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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
三章 ある家族の話
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この際だ、便乗しよう



 恐らくは、ミリアもそれは考えたと思う。

 どういう扱いにしても面倒な相手。いるから面倒であっていなくなってしまえばその存在に頭を悩ませずに済む。まぁそれはそうだろう。いなくなればむしろそいつの事を考えて頭を悩ませる時間の方が無駄なくらいだ。


 けれどもまぁ、俺も明らかに言葉足りてなかったなと思うので、

「何言っちゃってんの旦那ぁ!? わかってる!? 何言ってるかわかってる!?」

 と叫ぶハンスや、

「な、に簡単に命を捨てるような事を言うんだルーカス!? 私はそれを認めない、折角、折角……」

 と言葉を失いかけてるルーナ、

「父さん? 自分で何を言っているか理解してますか? まさか本気じゃないですよね? 性質の悪い冗談なんですよね?」

 俺の返答次第では何か殴り掛かってきそうな雰囲気のルフト、と。


 それぞれの反応を見てここから先選択肢ミスったら死ぬ、とか思ったわけだが。

 俺の人生をここでゲームに見立てた時点でどうかしているとは思うが、いや、うん、言葉が足りなかったってのはわかったけど、ここからどう説明したものかな……


 ミリアは目を大きく見開いていたものの、恐らく俺の思惑に気付いているだろう。

 そもそも俺が死ぬつもりがあるとかあり得ないから。何だかんだ生き汚い俺だぞ。

 死ぬつもりなら多分故郷が滅んだ時点で死んでるわ。


 それ以外にも結構死にたいって思うような事色々あったからな。

 それでも何だかんだ生きてるんだから、今更ここで死ぬとかあるはずもなかろうに。


 とはいえそれを理解しているのは俺だからこそであって、俺の内心を完全把握してるわけじゃない連中からすれば言葉の通りに受け取ってしまうのも仕方のない事なのかもしれない。

 そうだよな、俺だって前世、幼馴染が両親に復讐しようと思うんだよね、とか言い出した時まだ詳しい事情を知らなかったから何かの冗談かと思ったくらいだったもんな。事情を知った後は冗談だろとも言えなくなったが。


「まぁなんだ。お前らは少し落ち着け。何も本当に死ぬわけじゃない」


 最初にこの部分説明しておかないと誤解が加速度的に増しそうだと思ったので、それだけは言っておく。


 前世の記憶がINする前の俺だってなんだかんだ生きてたわけだし、今の俺だって勿論わざわざ死のうと思うはずもない。

 だというのにそんなあっさり俺の言葉をそのまま受け取るとか……え、何、俺そんな簡単に世を儚んで死にそうとか思われてる?

 確かに黙ってたらまぁ、そういう系統の美人に見えるけど外見と中身が一致してた事あったか?

 以前の俺なんか感情薄すぎて周囲に対して割と無関心系だったし、今も今でコミュ力に若干の問題がありそう、とかいうだけで儚い系とは程遠いんだが!?

 そういった対人関係に難有り、みたいな部分をちょっとお高い顔面偏差値でどうにかなってた、みたいなものだぞ?


 本当に死ぬつもりはない、という俺の言葉にミリアも理解したように頷いていた。そりゃそうだ。いくら扱いにくい存在になったからとて邪魔になった奴を消してたら、組織の存在意義とかそういうものが根本的に崩壊しかねない。

 組織なんてそもそも種族間の争いを減らしてなるべく平和な世の中にしましょうね、みたいなものだし、そこに他の種族に迫害されたり居場所を追われたりした奴らの駆け込み寺みたいなものも兼ねてるようなものだ。

 そこで例えば追い出された異種族なら殺したって問題ないだろう、みたいな危険思想の持ち主を排除したとかならまだしも、そうでもない俺を精霊六体憑いてて持て余してるから殺すね、なんて事になれば今まで組織についてきた奴らが敵に回りかねない。


 えぇと……なんだ、近未来とか舞台になってる映画とかで高性能AIとかが平和な世界にするために争いの原因を減らして少しずつでも理想的なものにしていきましょうね、ってのが暴走して人間死ねば万事解決オールオッケー! ってなって人類を滅ぼそうとする内容に近い。

 組織はAIほど高性能ってわけでもないけれど、そんな風に争いをする種族をことごとく根絶やしにしていけばいつかは平和に! とか言い出したら一番の危険因子かつ物騒なのは組織だ、となるわけで。

 まだ人間至上主義を謳ってそれ以外の異種族を奴隷に、みたいな考え方してた帝国とかの方がマシに思えるレベル。実情はどうだったかってのは置いといて、帝国は少なくとも人間に牙をむくような事はなかったわけだし。


 けれどそんな思想で行動するような組織だった場合、いつどこで自分たちに狙いが向くかわかったものじゃない。お互い協力していたはずの相手が次の瞬間手の平返して襲い掛かってくるかもしれない、となれば信用も信頼もできるはずがないしそれなら先に組織を潰してしまった方がまだマシに思えてくるというものだ。


 現に暴走しちゃったAIだとかマザーコンピューターだとかは最終的に人類が破壊してお話はそこでジエンド、みたいなのばかりでそこで新たに和解して、みたいな展開になったの見た覚えもないしな。むしろそんなブレッブレに考え方変わられてもそれもそれで信用できないっていう、どっちに転んでもどうにもならない感な。

 コンピューターウイルスとかが原因だったらまだそれどうにかしたら和解の道もあるかもしれないけど、それもそれで一時的に和解してもいつまた同じような事に……ってなるやつだし。


 組織の上が代わった場合に若干の方向転換とかはあるかもしれないが、ここの組織のトップが代わる事はまずないだろう。それこそ、リーダーが死なない限りは。

 いや、仮に死んだとしても恐らく組織の在り方は変わらないかもしれない。上にいる連中がほとんど死んだ、とかならともかくそうでなければ誰かしら死んだ場合のその後の事も既に想定してそうなんだよな……



「……まさか、そういう事か……!」


 俺とミリアの様子に、どうやらこれからどうするか何となく察したらしいルーナが声を上げる。

「母さん? わかったんですか? この人たちが何しでかそうとしてるのか」

「まぁ、何となくは」


「ルーナが察してくれたなら話は早い。説明の手間が省けてミリアさんもとても楽ができる」

 にこっと一切の邪気なんてありませんよ、みたいな笑みを浮かべているが、それもどうなんだろうな。

 しかしそのミリアの態度でルーナは自分の予想が当たっている事を理解してしまったのだろう。やはりか……なんて苦々しくも呟いている。

 ルフトはわかっていないらしく、え、なんなんです? と答をねだっているし、ハンスもよくわかっていないようだ。


「ミリア、この際だ。ルフトに関しては本人の意思を尊重してほしい」

「うい。それは勿論」

「ちょっと、何なんですいきなり」


 いきなり話にあげられて、ルフトは明らかに戸惑っている。

 本当に死ぬわけじゃないとは言ったものの、それでも俺が死ぬという事になるだろう流れが完全に撤回されたわけじゃない。


「それからハンスも」

「ぅえっ、オレですか?」

「まぁ、ハンス優秀。ルーカスと同じような使い方はできないけど、事務とか大助かり。いてくれるなら面倒はお任せ」

「えっえっ、どういう事ですかホント」

 大真面目に頷いてみせたミリアに、まだ話についていけてないのだろう。本人置いてけぼりにして話進めないで!? と叫んだ。


「ハンス」

「何です旦那。あの、毎回唐突に話に混ぜるのやめてくれません? ちゃんと説明。事前説明してちょーだい!?」

「お前とは、ここでお別れだ」

「えっ……?」


 わあわあとうるさかったハンスが一瞬にして黙り込む。

 何を言っているかわからないわけじゃないけれど、意味を理解できていない。そんな顔だった。いや、理解したくないというべきか。


 何だろうな、家庭の事情で飼えなくなった犬を手放す時の気持ちってこんななんだろうか。


 ハンスは犬ではないというのに、それでも何故か俺が思った事はそんなことだった。

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