮かび上がる。

 似ている、という点で思い浮かんだのは十年前に別れたルーカスだ。


「……まさかね」

「まさかですよね」


 しかし流石にそれはないなと二人そろって否定した。


 きっと種族的な意味で似ているとかだろう。よく見ればリリーの耳もちょっとだけ尖っているし、彼女もエルフなのだろう。その割に髪の色がエルフにしては珍しいが。エルフじゃなかったとしても、それに近しい種族だと思って間違いないだろう。


「リリー!」

「あっ、おとーしゃ」


 その声に咄嗟にハンスもルフトも視線をそちらへ向けていた。

 そこにいたのは黒髪の、中性的な容姿の人物だ。パッと見女性に見えなくもなかったがリリーの言葉を信じるならば父親なのだろう。

 男と思って見れば何となくそう見えなくもないが……といった具合だ。背丈が低いわけではない。むしろルフトと同じかそれより少し高いかもしれないのだが、何故だかあまり高いと思えない。

 黒い髪は背中のあたりまで伸ばされ無造作に結ばれている。


 服装は動きやすさを重視したようではあるが、男女どちらが着ていてもおかしくはないといった感じなので、きっとリリーが彼の事を父だと呼ばなければ女性だと思っていたかもしれない。


「あぁ、貴方達がリリーを保護してくれてたんですね。ありがとうございます」

「いえいえ、危ない事に巻き込まれなくて良かったです。リリーちゃんもお父さんと会えて良かったねぇ」

「あい」


 にこにこしながらハンスはリリーの父親にリリーを渡す。受け取ってそのまま抱きかかえた男は、勝手にうろちょろしちゃ駄目だぞ、なんてリリーに言っている。リリーはわかっているのかいないのか、きょとんとした顔をしてから数秒後に元気一杯「あい!」と返事をしていた。


 あれは多分わかってないな、とハンスもルフトもよくわかる返事の仕方だった。


「それにしてもここで二人に会えるとは運が良い。こんなに早く会えるとは」

「え?」

「あの、知り合い?」


 リリーの父はまるでこちらを知っているかのような口調でにこやかに告げるも、二人にはまるで覚えがない。

 てっきり各地を巡っている時に知り合ったのかとハンスがルフトに問いかけたが、ルフトは覚えがないのでそっと首を横に振った。


「おや、お忘れですか? まぁ十年も会ってないんじゃあねぇ……」

「十年……?」

「えちょ、まってまってホントどちらさま?」


 十年、と言われて二人がすぐに思い浮かべるのは、かつて相棒だと名乗っていたエルフの男であり、そして父親でもあった。けれども彼とは確かに目の前の男、似てなくはない、と思えるが明らかに別人だ。髪と目の色が違うのはもとより、あのエルフの男が久々に会ったからとてこんなにこやかに接してくるはずがない。


「やっだホントに忘れられてる? ほら、ルーナの近所に住んでる」

「……プリムさん!?」

「プリムおねーさんよ。とはいえ、まぁ今はロクシスなんだけど」

「プリムさんだった時の面影ゼロすぎて気付けってのが無理難題」


 ハンスの言葉にホントそう、とルフトも頷いていた。


 それ以前に、プリムだった時と比べて圧倒的コンパクトになっていらっしゃる。

 女性状態だったプリムの方が筋骨隆々とした大男みたいな感じだったのに、男になったらこんなんなるの!? と驚愕するしかない。完全に別人。


 ルーナがヴァルトになった時もまぁ、共通点なんて髪と目の色くらいでそれ以外で察しろと言われればわかるか、と返す事しかできそうになかったけれど、こっちはもっとわかるはずがなかった。

 そもそもプリムであった姿しか知らないので、いきなり性別変えて目の前に現れられましても、といった感じだ。


 ルアハ族のこういう部分はややこしいなと思えてくる。

 ルフトも一応ルアハ族の血を引いているし、性別を変える事も可能ではあるが彼はあれ以来一度もディエリヴァの姿になる事はなかったのでハンスとしてもすっかり忘れていたのだ。


「えっ、じゃ、その子、プリ……じゃなくてロクシスさんの娘さん?」

「そう。ちょっと前に色々あってね。運命の出会いをしたのさ」

 プリムだった時とは口調も若干どころか異なっているせいで、余計に気付けと言う方が無理だ。けれども同じルアハ族であれば気付けるものなのだろうか。とはいえ付き合いが全くなかったルフトには無理だろうけれども。


「え、いやまって。島から出てきたんですね、はいいとして、オレらに何か? 探してたみたいな言い方してましたけど」

「そうだね。一応探してはいたかな。ここらにいるっていう話だけは聞いてたからさ」

「なんで……あ、まさか旦那に何か!?」

「え? あー、いや、そうじゃなくて。さっきミリアちゃんとは遭遇したから店に案内してきたんだけど」

「話が見えない」


 こう、もっと率直にずばっと本題に入ってほしい。

 そんな気持ちを込めてルフトが呟いたからか、ロクシスはかすかに笑った。

 どうにも長命種族は話も引き延ばす傾向にあるようだ。本人たちは直接伝えているつもりなのだろうけれど、どうにも回りくどい。


「えーと、今とあるお店貸し切って宴会してる」

「どゆこと」

 もうホントその一言に尽きた。


「そこら辺は精霊がね……ま、行けばわかるさ。来るかい? 案内するけど」

「行かないって言ったら?」

「そりゃ仕方がない。来るつもりがあるなら連れてくる、そうじゃないならじゃあ放置で。ルーカスはそう言ってた」

「旦那も戻って来てるの!?」

「父さんが……!? というかそうじゃないなら放置ってそこは何としてでも連れてこいとか言うべき部分では!?」

「無理強いよくない」

「そうだけど。そうなんだけども!」


 真顔で告げるロクシスに、果たして何を言えただろうか。

 というか彼に文句を言っても本当の意味で言いたい相手に伝わらないのであれば意味がない。


「で、どうする?」

「それは勿論行きますとも」

「えぇ、あの人には言わなきゃいけない事もありますし」


 二人がほとんど即答だった事に対し、ロクシスは苦笑を浮かべてみせた。


 多分こないって選択肢はないと思うけど、と言っていたルーカスの予想通りだったなという思いを込めて。

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