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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
終章 とある誰かの話
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価値観がずれている



 プリムは精霊憑きになったヒト、というのをあまり多く知っているわけではない。

 サグラス島の外に出てたまにそこらを見て回って、世情をさらっとでも把握しておこうと思う事はあるが、そういった時に外に出て知り合った相手の大半は人間種族だろうと異種族だろうと、そういった意味では普通の存在だ。

 精霊憑きの知り合いは数える程度いるにはいるが、果たして今も生きているかは不明だ。


 物騒な何かに巻き込まれる可能性もあったし、そろそろ寿命を迎えている可能性もある。

 けれども、知り合いの精霊憑きは精霊が憑いているとしても実体化できる程の力を持った精霊ではない。プリムの目では実体化できない精霊を見るにしても、そこそこ力がある精霊なら薄っすら見えるがそうでなければ何となく気配があるようなないような……? といった具合だ。

 そういった精霊憑きは本人も自分が精霊憑きだと自覚などしているはずもない。


 けれどもルーカスは。

 自覚している精霊憑きだ。

 というか実体化できる精霊なのだから、自覚していない方がおかしい。


 それにしても、故郷を滅ぼすキッカケになった精霊と故郷を焼き払った精霊と行動を共にしているのもどうかと思うわけだが。

 プリムは思わず他の精霊に目を向けていた。


 暇だから遊びにきたよー、とかいうとてもゆるいノリでやってきた精霊たちは、プリムが暮らす家のリビングが気に入ったのかすっかりくつろいでいる。

 ここが実家ですとか言い出しても違和感がないくらいに馴染んでいる。


 まぁプリムもお菓子作ったから遊びにおいでと呼んだわけだし、それはいいのだ。

 ヒトの暮らしとか見てるけど自分もそれに倣うつもりはない、という精霊は多い。だからこそてっきり室内は荒らされるかもしれない、という事も覚悟していたのだが長い間ルーカスと共にいたからか、それとも元人間である精霊もいたからか、何というかとても普通なのだ。

 精霊だと知らされなければ、何らかの異種族だろうなと思うけど大まかにヒトだとプリムも認識していたかもしれないくらいには。


 室内が無駄に荒らされないのは助かるが、何というかおかしな気分だった。


 マシュマロみたいな感触のクッションを抱きかかえてもにゅもにゅといじっていた精霊の一人がプリムの視線に気付いたのかクッションから視線を移動させる。


「何」

「あらやだ、初っ端から何かすっごい出会いだったのね、って思っちゃって」

 他の皆もそうなの? と聞けば、イシュケはクッションを膝の上に置いた。

「……次に会ったのって誰だっけ……少なくとも自分の時はハウとラントもいたから」

「そういや、次に会ったの自分かも」


 プリムが焼いたマドレーヌをひたすら黙々と食べていたラントが思い出したように顔を上げた。口の端に食べかすがついていた事に気付いたエードラムがそっとラントの顔に手を伸ばして取り去っていった。

 一瞬何が起きたのかわかっていない様子だったラントだったが、一拍遅れて理解したのだろう。

 こくん、と一度頷いて、再びマドレーヌを食べ始めた。


「え、そこ話す流れじゃないの?」

 余計な事は突っ込まないようにしよう、と思っていたプリムであったがそれでも思わず突っ込んでしまっていた。

 どう考えてもこの流れ、ラントが語る感じだったではないか。しかしラントはマドレーヌをひたすらもぐもぐしているだけで、プリムの言葉にかすかに首を傾げただけだった。


「あー、じゃあかわりに話すとしよう」

 そう言ったのはハウだった。

 こちらはプリムと同じソーダを飲んでいたが、既になくなってしまったらしく空になったグラスをプリムへと押し付け「おかわり」とのたまっている。ゼリーを浮かべて見た目キラキラしているソーダはどうやらお気に召したらしい。

 キッチンからソーダとゼリーを魔法で移動させてハウのグラスに注ぐ。

 シュワシュワと弾ける音に満足そうにして、ハウはストローに口をつけた。


 そうして一口、二口と飲み込んで。

 どうやら一応は満足したらしい。


「あれは、そう……カルミナ大陸のケティラ洞窟での出来事だったはず」


 やや重々しい口調で語り始める。その割に場所がちょっとふわっとした感じなのは恐らくそれなりに前の話だからだろうか。


「ケティラ洞窟の近くにあったユーテアノ火山が噴火したせいで、洞窟の入口が塞がったんだけどその時にどうやら近隣の人たちが閉じ込められたらしくて」

 詳しい事情はわからないが、ルーカスの年齢を聞く限りそこまで昔の話ではないはずだ。

 とりあえず故郷が滅んだのが彼が三十歳だった時。

 その後、各地を放浪する流れになったとして……そういや彼の故郷がある大陸はどこだったか。プリムはそこを聞いてなかったなと思ったが、ユーテアノ火山が噴火と聞いて大体今から二百五十年くらい前の話だったか……? と思い返す。となると大体ルーカスが五十歳くらいの頃の話か。


 確かそれくらいの頃に噴火したという話は聞いていたし、それ以降は特に噴火したという事がなかったはずだ。


「なんか避難してた人たちが閉じ込められて、それの救出にきたのがルーカス……ってわけじゃなかったんだけど」

「違うのか」

「それは何か別のヒトが救助活動してた。で、その後の話なんだけど」

 その後そこは魔物の住処となってしまったらしく、その討伐に訪れたのがルーカスだったらしい。

 とはいえ一人で? と思うわけなのだが、どうやら他にも転々と魔物の姿が目撃されていたらしく、同じ任務でやって来た別の人たちはそちらを対処していたようだ。


「魔物もたまに魔法を使う奴がいるんだけど、そこにいたのがまさにそれ。人を傷つけるとかそういうための魔法じゃなくて、その魔物は自分の住処を快適な感じにしたいがために魔法使ってたみたい。で、お願い事がそんなんだから、まぁ、手を貸してもいいかなって思うでしょ?

 結果とんでも地下迷宮を作り上げてしまった原因の一人がラント」

「あの洞窟の下に広がる迷宮それが原因だったの……!?」


 かつてそこで暮らしていた異種族が、とか色々言われていた地下迷宮が、魔物の住処作りのためだったという真実を聞かされてプリムも多少驚きはした。こんなところでぽろっと真実を知る事になるとは思ってもみなかったのだ。


「で、その地下迷宮にもしかしたら何かこう、財宝とかそういうのがあるんじゃないかって一時期冒険者とかも訪れるようになってたけど、宝なんてあるわけないよね。でも魔物がやたら住んでたし、可能性としてはワンチャンあるぞ……? みたいな感じでさぁ」

「ハウが色んな罠仕掛けてたのもその可能性ワンチャン説後押ししてたのあると思うよー」


 マドレーヌをもぐもぐしながらラントが告げる。


「いや、折角だったから。暇だったのもあるし。そこに訪れたのがルーカス。即死狙いの罠とかもギリギリで回避したりしてくれて、なんていうかな……見てるうちにワクワクしちゃって。

 あまり顔には出してなかったけどそれでも焦ってるのとか、自分が結構ギリギリの位置にいるってわかってるはずなのに撤退しないで魔物退治してたりだとか、なんかね、その、変に律義な部分とかがとても面白くて。

 一歩間違ったら死ぬかもしれないのに、その状況から逃げる事もしないで立ち向かうっていうのかな。

 生きるために足掻いてるその様がとても……キュンときたの」


 両手を組んでほぅ、と溜息を吐くその姿はまるで恋する乙女のようではあるが。

 内容はとてもじゃないが恋が芽生える感じじゃない。命の危機でドキドキする事はあってもときめく要素がないように思えてしまう。いや、そのドキドキを恋と間違う事はあるかもしれないが、ドキドキしてるのはルーカスだろうしハウではない。


「だからね、彼が一生懸命生きようとしているうちは手を貸してもいいかな、って」

「生きるの諦めたらその場で殺すって言ってたっけね」

「ははは、言わせないでよ照れるでしょ」


 照れる要素、どこ!?


 話を聞く限りハウはともかくラントは何となくハウと一緒につられてやってきた、と考えるべきだろうか。

 もしくは流石に地下迷宮作るまで手を貸したのはやりすぎだと思ったのかもしれない。いや、相手は精霊だし、価値観をヒトに寄せて考えるのは危険ではあるのだが。


 少なくともこの時点で憑いた精霊が四名。

 こうして話を聞く限り、この時点でまだマトモそうなのはラントに思える。

 けれども今の様子を見ると、ラントは単純にその場の状況に流されただけで物事に関してはどうでもいいと思ってる節すら見受けられた。


「それで、その次に出会ったのが……」

「大将とお呼び」


 そうだとばかりに頷くイシュケに、プリムは「大将」とその言葉を復唱した。


 そもそも精霊憑きというのは精霊がその相手を気に入ってくっついている事を指すわけで。

 じゃあ、イシュケにもきっとそういったきっかけは存在しているのだろう、とは思う。


 思う、のだが――


 せめてマトモな内容であってほしい。

 プリムは何となくそう思っていた。

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