いざ審判の時
打ち上げ、とか言われてもまず精霊の打ち上げって何? としか思わない。
まぁとりあえず実体化した状態で何かどっか適当に美味い店行けばいいのか? と思ったが、ここで意見が割れた。具体的には食べたい物の意見で割れた。
食べ物じゃない店とかそうじゃないどころか、全員食べ物の店は一致したもののそれぞれがお互い行きたい大陸の名を言って譲らない。
もう間とって適当に幅広くやってる店とかでいいんじゃないか、と口に出したかったが、言えばそういう事じゃないと言われそうなので黙っておく。
そもそも今現在対立してるくせに、俺がそんな風に口出したら一斉に一致団結して言うに違いないというのはわかるのだ。
女同士の喧嘩に口を挟むもんじゃない。
……いや、精霊に男女も何もあったもんじゃないんだが。
そもそもずっと昔に結局お前らの性別ってどっちなんだ? とか聞いた気がするけど、どっちでも、とか返ってきたし。
男でも女でもどちらでも、というのであれば、確かにルアハ族はそういう意味で精霊に最も近い種族なんだろう。そこ似ていいものなのか? とは思うけど。
お互いがお互いに食べたい料理の名をだして、昔行ったあの店がいいだとか、いやこっちの店だとか、島を消滅させた後の会話じゃないよなと思うのだけは確かだ。
え、むしろ一生懸命働いた後の自分へのご褒美とか? それにしたって島消滅させた後だぞお前ら……
このままだとなんか肉体言語とか魔法飛びかう物騒なオハナシに発展しそうだったから、行く店に関しては一度保留にさせた。放置しておいても収集付きそうにないし、丸く話が収まる感じでもない。
行く店を決めるための第二ラウンドファイッ! とかになったら流石に問題しかない。
もう廃墟群島は存在しないが、近くにはサグラス島がある。今度はそっちが巻き込まれたらそれこそ大変な事になってしまう。
廃墟群島と違ってサグラス島はルアハ族が住んでるので、下手したら攻撃されたと思ったルアハ族が迎撃に出るだろうって事だよ。流石に不味い。
とりあえずサグラス島へ戻るわけにもいかないし、どこか適当な所に降りる事にする。とはいえここいらはもう何もないので適当に移動して目についた大陸へ行くしかないわけだが。
降りた大陸は精霊たちが行きたいと言っていたところとは一切かすりもしてない土地だった。
その事でちょっと文句を言われたが、万一誰かのリクエストの場所だった場合なし崩しにそこが打ち上げ会場に決定されてしまいかねないし、そうしたらそれ以外の精霊たちのブーイングは確実だ。
わざわざ争いの種を育てるつもりはないし、ミリアもそれは弁えていたらしい。
そうだよな、あんな結構簡単そうに島消滅させるような精霊たちが今度は別の何かをターゲットにして暴れだしたら被害がどれだけになるのか想像つかないしな……
流石に大きな鳥は目立つので、大陸の端の方に降りたらすぐさま消していた。大きさ的にも下手したら魔物と勘違いされかねないし、場合によっては撃ち落とそうとして攻撃を仕掛けられかねない。
というかだ、ゲームだと割と無茶な移動手段の道具とか生物とかで街のド真ん前に着陸しても別に騒ぎにならないけど、普通に考えたら大問題だもんな……飛空艇みたいなのは流石に街中に降りる場所がなかったら街の外とかになるのはわかる。
でも街中にドラゴンとか大鳥だとか降りてみ? 絶対騒ぎになるわ。一部事情を把握してる所とかは大丈夫かもしれないけど、世界全国各地に連絡がいってるとかまずないから。
仮にこれから行く街とかにこれからミリアさんの鳥が行きますよ、と連絡したとしてもだ。組織経由でその報せをうけたとして、街全体にその連絡がいきわたるかっていうとそれはまた微妙な話だ。
どう考えても厄介ごとが発生しかねない。
既に実体化を解除するつもりもなさそうな精霊たちは時に歩き、時にふよふよと宙を漂ってついてくる。
そうして辿り着いた先は――
「え、えぇ~何この廃村」
「失礼だぞ」
確かに何かもうそろそろ住む人もいなくなりそう、って感じの寂れた村ではあるけれど、多分まだ普通に暮らしてる人はいるはずだ。
とはいえ、限界集落一歩手前って感じは確かにするからアリファーンの言葉も間違っちゃいないのかもしれんけど……いや、それにしたってまだ滅んでないうちから廃村扱いはどうだろう。
「なぁんでこんな所に来ちゃったかなぁ」
「ごめんねミリアさんのチョイス」
「むー、あの鳥ならもっと別の場所にばびゅんと行けたんじゃないの? 何でこんな……」
「アリファーン」
「わーかったよぅ。黙るよ。黙ってるよ」
降参、とばかりに軽く手をあげたアリファーンはそれきり口を閉ざす。
他の精霊たちも何か言いたげではあったが、ひとまずは静観の構えのようだ。
とはいえ、何か言いたげなのは精霊たちだけではない。
ルーナやルフト、ハンスだって何でまたこんな場所を……? と言いたげではあった。
とはいえここに案内したのはミリアだ。
俺に言っても仕方がない事だとわかっているのだろう。というか俺に言われてもどうしようもないしな。
村の中は、まぁ、一言で言えば限界集落一歩手前だった。
うん、さっきも思ったばっかだな。
外から見ても中に入っても感想が同じって時点でここから先なんかどんでん返しみたいな事もなさそうだ。
パッと見た所よぼよぼの老人ばかり、というわけではなさそうだが、それでも恐らくそこそこの年齢の者ばかりだろうか。見た目で若いと思える者はいない。まぁ当然か……若いうちはどうしたって刺激を求める……若いのが全部そうだとは限らないが、それにしたってここは若い人間が暮らすには色々と不便だろう。
毎日穏やかに過ごしたい、みたいな人からすればまあ、許容範囲内かもしれないけれど、なんだろうな……昨日も今日も明日もほとんど区別がつかないくらい同じような毎日の繰り返しが苦痛だというタイプは向かないだろうな。ここでの暮らし。
俺も前世で中学生くらいの頃に朝起きて学校行って帰って来てまた朝になって、とかで毎日同じことの繰り返しだ、とか嫌気が差した事がないわけじゃなかったもんな。思春期というよりは中二病寄りだったかもしれないけど。とはいえ、俺の場合は幼馴染がいたのでそんな幻想は即消え去ったが。
あからさまに異種族、という見た目の者は今のところ見ていないが、それでも異種族は混じってるんだろうな、とは思った。人間種族だけで暮らすには、いささか不便が過ぎる。
家の数は数える程度、店は……ここで暮らす人間相手の店くらいだろうと思ったが、一応外から来た人向けの宿なんかもあるにはあった。とはいえ、看板があるからかろうじて宿だとわかったものの、もし看板がなければここもちょっと大きめの家、くらいにしか思わなかっただろう。
サグラス島から出てきてすぐに廃墟群島を消滅させるという流れだったけど、サグラス島を出る前に何してたかっていうと俺の場合はほぼ寝てただけだし、島を消滅させたのは精霊たちなので俺は別に何も労力を消費していない。
まだ日が沈むまでには時間がありそうだし、寝るには早い。
強いて言うならちょっとばかし小腹が空いたかな、とは思うが……この宿食事出るんだろうか……
無かったら収納具から食料出すだけだし、別にそこまで困っちゃいないが。
どうやらここも一応組織と繋がりのある場所だったらしく、ミリアが店の主人に声をかければすんなりと部屋に案内された。
とはいえあまり大きな宿ではない。それに大勢が来る事は想定していないのか、部屋の数も少ない。
まぁ、確かにここに大勢の冒険者みたいなのがやってくるって事はどうしても想像できないからそこは仕方ないのかもしれない。
精霊たちに関しては宿に入る前に姿を消していた。流石にあいつらの分まで部屋とるとなったら宿全部貸し切りになりかねない。
部屋の広さはそこそこあるらしいので、とりあえず男女で二部屋とった。
宿の主人から食事についてどうするか聞かれていたようだが、ミリアは首を横に振っていたので食事は自力で用意する事になりそうだ。
……まぁ、見たとこ食堂と兼用してるって感じでもなさそうだしなぁ。本当にただ泊まるだけ、みたいな。
外から見た時にはちょっと大きな家、といった感じだった宿だが、部屋の広さはまぁそれなりであった。
というか本当に大人数用の寝る時は雑魚寝してください、みたいな部屋ではなく、一応ベッドのある部屋をとったようなのだがそこは四人部屋だった。
多分丁度いい部屋はなかったんだろう。二人部屋くらいならあるとは思うが、俺たち五人だもんな。
二人部屋二つとって余った一人は一人部屋、うん、それでもどうにかなるとは思うがその場合一人になる可能性が高いのって俺かルフトなんだよな。防犯的な意味で。
ハンスが一人になったとしてもまぁ大丈夫だとは思うんだけど、あいつ何かあったら騒ぐと思うし。
……ま、もっと人が多く集まる場所ならともかく、ここで宿泊客に何かしようと考えるようなのはいないと思うし、あまり深く考えなくてもいいだろう。
こんなところで犯罪に及んだら間違いなく身元即割れるわ。
四人部屋なのでとりあえず寝る時は分かれるけれど、すぐ寝るわけでもないのでそうなるとどちらかの部屋に集まる事になるわけだが……まぁ当然俺とハンスがいる部屋に集まる流れになった。
ルフトは一応こっち側なんだが、場合によってはルーナとミリアがいる部屋でも構わないと言われていた。
今の姿は男だけどルアハ族性別がどっちでもあるからな……
俺とは何だかんだここしばらく共に行動してたようなものだけど、母とは離れてたわけだし。
ヴェルンの宿も部屋はそれぞれ別々だったもんな。
まぁ好きな方で寝ればいい、とかルーナに言われていた。
言われたルフトは若干困惑していたけれど。
えっ、今のボク男なんですけど……? とか言い出しそうな顔してた。
性別がどっちにもなれる、って考えるとルアハ族ってこういう時どういう組み分けしていいのか困る部分あるな。とりあえず現時点での性別を基準にしてる感じはあるけれども。
「それで、わざわざ集まってどうするつもりだ?」
部屋に荷物を置く、とかいう事もまずない。収納具あるし。
だからこそ、部屋をとった時点でミリアとルーナは当たり前のように俺たちの部屋に足を運んでいた。
これが夜遅い時間であるなら今日はもう休んで今後の事は明日話そう、となったかもしれないが、生憎まだ日が沈む前だ。いくらなんでもこんな時間から寝ろと言われても無理がある。
それでなくともサグラス島で目が覚めた後からそこまで時間経過してないし。
当たり前のように、と俺は思っていたがルーナはミリアについてきただけで、別に明確に何があるでもなかったのだろう。ちょっと困ったように眉を下げて一瞬だけミリアに視線を向けた。
俺とハンスとルフトはとりあえずベッドに腰をかけていたし、残る一つのベッドにミリアは迷う事もなく進んで遠慮なく座る。残されたルーナはとりあえず椅子があるのでそっちに座ってもらった。
「どう、と言われるとちょっと困るけど、とりあえず今後のお話合い、する」
「えっ、打ち上げの話し合いですらない!?」
ベッドに腰かけミリアは右足を左足の上に乗せて組んだ。そうして右足のつま先をピコピコ動かして、何の変哲もない世間話をするかのような雰囲気だったのだが。
そのミリアの言葉に思わず実体化して天井付近を漂ってるアリファーンが口を挟む。
「一気に人口密度増えましたね……」
アリファーンだけではない。他の精霊たちも流石に床やそこらにいるには狭いと判断したようではあるが、実体化して天井付近を陣取っていた。上からめっちゃ見下ろされてる……天井を見上げていたルフトがうわぁ、と言いたげにしている。
「打ち上げのお話は後回し」
「だそうだ。正直お前らがそこにいると気が散るから姿見えないようにしてくれないか」
実体化解除してもそこにいる、とは思うんだが、まぁそれでも大分違うと思う。主に俺たちの精神衛生的な部分が。
しかし、それにしたって話合い、ねぇ……?
「あのー、ミリアさん? 今後のお話合いって一体何を話すんですか……?」
ハンスもまた疑問に思ったのだろう。おそるおそる問いかけていた。
「――ルーカス・シュトラール。貴方の今後について」
思った以上に真面目な表情で言われて。
まぁ、そうなるよな、と逆に何だか納得さえしてしまった。