表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
来世に期待とかいうレベルじゃなかった  作者: 猫宮蒼
三章 ある家族の話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

155/172

平和的に終わらせられない



 そもそもどうして廃墟群島を消滅させるという事になったのか。

 とりあえずそこは確認するべきだろう。別に聞かないままやってもいいんだが、後になってとんでもない事になった場合、何も知りません、で済むはずもない。実行しておいて何も知らないとかふざけてるのかと言われてもおかしくないし。


 事の発端としては俺が出した手紙になる。


 まだ帝国の事が完全に終わったわけじゃない状態で、そこにいたクロムートは逃走。

 そして廃墟群島にて遭遇し、決着をつけるべく俺は再び廃墟群島に行くつもりではいた。

 しかしあの廃墟群島に再び足を踏み入れたとして、すんなりとクロムートが出てくるかどうかは微妙だった。

 侵入者とかそういったものを感知する術をクロムートが使っていたとしても、そこに再びかかったのが俺だった場合正面切って戦う事になるかどうかは賭けだった。それもかなり分が悪い。


 ハンスも帝国で一度クロムートと遭遇してはいるものの、あの時点でクロムートが果たしてハンスをマトモに個別認識していたかは微妙なところだ。

 既に消滅したクロムートからこれ以上何を聞けるでもないので、これは全部想像でしかないが、そもそもクロムートはルーナと同等の力を得ようとしていた。精霊に最も近い種族。それになろうとしていたように思う。

 そしてクロムートは人工精霊――いや、合成獣としての力を得、相手の力を奪い取る能力を身に着けた。


 ルーナから力をそのまま奪えばクロムートの目的は達成されただろう。けれどもそれは本当の意味での望みではない。そこにルーナがいなければ意味がない。クロムートは確かにそう考えていたはずだ。


 微妙なたとえ話になるが、これから結婚して幸せに暮らそう、と約束した男女がいたとする。

 ところが式をするにもちょっと資金が心許ない。まぁ、盛大な式をあげずともささやかに祝うだけでもいい。そんな風に考えていたはずが、しかし片方はそう思わなかった。結婚。一生に一度のそれ。……いやまぁ前世だと割と離婚とか普通にあったから一生に一度ってなるか? とはなるが、まぁこっちの世界では割と一生に一度。ともあれ、その一生に一度を忘れられない思い出にしたいと願うのはそう無茶なものではない。

 けどだからといって金が降って沸いてくるはずもない。


 本来なら未練はあれどもささやかな祝いだけして二人で慎ましやかに暮らすべきなのだろう。


 ところがここで片方が人為的な物が原因の事故か何かで命を落としたとしよう。

 結果賠償か何かで大金が転がり込んできたとする。

 これだけの金があれば豪勢で盛大な式をあげるのだって夢ではない。


 そう思ったとしてもだ。

 その時点でその式をあげて生涯を共にしようとした相手は既に存在していない。


 果たしてそれに意味はあるのか、といったようなのが……クロムートがルーナに手を出さなかった理由に近いのかもしれない。

 まぁ相手は他にもいるとかあっさり割り切れるならそれはそれで……となるが、ルーナ以外のルアハ族がクロムートの身近にいたわけでもない。


 クロムートにとってのルアハ族はただ一人ルーナだけであったし、もし仮に他にいたとしてもやはり実験の後、たった一人残されたクロムートに寄りそうようにしていたルーナだけが特別であった、と考えられる。


 精霊に近づくにはともかく相当量の魔力を欲するしかない。

 魔力を大量に得て、力を増せば自分もまたそれに近づけるのではないか。クロムートがそう考えるのはある意味で自然な流れだと思える。

 だからこそ人間至上主義なんて国に入り込んで、その国で異種族狩りなんてものをしていたのだろう。

 元々帝国はそういった考えの国だったし、異種族狩りそのものもやってはいたけれど。


 クロムートが皇帝を乗っ取った後は異種族の行方も異なったはずだ。

 以前はきっと奴隷のように働かされていたか、そのまま虐げられていたかだと思えるが、クロムートが来てからは誰もが取り込まれたのだろう。

 中に人間も存在していたような気がするけれど、人間だって魔力が全くないわけじゃない。それに……取り込むという能力にクロムートはあの時点で限界があるとは思ってもいなかったはずだ。


 だからこそ積極的に異種族を連れ去っていた。


 早い段階で自分の能力には限りがある、と知っていたら取り込む相手も厳選していたに違いない。


 さておき、姿を消したルーナを探し、そして自分もまたルアハ族に近い能力を得ようとしていたクロムートはルーナと親しい間柄だと思われる俺に狙いをつけた。

 俺はエルフだし、ましてや精霊憑き。

 その力を取り込めば大幅パワーアップも夢ではないと踏んだだろう。

 いやまぁ、俺だけならいいけど俺に憑いてる精霊までどうにかできるか? って聞かれたら俺ですら正直ちょっと持て余してる感あるからクロムートはもし取り込んでたら大変な事になってたんじゃないかなぁと思わなくもないのだが。正直ちょっとだけでもアリファーンの力取り込んだ事に驚いてる。けどちょっとだったから、あの時点ではまだ平気だった……のかもしれない。


 というか多分途中で限界が来てあの時のような最期を迎える事になってたかもしれない。


 俺の姿そのものを乗っ取る事もできたら、もしかしたらルーナが自分から現れるかもしれない、と考えた事もあるだろう。

 まぁ、確かに最終的に合流してたわけだし、クロムートの予想はそう外れていなかったと思う。


 けど、一度目の帝国で撤退し、二度目の廃墟群島でも俺を取り込むには至らなかった。というか俺に憑いてる精霊が優秀だったからこそ、って感じだがな。ここは精霊様様と言っておこう。


 三度目にまた俺が廃墟群島にのこのこ姿を見せてもクロムートが素直に出てきたかは正直可能性としては低いんじゃないかなぁ、と思っていた。俺なら様子見て隙を窺ってその上で多分出ない。確実に勝てるという何かがあればさておき、あの時点でのクロムートはそうじゃなかったと思えるからだ。



 けど、そうじゃない相手であれば姿を見せる可能性は高かった。

 例えばあっさり勝てそうな相手。

 だからこそ俺はハンスを囮にするべく――今思うと我ながら酷い――ハンスを呼び寄せたわけなんだが。


 その時点でミリアにも向けた手紙の内容には、クロムートと決着をつけるとかそこら辺は書いた。

 クロムートが廃墟群島を拠点にしているとかそういうあたりは書いた。それを利用してクロムートが出てくるしかない状況を作るべく、ハンスを借りたい、と。

 廃墟群島に関しても少しだけは書いた。


 組織から見て、廃墟群島は既に誰も住んでいない土地だ。

 過去に何かがあって滅んだ土地。精霊もロクにいないし通りすがろうともしていないらしい場所。

 何があったか気になってる者はいたと思うが、組織の活動的には廃墟群島の存在は然程重要なものでもない。

 もしそこが異種族狩りの拠点か何かになっていて、捕らえられた異種族が連れていかれる、なんて事になっていたら話は変わったかもしれないが現時点では無人島だ。

 住む土地が不足していてどこかの土地を確保したい、とかいう事があるわけでもない。


 もしそうなったとしてもいきなり廃墟群島で暮らそうなんて思うはずもないし、まずは調査をするとは思うがそれもいつの話になる事やら、というくらい先の話のはずだ。


 廃墟群島に関しては鳥に乗ってる時にルーナと少し話をしてより消滅の方向に決まったらしいが、そうじゃなければ研究資料を抹消程度のつもりだったようだ。

 ……研究資料の抹消だけで充分じゃないか?


 思わずそんな事を思ったと同時に口からも言葉が出ていたが、ミリアは首を横に振った。


「んーん、研究資料全部消したとしても、本当に全部かわからない。ルーナ、クロムートに関して調べるために廃墟群島調べた言ってたけど、それだって全部見たわけじゃなさそう。もしかしたら他にも隠し部屋とかあるかもしれないし、もしそういった物が残っていたら後々大変」

「……まぁ、言い分として理解はできる」


 そうなんだよな。

 廃墟群島周辺に精霊はほとんどいないから魔法使ってあの島に向かえる奴ってのは恐らく限られている。

 ミリアは鳥精霊がいるから移動も余裕だけど、それ以外となれば俺みたいに海から行くとかか。

 俺たちは廃墟群島に何らかの価値を見出したりしてるわけじゃないけど、考えようによっては俺やミリアみたいに廃墟群島に来れる手段を持ってる奴で、尚且つ人工精霊とかいう存在にも価値を見出すような奴がいたら色んな意味で第二第三のクロムートが……! 案件になりかねない。


 そもそも大勢で一度に移動する必要もない。

 ある程度魔法に関する知識があれば、それこそ廃墟群島に乗り込んである程度安全そうな場所に移送方陣を敷けばいい。事前に本拠地とかにも用意しておけば、これで人員の移動は確保できてしまう。


 かつて帝国がフロリア共和国側に帝国兵をこっそり送るのに使っていた手段でもあるし、そもそも魔法陣とか手間がかかってくっそ面倒な代物だけど廃墟群島のように外から行くには難しい土地なんかだと面倒でもこっちの手段の方が確実っちゃ確実だ。


 廃墟群島がまだ群島諸国と呼ばれていた時代の一体いつから人工精霊を作ろうなんて計画立てたかまでは資料に書かれてなかったが、それでも結構な年数実験してたと思う。そこから滅んで、そこそこの年月廃墟群島は放置されたままだ。

 いや、仮にかつて誰かが乗り込んだとしても、それはクロムートにやられた可能性が高い。けれどもクロムートはもういない。このまま廃墟群島を放置しておくと、いつかは誰かが辿り着いてしまうのは明らかだった。


 ……そういった後々の事を考えると、確かに資料だけ綺麗さっぱり消せればいいが、そもそも島のどこかに隠し部屋とかあってそこにも資料が、なんて事ないとは言い切れないし表面的に抹消してこれで終わったと思ったら実は終わってなかった、なんていうオチを防ぐには根本的な部分から消すのが確実だ。


 ルーナや俺が見た資料はクロムートに関するものだったけど、もしかしたらそれ以前の失敗続きとされていたものに関する資料がどこか別の場所にしまい込まれてないとも言い切れないし。

 下手に人工精霊に関する情報を残しておくのは、どう考えても問題しかない。


 だからこそ、とても乱暴な結論な気もするが廃墟群島を消滅させるという結論に至ったミリアの考えもまぁ、わからんでもないんだ。


 ただ……


「どう考えてもミリアに出すには無茶すぎる任務じゃないか? それ」

「うい。ルーカスに手伝ってもらう前提で引き受けた。だから手伝ってもらわないととても困る」

「…………そうか」


 というか、それ最初から俺に任務回すべきだったんじゃないだろうか。どう考えてもミリアが実行するには無理があるような気がする。

 まぁ、だからハンスと一緒についてきた、って事か。じゃなきゃ一人で……鳥精霊もいるとはいえやるしかなかったって事だもんな。


「…………じゃ、サクッと終わらせるか」

「ミリアさんとても頼りにしてる」


 ぐっと親指立てて言うミリアの顔は、きゃールーカスさん頼もしーい! なんて顔ではなく。

 どこまでも真顔だった。


 ……自分でも無茶な任務だってわかってんじゃないか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ