かくして消える
ミリアが鳥精霊に頼んで移動用の鳥を再び出してもらう。
前は移動用にある程度機動力重視でもあったが、今回は違った。
全員が乗れるサイズの大きな鳥。
……俺、前世で何かこんなのゲームで見た気がするな。
勇者が旅の仲間と一緒に魔王倒す旅に出て、最終的に空を移動する時の手段として得たのが鳥。
そう、前世の幼馴染が中古ソフトでリメイク版発見したからって言って……いや、この話は今関係なかったな。
ともあれそのゲームだったら確実に終盤に入ってるあたりの展開だ。こんな大きな鳥とか。
まぁ、ミリアがいる時点で、しかもやろうと思えば最初からとんでもサイズな鳥を用意する事は可能だったから最初からクライマックスみたいな事になってた可能性もあるけど。
上空にいるのは簡単な話、サグラス島から廃墟群島どうにかするにも距離があるし、かといって廃墟群島に上陸するわけにもいかないから、というだけの理由だ。
これから島消滅させますよっていう時にその島に上陸するとか明らか巻き込まれるし。かといって離れすぎた場所からやって、パッと見消滅させることができたとしても、海中に沈んだ部分とかで何か残ってたらそれはそれで困るし。
海底に沈んでしまったかつての島、とかそんなん冒険野郎の浪漫刺激するだけだからな。
正直俺もかつて繁栄したけど何故か一夜にして海の底に沈んだ大陸とかそういうワードちょっとそわっとするし。現実にしろゲームの中にしろ、何というか実際はどうであれワクワクするよな。
とはいえ中途半端に残っちゃいけない部分が残って海の底に沈んで、なんて事になるのも困るので確実にやり遂げるためにはある程度近くにいて確認できる範囲が望ましい。
この先の未来で何か海の底から引き揚げた物の中に人工精霊に関する実験の記録とかあったらそれこそ大惨事。未来で別に精霊の助けがなくても問題ないくらいになってたらそんなのが発見されても特に何も起こらないかもしれないが、平和になってたらそれはそれで頭の中身がお花畑のやつが興味本位でやらかさないとも限らない。
将来的に平和だろうと荒んでようと、下手にここの資料が残ってたらどっちにしてもロクな結果にならないんじゃないかと思っている。
「さて、手順はさっき言ったとおりだ。頼んだ」
鳥の上にて、俺がそう言えば実体化していた精霊たちが頷く。
まずはイシュケが島周辺の海の流れを変える。
別にしなくてもいいんだが、島周辺を泳いでる魚とかちょっと遠ざけようという試みだ。
既に島の周りにある船の残骸とかはなるべく離れていかない程度に調整してもらう。
次にアリファーンが全力で島の表面を燃やす。
シャレにならないサイズの火柱が複数上がり、何も知らない奴が見れば火山でも噴火したのかと思ったかもしれない。それにしたってこんな火柱上がるような噴火ってどんなだってなるけど。
次にハウが風をおこし、炎の勢いを増加させる。
アリファーンが火柱やらかした時点ではまだ燃えてない部分もあったけど、風によって勢いを増した炎は風の流れに身を任せるようにして燃え広がり、どの島もみるみるうちに火の海と化した。
控えめにいってこの時点で地獄絵図。
派手なキャンプファイヤーだなとか言える余裕もない。いや、これ、廃墟群島にとても凶暴な魔物がいて、とかでやむなくってんならわからんでもないけど、別に魔物が棲息してるでもないしな……あ、いや、でも実験の素材としてなのか魔物の卵とかどっかに保管されてたりしたのか……?
前は巨大な蟻だけだったけど、もしかしたら他にも魔物の卵とか保管されてないとは言い切れないんだよな……まぁ、けど燃やしてしまえば魔物が増える事もないだろう、多分。
風で勢いを増した炎。これだけでも何か充分なんじゃないか、って気がしてきたが、目標は島の消滅だ。
表面だけが燃えた程度で満足するわけにもいかない。
ある程度燃えて、木々があった場所はすっかり燃えているし、家や建物が建ち並んでいた場所もそこそこ燃え落ちた。人が住んでないから遠慮なくやってるけど、もし生きてる誰かがいたらと考えると恐ろしい以外のなにものでもない。
次に行動したのはラントだった。
ラントは島の表面を畑でも耕すような気軽さでもって揺らし、ボコボコにした。
あの島にいたらまず立ってられないだろうくらいに揺れている。
そうして地面に亀裂が走り、残っていた建物はその揺れで倒壊したり壊れるまでいかずとも大きく傾いたりと大変な事になっていく。
山の上の方にあった研究所があった島は、山が崩れていた。そうして地面が揺れてぐらぐらしていくうちに、高さがあった部分はどんどん崩れ、均されたかのようになっている。
とはいえ綺麗に整地されたわけでもない。土の中には建物だったものが混ざりこんでいたり、燃えている物もそのまま巻き込んでいったので火の勢いは徐々におさまっていく。
崩れた部分のいくつかは流れ、海へと向かっていく。
人がいてこれに巻き込まれてたらもう確実に生きてないだろって思える大惨事。
見渡せば廃墟群島のほとんどがぐちゃぐちゃだった。高い位置にあった建物は大体崩壊したし、そのままの勢いで下の方へと滑り落ちて雪崩のようになっていく。低地にあった場所は上からやってきた土石が押しつぶし、惨憺たる有様だ。
そこに更に海水が流れ込むように上から覆いつくしていく。
これが単なる自然現象なら地震の後の津波かと思えるが、やったのはイシュケだった。
何もかもをも流しつくすような激流ではないが、ある程度のものは流されそのまま海へと放出される。
流されていったのは軽い部分だろうか。水が流れ残された部分にあるのはまだ壊れきってない建物の残骸だとか、大きいものがほとんどだった。
そしてまたもやアリファーンが炎を巻き起こしていく。今度はそこにエードラムが参戦した。
圧縮した光。レーザービームのようなそれは、アリファーンが再び燃やし始めた物に当たり次々に破壊されていく。ある程度壊れたら今度は呆気なく燃えた。
ある程度粉々になったものが増えてきたら、イシュケが水で洗い流したりハウが風で吹き飛ばしたりしていく。それでもまだ残っていた大きめな部分はラントが破壊していた。
そうこうしていくうちに、もうほとんど何も残ってない、くらいになる。
そこでザラームが島だった周辺を闇で覆いつくした。
そのままぎゅっと闇が圧縮されて小さくなっていく。
中にあった島だった部分はそれと同時にボロボロと崩壊していき――
――最終的に、島があったとは思えないくらい何もなくなっていた。
島周辺にあった船の残骸さえも残っていない。最初からこの近海にある島はサグラス島だけです、と言わんばかりだ。
「うへぇ……旦那とこうやって一部始終見てるからまだしも、そうじゃなかったら天変地異か何かだとしか思えないわ、これ……」
鳥の上でへたり込むようにしゃがんでいたハンスがどこか乾いた声で言う。
まぁ確かにそうだろうなと思う。
廃墟群島周辺の大陸から全部見えたわけでもないだろう。恐らくは遠目で空が何か赤くなったな、とか光が降り注いだな、とかそこら辺は廃墟群島に注意を向けていればわかったかもしれないが、そうじゃなかったら気付いた時には忽然と……といったところだろう。
更に何もなくなったのに駄目押しとばかりにイシュケが大渦を発生させて、沈んでいっただろうあれこれを更に細かくなるようにシェイクしていく。
もうこれ研究資料とか完全に何も残ってないだろうなと思える程だった。
仮にどこか、俺たちが知らない隠し部屋のようなところにも資料だとかが保管されてたとして。
もう原型なんて留めちゃいないだろうし、もし残っていたとしても小石よりも小さな……肉眼で見ても何が何だかわからない程のものだろう。
ともあれこれで、人工精霊に関する情報が外に漏れる事もない。
仮に、どこでどう話が伝わったのか、何か凄い知識や技術があったけど海の底に沈んだ、みたいな話になったとしても、じゃあ沈んだ島を復活させようとかそれ以前の話だ。島そのものが消滅したんだから。
「……終わったな」
ほんのついさっきまでそこに島があったはずなのに、今はどこを見ても何もない。あるのは近くのサグラス島だけだ。
「おつかれー」
「いやー、久々に張り切ったわ」
「やっぱたまに頑張らないと力の使い方忘れるところだったわー」
「次があったらもうちょっと上手くやれそう」
「そう何度も土地そのものを消すなんて事あるか、って話だけど」
「まぁ、今回は仕方ない」
廃墟群島の存在が幻だったのでは、と思えるくらいに何もなくなって、つい感傷的に呟いたら一仕事終えた精霊たちが口々にそんな事を言い出した。
完全にこれから打ち上げしようぜのノリだった。
この温度差よ……ハンスも小声で「ノリ軽ッ!?」とか言ってるし。
普通に考えて島一つ……いや、小さな島がいくつか集まってたから実際に一つじゃないんだけども、存在抹消した後のテンションではないだろうとは思う。
「じゃあルーカス。打ち上げしようぜ」
「いや、それお前が一番言っちゃいけない感じのやつじゃないか……?」
一仕事終えました、まではいいが、打ち上げはどうかと思う。
話を聞けば群島諸国はこいつも無関係じゃなかったっぽいとはいえ、仕事終わりに一杯、とか言うテンションはまずいと思うんだ。ザラーム。
とは思うものの。
何かもう、それでいいならいいんじゃないかな、という気もしてきた。
多分俺のこの心境を正確に把握してる奴がいたら「それ、投げやりって言うんだよ」とか突っ込まれてたに違いない。
なお前世の幼馴染はそう突っ込むどころかまず打ち上げに賛成してるタイプだ。
……この中で突っ込んでくれそうなの、どう考えてもハンスしかいない件。