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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
三章 ある家族の話
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結論 引きこもる



 ――さて、精霊憑き。それも六名実体化できる精霊がいるとかいうある意味とても扱いに困るのが俺だ。

 例えば魔物退治だとかそういうのに行くにはとても頼りになるとは思う。

 もしどこかの国同士での戦争が始まろうとして、それらに巻き込まれかねない種族を救出しにいかないとかいう危険な場所に行くのであっても、俺なら割とどうにかなるとは思う。


 けれども。

 そうやってある程度解決して平和になったら。

 今まで頼もしかった戦力は途端に脅威と見られかねない。


 俺も前世で見た作品とかでそういう展開いくつか履修したから知ってる。

 魔王倒した勇者が今度は危険視されてとかいう話とかもあったくらいだ。

 そいつを完全に支配化におければまだしも、そうじゃなかったら今度はこいつがいつ敵に回るかを考えてそうなった時の対策を練らねばならない。

 勇者が余程人間性に問題あるやつじゃなかったら別に心配しなくとも……と読者目線では思えるが、まぁ普通に魔王倒せる実力の持ち主とかがご近所にいて、万一そこと揉めるような事になったら勝ち目なんてあるはずもない。

 常に媚びへつらって機嫌をとるにしても、それだってずっと続けるには中々に大変だろう。


 自分の意思で自然に褒める所沢山あって賞賛するならまだしも、そうじゃない場合のおべっかなんていつまでも続けられるものではない。



 本当の意味で平和になるかは微妙なところだが、俺としても別に荒事ばかり任せられるのもちょっとな、とは思う。そもそもそういった争いごとは前世の事もあってかあまり得意な方ではない。けれども実力だけはあるとかそりゃ扱いにくい存在でしかない。

 精霊の少ない土地にいってそこで魔法使っての支援とかやや平和的な利用法がないでもないが、それは俺がその土地にほぼずっと暮らしてもいいと思えるような場所じゃないと厳しい。


 使える人材であるのだから、寝かせておくには惜しい。

 けど酷使しすぎて組織に悪感情を持たれるのも困る。


 組織にいるのに嫌気がさして抜けられたら、今度は敵として現れるかもしれない。

 そういう風に考える者も中にはいるだろう。組織の上はそうでもないと思うが、多分それよりちょっと下、あたりの連中はそう考えないとも限らない。


 リーダーとかそっち側は問題ないが、それよりちょっと下だけどまぁ上の方、くらいの奴からこいつ使えるし今のうちにガチガチに縛り付けておこう、とか思われるのも面倒。

 正直そうなる前に組織を抜けてしまった方がいいような気もするが、抜けたら抜けたでどこで組織と敵対するような事になるかわかったもんじゃないので抜けるという事に関しては引き留められる可能性が高い。

 今はまだ俺の有用性とかそこら辺そんな知られてないからまだしも、いずれはバレるんじゃないかなぁ、とは思うわけで。


 そういったちょっと上の連中にいいように扱われる前にそいつらよりも上の立場に入り込めばいいのかもしれないが、そうなるとリーダーの側近とかそういった立ち位置になる。どう足掻いても忙しいとこだなそれ。



「さて、そこで穏便に組織から抜ける方法がある。死ぬ事だ」

「死んだら流石に組織の人員として働くの無理」

 俺の言葉にうんうんと頷いて相槌を打つミリア。


「え、この組織って一度入ったら死ぬまで抜けられないやつなんです……?」


 ルフトが信じられないものを見るような目を向けてきたが別にそんな事はない。


「いや、抜ける分には問題がないんだ。年とともに組織の活動を手伝うのが難しくなってきたとかで抜けるやつもいるし、家庭の事情だとか己の能力の事情だとか、まぁ理由は色々あるが本人が判断して抜ける事というのはそれなりにある」


「じゃあ何で旦那は死ぬってなるの」

「僕の場合精霊憑きの部分がネックだからだな」


「……確かにそう考えると有能な人材は手放したくないって事ねー。はい把握把握。下手に抜けられてどっか別の国に引き抜かれたりした挙句そこで軍とか任されるような立場になったりしてそのうち組織と対立するかもしれないなんて事になったらそりゃ手元に留めておきたいっていう大人の事情~」

 やだわ大人って、とか言ってるが、ハンスも人間種族としての年齢からして既にどう足掻いても大人だろうに。


「さて、クロムートたちの件が片付いた事で、当面は多分そこまで何か大きな事件とかないと僕は踏んでいる。

 帝国が滅んだという情報が他の大陸に流れれば異種族狩りをしている所は多少警戒するだろうからしばらくは鳴りを潜めるし、更には廃墟群島の消滅だ。事情が正確にわからないうちは、次はどこで何があるかわからないと警戒する事だろう」


 事情を知ってる俺たちからすれば一連の出来事は繋がってるが、何も知らない他の大陸に住んでる奴からすれば帝国が滅んだ事と廃墟群島がある日忽然と消えた事が繋がってるとは思うはずもない。

 何せ帝国と廃墟群島はかなりの距離があって離れている。関連性も何もないとしか思わないのだ。


「え、じゃあつまり、旦那は今回の件で命を落とした事にして、組織から抜けるって事?」

「ようやく理解したか。つまりはそういう事だ。廃墟群島が消滅した際にそこに調査に赴いていた僕が巻き込まれた。って事にすればまぁ島は何も残っちゃいないしただのエルフがあんな大規模な魔法で島をどうにかしたとも思わないだろうから普通に巻き込まれて死んだと思う。

 島が残ってないんだから、そこで死んだ奴の死体が残らなくても何もおかしなことじゃないからな」


 それに廃墟群島周辺は精霊が漂ってたりもしない。つまりは、そこで何が起きたか最初から最後まで知ってる精霊もいない。

 どこかで精霊の声を聞ける奴が精霊に廃墟群島の事を尋ねたとしても、精霊は知らないで済ませる。事実知らないんだから当たり前だ。


 帝国近辺だとお隣のフロリア共和国の方は普通に精霊いるから場合によっては不自然さが際立つ。

 けれども廃墟群島なら誰も情報を知らなくてもそれはもう仕方のない事、くらいのものなのだ。


「それで……そこで死んだ事にして組織抜ける旦那は、これからどうするんです……?」

「それについてはルーナに協力してもらって、再びルアハ族の暮らす所で当面匿ってもらおうかと」

「やはりか……」

 吐息を零すような声量でルーナが呟いた。


 そう、廃墟群島を消滅させる前までは、まだそこまで考えてなかった。ただ、あのままサグラス島の空間裏にいたとして、ルーナの両親に捕まったらそれこそ年単位で拘束されると聞かされたから速やかに撤収しただけに過ぎない。

 ミリアに出された任務が廃墟群島の消滅、ではあるがこれは実際俺に向けての任務だったのだろう。

 どちらにしても廃墟群島をいつまでも残しておくわけにもいかなかった。いつか遠い未来で人工精霊に関する情報が誰かの手に渡って、そこでまた悲劇が繰り返されないとは言い切れない。


 廃墟群島を消滅させた今は、恐らく当面は何もないはずだ。


 勿論唐突に消えた島について色々な憶測は飛びかうだろうけれど、調査に出ようにもまず島があった場所に来たって何があるでもない。

 下手にサグラス島に来ても島を荒らせば空間裏からルアハ族が迎撃かまして祟りめいた事象に遭遇するだけ。

 廃墟群島があったあたりの海中海底を調べるにしても、水の中を調べる事ができる種族でもなければ下手したら肉食魚とかに襲われかねないし中々に危険。

 まぁ調べたところで何も出てこないと思うが。


 異種族狩りを率先してやらかしてた帝国は滅んだし、後はまぁちまちまとした迫害とかやってる所で救助活動するのが当面の組織の活動になるんじゃないだろうか。

 帝国関連もフロリア共和国と共にまだそれなりにやる事はあるだろうけれど、組織の活動そのものに関してはこれからしばらくは落ち着くんじゃないかと思いたい。

 そうなると後は……復興支援とかか。


 まぁ、そこら辺ならどうとでもなるだろう。


 今を逃すと俺が死んだ偽装工作が難しくなってくる。

 下手に魔物にやられました、なんて事にすればその魔物を討伐しないと近隣に暮らす人からして危険だから、で人員駆り出されかねないし。そんな魔物が実際にいなかったとしてもだ。


 そして死んだはずの俺が直後にどこかでひょっこり姿を目撃されるのも問題がある。

 当面はどこかに隠れる必要があった。

 そこでうってつけなのがルアハ族の住む場所だ。ルーナ曰く数年は両親の話に付き合わされるとの事だが、まぁそんくらいの年数経過してから何事もなく戻れば他人の空似ですで誤魔化す事もできるだろう。

 最悪記憶喪失のふりをすればどうにかなると思っている。


 廃墟群島消滅事件に巻き込まれ数年行方不明だった俺は、しかし記憶を失っていた。


 うん、まぁ、とてもありがちな話のように思えるがこれくらいベタな方が丁度いいのでは。

 記憶を失っていた数年の間何してたって話された場合は助けてくれた夫婦の家で世話になってた、とか誤魔化しはできると思うし。

 ただ、そこにやはりハンスを巻き込むわけにはいかない。

 こいつ人間種族だからな。年単位で世間様から隔離されたとなると色々と問題しかない。


 若いうちならまだしも年取ってからの社会復帰って中々に厳しいと思うし。


 だからこそ、後の事はミリアに任せるとなったわけだ。

 ルフトに関してはまぁ、これから数年引きこもり生活になりかねない俺と一緒に行動するかどうかは本人に任せる事にした。

 当面俺はどのみちルアハ族の暮らす場所に身を寄せる事にしたわけだ。ルーナには直接言ってないが、まぁこの後頼むつもりではあった。事後報告以前にルーナが察してくれたのでありがたく便乗したともいう。

 けどルフトも一緒にずっとそこにいる必要はないと思うわけで。

 というか俺はホイホイ気軽に世間に出るわけにもいかないが、ルフトなら適当な所で様子見に戻ってくるくらいでいいんじゃないかと。


 そういった部分も合わせて話せば、ルフトにはあからさまに溜息を吐かれた。表情が何か滅茶苦茶頭痛い、と物語っている。


「お別れって……そういうコトね」


 俺がこれからやらかそうという事を把握したハンスもまた、先程までの何か捨てられる犬みたいな表情からただ呆れただけのものに変わる。


 まぁ、これで俺が本当に死ぬとかだったら色々揉めただろうけれど、実際はそうじゃないわけだから最終的にどうにかなるとは思っていた。

 とはいえ、最終的に俺がアホの子を見るような目で見られたのだけは解せない。

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