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来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
三章 ある家族の話
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取扱注意



 俺が所属している組織の話になるが、まぁ別に反帝国組織とかいうわけでもない。

 確かに帝国と関わってる時はそんな感じの活動が多かったかもしれないが、基本的には種族関係なく上手くやっていきましょうね、的なやつだ。場所によっては少数の存在が迫害される事もあるし、そういった支援や手助けもあれば、どうにもならない場合は武力行使もあるにはある。


 自分の種族が一番すごい、と思う分には別にいいと思う。

 けど、だから他は駄目、で何してもいいわけじゃない。


 けれども世の中そう上手くいくものでもない。


 これだと弱い種族が迫害されているように思える部分もあるが、数が少ないイコール弱い、というわけでもない。

 現に少数種族でもある竜族とかは確かに少ないけれど力は強大だ。

 けれどその力を恐れて関り合いにならないよう遠ざけようとした種族も存在している。関わりたくないなら自分たちから距離を置けばいいだけの話だが、この土地を離れたら自分たちは生きていけなくなる、とかいう理由で竜族の方を追放しようとしていた種族もかつてはいた。


 まぁ、難しいというよりは面倒な話だよな。


 少数が必ずしも弱いわけではないけれど。

 竜族を追い出そうとしてる連中は竜族よりも数は多いが弱く、竜族は数こそ少ないが強大な力を持っている。

 これ揉めて争いごとに発展した時どっちもどっち感あるもんな……


 追い出そうとした方も悪いけど、ここで竜族がその力を存分に行使した場合、多分その種族は滅ぶ。そうなると何もそこまでしなくても……と言いだす奴は必ず出る。

 仮に手加減したとしても、そうなればその分争いが長引くだけだ。


 争いごとに発展した場合はどうしたって竜族の方が強者だし、そうなると弱者を迫害しているのは竜族である、とあまり事情を知らない第三者からは思われる可能性もある。本来なら被害者は竜族のはずなのに。


 そういったあれこれとかもある程度仲介したりだとか、なるべく穏便な解決手段を、とかも組織の活動内容ではある。

 中には帝国みたいに人間至上主義とか特定の種族だけを優遇するようなところも確かにある。

 全部じゃないけどエルフだって排他主義はいるしな。


 ある程度は話合いだとかでどうにかしようってのが組織の活動理念みたいなものなんだが、まぁ中にはどうしたって話合いじゃ無理な場合もある。

 そういう時は……まぁ、実力行使にもなるわな。

 こっちが戦うつもりがなくとも向こうがそのつもりならそうするしかない。

 ある程度ボコってこっちの話を聞ける状態にしてようやく話し合いのテーブルにつく、なんてのも過去何度もあったし。


 正直な話、そういった部分は別に人間だろうとそれ以外の種族だろうとそこまで変わりはないわけだ。


 で、俺の今後の話、という部分だが。


 元々俺は別に自分を精霊憑きだと言ってたわけでもない。エルフだし魔法使うの得意だし、あとは精霊の声がちょっと聞こえる程度だ。

 そういう意味では組織でもそれ以外でもまぁ、大まかにエルフの枠組みを外れちゃいない。


 ただ精霊憑きとなると話は変わってくる。

 ミリアみたいにわかりやすいならいいけど、普段はその姿を見せるわけでもない精霊が六名。

 しかもその実力は島をまるっと消滅させるくらいなら余裕でできる、となれば危険視されてもおかしくはない。

 だって俺が望めば場合によってはあのライゼ帝国だって滅亡できた。

 廃墟群島程度の規模なら消滅させる事に問題がないという事は、つまりあれと同じ規模の小国だって消すのはワケない、という事になってしまう。

 物騒極まりない軍事兵器が安全装置もあるかわからない状況でうろうろしている、と考えれば物騒度合いとしてはわからないでもないだろう。


 帝国が消えた今、しばらくは特定の種族を掲げる系の活動とかは大っぴらにやらかさないんじゃないか、とは思う。帝国が今まで派手に動いてただけってのもあるが、それがなくなれば次に目立ったところが目を付けられる流れになるのはまぁ、当然と言えば当然だろう。

 そもそも組織介入しなくても場所によっては対立が激化して内乱とか普通にあるし。むしろ組織を引き込んで上手い事利用してやろう、みたいなとこもあるにはあるようだし。


 さておき、もしそんな都合よく利用してやろう、みたいな所に俺が利用された場合、被害はとんでもない事にもなりかねない。

 どう転んでも起爆剤。

 いや、精霊が上手くそいつらの手の上で転がされるような事になるか? って考えるとならない可能性の方が高いんだが、その場合でも何かしら被害は出る。その被害がどう転ぶかわからないとなれば、扱いは要注意とか完全に危険物を扱うソレ。


 そこら辺考えると、まぁ、今までみたいに単独行動で好き勝手やらせてもらえるかっていうのは……難しい気がしてくるわけだ。

 下手に野放しにしてちょっと目を離した隙に一体どんなことになってるかわかったもんじゃないもんな。


 そうなると誰かと常に行動を共に……して何かあったら即連絡つくようにしておいて欲しいとか、組織の考えとしてはそういう事なんだろう。

 けど今までの事を考えるに、俺と一応行動を共にしてるのはハンス。

 抑止力になるかっていうと多分ならない。何せ今までだって俺ハンス撒いて単独行動してる時とか普通にあったし。


 かといって同じく組織に所属している上で俺の知る人物で行動を共にできるだろう相手というのはあとルフトくらいしかいない。

 それ以外にもいないわけじゃないけれど、そういうのの大半はたまたま目的地が同じだとか、異種族狩りしてる連中潰しにいくとかいう目的が同じだとかの、その場その場で一時的に手を組むとかそういった感じが強い。


 ルフトもハンス同様、撒こうとは思わないが何かあった時に俺を止められる抑止力になるか、と問われれば答えは否。まぁルフトの場合は最悪俺に実力行使でやらかす可能性はあるが、それで完全に止められるかとなると……う~ん、ってなるわな。


 しかも俺は精霊――ザラームに身体を貸した事もあって、仮に何かあった時に俺を止められそうな相手となると……最悪仲間内で殺し合いになりかねないんじゃないか……? いやまぁ、別に俺がザラームに身体乗っ取られて挙句ザラームが暴れまわるとかいう展開になる事がまずないんだが、向こうがそれをきっちり理解できているかとなると話は別だし。


 そこら辺考えると色々とやらかしたな~っていう気持ちで一杯なんだが。

 …………笑い事じゃないけど笑って誤魔化せるなら誤魔化したい。


 とりあえず今までは単独行動だろうとそこまで気にしてなかったけど、これからはあまり野放しにできないしいくつかの制限がつくかもしれない、ミリアが言いたいのはそういう事なんだろう。

 まぁ俺もな? 自分の事として考えないで他人事として考えればそんな物騒なの野放しにできるかってなるからわからないでもないんだ。

 俺としては別にそこまで好戦的でもないしわざわざ周囲に敵を作りにいく気もない。

 けど、俺の事を知らない相手から俺の情報だけ聞かされた場合、正直とんでもない脅威に見えなくもないんだよな。実体化できる程度に力をつけた精霊が六名。

 味方ならまだしも敵に回る側からすればこんなんどうにかして真っ先に潰す事考えるわ。味方に引き入れられそうならまだしも、それも無理となればどんな手段を使ってでも動きを封じておかないとどんな方法でこちら側の目論見を台無しにされるかわかったもんじゃないもんな……


 正直戦力として見るととんでもねぇ過剰戦力。

 俺本人はとても無害なエルフなんだが。少なくともこっちから率先して攻撃するつもりは異種族狩りやってる奴以外では無い。


 下手に俺の情報が漏れた場合、最悪組織に向けられる目も厳しくなるかもしれない。

 今までのようになるべく平和的に仲介しようとしても、今までのようにはいかなくなるかもしれない。


 実際に俺が考えた事をミリアもなるべくわかりやすいように説明している。

 それを聞いてルフトが思わずベッドから立ち上がりかけ――たのを一応手で制止する。

 中途半端に浮かせていた腰を、納得いかないと言わんばかりの顔をしてそれでもルフトはそのままの体勢でいるのがきつくなってきたのだろう。しぶしぶといった感じでベッドに腰を下ろした。


「ミリアの言い分としては理解した。

 けど、例えば俺に枷をつけるにしても、組織としてはそれをやるわけにもいかない。違うか?」

「それはそう。組織、迫害受けた種族の受け入れもしてる。なのにそこで枷をつけられてる相手とかいたら大問題。けど、ルーカスそのままにしておくといつか色んな話が周囲に漏れた時にそれはそれで困る」


 そこなんだよな。

 いくら精霊憑きでその数がちょっと多いとか、その精霊が強力だとかって話だとしても。

 組織の存在を揺るがすような扱いを俺にするわけにもいかない。

 さっきの竜族じゃないけれど、強大な力を持ってる種族はそうなるとある程度の枷が必要になってしまう。迫害されて土地を追い出されたり、異種族狩りの延長で故郷を滅ぼされたりした相手が折角身を寄せた場所で自由を制限されるような事になれば、組織の意味がない。


 けどまぁ竜族とかは生まれ持っての能力だからまだしも、精霊憑きはそうじゃない。あくまでも後天的なもの。そして精霊は普段目に見えないもので、そういった存在が憑いていたとしても中々気付けるものではない。声が聞こえるだとかで憑いてる事を把握できる者もいるけれど、実体化できる精霊が憑いてるなんてのは正直この場に俺とミリアがいる時点で嘘くさいがとんでもないレアなわけだ。


 けどミリアの鳥精霊は姿が鳥だしそこまで周囲に恐怖を感じさせるような存在ではない。普段はミリアの肩に乗ってるだけだし、そこら辺飛び回って誰彼構わず突いたりするような事をしてるわけでもない。

 だからこそ何か人懐こい鳥、くらいの認識しか周囲はしていないだろう。


 ただ俺の場合は憑いてる精霊どれも人型だからな。そういう意味では誤魔化しようがない。最初から最後までずっと実体化してもらって人間のフリをしてもらう事も考えたが、種族の違いと言うべきか人間との考え方からちょっとずれてるからな……どっかでボロが出る気しかしない。


 こうして考えてみると、ホント今の俺の立場とてもめんどくさい事になってるな。


 野放しにするわけにもいかないが、枷をつけるわけにもいかない。

 今まで通りでも問題ないとは思うけれど、それはあくまで今だけの話。そのうち精霊憑きである事が知られるようになった時、何の対策もしていないのかとなれば最悪組織に向けられる目が厳しくなりかねない。


「…………よし、何か面倒になってきたから、手っ取り早い解決策だそう」

「あるの? ルーカス」

「簡単な話だ。僕が死ねば僕の扱いについて悩む必要はなくなる」


 口元に笑みを浮かべて言ったそれに、もともと静かだった室内がそれ以上に静まり返った。

 あ、説明足りなかったな、と思ったのは直後の話だ。

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