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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
一章 ある親子の話
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平和な村に忍び寄る影



 ケーネス村。

 フロリア共和国の中にある小さな村の一つ。

 村のほとんどは畑で農業が盛ん。


 情報書にあったケーネス村についての概要はこんな感じだったし、いざ直接目にしてみればそれ以外に特筆する点がなさそうだなというのが俺の率直な感想だった。

 街道から離れた場所にあるので交通の便はやや問題ありな感じもするが、しかし広大な畑があるのであればそれも仕方がないと思われる。街道近くで村を作るだけならともかく、そこで畑をやろうとなれば色々と問題が出てくるだろうしな。


 この村の近くには川もあるし、水源があるなら畑をやるにしてもそう難しい話じゃなくなる。


 水とかはまぁ、魔法でどうにかできなくもないけど、毎日毎日魔法に頼るとなると、個人でやる小さなガーデニング程度ならともかくこれくらいの規模となれば流石に厳しいか。

 見た所村の住人は人間種族以外にもちらほら別の種族が見受けられるとはいえ、毎日魔力の多い種族に魔法を使わせるとなれば数日程度ならともかくずっとは流石に厳しい。


 俺だって二、三日程度雨を降らせてほしいとか言われればまだしも、一か月とかずっと雨降らせてなんて言われたら流石に疲れるから勘弁してほしいってなるしな。できないことはないけど。


 魔法は便利ではあるけれど、いざという時の事を考えると魔法を使わなくてもどうにかできる状態にしておいた方が確実にいい。魔法に頼った状態でいざという時が来た場合、もっとたくさんの魔力を消耗するしその頃には精霊が手を貸してくれない可能性だってでてきてしまう。

 こう考えると魔法ってとってもギャンブル!


 魔法がなくても科学で誰でもなんとかなった前世の世界がとても恋しい。家の中にずっといても買い物は通販でどうにでもなったし、自室は自分が寛げるように色々と手を加えたもんな……

 それじゃあこっちの世界でも科学でなんとかすればいいじゃない、って考えになるかもだが。残念な事に俺はそこまで頭が良い方じゃなかったので無理だ。テレビとかエアコンとかリモコン一つで使えはしても自分で一から作れとか無理。

 エアコンに関しては精霊に頼み方次第ではどうにかなるかな……ってなってるから。じゃなきゃ夏とかこんな軍服とっくに脱ぎ捨ててたに違いない。何せ黒の軍服。肌が露出してるのは首から上のみ。手は白い手袋してるけど、これだって武器とか持つときの滑り止めみたいな感じだし。

 そう考えると今の今までよく手袋とか八つ当たりにハンスあたりに投げつけたりしなかったな。


 まぁ思い返してみると過去の俺、暑いところだと精霊に頼んで服の下とかひんやりさせてたし、寒いところは逆に服の中ぽっかぽかにしてたからな。八つ当たりしようって発想がなかっただけかもしれない。



 ケーネス村に辿り着いたはいいものの、ここで何をしろとまでは指示書になかった。

 えっ、来るだけでいいとか何のための指示書? もっと詳しく説明して。


 とはいえ来たからもう帰りますねというわけにもいかない。何らかの意味があるからこそここに来るように指示書が出されたわけだろうし、じゃあちょっくら聞き込みに行きますかね……となったわけだが。


「それで、手分けするのはいいんですけど、何故ボクがこいつと?」

 面と向かって悪口を言うつもりはないが内心ではまだハンスの事は腰ぎんちゃくだと思ってるだろうルフトは、何の躊躇いもなくハンスを指さした。う~ん、人様に面と向かって指さすのってどうかと思うんだけども……まぁ、やっちゃいけない場面でやる前に矯正できてればいいか……今はハンス相手なので大目に見る。


 ケーネス村で聞き込み調査するにしてもだ。

 まず広い。畑が広がってまーなんていうか長閑。三人でぞろぞろ移動してもいいんだけど、そうすると時間だけがやたらかかる気しかしない。


 一応ここ人里だし、フロリア共和国なわけだから異種族ってだけで迫害される事もなさそう。

 それなら適当にばらけて散って情報収集した方がいいだろうと思っただけの事。


 そこで俺はハンスとルフトで組んで行けと言っただけなのに、どうやらルフトはお気に召さなかったらしい。


「ハンスの方が情報収集に長けてるから」

「旦那が面と向かって褒めてくるとかえ、何、明日空からドラゴンでも落っこちてくるの?」

「お前が一人で大丈夫っていうなら別にいいけど……正直俺らとの初対面時の態度を見る限りこの村の人に一切喧嘩腰にならずに話を果たして聞けるか不安」

「なっ……ボクだって別に話を聞くくらいなら余裕でできます!」

「煽り耐性低いから……そこはかとなく不安を感じる。その点ハンスならまぁ何かあっても上手い事収めてくれそう」

「そういう事なら任せて旦那! オレとルフトくんでばっちり情報集めてくるから!」

「なっ、おい、まだボクはお前と行くなんて一言も……うわぁっ!?」


 俄然やる気が出てきたハンスに腕を引かれ、ルフトはまだ何か言い足りないようではあったもののそのままハンスに連れられていった。


 実際ハンスの情報収集能力に関しては俺と比べるととてもマトモ。ルフトがそこから学んでくれればそのうち一人で行動するようになってもどうにかなるんじゃなかろうか。


 というかルフトは今まで一人で行動してたと思うんだけど……もしかして情報収集担当とかだったのだろうか? もしそうならハンスと組めってのはプライドを刺激したかもしれない。

 いや、でも、ハンスがルフトに色々聞いてた時にどちらかといえば魔物退治専門みたいな事言ってたような……えっ、あの年齢で? 魔物退治とかいう危険度マシマシな任務専門?

 母親が戦闘に特化した種族とかだったんだろうか……見た目からはあまり戦闘が得意そうに見えたりしないんだけども。


 ……まぁ、今更何を思った所でハンスが連れてったわけだし。


 俺の方でも一応情報は集めるつもりなので行動開始しますか……



 ところでこの世界を漂う精霊だが。

 基本的に人の目に映る事もなければ存在を感じ取れるのは魔法が発動した時だけ。

 ではあるものの、人助けをするのが生きがいみたいな精霊は勿論感情だって持ち合わせているし、何なら話す事もできる。普通は声なんて聞こえやしないけれど。


 けれども俺は、その精霊の声を聞き取る事ができた。


 思えば情報収集の大半そうやってたんだったな……って落ち着いてから思い出してきたわ。前世の記憶というか意識が前面に出てきた時はそんな部分すらすっぽ抜けてたけど。


 アマンダ探しの時に精霊の声を聞かなかったのは、その時点ではまだ完全に思い出してなかったし、何よりアマンダもまた精霊に好かれていた。妖精が匿ってたあたりからして、そういった異種族に好かれる体質だったのかもしれない。精霊もまたアマンダを匿う方向性で動いていただろうから、普通に探したくらいじゃ見つからなかったのだろう。

 精霊に同じように好かれてるであろう俺が来た時は特に目くらましをする事もなくあっさりと彼女の所に辿り着いた事を考えると、その考えは間違ってないはず。


 つまり俺も下手な事言うとアマンダと同じ末路が待ってる可能性があるわけだ。ははっ、笑えねー。


 声は普段から聞こえてるわけじゃない。聞こうと意識すれば聞こえるかな、くらいのものだ。

 そうじゃなかったら周囲がうるさくてたまったものじゃない。

 周囲で誰も話しかけてるように見えないのに独り言凄い奴みたいになってた可能性を考えると普段から聞こえるわけじゃなくて良かったとすら思う。


 特別な何かをする必要もなく、ただ声に耳を傾けようと意識すればいいだけ。その状況で人に話しかけられると返事をするのが遅れる事もあるが……まぁ普段からそんな話しかけられるような奴じゃないんで。



「やまのむこう」

「まものがくるよ」

「にげてくる」

「つながってるどうくつ」

「あぶないよ」


 さわさわと風の音に混じって聞こえてくる声。勿論周囲に村人はいない。少し離れた場所に村人がいないわけじゃないが、そちらは育てている畑についての話をしているので、勿論今聞こえてきた声は彼らのものではない。


 山の向こう、と言われて思わず周囲を見渡す。

 確かに畑の向こう側、俺たちが来た方角とは違う所に青々とした山がある。

 繋がってる洞窟、とはもしかしてこの村にか? と思うが果たしてそれらしきものがあるのかと問われればちょっとわからない。

 村に、ではなく村の近くにそういうのがあるのかもしれない。村直通だと多分もっとこう、村の空気がピリピリしていてもおかしくはないだろうし……


 しかし逃げてくる、とは?

 山の向こうで何かあるのか? で、魔物が逃げてこっちに?


 もうちょっと詳しくわからないだろうかともう一度耳を澄ませてみたが、残念な事にそれ以上有益な情報は得られなかった。


 ついでに俺の友人とかこの辺りに来ていないだろうかと思ってそちらの情報も集めてみようと思ったが、こちらは完全に空振り。この辺りには一切来ていないと。そっか。


 であればこの村に長居する理由はなさそうだ。

 指示書でここに来るように指示されたものの、特にこの村で何かがない限りはさっさと立ち去る事にしよう。

 ……まぁ、今聞いた話から魔物退治とか頼まれそうな予感はするけど。

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