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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
三章 ある家族の話
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ハイスピード出戻り



 ルアハ族のルーナの家に身を寄せるという事にしたのは何のことはない。

 とりあえずやる事やって俺の目的は一段落したようなものだし、成り行きとはいえ子供までできてるんだ。両親生きてるなら挨拶に行くのが礼儀ってもんだろう。

 まぁ、廃墟群島消滅させる手前ではまだそこまで考えてなかったのも事実なんだけれども。


 とはいえだ。


 俺は故郷を失ってその後一人で生きていくのは少々難しいだろうと思って組織に身を寄せた。

 別に全員が故郷を失ってとかではないが、それでも似た境遇の奴もいたしそういう意味ではまぁ、全く居場所がないわけでもなかった。

 そういう連中に助けられて、自分も誰かの助けになれば……とまで考えてたかどうかはちょっと微妙だが、そこら辺は持ちつ持たれつってやつだ。


 その後は友人でもあったヴァルトの行方を捜すために、一人じゃ情報を集めるのにも限度があったからというのもある。


 けど、そういう意味では目的は達成されてしまったわけで。

 現状考えると今の俺は別に組織に身を寄せないといけないというわけでもない。生きていこうと思えばそれこそどこでだって生きていけると思う。


 とはいえ、俺に憑いてる精霊の事を考えると利用されない程度に気を付けなければならないわけだが。

 今はまだ組織の中でも精霊憑きである事を知る者はほとんどいないが、何かの拍子に情報なんてあっさりと漏れるわけで。そうなるとその時俺がいれば確実な厄介ごとが発生する。

 そうなる前にさっさととんずらするのがお互いのためだろう。



 俺に対して恩返しすると言ってついてきていたハンスは、流石に今回ばかりは連れていくわけにもいかない。すぐに戻ってこれるならいいが、そうじゃないなら流石にほら……前世のお伽噺にもあったけど、浦島太郎みたいな事になりかねないし……浦島さんは肉体が若いまま戻って来てその後玉手箱で老人になったけど、ハンスは普通にルアハ族の暮らす場所にいても年を取るだろうからいざ久々にこっち側に戻ってきた、なんて時には既に老人になってる可能性すらある。


 こっちの世界じゃそこまでないとは思うけど、ほんの数十年見ないうちに技術が大幅に発展した、とかなってたら流石にハンスが社会に置き去りにされてしまいかねない。

 いや、異種族とか多くいるからそういう急激に文明が発展するって事今の今までなかったし可能性としては低いんだけど、でも絶対はないしな……


 俺ら異種族側から見ればそうでもないけど、人間から見たら何か色々違う部分が増えてきた、とかも無いとは言えないもんなぁ……


 ほとんど急な話ではあったけど、ルフトは当面の間はハンスと一緒にくっついて組織の手伝いをするそうだ。ルアハ族の故郷でもあるサグラス島、そこから向こう側へ行く方法をルーナから教わっていたので、何かあったとして連絡もとれなくなるとかそういうわけではなさそう。


 俺が抜けた後、別に組織に何か大きな打撃があるでもないけれど、それでも代わりといっちゃなんだが、みたいな感じでハンスはミリアの手伝いを継続するらしい。

 うん、そう考えるとある意味充分恩返しされてると思う。


 ハンスと出会った時はまさかこんな長く付き合いがあるとは思ってなかったな。

 昔はなんだかんだ尖ってたのに今じゃすっかり……いや、なんでもない。


「じゃ、そういうわけだからしばらく大人しくしてる」

「うい。ルーカスがこっち戻ってきた時に、精霊の力目当てで、なんて事にならないようには頑張るよ」


 ミリアの鳥でもって再びサグラス島に連れて来てもらって、さぁお別れだ、となったわけだが。

 正直宿で話合いして一泊してからの今、だから正直わざわざあんな離れた場所まで行った意味とは……? ってなったのは仕方ないよな。

 こうなるなら最初からここで野宿でもした方が余程手っ取り早かったと思えるレベル。まぁ野宿は野宿でぐっすり眠れるかってなるとまた微妙な話なんで宿で泊まったのは正解だと思うけども。


「旦那ぁ、せめてオレが生きてるうちには戻って来て下さいよぉ」

「今生の別れじゃあるまいし、お前が何かやらかして死にでもしない限りは大丈夫だろ」

「相変わらず旦那の対応がドラァイ……」

「まぁ、何かあった場合ボクが連絡しますから」

「そうだな……というかルフト、お前魔法使えるようになったんだっけ?」

「それに関しては少しずつどうにか……」


 本来なら普通に使えるはずなんだが、まぁ帝国でクロムートに目を付けられないようにルーナにちょっと細工されてたっぽいからな……まだ感覚を掴み切れてないのは仕方ないか。ルフトに戻ってから魔法を使う機会もなかったようだし。


「それに関してはミリアさんがお手伝いするから安心するといい。うっかり精霊に変な事言って自滅しないようにレクチャーしとく」

「あぁ、それに関しては頼りにしておく」


 ミリアの普段のノリを思い返すと人にモノ教えるとか大丈夫か? って思えるが、これでも鳥精霊と長年行動を共にしてきた奴だ。そこら辺は安心できる。


「じゃ、面倒ごとが起きる前に俺はしばらく姿を消すが……ハンス、リーダーの事任せたぞ」

「はーい……って、え? 何? リーダー? ちょっと旦那、冗談きついって。そもそもミリアさんの手伝いであって、オレがリーダーとかと会う事は流石にないでしょ。……ないよね?」

「ボクに聞かないで下さい」


「何言ってるんだ。ハンス、お前まだ気づいてなかったのか。組織のリーダー、ミリアだぞ」

「え?」

「んえっ!? ちょっとルーカス!? 気付いて……!?」


 間の抜けた声をあげるハンスと同じようにミリアが声を上げるも、途中で慌てて口を閉じる。

 その反応で本当ですと言ったも同然だな。


「普段はリーダーの側近みたいなフリしてるけど、実際リーダーとして存在してるの、あれ影武者みたいなものだろ。お互い納得してそう振舞ってるみたいだから別に僕としてもどうとも思ってないけれど。

 ただ、これからしばらくハンスがあんたの身の回りの手伝いするっていうなら、念の為何に巻き込まれないとも限らないし、一応知らせておくべきだと思ったまでだ」

 多分俺が向こう側に行った後でミリアから言ったかもしれないが、そうなったらなったでいつか、ハンスから実はミリアさんがリーダーだって知ってましたか旦那!? とか言われそうなので先にバラす事にした。


 とはいえミリアもまさか俺が気付いていたとは思ってなかったようだ。


 いやうん、前世の記憶思い出す前まではそこまで気にしてなかったんだけど、前世の記憶思い出した後であれこれ過去のミリアの手紙の内容だとかを思い返してみたりして、もしかしてこいつ、表向き補佐の立場装ってるだけのリーダーじゃないか? と思い至ってしまったんだよな……

 わざわざ言う必要もないだろうなと思ってたから言ってないだけで。


 組織のリーダーとしての顔役みたいなのは少数種族の奴なんだが、あいつはあいつで確かに強いから組織が目障りな連中から狙われてもどうにでもできるし、そんだけ強いのがリーダーであればと安心して身を寄せる者も出る。

 ミリアがリーダーとして向いてないわけじゃないけれど、まぁ、カリスマとかそういうのは微妙なところだし、どっちかっていうとサポートに向いてるタイプに見えるからどうしてもリーダーって感じはしないんだよな。


 一体いつから気付いていたのか、とミリアに問いかけられたが、それに関しては濁しておいた。

 最近になって気付くようなボロをミリアが出したわけじゃない。ただ、今までの行動と、そこに俺の前世の記憶で得たゲームとかの知識とか合わせて何となくそうなんじゃないか、と思い至っただけの事。流石に前世云々は説明すると面倒な事になりそうなので話す気はない。


 一拍遅れてルフトも驚きが追いついてきたらしく、ミリアの顔を何故だか三度見していた。

 気持ちはわからんでもない。


「それじゃ行くか。ルーナ」

「あ、あぁ、いいのか? 何かとても混乱してるけど置いてっていいのか?」

「あいつらが納得するまで付き合ってたらいつまで経っても戻れなくなるぞ」

「……えぇ……?」


 俺がいる間はあいつらだって戻るに戻れないだろうし、さっさと背を向けてじゃあなとばかりに手を振って進む。ルフトとかついてきそうな気配があったが、ハンスをそのままにしておけないとも思ったのだろう。

 ミリアだって俺が向こう側に行ってしまえばここにいつまでも居るという選択肢は消える。


 背後でハンスの「旦那ー! だから、普段から言ってるけど! 報連相! 報告! 連絡! 相談とかしてって言ってたでしょおおおおおお!?」っていう叫びが聞こえたがそれは無視する。

 今までだって割と無視してきたので、今回だけ丁寧に相手するとかあるはずもない。


「ねねね、ホントにいいのあれ?」

「問題ない」

 実体化して問いかけてきたアリファーンにそう返す。

 てっきり打ち上げとかどうするのと言われるかと思っていたが、今のところはその件に関してごねられる様子もないのでさっさと向こう側に行ってしまおう。


「まずはルーナの両親に挨拶と……それから、そうだな。面白いかは別として、今までの事でも話すとするか」

「あぁ、そうだな。こっちも面白い話があるでもないが、話していない事、話したい事、ないわけじゃない」

「ところで僕がルーナの父親に殴られる可能性ってどれだけあると思う?」

「どうしてそんな事を?」

「世間一般で見れば僕は娘孕ませた挙句子供が生まれてもしばらく顔を見せてすらいないロクデナシみたいなものだろ。殴られるなら殴られるで覚悟はしておきたい」

「……流石にそれはないだろう。どちらかといえば加害者は私だ」

「まぁそうなんだけど。でも親目線でそれはそれこれはこれ、とかいう理論発動しかねないぞ」


「わかった、いざとなったら私がルーカスを守ろう」

「それで身を挺したら余計親が逆上したりしないか?」

「無いとは思うが。そもそも私あのままずっと故郷にいたら生涯独身みたいなものだったし。大丈夫、孫の姿がないのはどうしてだ、とか言われる可能性はあってもルーカスに危害が及ぶことはない。信じろ」


 うぅん、まぁ、そこまで言うなら大丈夫、なんだろうなぁ……

「いざとなったらドカンと一発」

「やめろよ。やるなよそれ」

 横から口を挟んできたアリファーンにしっかりとくぎを刺す。本当にやりかねないからなこいつ……



 ともあれ。

 ハンスの小言もしばらく聞く事はなくなるんだなと思いながらも再びルアハ族が暮らす故郷とやらに足を踏み入れた俺とルーナであったが。

 まぁ、こんな早くに戻ってくるとは思ってなかったらしくて早々に遭遇したプリムには大層呆れられたのは言うまでもない。

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